円が紙くず化すると懸念する皆様へ朗報:トイレットペーパーと交換してあげます!
大手ウェブ評論サイト『プレジデントオンライン』に掲載された論考によれば、日銀のYCC再修正をきっかけに10年債利回りが1%を超え、これが円の紙くず化につながるのだそうです。その理屈が正しければ、米ドルこそ真っ先に紙屑化していなければおかしいはずです。そもそも米国の10年債利回りは5%近くだからです。ただ、「国の借金」論、「悪い円安」論、「日銀緩和悪玉」論などは、理論的にも現実的にも間違っているだけでなく、国民経済の健全な発展を邪魔する邪悪な主張そのものでもあります。
目次
なんと、日本円が紙くず化する!…のか?
ウェブ評論サイト『プレジデントオンライン』に10日、何やら面黒い記事が掲載されていました。
ついに「日本円の紙くず化」は最終ステージに突入…日銀・植田総裁が仕掛けた「YCC再修正」の悲惨な結末
日本経済はこれからどうなるのか。モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)元日本代表の藤巻健史さんは「日銀は10月の金融政策決定会合で、『2度目のYCC再修正』を決定した。長期金利は1%に迫っており、現状を追認しただけだ。日銀は異次元緩和というバラマキを続けざるを得ず、円の紙くず化はもう近い」という――。<<…続きを読む>>
―――2023/11/10 8:00付 PRESIDENT Onlineより
当ウェブサイトで取り上げようかどうか、正直、2~3日悩んだのですが、プレジデントオンラインといえば大手ウェブ評論サイトでもあり、やっぱりいちおう(ごく簡単に)取り上げておくことにします。
日銀が先日のイールドカーブ・コントロールの修正で、10年国債の市場利回りが1%を超えるのを容認したのですが、これの行き着く先が「円の紙くず化」、なのだそうです。
正直、わりと長文ですが、まじめに読むのも疲れるという代物であり、また、「『紙くず化』しつつあるのは日本円ではなく、日本の新聞、雑誌の方ではないか」、といったツッコミが出て来る可能性もありますが、これらについてはとりあえずあとに廻したいと思います。
なぜ円安が日本経済に望ましいのか
日本は立派な製造立国ですよ!
冒頭の論考に対しては、ツッコミどころもいくつかあるのですが、経済学の理論や経済統計の実情に照らして不適切と思われる点をひとつひとつ列挙していくと、おそらく原文よりも長くなってしまいそうです。
そこで、本稿ではちょっとアプローチを変え、そもそもなぜ、円安が日本経済にとって望ましいのか、という「経済事象」に焦点を絞って、改めて理論と統計を紹介したいと思います。
当ウェブサイトでは何度となく示してきたとおり、円安が総合的に見て、現在の日本経済に多大な恩恵をもたらすといえる理由は、大きく2つあります。それは現在の日本が①製造立国であること、そして、②対外債権国であること、です。
このうち「①日本は製造立国だ」、などと申し上げると、「いや、そんなことはない」、「家電もPCもスマホも、現在の日本ではほとんど生産されていない」、などとする反論が、ただちに飛んでくるのではないでしょうか。
一部ウェブ評論サイト等を中心に、自称「経済評論家」の方々が、「すでに日本は製造立国ではない」などとドヤ顔で一生懸命に主張しており、それらの一部は大手メディア(新聞、テレビ、雑誌など)からも好んで取り上げられているからです(だからこそ新聞、雑誌が「紙くず化」しているのですが)。
「日本は製造立国ではない」とする主張の要諦は、「世界中で日本製品を見かけなくなった」、という、ごく単純なものが多いです。
世界中でトヨタ、ホンダの自動車が売れまくっているという事実を無視して「世界中で日本製品を見かけなくなった」、という認識を垂れ流すのにも驚きますが、それ以上に困るのは、「日本は製造立国ではない」論者は、製造業は「家電」「PC」「スマホ」だけだと勘違いしているフシがあるのです。
当たり前ですが、これは事実誤認です。
「サプライチェーン」という概念があり、たとえばスマホひとつ作るにしても、パネル、半導体、光学機器など、さまざまな部品が必要です。スマホ自体は中国や韓国がせっせと作っていますが、これらの基幹部品を作っているのは日本企業だったりもします。
いわば、家電だの、スマホだのといった最終製品は典型的な「川下産業」であり、この川下産業は日本から失われつつありますが(例外といえば自動車産業くらいなものでしょう)、ただ、日本は依然として「川上産業」をガッチリと握っています。
「川下産業」だけで「日本企業の存在感がない」などと述べている経済評論家は、あまりにも勉強不足が過ぎるといえるでしょう。
事実、日本の輸出品目は「川上産業」のものが中心
参考までに、財務省『普通貿易統計』をもとに、2022年における日本の輸出高の概況品目別内訳を確認してみると、年間98兆円の輸出高のうちのじつに6割弱が「機械類及び輸送用機器」で占められており、これに「原料別製品」や「化学製品」などが続きます(図表1)。
