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首相は「年内解散しない」と見せかけているだけなのか

「岸田首相が年内解散をしないと決めた」とする報道については、すでに当ウェブサイトでも取り上げてきたのですが、やはり不自然です。正直、選挙「だけ」を考えるならば、もし岸田首相が合理的に判断し、決断するのであれば、解散総選挙は早ければ早いほど自民党にとって有利だからです。あるいは「解散しない」と見せかけて解散するつもりなのだとしたら、岸田首相も案外老獪かもしれません(誉め言葉とは限りませんが)。こうしたなか、ウェブ評論サイト『デイリー新潮』に、ちょっと気になる記事が掲載されていました。

「年内解散をしない」、本当?

ちょうど先週、いくつかのメディアがいっせいに、岸田文雄首相が「年内の解散総選挙は行わないとの意向を固めた」、などと報じました(『首相、年内解散はしないとの「意向固める」=メディア』等参照)。

これにより、世間ではもうすっかり、「解散見送り」ムードが広まっているフシがありますし、メディアからもSNSからも、解散に関する話題がすっかり消えてしまったようにも見受けられます。

しかし、それでも当ウェブサイトとしては、年内解散(あるいは来年の通常国会の冒頭解散)の可能性は零ではないと考えています。その理由は簡単で、選挙のタイミングが早ければ早いほど自民党に有利に、遅れれば遅れるほど自民党に不利に働くからです。

以前の『「立憲共産党で三つどもえ」なら自民に有利:解散好機』などを含め、これまでに何度となく指摘してきたとおり、「いまこの瞬間に」衆議院の解散総選挙が実施されれば、自民党が(圧勝かどうかは別として)そこそこの議席を取るでしょう。

その理由は簡単で、①衆議院議員総選挙のうち、とくに小選挙区では、第1党の候補者に有利であること、②自民党に対抗しうる政党が、今のところは見当たらないこと、です。

時間が経てば維新が躍進する可能性が高まる

ただし、このうち特に②については、状況は常々変化します。

自民党に代替し得る政党の筆頭候補は、日本維新の会でしょう。(著者自身がこの維新のことを個人的にどう評価しているかは脇に置くとして)「現実的に見れば」維新こそ近い将来において政権を奪取する可能性がある政党のひとつであることは間違いありません。

とりわけ、維新が日本各地で候補者の公募を精力的に進め、自民党や立憲民主党などの他党からの「一本釣り」を活発化させていけば、選挙の実施タイミング次第では、維新が小選挙区で躍進する可能性が上昇することは間違いありません。

前回、つまり2021年の総選挙では、維新が小選挙区で擁立した候補者は94人で、このうち1位となった(つまり小選挙区で当選した)候補者は16人に過ぎず、また、2位だった候補者は17人、3位だった候補者が58人、4位だった候補者が3人でした。

しかも16人のうち15人が大阪府での当選者であり(※残り1人は大阪府の隣の兵庫県)、地元である大阪・関西以外での躍進は、維新にとっては依然として難しい課題でもあります。

早く選挙すれば維新タナボタ効果も期待できる(かも)

この点、維新が次回選挙に向けて、今年6月の時点ではすでに120人から130人程度の候補者選定のめどが立っていたそうですので、現時点ではもう少し候補者が増えていることでしょう。

維新・馬場代表、衆院選擁立「130人程度めどついた」

―――2023年6月8日 18:29付 日本経済新聞電子版より

そして、維新は次回選挙では大阪府の全18選挙区で候補者を立てるそうであり(すなわち、公明党の3議席を奪いに行く、ということでしょう)、前回、2位や3位だった候補者が当選圏内に入るようにテコ入れを図ることでしょう。

したがって、順調にいけば、維新は総選挙区で前回の16議席から、さらに20議席前後を積み上げて、少なくとも36議席前後を小選挙区で獲得することを狙うでしょうし、場合によっては参議院の衆院鞍替え、自民・立民から有力候補者の一本釣りなどで、さらに当選者の上積みを狙うでしょう。

小選挙区の候補者数が150人を超えてきた場合、維新にとって最大限楽観的なシナリオを提示しておけば、小選挙区で46議席から51議席(場合によってはそれ以上)を獲得し、立憲民主党から最大野党の座を奪うことも視野に入ります。

