なかなかに、おもしろい結果が出てきました。中国が日本産の水産物に対する禁輸措置を講じたにも関わらず、日本全体の農林水産物の輸出は9月までの累計値ベースで5.8%増え、昨年より1ヵ月早く、9月の時点で年間1兆円突破を達成したのです。また、9月単月で見た輸出も前年同月比で3.1%増えました。何とも皮肉な話です。中国の禁輸措置が日本経済にかすり傷ひとつ負わせることなく、それどころか日本企業には改めて「中国リスク」が強く意識されたからです。
目次
日本の輸出は過半が「機械類及び輸送用機器」
財務省税関が毎月公表している統計のひとつに、『普通貿易統計』があります。
この統計、少し扱い辛いのですが、品別・国別にかなり細かいところまで分類して具体的な数値を検証することができるため、大変有益です。また、「概況品別」という、「品別」と比べれば少し粗いデータも用意されています(当ウェブサイトではこちらの「概況品別」のデータを使うことが多いです)。
こうしたなか、普段から当ウェブサイトにて報告している通り、日本の輸出品目は、「機械類及び輸送用機器」というジャンルが圧倒的に多く、これだけで全体の半数以上を占めています(図表1)。
図表1 日本の輸出高・概況品別内訳(2022年)
品目 | 金額 | 割合 |
機械類及び輸送用機器 | 55兆3042億円 | 56.33% |
うち輸送用機器 | 19兆0577億円 | 19.41% |
うち一般機械 | 18兆9095億円 | 19.26% |
うち電気機器 | 17兆3370億円 | 17.66% |
原料別製品 | 11兆8181億円 | 12.04% |
化学製品 | 11兆7938億円 | 12.01% |
特殊取扱品 | 8兆9461億円 | 9.11% |
雑製品 | 5兆3962億円 | 5.50% |
鉱物性燃料 | 2兆1968億円 | 2.24% |
原材料 | 1兆5342億円 | 1.56% |
食料品及び動物 | 9359億円 | 0.95% |
うち魚介類及び同調製品 | 3361億円 | 0.34% |
飲料及びたばこ | 2007億円 | 0.20% |
動植物性油脂 | 486億円 | 0.05% |
合計 | 98兆1748億円 | 100.00% |
(【出所】財務省『普通貿易統計』データをもとに著者作成)
川上産業に強い日本、食品などの輸出はとても少ない
2022年における日本の輸出高は98兆1748億円でしたが、このうち「機械類及び輸送用機器」だけで55兆3042億円、つまり全体の56.33%で、これに「原料別製品」(半製品など)、「化学製品」が続きます。これが「日本の産業は川下ではなく川上に強い」とするゆえんです。
ちなみに「機械類及び輸送用機器」に関しても、「川下産業」(最終製品に近い製品)といえるのは、せいぜい輸送用機器(自動車など)くらいであり、それ以外は一般機械(半導体製造装置など)、電気機器(半導体等電子部品など)「モノを作るためのモノ」が中心です。
「食料品及び動物」のジャンルに関しては9359億円と全体の0.95%に過ぎず、このうちの「魚介類及び同調整品」に至ってはたった3361億円で、日本の輸出高全体のわずか0.34%です。
農林水産省あたりが日本の農作物や水産物などの輸出を振興しようとしていることは有名な話であり、実際、日本産の食材が世界中で珍重され、高級品の代名詞となっていることも間違いないにせよ、あくまでも「数字の上では」、農作物・水産物のたぐいが日本の輸出に占める割合は非常に少ないのです。
もちろん、さまざまな輸出品目を伸ばす努力は重要ではあるにせよ、耕地面積が限られているうえに、これから生産人口が減っていくことが確実である日本にとって、「現時点における強み」がどこにあるのかについては、基礎的な事実として踏まえておく必要がある論点であることは間違いありません。
中国の禁輸措置がどういう影響を与えたのか
こうしたなかで、今年8月24日以降、福島第一原発のALPS処理水の海洋放出が開始されたことを受け、中国政府が日本産の水産物の全面禁輸に踏み切ったことについては、これまで当ウェブサイトでもしばしば取り上げてきた論点のひとつです。
実際、『日本産水産物の輸入が「ゼロ」に=9月の中国貿易統計』でも取り上げたとおり、中国の禁輸措置が発動されて以降、中国の統計上、日本からの水産物輸入がゼロになったことが明らかになるなど、その影響は出始めています。
これについて、日本の側の統計も見ておきたいと思います。
普通貿易統計によると、概況品ベースで見た2023年9月の「魚介類及び同調整品」のカテゴリーの輸出高は205億円で、このうち中国向けは5869万円に過ぎませんでした。22年9月は269億円で、このうち中国向けは82億円を占めていたにも関わらず、です(図表2)。
図表2 「魚介類及び同調整品」の輸出高
2023年9月 | 2022年9月 | |
合計 | 205億円 | 269億円 |
うち中国向け | 0.6億円 | 82億円 |
うち香港向け | 37億円 | 41億円 |
(【出所】財務省『普通貿易統計』データをもとに著者作成)
中国向けの激減は予想通りですが、同じく日本産の水産物の禁輸措置を講じた香港向けについては、意外と減っていないというのも興味深い点です。
魚介類及び同調整品に関しては小幅プラスを維持!