図表1 日本の輸出高・概況品別内訳(2022年)
品目 | 金額 | 割合 |
機械類及び輸送用機器 | 55兆3042億円 | 56.33% |
うち輸送用機器 | 19兆0577億円 | 19.41% |
うち一般機械 | 18兆9095億円 | 19.26% |
うち電気機器 | 17兆3370億円 | 17.66% |
原料別製品 | 11兆8181億円 | 12.04% |
化学製品 | 11兆7938億円 | 12.01% |
特殊取扱品 | 8兆9461億円 | 9.11% |
雑製品 | 5兆3962億円 | 5.50% |
鉱物性燃料 | 2兆1968億円 | 2.24% |
原材料 | 1兆5342億円 | 1.56% |
食料品及び動物 | 9359億円 | 0.95% |
飲料及びたばこ | 2007億円 | 0.20% |
動植物性油脂 | 486億円 | 0.05% |
合計 | 98兆1748億円 | 100.00% |
(【出所】財務省『普通貿易統計』データをもとに著者作成)
ちなみに「輸送用機器」は乗用車などですが、「一般機械」は半導体製造装置などが、「電気機器」には半導体等電子部品などが含まれており、また、「原料別製品」は鉄鋼など、「化学製品」には化合物や医薬品などが含まれています。
「日本の製造業は競争力を失った」、「海外で日本製品を見かけることはない」、などとのたまう皆さんは、日本が依然として年間100兆円前後の輸出を行っており、その大部分が資本財、中間素材などで占められているという事実を無視しているのです。
日本が川上産業に強い理由は「デフレに苦しんだから」
ではなぜ、日本はこうした「川上産業」に強いのでしょうか。
これに関する著者自身の仮説は、日本が円高、デフレに苦しんでいたなかで、「川下産業」、とりわけ労働集約的な産業、単純加工業は競争力を失い、仕方なく製造拠点を積極的に海外展開せざるをえなかったものの、「川上産業」などは円高でも競争力を維持していた、というものです。
そして、「川下産業」しかない国(たとえば韓国や中国など)が「川上産業」を育てることは容易ではありませんが、「川下産業」が失われても、日本のように「川上産業」が残っていれば、「川下産業」を復活させるのはとても容易です。
だからこそ、日本は「川上産業」を大切にしつつ、たとえば経済を政治利用する国、国際法を守らない国からは製造拠点を撤収し、円安傾向が続くならば産業を日本に持って帰ってくる、といったことは非常に容易な話なのです。
日本は対外純債権国
その一方、「円安が日本経済に恩恵をもたらす」という、もうひとつの理由が、「②日本は対外純債権国である」、という事実です。さまざまな統計からも明らかなとおり、日本は対外純債権国(しかもかなりの債権国)です。
たとえば日銀が作成・公表している資金循環統計によれば、日本国内の投資主体が保有している対外投資は1000兆円を超えており、外国人が日本国内に保有している資産を差し引いた純額(対外純資産)も470兆円に達しています(図表2)。
図表2 日本の資金循環構造(2023年6月末時点)
(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータをもとに作成)
ちなみに「海外部門」から判明する、おもな項目は、対外直接投資が283兆円、対外証券投資が763兆円、海外向けの貸出が213兆円…、などとなっており、金融資産だけで1479兆円に達していて、ここから金融負債を控除した純資産も470兆円です。
日本国内の主な対外資産
- 対外直接投資…283兆4210億円
- 対外証券投資…762兆8348億円
- 海外向け貸出…212兆6270億円
- 資産負債差額…-470兆2929億円
(【出所】日銀『物価、資金循環、短観、国際収支、BIS関連統計データの一括ダウンロード』サイトのデータ)
邦銀の与信能力と財務健全性はピカイチ
また、国際決済銀行(BIS)統計のひとつ『対外与信統計』によると、日本の金融機関の対外与信総額が4兆6459億ドルであり、8年連続して世界最大の債権国でもあります(『日本は8年連続で「世界最大の債権国」=BISデータ』等参照)が、外国金融機関からの借入は1兆1963億ドルに過ぎません。
日本の国際与信・受信の状況(2023年6月末時点、最終リスクベース)
- 対外金銭債権等…4兆6459億ドル
- 対外金銭債務等…1兆1963億ドル
(【出所】The Bank for International Settlements, Consolidated banking statistics)
しかも、『日本の銀行は香港から脱出:英国の銀行は足抜けが困難』などでも議論したとおり、邦銀の与信能力(とくに投融資の審査能力・デューデリジェンス能力)は、世界でもトップクラスにあります。
それに、1980年代後半から90年代前半にかけてのバーゼルⅠ規制やバブル崩壊、その後の90年代後半から2000年代前半にかけての不良債権危機などを乗り切ってきたという事情もあるのでしょうか、少なくとも現時点において、邦銀の財務健全性は世界的に見ても素晴らしいものがあります。
