X

輸出は百兆大台…統計から見る「川上製造国ニッポン」

日本は製造立国であり、とりわけ「川下産業」よりも「川上産業」に強みを持っている――。これは、当ウェブサイトでこれまで指摘して来た仮説のひとつですが、財務省が30日に発表した普通貿易統計の最新データからは、改めて、そんな日本の産業の構造が裏付けられているといえるでしょう。また、原発が再稼働するなどし、鉱物性燃料の輸入を3分の1ほど減らすことができれば、2023年を通じて10兆円弱だった貿易赤字を解消することもできるかもしれません。

輸出入の概況

昨年を通じた輸出額は100兆円の大台に乗る

財務省税関は30日、2023年12月時点までの『普通貿易統計』のデータを公表しました。

これについては国別、品目別など非常に複雑ですが、本稿では可能な限り、詳細なデータを紹介していこうと思います。

まずは、貿易相手国です。

2023年を通じた輸出金額は100兆円の大台に達し、その輸出相手国のトップは米国でじつに20.3兆円となる一方、2位が中国の17.8兆円、続いて3位が韓国の6.6兆円、これにすぐ続いて台湾の6.0兆円、などとなっています(図表1-1)。

図表1-1 貿易相手国(2023年1月~12月累計、輸出)
相手国 金額 割合
1位:米国 20兆2643億円 20.09%
2位:中国 17兆7624億円 17.61%
3位:韓国 6兆5850億円 6.53%
4位:台湾 6兆0162億円 5.96%
5位:香港 4兆5784億円 4.54%
6位:タイ 4兆1170億円 4.08%
7位:ドイツ 2兆7168億円 2.69%
8位:シンガポール 2兆6319億円 2.61%
9位:ベトナム 2兆4172億円 2.40%
10位:豪州 2兆3559億円 2.34%
その他 31兆4367億円 31.16%
合計 100兆8817億円 100.00%

(【出所】財務省税関)

輸入額のトップ・中国だけで22%を占める

これに対し、輸入相手国としては中国が24.4兆円で全体の22%を占め、圧倒的なトップとなり、これに2位の米国(11.5兆円)、さらに3位の豪州(9.1兆円)、4位のUAE(5.2兆円)と続き、台湾が5.0兆円で第5位に入っています(図表1-2)。

図表1-2 貿易相手国(2023年1月~12月累計、輸入)
相手国 金額 割合
1位:中国 24兆4177億円 22.16%
2位:米国 11兆5336億円 10.47%
3位:豪州 9兆1304億円 8.29%
4位:UAE 5兆1833億円 4.70%
5位:台湾 4兆9882億円 4.53%
6位:サウジアラビア 4兆8367億円 4.39%
7位:韓国 4兆3597億円 3.96%
8位:ベトナム 3兆6226億円 3.29%
9位:タイ 3兆6107億円 3.28%
10位:インドネシア 3兆4095億円 3.09%
その他 35兆0787億円 31.84%
合計 110兆1711億円 100.00%

(【出所】財務省税関)

貿易相手国は中国、米国、豪州、そして台湾

この輸出と輸入を合計した貿易高を求めてみると、トップは42.2兆円の中国で、以下米国(31.8兆円)、豪州(11.5兆円)、台湾(11.0兆円)、韓国(10.9兆円)が続きます(図表1-3)。

図表1-3 貿易相手国(2023年1月~12月累計、輸出+輸入)
相手国 金額 割合
1位:中国 42兆1801億円 20.01%
2位:米国 31兆7979億円 15.08%
3位:豪州 11兆4864億円 5.45%
4位:台湾 11兆0044億円 5.22%
5位:韓国 10兆9447億円 5.19%
6位:タイ 7兆7277億円 3.67%
7位:UAE 6兆6495億円 3.15%
8位:ベトナム 6兆0398億円 2.87%
9位:ドイツ 5兆8792億円 2.79%
10位:サウジアラビア 5兆7292億円 2.72%
その他 71兆3629億円 33.85%
合計 210兆8016億円 100.00%

(【出所】財務省税関)

ちなみに2023年を通じた貿易収支(輸出額-輸入額)は9兆4502億円の赤字であり、2022年の20兆1271億円と比べ、赤字額は半減しましたが、それでも依然として日本は巨額の貿易赤字国です。

貿易収支・品目別の概況

貿易黒字相手国は米国がトップ

では、日本はどの相手国に対し、どのくらいの赤字(または黒字)を計上しているのでしょうか。

これについて貿易黒字相手国はトップが米国で6.5兆円、2位が香港で4.2兆円、3位が韓国で2.7兆円、4位が台湾で1.8兆円…、などとなっています(図表2-1)。

