天然の良港・神戸港が復活に向けて動き始めたようです。背景には釜山港に依存することの「リスク」に加え、ウクライナ戦争などを受けた地政学リスクが意識され始めていること、などがあるようです。ただ、神戸港がここまで凋落したのは、どうも阪神・淡路大震災後に国が支援を怠ったこと、整合的な交通政策を欠いていたこと、なにより日本の産業がこぞって中国などに進出し、国内産業が空洞化したことなど――があったのではないでしょうか。
日刊工業新聞の興味深い記事
産業の専門紙『日刊工業新聞』が運営するウェブサイト『ニュースイッチ』に5日、なかなかに興味深い記事を発見しました。
韓国・釜山経由は「リスク」…神戸湾、国際ハブ復権なるか
―――2023年12月05日付 ニュースイッチより
日刊工業新聞によると、神戸港で現在、貨物船の大型化やカーボンニュートラルポート(CNP)対応などを積極的に進め、復権に向けた取り組みを強化している、というのです。
それを後押ししているのは、神戸港の設備投資もさることながら、企業の側の意識変革にあるのだとか。
「大阪港や神戸港を運営する阪神国際港湾(神戸市中央区)の担当者は、『日本の貨物を日本の港で輸出入できることが、コストと同等か、それ以上に重要だと気付いた企業は多い』と話す」。
つまり、阪神国際港湾の立場としては、「日本企業の生産活動を守るため、しっかり日本の港と世界とがつながる必要がある」、ということです。
なぜこんな議論が出て来たのか――。
神戸港の凋落
国土交通省が発表する『世界の港湾取扱貨物量ランキング』(※PDF)によると、2020年における世界の港湾の貨物取扱量は1位から4位までを中国の港湾が占めており(1位が寧波舟山、2位が上海、3位が広州、4位が青島)、5位がシンガポールです。
しかも、韓国の釜山が8位であるのに対し、日本の港湾は24位に名古屋、32位に千葉、47位に横浜、49位に北九州が入っているのみで、上位50位に神戸港の姿はありません。かつてはコンテナ取扱数が世界最大規模を誇った神戸港の地位も、いまやすっかり凋落してしまった格好です。
ただ、こうした状況は、やはり地政学的に見て、大変にリスクが高い状況です。
日刊工業新聞によると、次のような事例が取り上げられています。
- コロナ禍の際、釜山港経由で日本と北米を行き来する貨物が大幅に遅延し、輸送コストが高騰した
- ロシアのウクライナ侵攻などで地政学リスクが高まっている
経済安全保障の観点からは、これはたしかにその通りでしょう。
一貫した交通政策を欠いた国の責任
日刊工業新聞によると、神戸港の地位の凋落には、国内工場の海外移転もさることながら、1995年の阪神・淡路大震災によってトランシップ貨物(※中・小型船と大型船とで貨物を積み替える機能)が釜山港に流出してしまった、という要因が大きいと指摘しています。
正直、これは当時の日本政府(村山富市政権など)の不作為、という罪が非常に大きかったのではないでしょうか(※日刊工業新聞はそこまで述べていませんが…)。
考えてみれば、神戸という街は、天然の良港であるだけでなく交通の要衝でもあります。神戸沖には神戸空港がありますし、高速道路(2本の阪神高速)や「のぞみ」が全駅停車する新幹線の新神戸駅もあります。
神戸市内では継続的に「空港建設反対市民運動」などが発生していますが、実際、もしも神戸に空港がなければ、神戸市の産業・物流拠点としての地位はさらに凋落していたに違いありません。
物流、旅客運送ともに非常に恵まれた場所にあるはずなのに、また、ポートアイランド、六甲アイランドなどに高度な港湾施設を整備してきたはずなのに、港湾機能が低下の一途を辿っているというのは、正直、日本の産業政策の失敗を象徴しているようにも見えてなりません。
結局のところ、国の産業政策が一貫性を欠いたなかで、なんとか現場の努力で凋落に抵抗してきた、というのが神戸市のこれまでの取り組みだったのではないでしょうか。
これからの神戸港の取り組みに期待したい
ただ、興味深いのは、同紙が紹介する神戸港の取り組みです。
たとえば2022年11月には秋田、新潟と神戸を結ぶ「内航フィーダー航路」を開設したほか、日系企業が多く進出する東南アジアと北米とを行き来するトランシップ貨物の獲得などに取り組んでおり、さらには港湾の拡張工事も積極的に進めているのだそうです。
こうした取り組みで、神戸港がただちにかつてのような「世界最大規模の港湾」に復活するというものではないでしょう。
しかし、神戸市という地方自治体の試みは、日本復活に向けた力強い一歩であるように思えるのですが、いかがでしょうか。
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でっ~~~かい船に、い~~~~っぱいコンテナ詰んで航海するのが経済的。
でっ~~~かい船が接岸できる港は水深が必要でWikiによると神戸港は水深16メートル。
今一番でかいコンテナ船は深さ18メートルのパナマ運河を通行できないという。
ググって見たら、以下の記事が出て来ました。
この、ONE INNOVATION”の喫水が、16.5mとなっています。
・なんというデカさ…日本で竣工
「世界最大級のコンテナ船」 デカすぎて日本に帰ってこれません!?