JPモルガン・グループを三菱UFJ-FGが、リーマン・ブラザーズを野村ホールディングスが、それぞれ買収したという事例でもわかるとおり、邦銀にはダブルギアリング(※バーゼル規制上、銀行が他の金融機関に出資した場合の自己資本控除ルール)に耐えられる経営体力があるのです。
ちなみに日本の銀行や一般企業が保有する外貨建て(とくにドル建て)の対外投融資、政府が保有する外貨準備などに関していえば、その円換算額は膨張しますし、利息・配当収入は日本の経常収支黒字をさらに押し上げます。
悪い円安論の何が間違いなのか
トータルとして見たら円安は日本経済には大きなプラス
以上の議論より、円安は「現在の」日本経済に対し、たとえば次のような影響をもたらします(「〇」は良い影響、「×」は悪い影響)。
①(〇)輸出競争力の押し上げ
円安により日本の製造業のコスト競争力が復活し、すでに強い川上産業のコスト競争力はますます強まり、円高時代に壊滅状態にあった川下産業も復活する可能性が出て来る
②(×)輸入購買力の押し下げ
円安により輸入品物価が上昇し、日本全体の物価を押し上げることで国民生活を苦しくする可能性がある。また、海外旅行が好きな人にとっては、海外に行き辛くなる
③(〇)輸入代替効果の発生
円安で輸入品物価が上昇することで、同等の品質の国産品に対する需要が伸び、国内の生産業者が潤う可能性がある。また、日本に刊行にやってくる外国人も増える
④(〇)外貨建ての対外金銭債権等にかかる資産効果
円安の影響で外貨建ての金銭債権の円換算額が上昇し、日本企業などに資産効果をもたらす。また、外国からの受取利息・配当金の額が増える
⑤(×)外貨建ての対外金銭債務等にかかる負債効果
円安の影響で外貨建ての金銭債務の円換算額が上昇し、金利負担、債務返済負担が上昇する。円安が行き過ぎれば、コベナンツ(財務制限条項)に抵触する企業も出て来る可能性がある
…。
ほかにもいくつかプラス、マイナスの影響を与えるのですが、これらをまとめたものが図表3です。
図表3 円高・円安のメリット・デメリット
©新宿会計士の政治経済評論/出所を示したうえでの引用・転載は自由
悪い円安論者は理論も現実も無視している!
くどいようですが、現在の円安は日本経済にさまざまな影響を与えます。
とりわけ、輸入品物価の上昇については、品目によっては私たちの生活コストに直結する問題ともなりかねませんし、賃金水準がまだ上がっていないのにインフレだけが進行してしまえば、生活はどんどん苦しくなってしまいます。
だからこそ、「円安は悪いこと」、「円安の原因のひとつとなっている日本銀行の金融緩和はいますぐやめなければならない」、といった主張が出てくるわけです。
※余談ですが、少なくとも上記で挙げた①~⑤のうち、とくに⑤については、じつはほとんど日本経済に影響を与えません。そもそも日本の経済規模に比し、外貨建ての負債の規模は無視し得るくらい小さい(あるいは資産とセットでポジション・スクエアになっている)からです。
しかし、日本のメディアが喜々として報じている「悪い円安」論は、上記のうち、「輸入品物価上昇」などの側面しか見ておらず、「輸出競争力の上昇」、さらには「輸入代替効果」、「資産効果」などに至っては完全に無視です。
ちなみに賃金水準は典型的な遅行指数ですので、経済成長やインフレが十分に進まないと賃上げは始まらないというのは、経済学の基礎知識であり、常識でしょう。
GDPはもうすぐ600兆円:企業利益も過去最高
それに、現実を見ていないのは、むしろ「悪い円安論」の方でしょう。GDP、雇用、企業業績など、さまざまな指標で見て、日本経済が悪くなっているという証拠は、ほとんど見つけられないからです。
このうち雇用などについては、必ずしも円安と関係するものではありませんが、日銀の金融緩和がもたらした良い影響という意味では重要です。取り急ぎ、完全失業率と有効求人倍率を示しておけば十分でしょう(図表4)。
図表4 完全失業率(反転表示)と有効求人倍率
(【出所】完全失業率は総務省統計局『労働力調査 長期時系列データ』、有効求人倍率は政府統計の総合窓口『一般職業紹介状況(職業安定業務統計)』データをもとに著者作成)
もし「悪い円安論」の主張が正しいなら、GDP成長率にはブレーキがかかり、また、企業業績も押し下げられていることと思われます。
しかし、現実にはGDPは急成長しており、内閣府によると2023年4-6月期の四半期GDP実額は名目ベースで589.5兆円ですし、法人企業統計で見ても日本企業の経常利益は過去最高水準にあります。「悪い円安」論は、理論的に見ても、あるいは現実の数値で見ても、完全に間違っているのです。
余談ですが、理論的にも現実的にも間違った「悪い円安」論という代物を平気で垂れ流している日本の新聞、テレビといったオールドメディアを眺めていると、つくづく、オールドメディアというものが日本を悪くしてきたということがよくわかります。
日本の10年債利回り、知っていますか?
