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「ロシアで家計負担増」…影響はむしろこれから本格化

ロイターは17日、ロシアで物価高が深刻化し、多くの過程が生活を切り詰め始めている、とする趣旨の記事を配信しました。ただ、これについてはロシア政府統計局の物価上昇率などと照らし合わせると、どうにも不自然なのです。少なくとも公式統計では、ロシア経済が崩壊状態にあるとまではいえないからです。もっとも、西側諸国によるロシア制裁の影響は多岐にわたるため、制裁の影響はこれから本格化する可能性もあります。

ロイター「ロシアで物価高深刻」

ウクライナ侵攻と西側諸国からの経済制裁で、ロシア経済は実際のところ、いったいどうなっているのか――。

ロイターが17日付でロシア経済に関し、こんな記事を配信しました。

ロシアで物価高深刻、多くの家庭が生活切り詰め ウクライナ侵攻や西側制裁で

―――2023/11/17 10:54付 Yahoo!ニュースより【ロイター配信】

これによるとロシアは現在、ウクライナ侵攻と西側諸国の経済制裁を背景に、何百万もの世帯が生活の木率目を余儀なくされているのだそうです。

たとえば毎月5万ルーブル(約8.4万円)で2児を育てる母親の「この5年間で、おむつは2~3倍、ベビーフードは4倍になった」とする発言などを紹介。あわせて通貨・ルーブルが米ドルに対し下落し、輸入品価格が上昇している、などとしています。

ロシアのインフレ率は落ち着いている

ただ、これについては正直、よくわかりません。ロシア政府統計局のウェブサイトのデータによれば、ロシアのインフレ率は(とくにここ2年ほどに関していえば)必ずしも「ハイパーインフレ状態」とはいえないからです(図表1)。

図表1 ロシアのインフレ率

(【出所】ロシア政府統計局)

これによると、2022年2月に9.2%だったインフレ率(※前年同月比)はウクライナ侵攻翌月の3月に一気に16.7%にまで上昇したのですが、4月の17.8%をピークに徐々にインフレ率が沈静化し、ウクライナ侵攻の影響が剥落した2023年3月には3.5%程度に下落。

その後、徐々にインフレ率は上昇しているものの、2023年10月時点でインフレ率は6.7%程度です。

もちろん、6~7%というインフレは結構な負担を家計にもたらしているであろうことは想像に難くありませんが、最近の日本のCPI(「コアコア」インフレ=エネルギーと生鮮食品を除く総合指数)も4%台であることを忘れてはなりません。

「ロシア政府が発表するCPIなどをそのまま信頼して良いのか」という問題は脇に置くとして、少なくともCPI「だけ」ロを見るならば、シア人の生活が破綻しそうになっているというレベルではなさそうです。

通貨防衛を目的としたロシア中銀の利上げ

もっとも、ロシア政府やロシア中銀の最近の動きを見ていると、なにかと理解に苦しむことが多いのもまた事実でしょう。というのも、ロシアの政策金利は最近、15%にまで引き上げられているからです。図表2は、ロシアの政策金利を(参考のために米国の金利とともに)グラフ化したものです。

図表2 政策金利比較(ロシアvs米国)

(【出所】The Bank for International Settlements, “Download BIS statistics in a single file”, Policy rates (daily, vertical time axis)  をもとに著者作成)

これで見ていると、ロシアの政策金利はじつに大きな変動を繰り返していることがわかります。

2022年の利上げは通貨防衛のためのものですが、じつはインフレ対策も兼ねていたことがわかります。しかし、23年の利上げは、インフレ対策というよりも、専ら通貨防衛のものではないでしょうか。また、中銀の利上げがなければ、ロシアの物価はもっと上昇していた可能性もあります。

影響はこれからじわじわ出て来る(かも)

ちなみにロシアの通貨・ルーブルの対米ドル相場は図表3のとおりです。

図表3 USDRUB

(【出所】The Bank for International Settlements, “Download BIS statistics in a single file”, US dollar exchange rates (daily, vertical time axis) をもとに著者作成)

ロシアは現在、国際的な金融制裁を喰らっており、資本移動の自由にもかなりの制限が加えられています。想像するに、ロシア当局としてはルーブル安を防ぐために、国内でのルーブルの外貨への両替をかなり制限しているだけでなく、今後も無理な高金利を維持せざるをえないのではないでしょうか。

