タワーマンション、団地、マンション…。集合住宅の広告を眺めるのは、個人的にはとても好きですが、それと同時に高齢化が進むに従い、これらの集合住宅についてはメンテナンスも考えなければならなくなっています。こうしたなかで、読売新聞によると、老朽マンションの建て替えや取り壊しに関する要件を緩和する区分所有法の改正要綱案の概要が判明したのだそうです。
林立するタワーマンション
10数年前からでしょうか、東京や大阪をはじめとする大都市部では最近、タワーマンションがニョキニョキニョッキと林立し始めています。
ちょっと調べてみるだけでも、現時点において「タワーマンション」などで検索すると、東京都心部などに新築、中古含め多くの物件が出てくるのですが、とくに都心部のタワーマンションなどは人気も高く、最近だと地域によっては1億円超え、あるいは2億円超えという物件もあるようです。
東京都心だと千代田区、中央区、渋谷区、港区、新宿区、品川区などに立派なタワーマンションを見かけることが増えていますが、これらのタワーマンションの上層階に居住すれば、条件次第では毎晩、素敵な夜景が楽しめるでしょうし、ロケーションによっては都心で快適な生活を享受することもできるでしょう。
それに、タワマンの多くは戸数が多いため、共同のゴミ置き場が設置されているなど非常に便利で、ラウンジやフィットネス設備、温泉・サウナなどが設けられていることもあり、ケースによっては商業施設(スーパー、ファミレス、コンビニなど)がマンションのすぐそばにあるようです。
まさに、憧れのタワマン生活です。
タワマン生活の思わぬ不便さとトラブル
ただ、実際にタワマンに居住していると、さまざまな課題があるようです。
個人的な知り合いの不動産業者によれば、通常のマンションと比べ、タワマンの多くは壁や天井が薄く、生活音が響くことも多いのだそうです。このため、タワマンの賃貸物件は騒音トラブルが多く、入居者もわりと頻繁に入れ替わるそうです。
この点、ウェブ評論サイト『現代ビジネス』に2021年11月18日付で掲載された『憧れの「タワマン」に住み、まさかの「騒音トラブル」に遭遇した30代夫婦の大誤算』という記事によれば、タワマンでは「軽量化を図るため石膏ボードやケイ酸カルシウム板などを組み合わせた壁が採用されていることが多い」のだとか。
また、居住階によっては「朝の混雑する時間帯はエレベーターがなかなか来ない」、「マンションの外に出るまでに時間がかかる」などの問題点を報告する人もいるようです。
マンションのメンテナンス問題
こうしたなかで、個人的に以前から抱いている疑問点が、もうひとつあります。
それは、「来るべき大規模修繕、いったいどうするつもりなのか」、です。
『suumo journal』に2016年1月15日付で掲載された『55階建てタワーマンションの大規模修繕工事が開始、その難しさとは』という記事によると、埼玉県川口市の55階建てのマンションで、竣工して17年目に入る2015年3月に始まった大規模修繕の様子がレポートされています。
「黄色をアクセントに、低層中層高層でデザインが変化する洗練された外観フォルムは、タワーマンションとしての存在感を示すかのようだった」。
「実は、美しい外観フォルムこそに大規模修繕工事の難しさがあった」。
このタワーマンションの場合、低層、中層、構想部分で外観フォルムが大きく変化するため、上から下までゴンドラやリフトクライマーを昇降させるなどの手法が使えず、管理組合が2007年から設置した修繕委員会が大規模修繕の提案を募る、コンサルタント会社に依頼するなどの準備を進めたのだそうです。
ちなみにコンサルタント会社の公募をしたのが2012年11月であり、ここに至るまで5年近くがかかっているのだそうですが、当時、あまり前例がなかったであろう高層マンションの大規模修繕に向けて、650戸の合意形成を円滑にするため、おそらくは管理組合も相当に準備をしたことでしょう。
この点、『東京カンテイ』が2023年1月31日付で公表した『プレスリリース』によると、最高階数が20階以上の分譲マンションは1464棟、384,581戸を数えるのだそうです。
これらの1464棟のすべてで円滑に修繕計画が策定・実行に移されるのかどうかは、よくわかりません。
それに、首都圏の某駅のように、タワーマンションが乱立し、乗降客数が激増した結果、朝の通勤時間帯に駅の入場規制が行われているような事例もあります。タワーマンションが林立することが、地元やタワーマンションの入居者にとって手放しで良いことなのかどうか、個人的にはいまひとつ、よくわからない点ではあるのです。
昔の団地動画