さて、以上までの議論で「悪い円安」論がおおむね間違っているという説明としてはだいたい十分ではないかと思いますが、ここからは冒頭の記事のリンクに戻り、もう少しだけコメントを入れておきたいと思います。
冒頭に示した記事では、記事執筆者の方が「円の紙くず化」という強い表現を使い、日銀の緩和が続いた現在の状況が危機的状況にあると力説します。
円が紙くず化するプロセス、残念ながら記事を何回読み返してもいまひとつ理解できなかったのですが、記事執筆者の方が「円は紙くず化する最終段階に入った」とお考えであることだけは、大変によく理解できました。お気持ち、お察し申し上げます。
そこで提案ですが、もし本気で「円が紙くず化する」とお考えならば、記事執筆者の方がお持ちのすべての日銀券を、怪しい自称会計士が、今すぐ引き取らせていただきます。なんでしたらその日銀券を物理的に上回る重量の古新聞や、何ならトイレットペーパーや高級チリ紙、流せるチリ紙などと交換させていただいても結構です。
ただ、それ以上に問題があるのは、10年債利回りが1%を超えることに関する認識です。
以前の某新聞のインチキグラフに関する記事(『日経新聞、「グラフの不備」認めて再投稿したものの…』等参照)でも紹介したとおり、10年債利回りが1%を超えるのが「円の紙屑化」につながるとする発想自体、なかなかに理解困難です。米国ではすでに10年債は5%近くだからです(図表5)。
図表5 10年債利回り・日米比較(2023年)
(【出所】日米財務省データをもとに作成)
この点、財務省のコンスタントマチュリティベースの国債金利情報によれば、日本の10年債利回りが最後に2%を超えていたのは1999年2月25日のことであり、それ以来、もう四半世紀近く、2%の利回りを超えたことがありません。
経済成長を伴った金利上昇は歓迎すべき
そして、経済成長を伴っているものであるならば、金利上昇は、じつは歓迎すべき現象です。
この点、「国の借金」論者の主張の多くは、「現在の日本の『国の借金』がGDPの倍以上に達している」、というものですが、これについてどう考えるべきでしょうか。
そもそもそこまで「借金」を積み上げた原因を作った財務省を罰するのではなく、増税により国民を罰するという発想自体が歪んでいるのですが、「国の借金」(?)とやらがGDPの倍であるのが問題ならば、その「国の借金」(?)とやらを減らすのではなく、GDPを増やすことを考えた方が手っ取り早いです。
「国の借金」(?)は(集計の仕方にもよりますが)だいたい1200兆円前後ですので、これを公的債務残高と仮置きしましょう。そして、日本のGDPはごく近い将来、600兆円台に乗せることが確実ですので、公的債務残高GDP比率はだいたい200%と試算できます。
しかし、名目GDPが毎年3%ずつのペースで成長していけば、23年後にはGDPが倍の1200兆円になりますので、公的債務残高が1200兆円のままならば、公的債務残高GDP比率は100%に落ちます(厳密には、経済成長の過程で税収が増えれば、公的債務残高も減る可能性があります)。
さらに、いま「国の借金」(?)とやらを積み増し、たとえば300兆円ほど国債を増発して減税などに充てることで、経済成長率が加速すれば、公的債務残高GDP比率は一時的に悪化しますが、長い目で見たらより経済成長が加速されるため、結果的に公的債務残高GDP比率をもっと早く抑え込めるかもしれません。
たとえばGDPが倍になるのに必要な年数は、経済成長率が毎年1%のときだとだいたい70年ですが、これが毎年2%に加速すれば35年、3%なら23年、4%なら18年、そして5%に加速すれば、なんとたった14年です。