2023.06.05 深水千翔(海事ライター)
https://trafficnews.jp/post/126214
・24,000TEU型コンテナ船“ONE INNOVATION”引渡
https://www.jmuc.co.jp/news/2023/06/24000teuone-innovation.php
A380の海版みたいなもんですかね。
A380は製造終了になりましたね。大きなものは、運用が大変でしょう、ドル箱路線持っていなければ。
釜山のハブ化なんかは、日本政府は傍観していたような印象があります。
>国の産業政策が一貫性を欠いたなかで、
バブル崩壊後、日本政府から産業政策が無くなったように感じます。バブル前、MITIなんて言葉、新聞に勇ましく毎日踊っていたんですが。今となっては、単に勇ましいだけで、一貫性があったのかどうなのか?疑わしいです。何しろ、アッサリ、産業空洞化してしまったのですから。
素朴な疑問ですが、世界最大級のコンテナ船、全部全長が400mではなく399mなのは何か意味があるんでしょうかね。
これ、2000年代の記事ですが、当時の世界最大級は全長336mで8000個(多分TEU)と石播が言ってます。
https://www.jasnaoe.or.jp/old_sites/west/mm/009/article01.html
全長で1.2倍、積載量で3倍!
20年経つとこんなにデカくなるんですね。
>神戸市内では継続的に「空港建設反対市民運動」などが発生していますが
なるほど、空港が無ければ神戸市の産業・物流拠点としての地位は更に落ちる事を意図しての反対運動なのかもしれませんね。日本の国際的な地位にも影響を与えるかもしれないので、本当に「神戸市民」が反対運動の中核なのか疑わしいですな。
誰が背後で煽っているのやら。
なんで神戸空港を関空にしなかったのか。。
こんなもの作ったら関西に経済の中心を持って行かれる!と国(霞が関の一部)が危機感を感じて、わざと辺鄙な泉州沖をプッシュしたという噂がありますw
成田空港の建設がその頃反対闘争で上手く行っていませんでしたからね
☆幻の神戸沖国際空港計画案 - 神戸評論
https://firemountain.hatenablog.jp/entry/2019/10/20/000000
「神戸市が反対したから、関空は泉州沖になった」という説が今は人口に膾炙していますが、神戸市が反対決議を出した時には周辺地域で賛成だった所なんてありませんでした(当時は航空機の騒音被害がひどかったですからね)。そんな中でも国は出来レースみたいな審議会答申で、点数付けたら泉州沖が1番でした、と大阪府を粘り強く懐柔し続け、建設了承を取り付けた。そのすぐ後に神戸市でも建設推進派が盛り返して決議をひっくり返したけど時すでに遅し。上京した神戸市の陳情団は門前払いを食らわされたという話です。
鳴り物入りで開港したはずの泉州沖の関空ですが、インバウンドブームが来るまで鳴かず飛ばずの時期がずっと続いたので、「神戸市が反対したから…」という話は強引に泉州沖を推進した国にとっても、悪いのはみんな神戸のせい、ということで都合が良かったのでしょう。
大方の経緯は、下の方が書かれた通りと認識しています。何で、反対するかな?と思っていました。神戸は、昔から国際港があり、国際感覚がある先進な人達が住んでいる所かと思っていたので、何処の田舎でもある地域ナショナリズム的な反対をするので、失望した印象がありました。
泉州沖の空港は単なる飛行場、戦略性も無いです。神戸国際空港ならば、ハブ空港になれたでしょう。関西の経済のみならず、日本経済にも、大きな影響があったと思います。多分、国民皆が失望したと思います。勿論、個人的にも失望しました。
>何で、反対するかな?