ただ、マンションのメンテナンス問題といえば、必ずしもタワマンに限られる論点ではありません。
さて、動画サイト『YouTube』で先日、こんな動画を見かけました。
団地への招待 (1960)【高画質・公式完全版】
アップロードされたのは約2年前の2021年9月9日ですが、動画自体は1960年に製作されたものらしく、説明には「公団入居に当選した家族が、兄夫婦を訪ね団地生活について学ぶハウツービデオ」、とあります。
動画冒頭に「ひばりヶ丘団地案内図」が出てきますが、これは現在の東京都西東京市や東久留米市にまたがる地域に1959年以降に造成された団地のことでしょう。
主人公の女性は男性(婚約者でしょうか?それとも新婚さんでしょうか?)と一緒にお兄さん「鈴木三郎氏」一家を訪ねるのですが、これが大変に興味深いのです。
当時の最新家電である洗濯機や冷蔵庫、ステレオセットなどを見ると、それだけで時代を感じることができるかもしれません。一家の長男のシゲルくん(見た目、小学校低学年くらいでしょうか?)の目の前で父親らがタバコをスパスパ吸っているシーンが衝撃的ですが、それだけではありません。
動画にはほかにもツッコミどころはいくらでもあって、奥さんとシゲルくんが一酸化炭素中毒になりかけるシーン、シンクから水があふれて階下に水漏れを発生させたシーン、あるいは風呂場でガス爆発が生じかけるシーンなど、現代社会だとなかなかシャレにならないようなエピソードが多数出てきます。
主人公の女性が「そうだ、今晩の夕食、私が作っちゃお」、と言いながら、「私、包丁使うの、とっても弱いんだ」、と言い訳をし、チーズとキュウリを切ってレタスをちぎってドレッシングをかけただけの代物をドヤ顔で兄嫁に渡すシーンは、なかなかに感動します。
ひばりヶ丘団地はどうなった?
ところで、同じく『suumo journal』に2022年1月25日付で掲載された『「ひばりが丘団地」50年の歴史に新展開! マルシェなど住民主体の新しいエリアマネジメント』によると、旧ひばりヶ丘団地エリアの現状とエリアマネジメントの事例が紹介されています。
記事によるとひばりヶ丘団地は生活スタイルや入居者ニーズの変化に対応し、UR都市機構が1999年以降、団地の再生事業に着手し、まずは4階建てと2階建てだった団地の建物を高層化し、それにより生まれた空間に公共公益施設や民間事業者の住宅整備を誘致。
古い建物についてもすべて解体するのではなく、古いタイプの住棟を一部保存したほか、上皇・上皇后両陛下が皇太子・皇太子妃殿下の時代にご訪問されたバルコニーが移設され、ウッドデッキとともにメモリアル広場として整備されているのだそうです。
なんとも素敵な空間設計ですね。
老朽マンション建て替え要件の緩和
ただ、URが単独で建設した物件であれば、取り壊したり、リノベーションしたりすることは容易かもしれませんが、これが区分所有だった場合にはどうなるのでしょうか。
こんなことをつらつらと考えているうちに、なかなか興味深い話題が目に留まりました。
老朽マンション建て替え、耐震性問題なら同意「4分の3」以上で可能に…再生推進へ緩和案
―――2023/11/12 05:00付 読売新聞オンラインより
読売新聞が12日付で報じた記事によると、法相の諮問機関である法制審議会の部会が年度内にとりまとめる区分所有法改正に向けた要綱案で、老朽マンションの建て替えや取り壊しを決議する際に必要な所有者の同意を緩和することが盛り込まれることがわかったのだそうです。
読売報道ベースですが、区分所有法改正案では、取り壊しを決議する際に必要な所有者の同意を「全員」から「5分の4以上」に緩和するほか、耐震性や耐火性などに問題がある場合は「4分の3以上」での建て替えや取り壊しを可能とするそうです。
これに加え、「修繕などの比較的軽微な案件では、決議のための会合に出席しない人を決議の分母から外す仕組みを設ける」、「大規模災害で被害を受けた被災マンションの取り壊し要件を『5分の4以上』から『3分の2以上』に引き下げる」、などの緩和案も記載されています。
興味深いところですね。
ただ、高齢化・生産年齢人口減少などの影響がこれから加速すると見込まれるなか、マンションの取り壊しや建て替え要件については、もう一段の緩和が必要かもしれません。それに、そもそもマンションの修繕コストが高騰していく懸念があるなかで、マンションなどのスラム化をどう防ぐかというのも悩ましい問題です。
その意味では、マンションは買った人にとって、必ずしも「資産になる」というものではないという点については、注意が必要であることは間違いないでしょう。