失われた30年を挽回するために、平均5%の経済成長を続ければ、今年生まれた子供が義務教育を終えるくらいの短い時間で、GDPを倍増させることできます。
さらに、「異次元の少子化対策」などというのであれば、「子供国債」をガンガンに発行し、たとえば新生児1人あたり1000万円の給付と年少扶養控除復活・拡充、所得制限なしの児童給付などをセットにすれば、遅くとも25年後くらいには生産年齢人口が増加に転じる効果も期待できるかもしれません。
邪悪な理論
いずれにせよ、「国の借金論」、「悪い円安」、「日銀緩和悪玉論」は、完全に間違っている主張ではありますが、一見するとわかりやすく、また、「オオカミ少年」の皆さんにとっては何かと使い勝手が良い議論なのか、新聞、テレビ、雑誌などのオールドメディアがさかんに取り上げるものです。
しかし、これらの主張はいずれも単純に、経済学の基本原理と現実の経済統計を無視したトンデモ論であるだけでなく、むしろこれらの主張を鵜呑みに信じると、日本経済にとっての正しい処方箋を見失いかねないという意味では、まさに邪悪な理論そのものではないかと思う次第です。
View Comments (36)
金融、経済に関して、まったくの素人なので、藤巻氏が懸念されている
日銀の債務超過、当座預金金利などに絞った論考を書いていただけるとありがたいです
匿名コメント主様
残念ながら同氏の論考に正面から反論しようとは思いません。その論考と同じ土俵に立つつもりはないからです。
ちなみにマイナス金利や量的緩和についてはすでに当ウェブサイトにて何度も何度も強調して来ましたし、日銀債務超過に至っては支離滅裂過ぎてなんとも…(笑)
ただ、リクエストがありましたので後者について、いちおう言及しておきます。
「通貨発行権を持ち損益が国家に帰属する中銀が債務超過になって何か問題でもあるのでしょうか?」
以上です(笑)
引き続き当ウェブサイトのご愛読とお気軽なコメントのほど何卒宜しくお願い申し上げます。
横からでレスで申し訳ありません。
日銀の債務超過で円が紙屑になる論については、私もどうにも理解できずに困ってました。
円が紙屑になるということは市場で円が売られて誰も買い手がいないという状況になるということだと思うんですが、円を持っているのは日本人だけ、その日本人は逆にドルを大量に持っており、しかも経常収支の黒字は拡大中、アメリカの高金利でドルがどんどん増加中。
将来の円高の要因が増え続けているようにしか思えません。
なのに何故円が紙屑になるのか。
何かが間違っているはずなんですが、具体的に何がおかしいのかが分かりません。
含み損で帳簿上債務超過になったからと言って日銀が倒産するわけじゃないですよね?
なのに何故日銀が債務超過になったら円が紙屑になるのか、ゼロ金利でも1ドル150円にしかなってないというのはかなり強い通貨だと思うんですが、ゼロ金利を解除して金利が上がった日本円を誰が売るのか、さっぱり理解できません。
新宿会計士さんのご主張には全く同意できない。
表面上の理屈はそうであっても、その日本を支える国民の大部分が、現実問題、
円安によって生活が非常に苦くなっている。
日本は輸出大国であると同時に輸入大国でもあることをお忘れなく。
匿名コメント主様
「日本は輸入大国」。
本当にそうでしょうか?品目別国別内訳を見て、産業構造上、そうだと言えるのでしょうか?それとも感覚でそうおっしゃっているのでしょうか?