今とは航空機の騒音被害の程度が違うからだとしか言いようがないでしょうね。当時伊丹空港の有様を見て、いくら海上空港だから大丈夫だと言われても誰も空港誘致に賛成などしませんでした。
議会も反対が過半数な中で、当時現職の宮崎辰雄市長としても市長選挙で勝つためには反対を表明するしかなかったでしょう。下手したら反対派の泡沫候補が市長になって、株式会社神戸市としてやってきた今までの開発行政がみんなひっくり返される恐れもありました。
失望させたのなら申し訳ないです(と言っても当時はまだ私、選挙権なかったんですけどねw)。
宮崎市長、懐かしいです。確か、現役中に、日本経済新聞の私の履歴書に登場した程に、独自の市政をやったようですね。そう言えば、空港断念の記者会見写真の宮崎市長の苦渋の顔を覚えています。その時、本当に残念に思いました。何故なら、騒音問題だけで無く、伊丹なんて狭い空港で関西の発展なんか望めるはずもないので、もっと大きな空港が必要な事は目端の利く子供でも分かるのに、そして、それを造るとしたら、大阪神戸から離れていたら、効果は薄い、それは、成田で分かっていること。とすれば、神戸沖しか無い、こんな単純な事、地元民で無くても分かるのに。
懐古話が長くなりました。
もともと関西空港は神戸沖に建設する計画だったのが、反対運動で泉州沖に変更されたんですよ。
それなのに、いざ泉州沖に関西空港の建設が始まると、それまで騒音問題などを理由に伊丹空港の廃港を主張していた周辺自治体は、経済の衰退を恐れて 「伊丹空港廃止反対」 と手のひら返し。新空港の建設に反対していた神戸市も自前で空港を建設するという手のひら返し。
もし関西空港が神戸沖に建設されていたら、国内線も全て関西空港に集約されて、乗り継ぎにも便利なハブ空港になっていただろうに・・・。
伊丹廃港しよるからと関空対岸に工業団地整備させられたのに掌クルー直撃で泉佐野市カワイソーでしたわな
伊丹空港の騒音対策で貰えるオカネ目当ての廃港反対とか、イラン云うたくせにヤッパリ欲しいイイダシタ神戸空港(既に関空と伊丹が在ったため管制は反対「航路無いちゅうねんドコ縫わす気や」)とか、シラジラシイ感じでしたで
あ~ラピートの絵を正月の新聞で見たトキは「なんじゃコノ鉄人」がホンマに走りよって「正気か!?」思いましたンもう随分前になるんやなァ
「神戸が蹴ったから泉州沖に関空…」これと「イラン云うたくせにヤッパリ欲しいイイダシタ神戸」、地元民としては悲しいけどこの2つが世間一般の認識なんでしょうね。
ただまあ少し抗弁するなら、仮に神戸市が反対しなかったとしてもたぶん泉州沖になっていたと思いますよ。当時国は空港建設において、大阪-神戸の国土軸はもう十分発展しているじゃないか、それよりも開発から取り残された大阪南部・和歌山地域の発展を考えないといけない、という「国土の均衡ある発展」論で動いていたフシがあります。
上のコメントでリンクした記事「幻の神戸沖国際空港計画案」のページの下の方に「関西国際空港 泉州沖決定の経緯」(1~5)という記事リンクがあるので、時間があれば読んでもらえればと思います。
まあこれも神戸市目線だと言われるだけかもしれませんけどね(汗)
ブログ主さんの地元もあの辺だったと思うんですが、みなさん手厳しいですねー。(笑)
神戸市在住です。さま
そう言えば、泉州辺りの地域開発なんて言葉あったように思います。しかし、出来て見れば、単に電車が通過するだけ。泉佐野市なんか、何も無い所が更に無視されて、踏切の遮断機が上がる時間が減っただけ。それで、故郷納税に猪突猛進した訳です。しかし、そのお陰で、市内の小中学校に、プールも体育館も立派なのが出来たとか。
確かに、関空効果があったことは、間違い無いです。故郷納税で、1千億近く集めたんじゃないですか?
「世間一般の認識」?
そらそでしょ
当時の運輸省航空局に神戸市関係者が出禁くらうレベルの反対運動を行政議会一致してやっとったのが泉州沖でイザ走り出したら掌クルッとやし
運輸省も「伊丹廃港を前提に」との答申出してたのが『空港撤去都市』宣言までやっとった伊丹市はじめ周辺自治体の掌返しで2港併設、からの神戸市ゴリ押し開始じゃねぇ
万博絡めてぶち上げた大阪外環状線も開幕には藤井寺止まりで以降たなざらし、泉州沖新空港で息を吹き返したかと思えば2港併設でディレイディレイ
泉北高速鉄道の計画しかり、南大阪で大阪維新がワリカシ強かった(過去形)のはソレだけ既存政党への不信絶望反感etc.がエイエイと醸成されとったのも大きかったンちゃいます?
