JTBが公表した年末年始の旅行予測では、国内旅行の人数が2800万人と、前年の2700万人から増える一方、海外旅行については22万人から58万人へと大幅に増大するそうです。ただ、国内旅行についてはコロナ禍前の水準をほぼ回復しているのに対し、海外旅行についてはコロナ禍前と比べて7割程度にとどまります。円安で海外旅行の魅力が下がっているという要因もある一方、それ以上に国内旅行の魅力に多くの人が気付いているのかもしれません。
インバウンドは急回復:アウトバウンドは道半ば
円安の影響でしょうか、日本人の出国者数が減っているようです。
日本政府観光局(JNTO)のデータからインバウンド(訪日外国人)数を、出入国在留管理庁のデータからアウトバウンド(出国日本人)数を、それぞれ取得して、上下逆に表示したグラフを作成してみると、なかなかに印象的です(図表1)。
図表1 インバウンドvsアウトバウンド
(【出所】日本政府観光局、出入国在留管理庁データをもとに作成)
コロナ前だと、月により多少の波はあれど、日本を出国する日本人は毎月平均でだいたい150万人前後、といったところでした。しかし、2023年に関しては出国者は平均して約64万人に留まっています。
これに対し、訪日外国人は2015年頃から恒常的に出国日本人を上回るようになり、コロナ直前の2019年にはじつに毎月平均して約266万人という外国人が日本にやって来ていました。2023年平均では166万人程度ですが、すでに月によっては訪日外国人数がコロナ前の水準を超過することもあります。
円安が主要因か?
ではどうして、日本人が海外に出掛けなくなってしまったのでしょうか。
これにはおそらく、①円安が急速に進んだことと、②日本人にとっての人気の渡航先(たとえば米国や欧州)で物価上昇が激しく、滞在費用が増えてしまったこと、などが挙げられるのではないかと思います。
こうしたなかで、読売新聞が6日、「年末年始の海外旅行者はコロナ禍前とくらべ7割程度になる」とするJTBの見通しなどを引用したうえで、海外旅行者低迷の要因として円安を挙げる記事を掲載しています。
円安で「料金2倍以上」…冷え込む海外旅行、年末年始もコロナ禍前の7割どまり
―――2023/12/06 07:28付 読売新聞オンラインより
そのうえで、渡航先としても米国などではなく、ソウルや台北など「割安感のあるアジア諸国」、さらにはLCCが就航する豪州・ケアンズなどが上位に並んでいる、などとしています。
ただ、日本人の海外離れは、本当にそれだけが原因なのでしょうか。
JTBが公表した「旅行動向」の原文を読むと、JTBがアンケートに基づいて予測する国内旅行者数は2800万人で前年と比べ3.7%増える一方、海外については58万人で前年比160.1%増えるものの、海外旅行自体は長期と短期に二極化する、などとしています。
年末年始(2023年12月23日~2024年1月3日)の旅行動向
―――2023/12/05付 JTBより
「海外旅行客が前年比+160%」というのは一見すると急増しているようにも見えますが、実際、コロナ前の2019年末から2020年初にかけての83万人と比べれば、むしろ25万人減っていることを踏まえると、やはり海外旅行客の戻りは本格的とは言い難いものがあります。
旅行費用に注目
これに加えて興味深いのは、その人数もさることながら、旅行費用です。
JTBの予測によると国内旅行費用は41,000円で、前年の37,000円と比べて4,000円増加。コロナ禍直前の2019年末の32,000円と比べれば、じつに9,000円も増えています。
これに対し、海外旅行費用は222,000円の予想で、これはコロナ前の202,000円と比べれば増えているものの、前年の241,000円と比べて減少に転じているのです。
もちろん、このデータはJTBが「予測値」として出しているだけのものであり、これが現実の数値と等しくなるというものではありませんが、ざっくりいえば「海外旅行は節約志向、国内旅行は気前よく」、といった姿が見えて来るからです。
この点、国内旅行の費用上昇は物価が上昇しているなどの要因もあるのかもしれませんが、それ以上に、海外旅行よりも国内旅行に目を向ける人が増え始めている証拠だ、という見方もできるでしょう。
旅行でも円安メリットが働いている!
