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台湾新総統に祝意の日本政府…中国反発に官房長官反論

日本にとって台湾は「基本的価値共有する重要な友人」

林芳正内閣官房長官は15日、「台湾は日本にとって自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった普遍的価値を共有し緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり大切な友人だ」と発言したそうです。この発言、ずいぶんと踏み込んだものにも見えますが、じつは遅くとも安倍政権時代には外交青書に明記されていたものである、ということについても、忘れてはなりません。

頼清徳氏が台湾総統選を制する=13日の総統選

13日に投開票が行われた台湾総統選で、与党・民進党の頼清徳(らい・せいとく)副総統、蕭美琴(しょう・びきん)前駐米代表のペアが勝利をおさめ、当選しました。

台湾メディア『中央通訊』(日本語版)の報道によれば、頼清徳氏の得票率は速報値で40.05%、558万6019票を獲得したそうであり、2期8年に及ぶ蔡英文(さい・えいぶん)政権に続き、民進党政権が3期目に突入することとなりました。

総統選/総統選、開票終了 民進党・頼氏が得票率40.05%で勝利 与党3期目へ/台湾

―――2024/01/13 22:05付 中央通訊日本語版より

中央通信はまた、最大野党・国民党の侯友宜(こう・ゆうぎ)氏(新北市長)と趙少康(ちょう・しょうこう)氏のペアは467万1021票で得票率33.49%、第2野党・民衆党の柯文哲(か・ぶんてつ)氏(前台北市長)、呉欣盈(ご・きんえい)氏のペアは369万466票で得票率26.46%だった、などとしています。

中国にとっては都合が悪かった?

このあたり、台湾総統選はあくまでも外国の選挙の話であり、そして台湾の未来を決めるのは結局台湾の人々であり、「誰が当選したから良かった」、という話ではありません。

ただ、あくまでも総論でいえば、中国にとっては非常に都合が悪い候補者が、またしても勝利してしまった、という言い方もできるかもしれません。現状の「蔡英文路線」が、少なくともあと4年続くことが確定したからです。

また、4年前の総統選では蔡英文氏自身が史上最多の817万票を獲得していたことを思い出しておくと、民進党としては危うい勝利だった、という言い方もできるかもしれません。

その一方で、中国外交部は13日と14日にそれぞれ、「中国は世界にひとつしかない」、「台湾は中国の一部である」、などとする声明を出しています。

外交部发言人就台湾选举答记者问

―――2024-01-13 23:55付 中国外交部HPより

外交部发言人就美国国务院关于中国台湾地区选举的声明发表谈话

―――2024-01-14 15:30付 中国外交部HPより

とりわけ14日の声明は、米国の国務省が出した「中国の台湾地区に関する声明文」が「ひとつの中国」原則に反するものである、などとしたうえで、米国に「強い不満」と「断固たる反対」を示し、米国に厳重な申し入れを行っている、などとしています。

台湾本島を支配したことがない中国共産党が「中国台湾地区」という表現をしているというのも興味深いところではありますが、この「中国台湾」などの表現は中国側がこれまでもしばしば使用しているものであり、特段気にするところでもないのかもしれません。

林長官「台湾は価値共有する重要なパートナーで友人」

その一方で、産経ニュースによると、林芳正内閣官房長官が15日、「台湾は日本にとって自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった普遍的価値を共有し緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり大切な友人だ」と述べたのだそうです。

林官房長官、台湾総統選巡る中国の抗議に反論 「台湾は重要なパートナーで友人」

―――2024/1/15 11:57付 産経ニュースより

この発言は、上川陽子外相が頼清徳氏に祝意を表明したことに中国側が抗議したことに対する反応で、産経によると林氏は「台湾での民主的な選挙の円滑な実施に対して、わが国はこれまでも祝意を表明している」とも強調したのだそうです。

ただ、これに関しては、べつにまったく新しい発言ではない、という点にも注意が必要です。というのも、日本政府・外務省が刊行する外交青書ではここ数年、台湾についてはこんなことが書かれているからです。

台湾は、日本にとって、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値や原則を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり、大切な友人である」(外務省『外交青書2023』第2章より)

この表現自体はすでに安倍政権時代に出現していた

ちなみにこの表現は2023年版からいきなり出てきたものではありません。著者自身が調べた限りだと、遅くとも安倍晋三政権時代の『2020年版外交青書』のなかで、すでにこんな文章が出て来ています。