ちなみに日本の貿易赤字の主因はサウジ、UAE、豪州など資源国からのエネルギー輸入、中国からのスマホ・PC輸入です。
エネルギー高に対しては岸田文雄首相が原発再稼働・新増設で対処を表明しており、後者は本稿の輸入代替の議論そのものです。
せっかくなので匿名コメント主様からいただいた「輸入構造」について、機会があれば近日中にも、改めて説明しますね。
(ついでに指摘しておくと、本稿では「日本は川上産業に強い製造立国だ」とは書きましたが「日本は輸出大国」と書いたつもりはありません。「輸出大国」と「製造立国」、意味は違います。文章は正しく読みましょう。)
引き続き当ウェブサイトのご愛読とお気軽なコメントのほど何卒宜しくお願い申し上げます。
>表面上の理屈はそうであっても、その日本を支える国民の大部分が、現実問題、円安によって生活が非常に苦くなっている。
「大部分が」
ここを定量的に教えてくださいな。
私見ですが、そんなもん紙活字メディアが大好きな後期高齢者たちだけですよ。
ほとんどの製造業、交通観光業では求人しても集まらない、今の人は(給与そのままでは)辞めていく状況です。
要するに働いてる現役世代は好景気に沸いてます。
輸出産業が空前の好景気なのは当たり前だとして、円安直撃で苦しいはずのエネルギーや電気会社までもが史上最大の黒字を出してます。
なにをもって「大部分が」「苦しい」と強く主張してるのかしら。不思議。
こんな国家経営していてもボロカス言われる岸田も同じくらい不思議。(笑)
コロケーションという言葉がある。
文のなかで、ある単語にくっつきやすい、同時に現れやすい単語があるという意味。
最近では「円安」たいして同時に現れやすいのは「物価高」「物価高」とくれば「庶民」「生活」「苦しい」「生活苦」じゃないかという印象をもっている。
匿名様の投稿も「円安」「生活」「苦しい」「国民」が同時に現れている。それに「大部分」「非常に」で強調している。
個人的には「物価が上がっている」という実感はあるが「生活が苦しくなっている」という実感はない。まして「非常に苦しくなっている」などということはない。
私は「国民の大部分」に入らないのだろう。
円安によって生活が非常に苦しくなっている。
のであれば、1$=¥70くらいになると生活がとてもとても楽になるのでしょうか?
確かに私のようにリタイアして無職無収入の身では円高になればなるほど生活は楽になりますが、日本経済はガタガタになりますね。世間は円高不況で企業倒産が増えるわ、雇用調整と合わせて失業者は増えるわ、犯罪率もたかくなるわ、当然政府の税収は低下するわ、私は多分とても幸せですが、世間は海外旅行と輸入品が安くなることを除いて良いことがほとんど無いと思いますね。で、現状生活苦の問題の本質は円安による多大な利益を経済界も政治も国民に還元していないからだと思います。エネルギー価格が上昇していても、大半の原発は止めたままですし、企業はたいして給料を上げませんし、財務省に飼育されている政治家は減税どころか増税を企んでますしね。これではあきませんね。と思います。円高不況を経験している私は本当に円高って恐ろしいものだと思いますよ。
>日本を支える国民の大部分が、現実問題、
円安によって生活が非常に苦くなっている。
既存メディアはなかなか取り上げませんが、第一生命経済研究所がこんなレポートを出していました。
税収増が止まらない
https://www.dlri.co.jp/report/macro/241265.html
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国の一般会計税収が大幅に増加している。
#略
背景にはインフレ・円安、賃金・雇用の回復などがある。
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所得税、法人税が伸びているということは、日本全体で見れば、勤労者の所得は増え、企業の業績は向上しているということでしょう。
では、円が高かった頃がどうだったかというと、こういう記事が見つかりました。
円高無策と日本のお家芸「製造業」の衰退
https://jp.reuters.com/article/tk0881390-blog-hoshi-currency-idJPTYE87R02V20120828
より
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シャープは2日の決算で発表した約5000人の削減に加え、3000人規模の追加削減を検討している。
ソニー6758.Tも2012年度に国内外で1万人規模の削減を検討。電機業界は各社とも数千人単位で人員削減に向けた動きが明らかになっており、
#略
長引く円高で輸出企業の価格競争力が低下し、経営体力が消耗していく構図は同じだ。
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大手企業本体でこれですから、周辺の中小企業やその従業員への影響はどれ程だったでしょう。
