キツネとタヌキが化かし合いをしたのでしょうか。北朝鮮からロシアに提供された砲弾が品質不良のため、むしろロシア軍に打撃を与えているとの情報がありました。またその一方で、ロシアから北朝鮮に提供された小麦は賞味期限が2022年5月5日に切れており、余り物が提供されたという可能性が浮上したようです。ただ、それ以上に興味深いのは、西側諸国からの制裁は、「品質管理のノウハウ」そのものを失わせるかもしれない、という点です。
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ロシア、北朝鮮への経済制裁は効いているのか、いないのか
当ウェブサイトでときどき、統計数値をもとに、「ロシアや北朝鮮は経済制裁でかなり苦しんでいるのではないか」、といった仮説を提示すると、ときどき、「経済制裁はロシアや北朝鮮には効いていない」、と主張するご意見に出会うこともあります。
たとえば、ロシアについては「制裁に参加しているのは西側諸国だけで、中国やインド、ブラジルなどは対露制裁に参加していない(からロシアへの制裁は効いていない)」、北朝鮮については「いまだに金正恩体制が崩壊していない(から北朝鮮への制裁は効いていない)」、といった具合です。
こうした「制裁は効いていない」論が正しいかどうかを巡っては、当ウェブサイト側としてはそれらを裏付ける数値を探しているものの、その決定打を見つけることができないのが実情です。
というよりも、「ロシアや北朝鮮への制裁が効いていない」と主張する人たちこそ、そのように主張するならば、「ロシアや北朝鮮への制裁が効いていない証拠」を出す義務があると思うのですが、いかがでしょうか。
北朝鮮の砲弾でロシア軍に打撃が生じている…!?
さて、キツネとタヌキの化かし合い、とでもいえばよいのでしょうか。ロシアが北朝鮮製の砲弾で苦しみ、北朝鮮がロシアから賞味期限切れの小麦を渡された、などとする話題がありました。
北朝鮮の独裁者・金正恩(きん・しょうおん)が9月、ロシアを訪問し、ロシア大統領であるウラジミル・プーチン容疑者と砲弾をロシアに提供する代わりに食糧援助を引き出したらしい、とする話題は、以前の『現在の北朝鮮、李朝末期に酷似か』などでも少し触れました。
金正恩、プーチンともに、「世界で最も謎が多い首脳のひとりである」という共通点を持っていますが、その後のさまざまな報道を見ていると、北朝鮮からロシアに砲弾が渡り、ロシアから北朝鮮に食糧が渡ったことはどうも間違いなさそうです。
そして、その続報がまた強烈なのです。
まずは北朝鮮の危険な砲弾に関する話題です。ポーランドのメディア『エッサニューズ』やウクライナのメディア『ディフェンスエクスプレス』(いずれも英語版)の報道によると、「北朝鮮からロシアに提供された砲弾がロシア兵を傷つけている」、などとする情報が出て来ています。
North Korean ammunition proves fatal for Russian soldiers
―――2023/11/25 19:03 EST付 essanewsより
Dissatisfied With Quality and Quantity of North Korean Artillery Shells, russians Complain
―――2023/12/09付 Defence Expressより
安定しない北朝鮮製砲弾の品質
たとえばエッサニューズはこんな趣旨のことを報じています。
「北朝鮮製の弾薬は規格が低く、軍事専門家の予測どおり、砲弾が暴発することで戦車や榴弾砲などが破壊され、または損傷する事故が大幅に増加している。一部では損傷した車両の写真がSNSなどでも拡散されている」。
「ロシアでは武器の増産に向けた多大な努力が行われていて、年間約600両の戦車を製造するという計画も立てられているが、現在の軍需産業はその目標の半分にも達していない。さらに、ロケット弾や砲弾の増産は、北朝鮮からの支援を考慮に入れても、現在の使用率に追い付くかどうかは不透明だ」。
また、ディフェンスエクスプレスの記事では、北朝鮮製の砲弾について、もう少し詳しい内容が触れられています。
- SNS『テレグラム』上でロシアの軍事をテーマにしたチャンネルが投稿した写真によると、北朝鮮の152㎜発射体について、同じマークがついた無作為に選ばれた5つの装薬を調査したところ、それらはすべて異なる種類の火薬であり、火薬の束の重量も異なることが発覚した
- 一部の装薬には脱銅処理すら施されておらず、さらには一部の砲弾では密閉蓋が開けられた痕跡も発券された
- 砲弾の弾道距離が一貫していないと射撃の精度が低下し、砲弾の着弾距離にもバラツキが生じるなど、通常の任務を達成するためにより多くの弾薬を消費せざるを得ず、作戦実行に必要な時間も長くなり、同じ場所に長時間滞留せざるを得なくなる
