日経新聞に斬新なグラフが掲載されました。「いったいいつ、日本の金利が米国の金利を上回ったのだろうか?」と思ってしまう、大変不思議なグラフです。もちろん、年初来で見て、10年債利回りの日米逆転が生じたという事実はありません。しかし、これが日経新聞の手にかかると、日本の方が米国と比べて高金利であるかの印象を抱くことは間違いありません。
日銀・YCCの弾力化
日銀は31日の政策決定会合で、イールドカーブ・コントロール(YCC)の運用の「さらなる柔軟化」を打ち出しました。これまで10年債の利回りについては厳格に1%を維持することとしていたのですが、この1%を「目途」と置くことで、YCCを続けながらも、1%以上への利回り上昇を容認する方針です(図表1)。
図表1 イールドカーブ・コントロールの柔軟化
(【出所】日銀)
このことは、金融引締めというわけではないものの、ジワリと金利上昇の足音が迫ってきた格好です。
日米双方の財務省のウェブサイトからそれぞれの年初からの10年債利回りを引っ張ってくると、図表2のとおりです。
図表2 日米10年債利回り
(【出所】日米財務省データをもとに著者作成。以下同じ)
このグラフが、正確なものです。
グラフの見せ方を変える
ところで、これだと日米の利回りの違いがわかりづらいため、左右の軸のメモリを変えて、図表3のように比較することもあります。
図表3 日米10年債利回り(左右メモリ変更)
これだと、日本も米国も、「10年債利回りが最近、上昇しつつある」という似たような傾向にあることを示すことができますし、左右のグラフの軸が異なっているため、いちおう、その違いを把握することができる、というわけです。
日経新聞の斬新なグラフ
こうしたなかで、またしても、日経新聞さんがやらかしてくれたようです。
日銀、金利操作を再修正へ 長期金利1%超え柔軟に
―――2023年10月30日 23:00付 日本経済新聞電子版より
この記事に出てくるグラフが、なかなかに斬新で、なかなかに強烈です。日米の10年債利回りを比較しているグラフが掲載されているのですが、これが明らかに誤っているのです。いや、「誤っている」というよりもむしろ「誤認を誘おうとしている」、と述べた方が正確でしょうか。
日経電子版の記事のグラフだと、さまざまな問題があります(著作権の問題が生じる可能性があるため、Xのサムネイル機能を使用して引用します)。
米国債は左軸ですが、グラフはゼロでなく、3%程度から始まっています。また、日本国債は右軸ですが、なぜか米国債の5%付近が日本国債の0.2%付近になるように設定され、日本国債利回りの方がかなり高く表現されているのです。
だから新聞が社会から信頼を失う
あえて無理やり再現してみると、図表4のような具合でしょうか。
図表4 日経記事のグラフを無理やり再現したもの
このグラフだと、日本国債利回りが米国債利回りよりもずいぶんと高いように見えますが、ちゃんと表示すると、左右の軸の取り方がデタラメです。ここまで酷い印象操作は、なかなかに強烈でしょう。
ちなみに日経新聞はべつに一般人だけでなく、(いちおうは)マーケット関係者も見ていますし、日米のイールドカーブを見慣れている人がこうしたグラフを目にすると、驚くのではないでしょうか。
いずれにせよ、こんなことをやるから新聞が社会からの信頼を失うのではないか、などと思う次第です。
View Comments (18)
コンサルタントの方々の作成する資料でも、定量的情報を用いつつ、訴求したいことを表現するため巧みに図表を創造、印象操作するのを見かけることはよくあります。
勿論、情報に誤りは無いのですが、シナリオに沿って創造します。上手いなぁ、とは思いますが、感心はしません。
で、その意図を汲み取って相手の空きを突いてその反応を観るのが楽しかったりします。性格悪いけど…。
ニュースというものはドラマティックでなければならない。
そうでなければそのように作ってしまえ。一番いい例が朝日の「サンゴ事件」
まさか金利水準をデタラメ書くわけにはいかないので目盛を工夫してグラフをドラマティックにしてしまえ。
経済用語辞典で
「ニッケイる」:グラフのメモリを恣意的に変えて劇的に見せようとすること。
用例:「このグラフニッケイってないか?」「そうだな、こんなに大きな傾きになるはずないものな」
傾いてるのは経営の方ということですね。
新宿会計士様 いつもためになる記事をありがとうございます。
日経新聞は昔から
経済関係のニュースに間違いが多い
特定の方向に誘うためのポジショントークが多い
(チャイナリスクが顕在化し中国大陸からの撤退が進んでいる時期に対中投資を推進する記事をだすなど)
などと言われていますが
この記事は誰の何のための記事なんでしょうね
こんなグラフは初めて見た。グラフの作り方・読み取り方は、中学校迄で基本はしっかり教えているはずなので、日本で、こんなグラフを描いていたら先生に怒られるし、試験には通らない。
どうしたら、こんなグラフを描こうという気持ちが出て来るのか?妄想記事を書くのに不都合だから、グラフを妄想に合わせて誤認させるしかないと考え付いたのか?