知らんけど
べつに陰謀論を持ち出す必要はないと思いますけどね。まだインターネットが普及する前で、プロ市民による反対運動をマスゴミが全面的に持て囃していた時代の話ですから。
全国でプロ市民が 「空港の建設・拡張反対」 「道路の新設・延伸反対」 「鉄道の高架化反対」 などの運動をしていました。当時のプロ市民は 「なんでも反対」 「反対のための反対」 でしたね。
神戸港のネックは、明石海峡大橋(高さ)。明石海峡が国際航路かつ、標準ではない左側通行かつ漁業従事者、フェリー、レジャー船など、通行のネックが多いところですね加えてPCポーアイ、RC六甲のヤード数も大阪と比べると少なく、そこを拡大するにしても土地が…な、状況下と妄想してます。
西からは来にくい、東からなら大阪で下して得意先に持っていく方が安価で速い面もありますので輸入コンテナは取り扱いはまだ不利なんじゃないかなという個人的な印象です。
ただ、輸出はバックに高砂、姫路、相生、岡山などの工業地帯を抱えているので、これからも堅調には推移していくかもとさらに妄想を重ねています。
あとは天候。大阪と比べると風によるヤード閉鎖は少ない印象でした。
いずれにせよ、お得意先様が居ないと、インフラを変えるだけでホイホイと発展するようには感じられないです。
個人の妄想です。
大変失礼いたしました。
神戸は陸側もダメダメです。
中央部から、東行も、西行も、北行も渋滞してます。
極力神戸は通らない様にしてます。
神戸と京都は、通らずに済ませられる場合に、通る事はありません。
阪高は3号コミコミですしね
北神戸線結構使えるけど結局第二神明コムし加古バイもコムし…
今更感はアリツツも湾岸線を西へ延伸しとるんやなかったでしたっけ?
やらんよりまし??
明石で揚がった鯛が京の錦市場に並び、その日一番の魚を一流の料亭が買い付ける。
輸出の神戸港が発展するとロッテルダムで明石の鯛が食べられるかもしれませんね。
ところでオランダは貨物取扱量や農産品の輸出でも世界屈指の量を誇っていますので地味に凄い商人の国ですね。
10月1日1,499,887人:22年ぶり150万人下回る!
神戸港が復活するのは国内からの貨物集約とトランシップ貨物の二つを増やさなければいけない。
一つ目の国内からの貨物集約が増える手段が分からない。国内からの貨物は既に他の港に流れており神戸港にどんな優位性があるのか?が示されていない。きっと大きな優位性はないだろう。
二つ目のトランシップ貨物については荷役費や24H稼働について他国に勝てるのか? 地政学的リスクのために船便を高コストにしてもよいと思う荷主が多いとは思えない。さらに問題なのは船便の多さ。国内からの貨物が国内他港に流れている現状で船便数が海外他港に勝てるわけがない。荷物の最終目的地が中国だったらやっぱり神戸を中継する必要はないはず。
なんか神戸港の復活は無理があるようにしか見えない。
横浜港と東京港みたいに補完出来るような関係でないというのが神戸のネックですね。それこそ大阪が総取りしようというのも大阪の努力ですから
貨物は、何処にあるの?が、一番に浮かんだ疑問。お客の当てがあっての事なのか?
一時期、地方再生といって、各地で、工業団地を造り、造ってから、自治体の職員が企業誘致にかけずり回ったり、船が来るかも分からないのに、港を造ったり。そもそも、船が来る前に、運ぶ荷物があったのかも疑問。
ずっと以前に聞いた話で今では違うかもしれないが、荷役の24時間稼働を労働者が拒否しているから国際港として機能しないらしい。24時間稼働できない成田空港のようなもので。
あと日本各地に国際港を作りすぎ。
現代は震災が起きたら
国がジャブジャブお金を不必要なレベルまで投下してくれるんだけど
神戸の時は自力復興自己責任だったから皆貧乏になったんや
そうです。当時政界の有力者だった後藤田正晴が
「焼け太りは許さん!」って言って復興に際して金を出し渋ったからです。
カミソリ後藤田なんて呼び方もあるようですが、神戸にとってはシブチン後藤田。