- 装薬に銅製のリード線がない理由は、利益のために工場から盗めるものはすべて盗むという、計画経済を行っているすべての国に見られる現象に基づくものであろうと考えられ、そして、それは北朝鮮の労働者にとってもありふれたものである
…。
記事に掲載されていたX(旧ツイッター)のポストでは、北朝鮮製の砲弾と思われる中身が紹介されています。
これらのメディアの報道をそのまま信頼して良いかは、よくわかりません。
また、SNS上では「北朝鮮製の砲弾を積み込んだ戦車が自爆した」と称する動画や写真などもアップロードされているようです(※ただし、こちらについては正直、真偽は不明です)。
ロシアから賞味期限切れの小麦を込めて
ただ、メディアが報道している内容自体は、納得がいくものです。
「北朝鮮は国際社会から孤立していて、弾薬ひとつ作るにしても材料が不足しており、また、国全体の貧しさのあまり、労働者による工場の材料窃盗も常態化しているため、北朝鮮製の砲弾には部品が欠落していたり、品質が安定していなかったりするなどの特徴がある」、ということでしょう。
先ほどのディフェンスエクスプレスの記事は、北朝鮮製の欠陥のある弾薬は「ウクライナ軍にとっても危険」である一方、むしろロシア軍にとっても危険である、などと伝えているのですが、「溺れる者」である弾薬不足のロシアが掴んだのは「藁」どころかとんでもない不良品だったのだとしたら、笑うに笑えません。
ただ、これに対するロシア側からの「意趣返し」でしょうか、産経ニュースが先週金曜日に報じた次の話題もまた強烈です。
露が砲弾の見返りを北朝鮮に提供 賞味期限切れの小麦粉、余りものか
―――2023/12/15 19:56付 産経ニュースより
これによると、砲弾の見返りとしてロシアから送られた小麦粉の賞味期限が切れていた、などとする証拠写真が公表されたのだそうです。
問題の写真は韓国で北朝鮮に向けた短波ラジオを放送している団体の代表が15日、東京で開かれた国際セミナー「北朝鮮の最新情報を知り、全拉致被害者救出への方途を考える国際セミナー」で北朝鮮の現状報告講演のなかで明らかにしたものです。
記事によるとその入手経路は北朝鮮内部だそうで、北朝鮮北東部の清津(せいしん)港から荷揚げされたロシア産小麦粉2㎏袋としています。該当する小麦粉は現在も北朝鮮全土の穀物販売所で販売されているものの、賞味期限は2022年5月5日とされ、「余り物と見られる」などとしています。
しかも、北朝鮮では「露朝関係改善で30万トン以上の大量の食糧支援がロシアから送られる」、「食料配給制が正常化する」などのうわさが昨年から流れているものの、現時点で配給制は再開していないのだとか。
品質管理の大切さ
上記で紹介した、ロシア、北朝鮮それぞれの事情については、それらが正しいのかどうか、多少の留保は必要でしょう。ただ、こうした断片的な報道を眺めているだけでも、ロシア、北朝鮮の両国は、「同盟国(?)」同士でも騙し合いをするほどには仲が良い(?)ようであり、何よりです。
ただ、もっと根源的には、日本を含めた西側諸国による経済制裁が、ロシアや北朝鮮といった無法国家の経済を確実に痛めつけていることについては、どうやら間違いないということでもあります。
私たち日本人が日本国内で暮らしていて、日用品を購入すると、「品質が安定していない」という経験は、滅多にしないと思います。スーパーで売られている食パン、お菓子、牛乳、ハム、チーズ、お米といった食品、せっけん、シャンプー、歯磨き粉などの日用品は、ものによって質が違う、ということはありません。
ごく稀に不良品が混じっていたとしても、購入したスーパーに持ち込めば、あるいはメーカーに着払いで送れば、良品と取り換えてくれることが一般的です。
まさに、日本を含めた先進国では当たり前の「品質管理」がなせる業でしょう。
しかし、日本などからの制裁を喰らっていると、こうした品質管理のノウハウ自体を指導してもらえる機会もなくなるのであり、必然的に、社会の隅々に至るまで、さまざまな製品の品質のレベルは落ちていきます。ロシアに提供された北朝鮮製砲弾もその典型例かもしれません。
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本日のあの朝日新聞に、牧野愛博記者の署名記事のなかで外務省幹部の発言として「すぐに第三次世界大戦が起きるとは思えないが、法の支配や戦後秩序が壊れて、世界各地で軍事衝突が多発する時代になる気がする」とありました。もちろん、この外務省幹部の個人的感想かもしれませんし、どういうつもりで牧野記者が、この発言を紹介したのかも分かりませんが、この露朝の関係を見ると、当たっている予感がします。
北朝鮮よりロシアへ「親しみをこめて!」;品質不良の砲弾