個人的にも、職を失う心配するより、身の回りの物が10円、100円値上げされる方がマシです。給料にも、そのうち、少しは、反映されるでしょうから(切なる期待)。
https://jp.reuters.com/markets/world-indices/RZVNDEPK25MJFJE27U3BOFCMBU-2023-11-09/
「ソニーG、通期売上高・純利益見通し上方修正 ゲーム分野が上振れ」
清水律子/ロイター/2023年11月9日
そんなソニーも今は絶好調みたいです。
ついでに、西大井駅前の野菜売り場では、ジャガイモも、ニラも、大根も、よいものが安い安い。
値上がりしてるアイテムには敏感だけど、値下がりしてるアイテムについては、あんまり誰も気が付かないですよね。
資本主義自由市場経済なのだから、モノの値段は必然的に上がったり下がったりするものですから、「国民の大部分が苦しい」なんてのはどこの世界線の話かと。
持続的なインフレーションとは区別しないとあきませんわね。
こんなもん肌感覚でわかりますから、先入観あり過ぎなんじゃないのかな。
庶民の1人として物価高で苦しいのは大いに共感できるんですが、その対策が円相場を釣り上げて物価を下げるということが共感できません。
物価は上げ続けて、それ以上に収入を増やすことが望ましいと思います。どうやったら物価以上に収入が増えるのか、その方法は私にはわかりませんが。
しかし、物価を下げるのでは根本的な対策にならないのは確実です。
物価が下がる=貯金の価値が上がる=現時点で貯金を持ってる人が勝ち組になる、つまり格差を拡大させることになり、一時的に生活が楽になったとしても、長期的には庶民の苦しみが増すばかりです。
おはようございます。
日本国の経済状況に円安で悪影響が生じるなら、お隣の韓国の経済状況をウォッチすべきです。
対ドルではウォン安なので輸出国の韓国はホクホクのはずですが、対円ではウォン高なので輸出が増えない。鉄鋼材や半導体など、韓国製品の品質では日本製品に勝てっこない。しかも、日本製の素材製品や加工機械の調達コストは上昇中。
株安、債券安、ウォン安のトリプル安も頻繁に発生しているし、政策金利を上げたくても家計債務に企業債務に赤字国債のせいで上げられない。下手に上げればデフォルトが待っている。
円安が日本経済に与える影響の善悪は、お隣韓国の経済状況が教えてくれるだろうと思いますけど、日本国と違い、莫大な家庭貯蓄や企業留保に外貨準備金が無いので、参考になるのか?。いささかの疑問もあります。
自国通貨安の国内経済に及ぼす影響や問題に関して考える場合,日本と韓国とでは前提が大きく異なります.
何よりも日韓で決定的に違うのは,日本円は世界中で通用し多くの国々で外貨準備の一環として保有され国際決済にも使用されるハードカレンシーなのに対して,韓国ウォンは韓国でしか通用しないソフトカレンシーに過ぎず,更に言えば日本は世界最大の債権国であるという点です.
その直接的な結果として,韓国はウォン安が進むと韓国から外国資本の逃避を心配せねばならず,例えばアメリカが政策金利を引き上げれば韓国は国内経済にとって金利引き上げが必ずしも望ましくない状況であってもウォン防衛のために金利引き上げで追随せねばなりませんが,日本は円防衛のために金利引き上げで追随しなくても良いことは既に経験している通りです.
更に言えば,韓国は中共やドイツと同様に典型的な輸出立国(というか経済規模や国民所得を考えるとドイツのような先進国が内需立国にならず輸出立国のままである現状は極めて異常で統一通貨ユーロの悪しき副作用が産み出した奇形国家と言わざるを得ない)ですが,日本経済は(エネルギーや食糧の輸入額は勿論大きいけれども)内需中心の体質になっています.(韓国は90年代後半のアジア通貨危機で経済破綻した際のIMFによる救済でIMFから内需中心経済への転換を強くアドバイスされたにも拘らず旧来の輸出立国のままで居続けて経済の体質改善を怠ったことが現在の韓国の苦境の原因だと言える)
ことほどさように日本と韓国とでは自国通貨安を取り巻く状況は大きく違い同列では議論できないし,韓国にとってのウォン安問題に対する考察も日本にとっての円安問題の検討にはさほど役に立たないのです.(寧ろ的外れな議論に陥ってしまい円安問題への間違った処方箋を出してしまう危険性が大きい)
その通り
毎度毎度のトンデモ藤巻さんですね。『ムー』と同じ、一服の息抜きだと思って、どれどれ、と笑いながら読んで楽しんだら良いと思いますよ。
このコメント欄で円安問題を考える上では韓国でのウォン安問題がどうなっているかを参考にすれば良いと書かれている方がおられます(私自身それに対して韓国にとってのウォン安と日本にとっての円安とは大きく状況が異なると反論を書きました)が,藤巻氏もそれに類似した間違いを犯していると考えます,即ち,日本にとっての円安は韓国にとってのウォン安と同様の危険性がある,といった日韓類似論に立脚する間違いを.