いずれにせよ、当ウェブサイトでこれまで何度も指摘してきたとおり、円安には様々なメリット・デメリットがありますが(図表2)、旅行に関しても間違いなく、この円安の効果――インバウンドの増大と国内旅行の振興――というメリットが働いているようです。
図表2 円高・円安のメリット・デメリット
©新宿会計士の政治経済評論/出所を示したうえでの引用・転載は自由
これも「悪い円安」論者の皆さまにとっては、「不都合な事実」なのかもしれませんが…。
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デジタルデトックス出来る温泉宿として話題となっている宿が青森にあります。
「ランプの宿青荷温泉」
https://www.aoninet.com/pc-index.html
部屋・廊下などの灯りはランプのみ、部屋に電気は通っておらず、携帯も繋がらないところです。冬期は自家用車では辿り着けず、最寄りの道の駅まで迎えに来て貰うとのこと。
このような、インバウンド需要に頼らない観光地・宿を巡るのも良いですね。
自分も行ってみようと思います。
囲炉裏、火鉢、湯たんぽ、褞袍(どてら)、或いは、七輪炬燵、。ここまで、徹底してくれれば、都会人は満足かな?
ただ、もう行かない、という人も出て来るのでは?
青森の山の中で、これだけで凌げるかものなのか?
炭、練炭の一酸化炭素中毒には注意が必要ですし。
暖房は薪ストーブみたいですね。
真冬でも混んでいるらしく、またリピーターも多いとのこと。
行った人にだけ分かる魅力があるのかもしれません。
薪ですか。薪はいいですね。
薪のしんしんと燃える、透き通った橙色は、じっと見つめていたくなります。
確かに、リピートしたくなりますね。
薪は誰が割っているのでしょうね。
「悪い円安」論者に訊いてみたいですね。
円安で、海外からの観光客が増える。
のみならず相対的に割安だから、国内旅行も増える。
輸送宿泊飲食土産の消費拡大と、それに伴う雇用も拡大。
観光などのインフラ産業は基本的に客がゼロでも満員でも必要コストは変わりません。
光と影。
同じコインの表裏。
悲観論ばかり騒いでるときに、ポジティブ面に言及してましたか?と。
しかし、どれが「当たる天気予報」なのかは、各自が自分で判断選別すればよいことなのですが、面倒くさいですねえ。
通貨安が悪く作用する条件はあるのですが、日本はそれに該当しないのです。
具体的に言えば「生産能力」です。日本には、幅広い産業がありほぼ何でも作っています。最近まで円高では安い輸入品に押されるし、海外輸出しようとすると送料までかかって益々不利になる。圧倒的な品質で対抗するしかなかった。
生産能力がないとそもそも選択ができない。通貨安で高くなってもそれを買う(輸入)しか選択肢がありません。韓国の物価(インフレ率)が高いのは輸入依存度が高いからであり、通貨安の利点があまり生きない(悪い通貨安)のです。
日本中に行ったことない、見たここないのがあんのにね。自分の市でも知らないこと多いし。
京都に来ています。
久しぶりに葛城の方を周り、のどかさを感じてきました。當麻寺は国宝やら重文やらがゴロゴロしてる古刹ですが、いつ訪ねてもほとんど人がおらず、心ゆくまで見て回ることができます。華麗さには欠けますけど、お気に入りのお寺です。
昨日は嵯峨野・嵐山を訪れました。覚悟していたとはいえ、大量の外国人と修学旅行生に閉口しましたが、久しぶりに野宮を訪れましたし、天龍寺の紅葉にも間に合いました(狙い通り!!)。なんだかんだ言っても、あの界隈がフォトジェニックであることには間違いありません。
漬物などをちょっと買い込みすぎました。しばらくお茶漬け生活になりそうです。
>しばらくお茶漬け生活になりそうです。
全くの老婆心ながら。
年を取って、塩分(漬物)で炭水化物(茶漬け)を食べる食生活は、短期間でもリスクが高いですね。
読んだだけで、リスク感が出てきました。
京都の美味しい漬物でお茶漬け、なんていう贅沢な食事は、諦めましょう。
私も昨日は京都から大和八木経由で伊勢へ行く途中、近鉄電車の車窓から二上山をぼんやりと眺めていました。やはり奈良には独特の雰囲気を感じますね。
天龍寺の庫裏玄関に置かれた達磨図の衝立を見ると、天龍寺に来たという実感が湧きますね。
天龍寺は足利尊氏が後醍醐天皇の菩提を弔うために創建した寺で、曹源池庭園は背後の山も景色に取り込んで大変美しいですが、禅寺としては珍しく春も見事な桜が楽しめます。南朝時代に後醍醐天皇が愛でた吉野の景色です。足利尊氏は大変優しい人だったのですね。
私のお勧めは嵯峨野の常寂光寺です。庭を歩くと、斜面に広がる紅葉に包まれて、異次元の空間の中にいるような気がします。新緑の季節もお勧めですが、いずれの季節も人が多いのが難点です。他の人も多分そう思っていると思いますが。
日頃の運動不足が祟り、野宮まで行っておきながら、常寂光寺まで足を延ばせませんでした。後ほんの少しなんですけれども......
