当ウェブサイトではこれまで、2022年までの日本新聞協会のデータをもとに、「直近5年間の減少ペースが続けば、2022年10月から起算して夕刊は7.68年以内に、朝刊も13.98年以内に消滅する(かもしれない)」、などと述べてきました。結論からいえば、夕刊については予想以上のペースで落ち込んでいるものの、朝刊に関していえば、案外踏み止まっているという言い方ができます。もっとも、遅かれ早かれ新聞業界が滅亡に向かっているという結論自体は変わりませんが…。
目次
最新新聞部数速報
新聞部数データが公表される
新聞の発行部数に関する最新データが26日、一般社団法人日本新聞協会から公表されました。
これは新聞協会が例年公表している、その年の10月における新聞部数の合計データで、2000年以降のデータは『新聞の発行部数と世帯数の推移』のページで、それ以前のデータは『日本新聞年鑑2024』という刊行物で、それぞれ確認することができます。
これをわかりやすくグラフ化したものが、図表1です。
図表1 新聞合計部数の推移
(【出所】『新聞の発行部数と世帯数の推移』および『日本新聞年鑑2024』データをもとに作成。「部数①」は「セット部数」を1部とカウントした場合の、「部数②」は「セット部数」を朝刊1部・夕刊1部の合計2部とカウントした場合の部数を意味する。「部数①」「部数②」については以下同じ)
「部数①」については3000万部の大台を割り込む
これによると、「セット部数」を1部とカウントした場合の部数(「部数①」)は2859万部で、前年の3085万部と比べて226部減りました(減少率は7.31%)。ついに3000万部の大台を割った計算で、最盛期の1997年における5377万部と比べて2517部の減少です(減少率は46.82%)。
また、「セット部数」を2部(朝刊1部、夕刊1部)とカウントした場合の部数は3305万部であり、まだ3000万部の大台を維持しているものの、前年の3677万部と比べると373万部と、10.14%も落ち込みました。最盛期の1996年の7271万部と比べれば3966万部(すなわち54.55%)減った計算です。
これを表形式にしておきましょう(図表2、図表3)。
図表2 新聞部数の増減(2023年vs2022年)
区分 | 2023年 | 2023年との比較 |
合計① | 2859万部 | ▲226万部(▲7.31%) |
セット部数 | 446万部 | ▲147万部(▲24.83%) |
朝刊単独部数 | 2368万部 | ▲72万部(▲2.95%) |
夕刊単独部数 | 45万部 | ▲7万部(▲12.60%) |
合計② | 3305万部 | ▲373万部(▲10.14%) |
朝刊部数 | 2814万部 | ▲219万部(▲7.22%) |
夕刊部数 | 491万部 | ▲154万部(▲23.85%) |
(【出所】『新聞の発行部数と世帯数の推移』データをもとに作成)
図表3 新聞部数の増減(合計①については2023年vs1997年、合計②については2023年vs1996年)
区分 | 2023年 | 最盛期 |
合計①(1997年との比較) | 2859万部 | ▲2517万部(▲46.82%) |
合計②(1996年との比較) | 3305万部 | ▲3966万部(▲54.55%) |
(【出所】『新聞の発行部数と世帯数の推移』データをもとに作成)
新聞業界の現状と寿命
昨年の予想を振り返る
ある程度予想通りとはいえ、これはなかなかに強烈な結果です。
当ウェブサイトではこれまで、2022年までの日本新聞協会のデータをもとに、「直近5年間の減少ペースが続けば、2022年10月から起算して夕刊は7.68年以内に、朝刊も13.98年以内に消滅する(かもしれない)」、などと述べてきました。
つまり、昨年時点のデータでは、「過去5年間の平均値」は朝刊が毎年▲217万部、夕刊が▲84万部だったので、2022年10月時点の部数(朝刊3033万部、夕刊645万部)はそれぞれ13.98年、7.68年でゼロになる、という試算を置いていたのです。
図表4 新聞部数の推移(実績値と予測値、2022年時点)
(【出所】『新聞の発行部数と世帯数の推移』データをもとに作成。「朝刊部数」は元データの「セット部数」と「朝刊単独部数」の、「夕刊部数」は元データの「セット部数」と「夕刊単独部数」の、それぞれ合計。なお、「予測値」は2017年から22年までの5年間の平均減少部数が今後も続くと仮定した場合の部数推移)
夕刊については予想以上の落ち込み
この図表4のような予測に基づけば、2023年10月時点の部数は朝刊が2816万部、夕刊が561万部となっていたはずで、朝刊については予測とだいたい同じ推移ですが、夕刊に関しては予測を大幅に上回る速度で部数が落ち込んでいるのです。