図表2-1 相手国別貿易収支(2023年1月~12月累計、黒字国上位順)
相手国 金額 割合
1位:米国 +6兆5368億円 32.48%
2位:香港 +4兆2233億円 20.98%
3位:韓国 +2兆6913億円 13.37%
4位:台湾 +1兆7769億円 8.83%
5位:シンガポール +1兆6465億円 8.18%
6位:オランダ +1兆1776億円 5.85%
7位:インド +9789億円 4.86%
8位:タイ +7674億円 3.81%
9位:メキシコ +5992億円 2.98%
10位:英国 +5478億円 2.72%
その他 ▲41兆0728億円 204.07%
合計 ▲20兆1271億円 100.00%

(【出所】財務省税関)

貿易赤字相手国は中国がトップ

これに対し日本が貿易赤字を計上している相手国は、トップが豪州で9.5兆円、2番目が中国で5.8兆円、以下UAE4.9兆円、サウジアラビア4.9兆円などが続きます(図表2-2)。

図表2-2 相手国別貿易収支(2023年1月~12月累計、赤字国上位順)
相手国 金額 割合
1位:豪州 ▲9兆4517億円 46.96%
2位:中国 ▲5兆8278億円 28.96%
3位:UAE ▲4兆9077億円 24.38%
4位:サウジアラビア ▲4兆9013億円 24.35%
5位:インドネシア ▲1兆7970億円 8.93%
6位:カタール ▲1兆5750億円 7.83%
7位:ロシア ▲1兆3523億円 6.72%
8位:マレーシア ▲1兆2670億円 6.29%
9位:クウェート ▲1兆1030億円 5.48%
10位:カナダ ▲1兆0496億円 5.22%
その他 +13兆1055億円 65.11%
合計 ▲20兆1271億円 100.00%

(【出所】財務省税関)

このことから、日本の貿易は、輸出入ともに多い相手国(米国、中国、台湾、韓国)と密接な経済的関係があるだけでく、輸出が多い相手国(たとえば香港)、輸入が多い相手国(たとえばサウジ、UAE、豪州)、といった構図が見えてきます。

製造業・川上産業に強みを持つ日本

続いて概況品目別に分解したものを確認しておきましょう。

図表3-1は、輸出を概況品目別・上位順に並べ替えたうえで、輸出全体に対する割合を求めたものです。

図表3-1 輸出概況品目(2023年1月~12月)

(【出所】財務省『普通貿易統計』データより作成)

この図表からも明らかなとおり、日本の輸出品目は基本的に、自動車などを除けば、完成品は非常に少なく、メインは半導体製造装置や半導体等電子部品、原動機、電子回路、鉄鋼のフラットロール、有機化合物、光学機器など、おもに産業用の素材や資本財、半製品が多いことがわかります。

すなわち、日本は典型的な「製造立国」であり、しかも「川上産業」にかなりの強みを持っている国であることがわかります。自動車産業などを除けば、いわば、中国、台湾、韓国といった周辺国の「川下産業」に部材を供給することが、日本全体のビジネスモデルのようなものです。

ちなみに日本が現在、農林水産省の音頭により農産物・水産物等の輸出に力を入れている、などと伝えられることが多いのですが、輸出全体に対し、「食料品及び動物」は0.91%、「飲料及びたばこ」は0.21%を占めるに過ぎず、やはり日本が製造立国であることは間違いないでしょう。

川下産業からの輸入に加え、鉱物性燃料の輸入が目立つ

その一方、輸入についても確認しておきましょう(図表3-2)。

図表3-2 輸入概況品目(2023年1月~12月)

(【出所】財務省『普通貿易統計』データより作成)

輸入の方は、輸出と同様、トップは「機械類及び輸送用機器」ですが、その内訳にはずいぶんと大きな違いがあります。というのも、半製品である「半導体等電子部品」などを除けば、通信機(スマホでしょうか?)、事務用機器(PCなどでしょうか?)といった、完成品の姿が目立つからです。

つまり、日本は「川上産業」が半導体等電子部品を中国などに輸出し、その中国などの「川下産業」がPC、スマホ、家電などの最終製品を日本に逆輸出する、といった構図が見えるのです。

もっとも、2位の「鉱物性燃料」(27.3兆円)の姿が見えるとおり、現在の日本はエネルギーの安価・安定的な供給に、非常に大きな不安を抱えていることは間違いありません。

「鉱物性燃料」の輸入高は、2022年の33.7兆円と比べれば、やや減少しましたが、それでも日本の貿易赤字の主因のひとつです。仮に稼働できる原発がすべて稼働するなどし、「鉱物性燃料」の輸入が3分の1ほど減少したとすれば、それだけで日本の貿易赤字は解消される計算です。

また、「日本は食料の輸入国だ」、「毎年多額の食料を輸入している」などといわれることもあるのですが、「食料品及び動物」の輸入額は8.5兆円、輸入全体に占める割合は7.67%と、決して多くない、という事実についても、指摘しておく価値はあるかもしれません。

予告:国別に展開してみたい

いずれにせよ、今回の輸出入に関する統計は、日本経済を論じるうえで、さまざまな前提ともなり得る基礎データのひとつです。

これについては、できれば近日中に、「輸出入から見た日本経済の姿」、といったテーマで、相手国別に詳しく論じてみたいと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (12)

  • 川上産業に強みを持つ日本ということは、技術的な背景があるのですが、簡単に先端技術を流失させる岸田さんには納得できないですね。もっとも先端技術を導入しない日本企業にも同意できません。例えば、インテル入っているのインテルも元をただせば、日本人のしまさんの発明?功績と聞いています。新しい技術を積極的に導入しない日本企業も問題ですね。

    • >新しい技術を積極的に導入しない日本企業も問題ですね。

      ここが、日本の経営と産業の唯一の問題なのです。これを克服出来たら、日本のGDP、今の3倍くらいになるんじゃないですか?