ロシアより北朝鮮へ「愛をこめて!」;賞味期限切れの小麦粉
賞味期限切れても、消費期限切れじゃなければ大丈夫(違)
弾薬で、そーいえば、このニュースを思いだいました。
「ウクライナに日本の火薬、アメリカ通じた間接提供を調整…155ミリ砲弾も協議か 」
読売新聞:
https://www.yomiuri.co.jp/world/20230616-OYT1T50059/
続報は見つけられませんが、もしかして材料が日本と北の代理戦争になってますね・・・
わたしの母は太平洋戦争が始まった2年後に結婚しており、戦時下の物資の窮乏、空襲に怯える日々を実体験しています。そんな頃の記憶を時折聞きましたが、例えば銃後の守りとて、竹槍で敵兵(巻き藁)を突き刺す訓練に駆り出される、航空燃料にするとやらで松林に入って根元を掘り、松根油なる液体を採集させられる。こんな状況を続けていれば、いくらラジオで華々しい戦果を喧伝する大本営発表を流したところで、勝ち戦を信じる庶民なんて、ほとんどいなかったでしょう。しかし、そんなことは間違っても口には出せない。
「欲しがりません、勝つまでは」なんてスローガンなど、まるで意味をなさない。欲しいものなど一体どこにある。最後には芋の蔓まで配給食料に混じった有様だったのですから。しかし母が語った辛かった思いでの多くは、そうした物不足、空腹の類いではなかったように思います。世の中から人のつながり、思いやりといった風潮が急速に消えていったということだったようです。とくにたった一人で家を守る、まだまだ世間の助けが必要な、二十歳前後の年若の妻にとっては。辛い時代だったのでしょう
連日町内の防空訓練とやらに招集され、常日頃はさえない中年男に過ぎない退役軍人が、威張りくさって、やれバケツリレーだ、やれ水を含ませた竹箒を使って焼夷弾の火を消す訓練だと、命令する。もう各地の空襲の有様を噂で知る庶民にとっては、そんなことで焼夷弾攻撃に対抗できるわけがないことくらい百も承知。だけど誰もそれに逆らえない。
思いを口に出来ないこと、周囲もそして社会も信頼できない状況下で暮らすとなったら、人心は荒みます。日本の場合、十五年戦争と言っても、そんな状況に陥ったのはせいぜい終戦直前の1~2年と、焼け跡闇市時代の2~3年くらいだったでしょうか。しかし。これがロシアとなったら、ソ連邦の圧制下、一般庶民はその崩壊に至るまでの長い停滞と衰退の暗黒時代を過ごし、ようやくにしてその軛を逃れても、すぐにやってきたプーチン政権による圧政。北朝鮮はと言ったら、何と建国以来70年間もこの状態が続いているのです。
「社会の絆」が失われること、人びとの行動規範の中に「わがこと、及び家族のため」はあっても、「世のため、人のため」は極めて希薄になる。その後遺症は、統計上の数値には表われずとも、非常に長く残るのではないかと思います。ロシアも北朝鮮も「制裁慣れ」しているから、西側の経済制裁には十分な耐性をもっているという見方は、ある意味事実かも知れません。しかし、その耐性は健全な社会の維持・発展のためには決定的に重要な要素を放棄させられた代償として、身につけ「させられた」ものと言えるのではないでしょうか。
COCOM規制が解除されて、ロシアの西側諸国との通商経済関係が正常化されて以来の30年間に、ソ連時代途上国レベルに止まっていた民生品の製造業が自前でこの国に大きく拡がったとは思えません。石油・天然ガス、穀物といった資源に恵まれ、それとの交換で西側の民生品ないし、その製造部品を購入する。この経済モデルは合理的と言えば合理的でしょうが、わたしにはこの国には「下から」製造業を立ち上げる力が根本的に欠けている結果のように思えます。本エントリーで問題とされている「品質管理」の思想。まともなものづくりにとって、必要不可欠なものだと思いますが、これを身につけようとすれば、その背景に「人のつながり、思いやり」をもった社会がなければ実現は無理ではないかと思えるのです。
かりに、ロシアや北朝鮮で今ただちに独裁体制が打倒され、自由で開かれた民主社会を指向する政体が樹立されたとしても、「人のつながり、思いやり」をもった社会が実現するには、優に2~3世代を要するでしょう。現在これらの国に課せられている経済制裁は、それをさらに後まで繰り下げる効果をもつのではないでしょうか。将来数字となって現われてくるものより、実はその影響の方を遥かに重視すべきではないかというのがわたしの考えです。
>該当する小麦粉は現在も北朝鮮全土の穀物販売所で販売されているものの、賞味期限は2022年5月5日とされ、「余り物と見られる」などとしています。
北朝鮮で売られている北朝鮮産の小麦粉って消費期限を信じれるのですかね?
北朝鮮は本音では「食えればありがたい」と思ってるはず。
牛のふんに混じったトウモロコシの未消化のつぶを洗って食べているというから。