言ってはなんだが、先ず事実を尊重する理系は、恥ずかしくてとてもこんなものは描けない。
TVでも、棒グラフの先っちょ部分だけを拡大して映して、さも違いが大きいように見せるグラフを平気で使っている。全体から見れば、有意差を読み取り何かを議論するレベルではないのに。
その日のニュースが無くて、無理矢理、それらしく、ニュースを捏造?したのか?
とても先進国の高等教育を履修した方々とは思えない所業ですわ。
半世紀以上前 大学で数理統計学と社会統計学の単位を取りました。その時社会統計学の教授から 統計で誤解させる方法とそれを見破る方法を裏話っぽく教えてもらったのを 今でも覚えています。今でもこんな講座残っているのかなあ。
日本経済新聞社は新卒採用において、学部学科を問わないという話があります。
もし学部学科を問わない製薬企業や法律事務所があったらどう思われるでしょう。
さんざ「悪い円安」を煽って、理論面では多方面からやっつけられ、現実としても全く辻褄が合わないことが明らかになって、今や「日本経済新聞」ならぬ「日本経済音痴新聞」とまで揶揄されるに至った昨今。円安の元凶たる日米金利差(だけじゃないと思うんだが)が一日も早く解消し、安心して「悪い円高」を鼓吹できる日が来ることを只管こいねがう。そういういじらしいまでの想いが感じられるグラフですね(笑)。
ここまで来ると最早末期症状?
日経よく読む○○になる…とは良く言ったもんですね。
オールドメディアや反日団体等の手法に似てますな。
隣の半島の国で円安の被害が大きくなり始めていますので、韓流日経も必死なのでしょう。
キオクシアとウェスタンデジタルの合併話は潰せたので一安心でしょうけど。
何故馬鹿にされても信用を失っても隣の半島の国を懸命に支えようとするのか謎です。
それは勿論祖国愛でしょう
また一つ、歴史が刻まれましたね。
テレビではよくやるなーと思って調べてみたら、まとめがありました。
・【詐欺グラフ】よく見るとおかしい印象操作の詐欺グラフ画像まとめ
https://notissary.net/2020/09/20/%E3%80%90%E8%A9%90%E6%AC%BA%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%95%E3%80%91%E3%82%88%E3%81%8F%E8%A6%8B%E3%82%8B%E3%81%A8%E3%81%8A%E3%81%8B%E3%81%97%E3%81%84%E5%8D%B0%E8%B1%A1%E6%93%8D%E4%BD%9C%E3%81%AE%E8%A9%90/
・【画像】テレビで印象操作に使われた詐欺グラフの画像集めてみた
https://karamato.livedoor.blog/archives/34659045.html
NHKもよくやるんだなーという感じです。
Xで指摘できるなんて、いい時代になったものです。
「弊社は、扇動者でございます。」と自白しているようなものですね。
この手のグラフは、今後「日経グラフ」と呼ばれるようになるかもしれませんね。