2022年時点で予測した2023年の部数
- 朝刊部数…2816万部
- 夕刊部数…*561万部
- 合計部数…3376万部
現実の2023年の部数
- 朝刊部数…2814万部
- 夕刊部数…*491万部
- 合計部数…3305万部
ただし、朝刊に関しては予測2816万部に対し、現実は2814万部であったため、案外、新聞業界としては踏み止まったという言い方もできるかもしれません(※これらがすべて実売部数ならば、という前提が付きますが…)。
このように考えていくと、やはり昨年時点で予測した、「2022年から数えて朝刊の寿命は13.98年、夕刊の寿命は7.68年」に関しては、朝刊に関してはほぼそのとおりである一方、夕刊に関しては、予想としてはかなり甘かったということでしょう。
新聞の「残存年数」
改めて、2023年から過去5年間のデータをもとに、図表2に示した区分について「過去5年平均の部数減少数」、「部数がゼロになるまでの年数」を再計算したものが、図表5です。
図表5 過去5年の平均値で今後も減少が続く場合の部数がゼロになるまでの年数
区分 | 2023年 | 過去5年平均 | 残存年数 |
合計① | 2859万部 | ▲226万部 | 12.64年 |
セット部数 | 446万部 | ▲91万部 | 4.88年 |
朝刊単独部数 | 2368万部 | ▲126万部 | 18.76年 |
夕刊単独部数 | 45万部 | ▲9万部 | 5.26年 |
合計② | 3305万部 | ▲318万部 | 10.41年 |
朝刊部数 | 2814万部 | ▲218万部 | 12.93年 |
夕刊部数 | 491万部 | ▲100万部 | 4.91年 |
(【出所】『新聞の発行部数と世帯数の推移』データをもとに作成)
何とも恐ろしい計算結果です。
日本新聞協会のデータ区分(当ウェブサイトの用語でいう「合計①」)については、12.64年という結果が出てきました。
このうち「朝刊単独部数」については18.76年でまだ余裕がありますが、「セット部数」は4.88年、「夕刊単独部数」は5.26年であり、このペースでの減少が続けば、あと5年以内に夕刊は絶滅します。現実には多くの新聞社にとって、夕刊刊行を5年も続けることはできないでしょう。
また、当ウェブサイトの用語でいう「合計②」に関していえば、ゼロになるまでの年数は「合計①」よりももう少し短い10.41年です。内訳については、夕刊部数は4.91年で、上記「合計①」と比べてゼロになるまでの年数はさほど変わりませんが、朝刊の寿命は12.93年と、「合計①」の場合と比べ、ぐっと短くなります。
さらに短くなった夕刊の寿命
あらためて、図表4と同じ「新聞部数の推移(実績値と予測値)」を、2023年時点で更新しておくと、図表6のとおりです。
図表6 新聞部数の推移(実績値と予測値、2023年時点)
(【出所】『新聞の発行部数と世帯数の推移』データをもとに作成。「朝刊部数」は元データの「セット部数」と「朝刊単独部数」の、「夕刊部数」は元データの「セット部数」と「夕刊単独部数」の、それぞれ合計。なお、「予測値」は2017年から22年までの5年間の平均減少部数が今後も続くと仮定した場合の部数推移)
朝刊については2022年時点のものとあまり変わりませんが、夕刊についてはゼロになるまでの年数がぐっと短くなっていることがご確認いただけるでしょう。
新聞放物線
ついでに、例の「新聞放物線」についても、グラフ化しておきましょう。
図表4や図表6についてはデータの都合上、2000年以降のものしか作ることができませんが、「合計」ベースならばもう少し前のものから作成することが可能です。そこで、合計①・②について、「2023年までの5年間の減少ペースが今後も続く」と仮定したときの年数をグラフ化しました(図表7)。
図表7 新聞合計部数の推移と予測(直線シナリオ)
(【出所】『新聞の発行部数と世帯数の推移』データをもとに作成。「予測値」は2018年から23年までの5年間の平均減少部数が今後も続くと仮定した場合の部数推移)
こちらのグラフだと、朝刊と夕刊の内訳についてはよくわかりませんが、ただ、早ければ2030年前後、遅くとも2030年代半ばには、新聞部数がゼロになるという予測が出てきます。
また、少し長い期間でグラフ化して見ると、新聞部数というものが1990年代半ばをピークに放物線を描くように減少していることがわかりますので、「直線シナリオ」ではなく、「放物線シナリオ」を描くならば、新聞業界の寿命はもう少し早く訪れることになります。
この場合は2020年代後半には新聞が絶滅するかもしれません。
新聞はこれからどこへ行く
意外と堅調という見方も?