    • >新しい技術を積極的に導入しない日本企業も問題ですね。

      これが、日本の企業経営と産業の唯一の課題です。これを克服すれば、日本は、川上から川下まで全てカバーする、世界で唯一の国になりますね。
      一つ面白いのは、マーケティングの世界では、トヨタの品質とコストに拘る車作りは、戦略か戦術かという話があり、アメリカのマーケティングの大家の先生が、トヨタの方式は戦略ではないと言ったのを、別の大家は、従来の戦略の方式と合わなくても、成功し勝利しているのであれば、それは立派な戦略だろう、と反論した、マーケティング論争があります。しかし乍ら、今や、トヨタ生産方式(TPS)で、トヨタは世界一の自動車メーカーになり、各国のいろんな産業のメーカーでTPSを取り入れようと必死になる戦略的な生産方式になっています。
      案外、日本の川上産業に拘る製品作りが、世界の中心的な産業方式になるかもしれません。その時、日本という国そのものが、トヨタと同じように、高収益国になっているかも。

    •  しまさんに反応してしまいました。素晴らしい実績ですよ。涙出ちゃうくらい。
      具現化したのはファジンでしたっけ?

  •  データ不十分の段階での仮説ですが、中国への輸出と中国からの輸入が多いのは、中国に部品を輸出して、中国内で組み立てて、完成品を日本の輸入しているからではないでしょうか。もしそうであれば、中国との貿易が細っても、組立国を別に移せばよいのでダメージは大きくないことになります。
     国別に展開されるとのことですので、続報を期待しております。

    • >中国に部品を輸出して、中国内で組み立てて、完成品を日本の輸入しているからではないでしょうか。

      安い人件費を求めて、雪崩の如くこの国へ製造拠点を持って行ったのです。全てこの構図とすれば、単純に収支差5兆8千億円毎年差し上げていることになりますね。

      >組立国を別に移せばよいので

      この動きはかなり前からやっていますが、彼の国もそう簡単にはそうはさせじとしているのです。

      • さより様

        貿易赤字9.3兆円のうち、5.8兆円もが中国に流れてるとしたら、結構大事ですが、この国との貿易収支は、香港とセットで見るべきじゃないでしょうか。こっちは4.2兆円の黒字。実質赤字は1.6兆円くらいかと。

        輸出入差し引きして、中国が日本にかぶせられる付加価値の額と言ったら、その程度では?

        香港にそんな実需があるわけないから、多分これ、香港に拠点を置いている日系の商社が輸入してるんだろうと思います。それを大陸の顧客に売る。

        なんで直に大陸で商売しないんだと言ったら、おそらく、賄賂を集られたり、ハニトラに引っかかったり、下手すりゃ引っ括られたり。この頃は香港もヤバくなってきてるみたいですが、まだ大陸に比べりゃマシというところで。昔から、日本企業もそれなりに用心はしてる、ということじゃないでしょうか。

        対日輸出の方が、なんで香港経由でないかと言ったら、そりゃアチラの輸出が、基本国家管理だからでしょう。レアアースだの、尿素だの、ガリウムだのと、すぐに政治の道具に使いたがる。それやって、うまくいった験しなどないと思うんですが、アチラの指導者のアタマの中では、マウント取って、してやったりってことになってるんでしょう。

        日本企業だって、媚中親中一辺倒ではないでしょう。うまく瞞して儲けてやろうくらいのことは考えて、商売やってるんじゃないかと思うんですがね(笑)。

        • 確かにそうですね、香港見落としてました。
          昔からそうですからね。怒涛の如く、かの国へ向かっていた2000年前後も香港経由でした。香港に本土との仲介業者がいたのですね。

        • >日本企業だって、媚中親中一辺倒ではないでしょう。うまく瞞して儲けてやろうくらいのことは考えて、商売やってるんじゃないかと思うんですがね(笑)。

          いやいや相手の方が上です、政府と一緒になって相手政府までうまく瞞して儲けることが出来ますから私企業では太刀打ちできないと思います。

    • もちろん実体は深圳のことです。
      叔父は開放政策が始まったころから何度も期を分けて中国駐在を務めたのですが、最終帰国命令が出る前は深圳よりさらに内側にある東莞でテレビだったかエレベーターだったかを現地製造する任務に関わっていたと言っていました。日立製作所です。