台湾は、日本にとって、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった普遍的価値を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり、大切な友人である」。

表現は微妙に異なっていますが、日台双方が基本的価値を共有するパートナー同士であること、台湾が日本にとっての大切な友人であること、といった基本的な特徴はすでに満たされています。

この点、日本政府自身が現時点において、台湾を「国」とは認めていないことは間違いないにせよ、この「基本的価値の共有」は相手国に対する最上の形容詞でもあります。なにせ、日本の周辺国のなかで、この「基本的価値の共有」という表現が出てくる相手国は、台湾しかないからです。

もちろん、台湾が引き続き「中華民国」として、中国の一部であり続けるのか、それとも将来的には「台湾共和国」などとして中国とは別の国であることを明示するのかは、究極的には台湾の人々の選択であり、私たち日本人の選択ではありません。

ただ、少なくとも「現時点において」、台湾では民主主義に基づく選挙が実施され、トップである総統が直接選挙で選ばれていることは事実です。

そして、台湾海峡危機はすなわち、日本の危機でもあります。

こうした危機意識はもっと共有されるべきでもありますし、また、日本が台湾を「基本的価値を供給する友人」だと位置付けているという事実についてもまた、我々日本国民にとってはしっかりと認識しておく必要がある論点のひとつではないかと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (8)

  • しょうもない話なんですが、たくさん流れたニュースのなかでこれが少し引っかかってました。

    フォーカス台湾:大陸委、中国の選挙介入に「遺憾」 結果への尊重呼びかけ
    https://japan.focustaiwan.tw/cross-strait/202401140002
    中国で対台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室(国台弁)は同日、選挙結果は与党・民進党が台湾島内の主流の民意を代表していないことを示しているとするコメントを発表。

    これ違和感があったんですが、中国が台湾の選挙制度そのものに民意を反映する機能があると認めてるってことなんですよね。
    台湾関係の表向きの言説は一回回って元に戻るようなところがあって、面白いですよね。

    • >選挙結果は与党・民進党が台湾島内の主流の民意を代表していないことを示しているとするコメントを発表。

      大笑いですね。
      中国共産党を含めて過去に選挙を一度もやったことが無い中国なのに、自分たちの政権は民意を反映していると思っているのでしょうか?
      厚顔無恥とはこの事ですね。

      • 一応広東省あたりで村落レベルの選挙はあったと思います。村長だか党書記だかを公選するということだったはずです。ただし、現在でもその制度が生きているか、そもそも公正な選挙と呼べるような代物だったのかについては、何とも言えませんが。

        まあ、「民」という字の成り立ちを考えれば、「民意」などというものは取るに足らないものではあるのでしょうが、その一方で、共産党指導部はかなり民意を気にしているという話もあります。なにせ歴代王朝滅亡のきっかけは、たいてい農民反乱ですから。

        • 中国は小規模な地域での自治が発達していたという話も聞きます。何せ国土が広大なので末端の行政まで中央が管理することが難しかったようです。
          しかし自治といっても「中国的自治」であって、民主的なものでは無かったと思いますが。

  • 台湾の総統選は国民の直接選挙でわかりやすい。
    金門島は中国とは至近距離ですが中国の圧力・選挙工作にも耐えてすばらしい結果だと思います。
    日本も米国のような地区争奪の大統領選にしてほしいですね。

  • 中共は台湾に侵攻するか?
    確実に勝てるようになるまではしないと思う。
    負ければ共産党の存立基盤が危うくなる。

    中共は陸では強いかもしれないが海戦に実績があるとは聞いたことない。

    • 陸でも強いかどうかはかなり疑問があります。
      人民共和国成立後、ロクに抵抗力を持たないチベットとか東トルキスタンは抑え込みましたけど、朝鮮半島では負けなかったというだけ、ベトナムでは国内的には勝利を謳っているものの実質的には負けです。つまり、軍事的に明らかに勝利した例はありません。

      台湾侵攻にはかなり大きなリスクがあります。
      失敗すれば、習近平氏が失脚するだけでは済まされないでしょうし、短期間で台湾全島を制圧できず、半年以上もかかるようだと、やはり習氏の責任問題になるでしょう。
      従って、短期間に全島を制圧できると確信できた場合、または国内が経済的に完全に行き詰まり、他に政治的な打開策が見当たらない場合でないと、さすがの習氏も台湾侵攻を決断できないのではないかと思います。現状では、後者の可能性が高いと思いますが。