東京都からの委託で6か月限定の家計調査に協力している。すべての支出を内容を添えて毎日ネットで報告する。もう5か月が経とうとしているのだが、驚いたことに我が家全体で黒字なのだ。支出よりも収入が多いという意味での黒字。
なぜ驚くかと言うと、私個人は赤字で自分の貯金を取り崩しているからだ。
謎はすぐに解けた。家内だ。家内も個人で年金をもらっているが金額が少ないので毎月定額のこずかいを渡している。
つまり家内は私からのこずかい収入があっても使わず黒字、私は赤字、我が家全体で黒字ということだ。
最近これは日本国とおなじではないのかと思うようになった。国全体では黒字(経常収支の黒字で対外純資産を増やしている)だが日本政府は赤字で国債増発、日本の家計は黒字で金融資産増。
日本は破綻すると叫んでいる人たちは私個人の赤字を見て我が家は破産すると言っているのと同じではないか。
「奥さんに渡しているこずかいを減らせばいいじゃないか」という声が聞こえてきそうだが、激しく抵抗して既得権を手放そうとはしないだろう。
>「奥さんに渡しているこずかいを減らせばいいじゃないか」という声が聞こえてきそうだが、激しく抵抗して既得権を手放そうとはしないだろう。
かの有名なジョースター卿は言いました。
「ジョジョ、それは無理矢理引き離そうとするからだよ。逆に考えるんだ、『あげちゃってもいいさ』と考えるんだ」
僕が何を言いたいかお分かりですね?
僕にもこずかいください。
そして浮かび上がって来る日本経済新聞の暗愚かさ。
多くの方々が薄々そう気が付いているように日経って実は馬鹿集団なのではないか。集合知の総合力でそれを白日のものとに晒す過程が進んでいくことになるのでしょう。
「円が紙屑化」。ウ~ン、なかなかに強烈なキャッチコピー。
けど、1999年以前だったら論破のしようがなかった、「ノストラダムスの大予言」以下のインパクトしかないのは、間違いないですね。
そもそも論として、通貨というのは需要と供給の仲立ちに必須の決済ツール。需要も供給もそれなりに強固な今の日本。多少の需給ギャップがあろうが、対外的には円の額面が、円高方向に動こうが、円安方向に振れようが、それが紙屑になるなど、逆立ちしてもあり得ない。
思うに藤巻氏。その経済への理解は典型的な相場師感覚なんだろう。米相場を当てて一攫千金、にわか成金になることもあれば、思惑が外れて家土地手放し素寒貧なんてのも、昔は結構あった話。先物の米証書でなら。つぎ込んだカネに比べたら、まさに「紙屑」と言って良い代物に化けることだって、十分あり得たんだから。
>「短期金利は中央銀行、長期金利はマーケットが決める」がオーソドックスな金融論の教えであり
この部分は私が習ったのと同じでまちがってない。
そのマーケットで「今の長期金利は低すぎる(つまり日本国債は高すぎる)」と考えて日本国債の空売りをした外資勢は日銀の買いで踏み上げられて大火傷をした。空売りするためには国債を借りなければならないが、今や貸し出しも制限されている。
「マーケットが決める」というけれど日銀もマーケットの参加者なのだ。
>日銀や金融機関はたちまち債務超過になる。
評価損が即債務超過になるためには評価損を計上しなければならないが、
雨宮副総裁の答弁:
日銀は保有国債の評価方法として「償却原価法」を採用しており、長期金利が上昇して国債の市場価格が下落したとしても「決算上の期間損益に影響はない」との見方を示した。
https://jp.reuters.com/article/japan-boj-idJPKBN2SM07B
要するにノストラダムスなんじゃないの?
この人はその言説、主張から「ミスター破綻」と呼ばれているようだ。
なぜこのようなハルマゲドンが来るというようなヤケクソの主張をするのだろうか。
主張の内容よりも、「なぜ」と「手法」のほうに興味がある。
なぜについては:
一つにはこの手の話を好む人たちがいるのだろう。「へっ、日本なんて」という人たち。
もう一つは悲観的なことを書くと心配で読まずにいられない人たちがいる。
さらに終戦後実際にあった「新円切替え」を覚えていて「円が紙くずになる」という言葉が琴線に触れるような人たち。
手法:
アジテーターのよく使う手法で
元金融専門家の地位を利用して理論と事実とウソと誇張と海外の例をうまく混ぜている。
素人には理論と事実があっていれば、後は正しいことを言っていると思いがちだ。
出版社と彼の会話はこんな感じかな:
出版社:「藤巻さん、また一発ハルマゲドンおねがいしますよ。特大のやつ」
藤巻:「わかった最近の日銀の金融政策でいこうか。どうせシロウトにはYCCもYKKもYMOもわかりゃしないんだから」
少なくとも、YKKとYMOが分かる人の年代は、分かる!