なにより、西側諸国の経済制裁・金融の影響は多岐にわたります。たとえばサプライチェーンが寸断されることにともなうロシア国内の工場の生産設備更新が滞るなどの影響はじわじわと広がり、これから本格化してくる可能性があります。

このように考えていくと、現段階において「戦争と経済制裁はロシア経済には大きな影響を与えていない」と結論付けるのは、少し尚早ではないかと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (7)

  • この手の数字は住んでいる人の実地コメントでもないと、わからないですよね。

    例)戦時中の統制経済は、表向きの物価は安定してましたが、配給券はあっても配給品は回ってこない。
    手に入れるには闇市で高値で買うしかない。
    事実上ハイパーインフレなのに、公式統計には出ない。

    ただし、ロシアが共産党中国と違うのはソビエト崩壊とその後の群雄割拠を経験してるから、当局の公式発表を鵜呑みにするような大人しい羊たちは、少ないような気がしますね。
    (愛国的に買い支えるべきタイミングで、利己的に売り抜けようとする愛国者が続出する、とか。)

    まあ、気長に観測ですね。

  • >「ロシアで家計負担増」…影響はむしろこれから本格化

    本日の表題の通りですね。
    今は、西側の制裁で正常ルートから、あらゆる物資が殆ど入ってこないのですから、裏で、相当な高値で買わされていることは商売の法則で、誰でも想像が付くことです。
    それで、金利を上げて通貨防衛をやっているのでしょう。

    所で、回りくどい通貨の使用を止めて、天然ガスと金を使った現物の物々交換取引をやったらどうなんでしょう?
    取り敢えず、天然ガスと金は、今の所、埋蔵量に心配は無いようですから。

    通貨取引の知識が余りないので、こんな子供じみたこと考えて見ました。

    • >天然ガスと金を使った現物の物々交換取引

      これは、外国から物資を買う場合のことです。
      あるものをA個買うのに、ルーブルを介していたら、明日は今日の倍のルーブルを使わなければならないかもしれない、すると、同じものに対するルーブルの価値は下がります。
      所が、無尽蔵?にある天然ガスや金であれば、国際相場などを気にしないで、今日A個買うのに、金1gだったとして、明日2gと言われた所で、採掘費用を除けば元はタダで自国領土内に偶々あったものだから原価はタダ(国際相場を持ち出せば価格が付くが)。

      通貨防衛をするのならば、ルーブルは国外との取引には使わないで、国内のみとする。
      そうすると、天然ガスと金という原価ゼロのもので調達した物資(国内の需要に必要な量は十分に調達することとする)の価格は、同一に維持し続けられる。よって、インフレは発生しない。

      なんてことを遊びに考えて見ましたが、これは、資源国だからで、しかも、当座を凌ぐには余りある埋蔵量があるようですし。
      ここに、サハリンⅠ・Ⅱを止めなかった理由があるのかもしれません。

  • 食い物、特に近隣の地場産は最後まである程度供給されて、日本の戦争末期の様な事にはならないのではないかと思います。でも自分の別荘(ダーチャ)で作った作物との物々交換みたいな現物が無いと誰も替えてくれないかも。

  • ロシアより中国のほうが気になりますね。
    中国の不動産バブルの後始末より、それ以上の金融バブルが弾けそうで世界恐慌に陥りそうです。

  • 私は、ロシアと言う
    単に地の利の資源とせこさだけで
    技術も国民のレベルもあんな低い国なのに
    こんなだいそれた思い上がりで
    ウクライナ侵略してしまっても
    経済が実際持ちこたえていることに驚きを感じます。

    日本では、
    平和と正義を希求する日本国民に嫌われたくないと
    メディアもどぶサヨ政党も表向きはロシア非難してますが
    そのそんなこんなの支持者さんは
    無法者ロシアやテロリストハマスを
    応援してしまっていることがネットでもわかります。

    民主主義は独裁国家と違って甘いので
    そこにつけ込むロシアや日本でも
    日頃の生きザマ棚に上げそんなこんなの人たちが
    ロシアを応援しています。

    ロシアを擁護画策している
    日頃の生きザマ汚れたどぶサヨさん
    偉そうに世界情勢に意見するのは
    まずは己が真面目に生きることから
    やり直してからにしてくださいね