ただし、自民党も特に地方や東京都などでは選挙には強いため、前回獲得した187の小選挙区に加え、いくつかの選挙区では議席を死守(あるいは拡大)する効果が期待できます。

とりわけ前回の総選挙では、「2位との得票差が2万票以下」だった「ボーダー議員」の数が、自民党で58人、立憲民主党で41人いるのですが、維新が躍進すれば、立憲民主党の「ボーダー議員」から票が維新に流れ、結果的に自民党候補者が当選する事例も続出するかもしれません。

これが「維新タナボタ効果」です。

この「維新タナボタ効果」はもちろん、立憲民主党にも生じる可能性もないわけではないのですが、基本的には自民党に対し、有利に働くと考えておいて良いでしょう。

だからこそ、選挙や政局「だけ」を考えるならば、自民党にとってはできるだけ早期に解散総選挙に踏み切るというのは十分に合理的な選択肢なのです。こうした観点から、当ウェブサイトとしては、「年内解散総選挙の可能性がなくなった」とする見解には同意しないのです。

デイリー新潮「年内解散の可能性は高い」

こうしたなかで、ウェブ評論サイト『デイリー新潮』に、ちょっと気になる記事が掲載されていました。

「岸田総理では次の衆院選は…」「年内解散の可能性は高い」 迷走続きの総理への議員のホンネ

―――2023年11月16日付 デイリー新潮より

記事自体は『週刊新潮』2023年11月16日号に掲載されたものだそうですが、記事では「政治部デスク」による、こんな趣旨の発言が取り上げられています。

  • 内閣支持率は下落を続けている
  • 与党内では年明け早々に岸田おろしが始まるとの観測もある
  • (だから)岸田首相が機先を制し、年末から年始に衆院解散を決断する可能性は捨てきれない

詳しくはリンク先記事を読んでいただくのが早いのですが、「減税を訴えて支持率が下がるなんて聞いたことがない」、「増税メガネのイメージが定着し、多くの国民が総理の言葉に耳を貸さなくなりつつある」というなかで、若手を中心に「早く新しい選挙の顔が欲しい」との焦りが広がっている、というのです。

さらには、「自民党主流派の中堅議員」や「主流派のベテラン議員」などの、こうした発言は気になります。

  • 解散を先延ばししたところで、防衛増税や少子化対策を巡る国民負担増は避けられない。経済が好転する要素も見当たらず、支持率の回復も難しい。それならさっさと解散して、悪い流れをリセットするべきだ
  • 野党が弱すぎるいまなら与党の過半数割れはない。むしろ、年を越せば日本維新の会がさらに存在感を増したり、菅義偉前総理や二階俊博元幹事長ら非主流派が老獪な動きを見せたりするリスクがある
  • 衆院で少し議席を減らすくらいがちょうどいい。茂木敏充幹事長や麻生太郎副総裁、世耕弘成参院幹事長のクビも切れれば、総理はようやくフリーハンドになれる

案外老獪…かも?(誉め言葉とは限らない)

このあたりの事情は正直、よくわかりませんが、いずれにせよ、岸田首相自身にとっても(もし首相を続けるつもりがあるのならば)できるだけ早く解散するというのは合理的な選択肢であることは間違いないのでしょう。

もちろん、支持率が反転するだけの「切り札」を岸田首相が持っているならば、それは年内解散しないという選択をする理由になり得ますが、そうした「切り札」が出て来るよりも、党内で岸田おろしが発生する可能性の方が高いかもしれません。

その意味では、もしも岸田首相が年内解散をいったん否定し、そのうえで解散に踏み切るのだとしたら、岸田首相は案外老獪な政治家なのかもしれません(誉め言葉であるとは限りませんが)。

新宿会計士:

View Comments (14)

  •  確かに解散権は首相の専権事項なので、岸田首相が勝てる(含む現状維持、僅かに負ける)と踏んで、年内に巷間ささやかれる「投げやり解散」「死なばもろとも解散」に打って出る可能性はゼロではありません。
     ただ与党が過半数ギリギリまでに大敗すれば、議席を失って「ただの人」になってしまった元議員の怨みを一身に買いますので、即時退陣となるでしょう。
     現状のまま解散しなければ、少なくとも来年6月までは、総理を続けられます。そして岸田総理は、イチかバチか解散してとか、こういう勝負のできるタイプとは思えません。望みは薄いが来年ひょっとしたら支持率が回復して…とか、ずるずる決断を先延ばしするタイプと思われます。
     年内解散の可能性は薄い、と判断します。結果は、見てのお楽しみ。