ただし、注意点があるとしたら、今年に関しては部数が特に大きく落ち込む要因があったことです。
まず、夕刊が減少した理由は、夕刊を読む人がいなくなったからなのか、それとも新聞社が夕刊を廃止したからなのかについては、データだけではわかりません。
実際、全国紙では中日新聞を除く主要紙が東海地区での夕刊を廃止したほか、ブロック紙のひとつである北海道新聞も今年、夕刊を廃止したため、夕刊部数がトレンド以上に落ち込むのは、ある程度は予測されていた話でもあります。
これに加えて今年に関しては値上げという要因もありました。
先日の『大倒産時代の制作会社こそネットという新天地を目指せ』などでも取り上げたとおり、新聞業界では全国紙・地方紙で値上げが続いており、5つの全国紙では読売新聞を除くすべてが、地方紙ではブロック紙である西日本新聞を含めた多くの新聞が、それぞれ値上げに踏み切っています。
「未来がない」という意味では、新聞業界だけでなく、テレビ業界にも同じことがいえます。テレビ業界は現在、視聴者離れ、スポンサー離れ、そしてクリエイター離れという三重苦に直面しているのですが、こうしたなかで気になるのは、テレビ制作会社の倒産が相次いでいるという話題です。先が見えないテレビ業界にいつまでもしがみつくか、それとも変化を求め、ネット動画などの世界に繰り出していくか――。すべては経営者次第でしょう。業界として終わりが見えた新聞まだ公表されない新聞部数のデータ例年であれば、一般社団法人日本新... 大倒産時代の制作会社こそネットという新天地を目指せ - 新宿会計士の政治経済評論 |
一般論として、技術革新期に古い製品が値上げされれば、それを機に、一気にその古い製品の市場は廃れます。このように考えると、新聞業界がこぞって値上げしたにも関わらず、少なくとも朝刊に関しては、部数の落ち込みはトレンド以上とはいえません。
むしろ、過去5年間に関しては2020年のコロナ禍の影響もあり、部数の落ち込みが誇張されているという可能性もあるため、図表4や図表6、図表7で示したような新聞部数の落ち込みの予測は、案外、厳しすぎるのかもしれません。
新聞が滅亡に向かっているという結論は変わらない
もっとも、こうした議論は、新聞業界が滅びる年数が多少伸びるかどうかという話であって、新聞業界がこのままだと死を待っているという結論については変わりません。
考えてみればわかりますが、新聞というものは、情報を物理的に紙に印刷し、それを人海戦術で全国各地に送り届けることで成り立っているビジネスであり、もしもその情報をすべてインターネット配信に切り替えたら、紙代、インク代、輪転機の減価償却費、運送費、工場や販売店の人件費などのすべてが不要になります。
従って、新聞社経営だけを考えるなら、紙媒体をやめて今すぐインターネット(や専用タブレット配布型など)に切り替えるのが得策であるはずです。
もっとも、新聞業界はどこもネット会員の募集に苦労しているようであり、たとえば『朝日新聞メディア指標』を公開している株式会社朝日新聞社の事例だと、部数はどんどん落ち込んでいるのに対し、「朝デジ有料会員」数はほとんど増えている形跡がありません(図表8)。
図表8 朝日新聞メディア指標の一部
時点 | 朝刊部数 | 朝デジ有料会員 | 合計 |
2022年12月 | 383.8万 | 30.5万 | 414.3万 |
2023年3月 | 376.1万 | 30.5万 | 406.6万 |
2023年9月 | 357.3万 | 30.3万 | 387.6万 |
(【出所】株式会社朝日新聞社・コーポレートサイトの報道発表をもとに著者作成。なお、「朝刊部数」はABC部数を意味する)
最大手の一角を占める朝日新聞でさえこうなのですから、日経新聞のように専門性があるなどの例外でもない限りは、一般紙がネット化して生き延びていくのは容易なことではないのかもしれません。
このように考えていくと、新聞業界がこれからどこに漂流していくのかについては、今後も考察する価値がある論点のひとつであることは間違いないでしょう。
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新聞配達少年、という苦学の孝子もいなくなりますね。尤も、今は、コンビニアルバイトがあります。
今から数十年前に、苦学生という言葉は、もう死語だと言われましたが、代わりに奨学金負債者が産まれたのかもしれません。
国は、無償奨学金や無利子奨学金制度をしっかりと確立して、安心して高校大学に行けるようにすべきですね。
石炭鉱業とか、レコード(塩化ビニール円盤)産業とかみたいに、上位互換のある別のものに駆逐されて衰退して行くのでしょうね。
報道は今でも将来もニーズがあるのです。
今の報道機関は、市場からバツをくらってる訳で。
とにもかくにも
「予想が当たってない」
のですから話になりません。
天気予報や株価予想みたいなもんで、的中率が大事。
イデオロギー的なスパイスはお好きにしたらよろしいが、当たってることが信頼の基礎。
例えは今回の武蔵野市長選挙で、
「リベラル側が負けそうだ」
とか、どこかのメディアが報じていたのか?