京都には年に1,2度遊びに行きますが、まだまだ訪れたことがないところがたくさんあって、実は大原にもまだ行ったことがありません。まあ、まだまだ楽しみが残っているということで。
奈良の空気感は私も好きなんですが、難点は、奈良公園と西ノ京以外のエリアを回ろうとすると、足が必要になることです。當麻寺や三輪神社あたりはまだ駅からそれほど遠くありませんが、石上神宮ですら徒歩で行こうとすると結構エライことになります。まして飛鳥となると、徒歩ではどうにもなりません。レンタサイクルはあるそうですが、どうなんでしょうね、あれ。まあ、またぼちぼちと行ってこようと思っています。
どーでもいー情報:
京都駅新幹線コンコースにあった書籍売場が無くなってました。新幹線車中での暇つぶし用に文庫本でも、と思っている方はご注意を。
>難点は、奈良公園と西ノ京以外のエリアを回ろうとすると、足が必要になることです。
奈良の難点は「足」ですね。移動が大変です。
名所巡回バスなどがあればいいのですが。
日本が人気と言うより、単純に「高くて海外なんて行けない」ってのが正しい認識かと思います。
円安は良いんです。輸出品の競争力は上がるし、インバウンドは伸びるし。でも、その果実が一般市民にまで回ってこないのが問題なんです。
GDPが増えても賃金が上がらない。格差が広がって中流の下流化が進むってのは、国民の奴隷化が進んでいるって事です。
ソフト共産主義みたいなもんで、中国を笑えなくなってます。
GDP=給料、とほぼ言っていいのに何言ってんの?
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規模別では、賃上げ率「5%以上」は大企業が28.7%(271社中、78社)に対し、中小企業は37.0%(2,671社中、990社)で、中小企業が8.3ポイント上回った。
産業別では、賃上げ率「5%以上」の割合が最大だったのは、金融・保険業の66.6%(12社中、8社)。最低は運輸業の29.4%(119社中、35社)だった。
GDP=給料と言うのはウソですね。日本では企業物価指数と消費者物価指数の乖離かいりがあります。仕入れが上がってるのに売値は上がらない。つまりデフレです。この差分は、結局のところ賃金で埋められているのです。
国内は賃金で埋められているので、なんとなく辻褄があっているようですが、中流の下流化が進んで全体が貧乏になっているのです。デパートに行っていた人がスーパーに行く様になって、スーパーに行っていた人がディスカウントや100円ショップでしのいでいるのです。
本当に日本人は貧しくなりました。少子化は中流がいなくなったのが一つの原因です。円高円安で大騒ぎしていますが、実はどちらでも良いのです。企業が利益を上げて、それが従業員に反映されてるなら。
しかし、実際はそうなってません。中流を困窮化させて利益を上げた上で、経営者は手柄として報酬を得てます。派遣、外国人、女性パート…政府は安い労働力を増やす事には頑張ってますが、労働者の給与を上げる事は何もやってません。
円安が良くないのは、為替差益で実力以上の利益を企業に与えることです。安い労働者をかき集めるのも同じてます。企業が甘えて努力をしません。