ただ、これ以上に驚くのは、1月から9月までの累計額です。中国による輸入制限措置にも関わらず、トータルとして見た「魚介類及び同調整品」の輸出高が、前年同期比で(小幅ですが)依然としてプラスとなっているのです(図表3)。
図表3 「魚介類及び同調整品」の輸出高(1-9月)
2023年 | 2022年 | |
合計 | 2189億円 | 2155億円 |
うち中国向け | 527億円 | 557億円 |
うち香港向け | 332億円 | 275億円 |
(【出所】財務省『普通貿易統計』データをもとに著者作成)
もちろん、最大の輸出先である中国が日本産の水産物の禁輸措置を講じたことの影響で、10月以降の3ヵ月間で前年割れとなる可能性は十分にあります。しかし、中国が買ってくれないならば、中国以外の国に買ってもらえば良いだけの話であり、その意味で、これからの動向には要注目です。
農水省データによると早くも9月時点で年間1兆円達成!
こうしたなかで、宮下一郎農林水産大臣は7日の記者会見で、中国への水産物の輸出状況について尋ねられ、こんな趣旨の回答を述べました(正確な発言内容については農水省の7日付『宮下農林水産大臣記者会見概要』で確認可能です)。
- 中国に対する水産物の輸出は食用以外の真珠、サンゴ、錦鯉などを含めれば8億円
- 一方、香港や米国等向けの輸出は増加したことから、農林水産物・食品の輸出額総額では3.1%増となり、昨年より1ヵ月早く1兆円を超えた
- 輸入規制の影響を受けている水産物については、ホタテ等の一時買取・保管支援、海外を含めた新規の販路開拓の支援、ビジネスマッチングや飲食店フェア等を実施して、輸出先の転換・多角化を進めている
- 産地からの聞き取りによると北海道のホタテは冷凍在庫が積み上がっているが、冷凍庫を有効活用し、殻むき後に冷凍貝柱の状態で保管しつつ、国内外への販売促進等を進めている
そのうえで、農水省『農林水産物・食品の輸出に関する統計情報』のページで7日付で公表されたデータによると、農林水産物・食品の輸出額は9月単月で前年同月比+3.1%となる1176億円、1-9月累計で見ると+5.8%となる1兆0531億円だったことが判明します(図表4)。
図表4 農林水産物・食品の輸出額(2023年9月)
区分 | 金額 | 前年比 |
9月単月 | 1176億円 | +35億円(+3.1%) |
1-9月累計 | 1兆0531億円 | +573億円(+5.8%) |
(【出所】農林水産省『農林水産物・食品の輸出に関する統計情報』データをもとに著者作成)
図表2、図表3とデータが異なるのは、財務省データと農水省データでは集計範囲が異なるためでしょう。農水省データだと真珠や緑茶など、農林水産物全体が統計の範囲に含められており、したがって、財務省データの「食品」「魚介類及び同調整品」などと比べ、農水省データの方が金額として大きくなるはずです。
しかし、中国向けが▲126億円と大きく減った分、(なぜか)香港向けが+75億円、米国向けも56億円とと大きく増えており、中国向けの輸出減少の影響がほぼ相殺されている格好です。
ちなみに香港も日本産水産物の禁輸措置を講じているはずですが、財務省・農水省いずれのデータで見ても、現実には香港向け輸出はゼロになっていないというのは興味深いところです。
日本企業は改めて中国リスク意識を!
いずれにせよ、中国の日本からの輸入禁止措置の影響にもかかわらず、日本の農産物の輸出が増えたというのは、中国当局者にとっては大変皮肉な現象です。
日本経済に打撃を与えるどころか、かすり傷ひとつ負わせることもできずそれどころか日本企業に改めて「中国リスク」を強く意識されたわけですから、なかなかに強烈なセルフ経済制裁となったのではないでしょうか。
そして、2010年のレアアース禁輸騒動を例に挙げるまでもなく、私たち日本人は、中国がことあるごとに経済を政治利用しようとしている国であることを改めて強く意識すべきですし、対中依存度をコントロール可能な水準にまで下げておくことを、そろそろ国全体として目指していくべきではないでしょうか。
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香港で帆立貝をホジホジすることにしたんでしょうか。
中国には関わらないのが吉
ホタテがやり玉に挙がってはいるが、在日アメリカ軍など海外支援的購入が動き始めました。ただ価格の面ではどうだろうか。理解を得るための努力が見えないのだ。困った、困っただけで価格も下げたイメージもないし国からの支援を待っているイメージしかない。日本の市場では牛は枝肉は部分的に取り引きされる。一頭ごと買っていく業者もあるけど近年中国や香港の業者に買い負ける現象が起きている。内臓ごと一頭まるごと買っていくから売り手も楽なのだ。鶏肉もそうで日本では圧倒的にもも肉が売れる。しかし、海外では胸肉とか、ささ身が売れるから一羽まるごと買っていく。ここでも買い負けが起きるのだ。おもに中東の国負ける。主戦場はブラジルだ。おれは病気で店を潰してしまったが現役時代は苦労した。いま、61才。たおれて一年になる。おれは80才になるまで働くつもりだった。20年も早い。オレの人生こんな風になるなんておもわなかった。
たろうちゃん
良い情報=生身の情報を教えてくれてありがとうございます!