(当たり障りない記事は予想と呼べませんから)
正確な票読みの上で、でもリベラルが勝つべきだ!とか言うならまだしも、ねえ。
少しくらい役に立てよお前ら。(笑)
わたしは少し違うと思っています。
少なくとも私が報道に求める要素は、事実を事実のまま報道すること。これだけです。
マスコミによる感想文や願望作文は求めていません。
しかしながら、現状のマスコミの記事やニュースは基本的に、ソースも不明の情報に私情を交えた上で根拠不明の感想と推測を材料に良く分からん味付けをされたものが多すぎます。
これでは信用性は皆無です。
まずどこまでが事実か、それだけでもはっきりと記述されるのであれば、重要性も変わってくるのですが。
損益分岐点を考えるとジリ貧…もとい均衡縮小路線を続けるにも限界がありましょうから、早晩大きめの構造変更を掛けてくるやもしれまへんな
「押し紙」の問題も考慮すると、損益分岐点はもっと深刻な問題になるでしょうね。
「押し紙」は赤字の押し付けに過ぎないのだから、搾取される側が
潰れるか逃げ出した場合はもう出来ない。
そうすれば部数減少のペースが加速する可能性は大いにある。
そして部数が減れば減る程広告も株主も「もうダメだな」と去っていき、
負のスパイラルはますます激しくなっていく。
ネットを使えない世代は毎年消えていき、ネットを使える世代は毎年増えていく。
新聞社側から見ればお先真っ暗どころかクソゲー状態ですね。
まるで緘口令を敷いたかのごとく、彼らがこの話題に関して口が重いのも当然かも。
アメリカ地方紙:週刊新聞化…
新聞、まもなく消滅へ…読売、朝日を辞めた記者が「ヤバすぎるマスコミの内情」を明かす
大量離職に焦った新聞社の管理部門、『戻ってくる気はありませんか』と離職者に面会を申し込むも……
https://you1news.com/archives/100204.html
>>大量離職に焦った新聞社の管理部門、『戻ってくる気はありませんか』と離職者に面会を申し込むも……
沈みゆく船からネズミが逃げ出すそうですが、戻れと行っても納得しないでしょうに。それなのに敢えて戻れと?
ソンなことより障害者の介護を長期間行った経験からすると紙おむつを包んで匂いが漏れないようにして捨てるのに新聞紙ほど経済性が良く好適な者は無かったのですが。廃刊になると新聞紙も手に入らなくなりますね。今後は何か工夫をしないと。模造紙でも買えば良いのだろうがお金が掛かるな~~。
新聞記者諸君が今真剣に考え直すべきなのは「文章にお金を払ってもらえる理屈」を考え抜くことと考えます。
路上演奏家は街を行く人たちの足を止め演奏を最後まで聞いてもらえるために精力を傾けます。もし気に入ってもらえたら賞賛の証しが帽子へ投げ込まれることになる。文筆家は学ぶところが多いのではありませんか。こんにち文章の流通コスト蓄積コストは事実上ゼロに近づきました。新聞というとてつもない手間とコストがつぎ込まれた大げさな情報商品、それの製作コストを商品の対価として購入者に提示請求するのは現実離れが過ぎるのです。
金出してゴミ買いたくないもんね
必要ないからさっさと潰れてくれ