  • >岸田首相が合理的に判断し、決断するのであれば、

    偏見かもしれませんが,これができないからこその現状だと思うんです。
    よって,解散は本当にないかも。

  • 岸田総理が解散する大儀はと言われれば、『増税?』『減税?』『内閣支持率?』あとは何があるのだろうか。総理交代かな?

  • 解散は首相の専権事項であっても、やはり解散で問うべき大きな政策、課題があってしかるべきところ、岸田さんには首相という地位にしがみつく期間を出来る限り長くする、来年の総裁選での勝利の為等々、結局はまたもや「私益」確保の為に解散権を利用する、そんなところでしょう。
    国民は最早現政権に何も期待していないのではないか。更に、単に他よりましだから、などという選択肢が許される状況に現下の日本はないのではないでしょうか。自民党も岸田氏と共にズルズルすべり落ちる事になりそうですね。利権はしばしば強欲によって崩壊、とのブログ主理論の一場面でもあるような気がします。公明党を含む現与党の凋落が日本復活に結び付くならそれは大いに結構な事です。政治など所詮は国家、国民の為にあるものですから。

  • マスコミに、次の総理は誰が良いかという話題が登場し始めましたので、岸田さんは内心穏やかでは無いでしょうね。
    おまけに、政治資金パーティーでの会計不正疑惑が党内に蔓延しているというスキャンダルが勃発しそうな情勢ですので、年内のヤケクソ解散も難しそうです。
    自民党は、岸田首相を辞任に追い込んで、党のイメージ刷新を狙うかも知れません。

  • 来年の1月に八王子の市長選挙があります。ここで、自公が推す候補が万が一負けるようなことが
    あれば、いよいよ岸田下ろしが始まるでしょう。八王子は、自民党の萩生田政調会長の選挙区でもあり、創価大学もあって公明票が最大4万5千あるところです。自公が推す候補が勝ってあたりまえですし、ある意味自公の象徴的な選挙になるはずです。頑張れ 文雄ちゃん。頑張れ 小渕優子。

    • 八王子市といえば、統一教会の本丸だね。自民党議員の禊は終わっていない。
      萩生田政調会長がもう少しわかりやすい説明をするべきだと思う。
      八王子市民は理解しているよね「二度と忘れない」ことを。

  • とにかく「改憲の実現」を第一義と考えるのであれば、維新・国民の議席増を待って公明の相対的影響力を下げる(連立解消を匂わせる)のが効果的なのかとも思いました。

  • これまで党内運営のありかたに不満を持つ自民党内部から、引きずり降ろしの動きが発生するのではと疑っています。あり得ないウルトラ挽回(♪かきーん)を祈念して時間を稼ぐ首相の戦法が、たとえば来年夏まで持続可能とは当方には思えないです。

  • 自民党議員のコメント
    >総理はようやくフリーハンドになれる
    が気になりました。
    これ、国民に取っては悪夢でしかないような気がします。

    財務省のパペットになって増税&給付利権拡大
    米国の言いなりに貴重な防衛予算増を浪費し、戦える自衛隊にするための隊員の処遇改善や兵站整備は放置
    韓国の政権交代に伴う再度のちゃぶ台返しでまたもや詐欺被害
    フリーになって何をして良いか分からず、周囲をキョロキョロと見回す
    etcetc...

    でも世論調査で石破や河野に小泉が常に上位に来る状況を見ると、それも困るよなあ…

  • >衆院で少し議席を減らすくらいがちょうどいい。茂木敏充幹事長や麻生太郎副総裁、世耕弘成参院幹事長のクビも切れれば、総理はようやくフリーハンドになれる

    不始末の責任を部下に押し付け、その上でクビにするようなリーダーに人はついて行きますかね?

    クビにされた部下に他の部下達が付いていきそうですが。

    岸田文雄についていったら、文雄の尻拭いを自分の首でさせられる訳で。

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