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マンション問題としては、地方在住で一戸建て住宅住まいの身では想像も出来ない事象として、某外国籍住民による、マンションの多目的利用というモノがあると聞いたことがあります。
そういうマンション保有者の中には、明らかに居住実体が窺えない、何故か不特定多数の外国人が多く出入りしている、そのくせマンション管理組合には参加せず共益費なども未納、といった輩がいるのだそうな。
しかし、私の住む町でも駅周辺を中心に中層マンション(10階から20階建てぐらいの)建設がここ数年活発になっているそうです。本日も校区の中にマンション建設というという看板が立っている空き地を見つけました。駅から徒歩10分ほどに位置する場所ですから、もしかすると資産効果を狙う某外国人らも目を付けてるかもしれません。
デベロッパーの皆さんは、くれぐれもそういった連中に販売予定戸数の3分の1以上は売らないような、厳しい行政指導が必要な時代になっているのかもしれません。
>マンションは買った人にとって、必ずしも「資産になる」というものではないという点
これが全てでしょうね。
「持ち分法」みたいな法律も、国民に持ち家を持たせるために、マンションという名の共同鉄筋住宅を造らなければ、供給が追い付かなかったから、矛盾を内包しているのが分かっていても、作らなければならなかった法律ですから、実際の運用には苦労が付きまとうはずです。
分譲マンションの保守や建て替えだけでなく、空き家の放置や耕作放棄地、荒れ放題の山林など、安全保障も含めて日本における不動産の所有権など私権の制限が検討されていく事になると思います。
>>>個人的な知り合いの不動産業者によれば、通常のマンションと比べ、タワマンの多くは壁や天井が薄く、生活音が響くことも多いのだそうです。<<<
そうなの!?意外ですわ。
マンションの防音は、コストに由来します。コストをかければ、十分な防音構造を施工できるので、高層マンションであるということで騒音問題が出やすいという事は無いはずです。
高層、低層というくくりではなく、同じような物件で高価格か低価格かの違いが、騒音問題のもとだと思います。防音にコストをかけた高層マンションであれば安普請の低層マンションより周りの生活音は漏れてこないと思います。
しおんさま
>タワマンでは「軽量化を図るため石膏ボードやケイ酸カルシウム板などを組み合わせた壁が採用されていることが多い」のだとか。
この辺りを踏まえた、ご説明を再度お伺いできれば有難く思います。
ALCパネルというものがあります。
>ALCパネルは珪石、セメント、生石灰、発泡剤のアルミ粉末を主原料とし、 高温高圧蒸気養生という独自の製法による軽量気泡コンクリート建材です。軽さと強度、断熱性をあわせ持ち、現代建築に欠かせない建材として位置づけられています。
(出典:一般社団法人ALC協会)
残念ながら、ここには触れられていない(欠点だから触れていない)のですが、ALCの欠点は、防音性が弱いことです。
まあ、音は響きます。防音性は少ないです。
金を掛ければ音を防げても、その分、重量は増えるのです。
これは、タワマンに限らない、低層階の建物にも言えることなのですが、その分、柱の太さや梁の太さを増やさなければならなくなります。
重量が増えれば、耐震設計にも影響が出ます。
地震国の日本でタワマンを作ることが出来るのは、地震の揺れを建物の強度で持ちこたえるのではなく、柱に揺れを起こさせて、揺らすことで力を逃がしているのです。
その時に、柱や梁や壁の重量が大きかったら、遠心力が余計に働く分の揺れのコントロールが難しくなるのではと思います。
日本での、高層建築は、ある意味極限設計の上でやっている所があります。
防音の為に重量を増すよりも、その分高層建物にした方が、コストも下がるし、高層の方が売り易いし、ということになるのではないでしょうか?
まあ、音は住んでみなければ気が付かないことですから。
ただし、防音性が高くても重量の軽い壁材があれば、以上の話は余計なことですので、お詫びします。
330m最上階「200億円の部屋」の麻布台ヒルズも3戸のうち2戸が売れているという事で、世の中お金持ちがいるものだと思います。
https://www.moneypost.jp/1055539
タワマンと言えば、台風の被害で下水が逆流したと言われる「武蔵小杉」のタワマンが有名ですが、まぁ、それは設備などの問題だとして、一番懸念されるのが停電したときに高層階の人達、大変だろうなぁー、と思う事。ひとたび地震などの災害でエレベータが止まれば、子供のお迎えはもちろん、買いだしにも行くにも難儀だと思う。
やはり、一番の贅沢は都心に「平屋」じゃないかと思う今日この頃です。