一頭買いをしない日本(人)。
一頭買いをすれば、手に入ると分かっていても、一頭買いをしない!
ここが、日本(人)の商売の律儀さなんですねぇ~。
売るときに「部分売り」しかできないから、買う時も「部分買い」しかできないと考える日本(人)の商売の「律儀さ」。(本当は、融通の利かなさかもしれない。)
これがある一面、日本の躍進を少し阻害しているかもしれないなあと、たろうちゃんのこのコメントで気付かせて頂きました。
わたしなんかは、一頭買いをすれば、手に入るのならば、取り敢えず買って、メインに売れる部分を売り、その他の日本では今現在市場が無い、内臓、胸肉、ささ身は、その市場を新たに創ることを考えますね。
有名な話があります。
1.冷蔵庫は、エスキモーに売れるか?
普通の人は、売れないだろうと考えるでしょうが、これが、エスキモーには他の地域の人達と同じように生活必需品なのだとか。
それは、北極では、零下数十度で食べ物がカチンカチンに凍っていて直ぐに食べられないけれど、冷蔵庫に入れておけば、零度前後で保存できるので、直ぐに食べることができるのだとか。ここでは、冷蔵庫では無く、定温庫になっているのですね。
2.もう一つ有名な話。
二人の靴のセールスマンがアフリカへ売り込みに行った。一人のセールマンは、「ここでは売れない、誰も靴を履いていないから」と本社に報告して直ぐに本国へ帰りました。
一方、もう一人のセールスマンは、「凄い!誰も靴を履いていないぞ。これは、売れるぞ、大至急、商品をじゃんじゃん送れ」と言って、直ぐにセールス活動、つまり、「如何に靴は良いものか、役に立つものか」を説明して売り込みを始めたというのです。勿論、爆発的に売れました。今、アフリカで、靴を履いていない人はいないはずです。実際、靴を履いていれば、少なくとも、ケガをする機会はへるでしょうし、地面の状態を気にせずどこへでも行けるでしょうし。要は、今までの不便に対して、靴を履けばそれを克服して余りあることを話せばいいだけなんですがね。
ホタテの件もそうですが、日本の一次産業の人達は、既存の固定観念に縛られていて、寧ろそれを自慢する傾向がある様に見えます。「これはな、こんなもんだと、神代の昔から決まっているんだ!新参者が、つべこべ言うんじゃない!」みたいな。
最近、日本は、世界で食糧を買い負けすることが多いと聞いていましたが、それは単に、どこかの国が、札束で買い付けて行くからということばかりではなく、日本の商習慣に縛られた買い方を頑なに通しているからかもしれない、と気づかせて頂きました。
「日本の買い負け」の実相を調べてみたいと思いました。
ちーとばかしアゲアゲの旗振り感強め???
まー結局のトコロ"アフターコロナ"(マダ終ワッテナイ)の振れもアルんでショーから、まずは年間通し見るまではナントモ
傾向眺めで2018,2019,2022,2023あたりの月額推移を折れ線で重ねて観るのもアリかしら?
円建てなので為替ブーストも無視し難いが重量で視るなら品目もっと細かくみらならんし??
マクロで良いならソレをドーヤッてミクロに落とし込むのか?の手腕が問われとんじゃけんどの、文雄???
食料自給率が低いはずの日本で、じつは農水産物の輸出もそれなりにあるというのが興味深い。
もっとも日本の食料自給率は、カロリーベースでは30%台だが、生産額ベースなら70%近くになるわけだけど。
食料自給率って何? 日本はどのくらい?:農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/ohanasi01/01-01.html
日本の輸出100兆円のうちの1兆円の話、とざっくり理解しました。
>香港や米国等向けの輸出は増加したことから
大臣会見で敢えて触れるのが心憎いですね。香港経由で陸送するんでしょうかね。
これまたオールドメディアが「エビデンスで殴るなよぉおお!!」と悲鳴を上げそうな
テーマですね。
「中国の輸入規制をやめさせる為に”汚染水”放出をやめろ!」と
叫んでいた人達はどんな反応をしてくれるのか?ほとんどの場合、黙殺でしょうが。