岸田首相が「増税メガネ」「減税詐欺」などの表現に苛立ちを示している、などとする情報が出てきました。ウェブ評論サイト『デイリー新潮』編集部が27日に配信した記事が、それです。同記事ではまた、先日の補選で、もし自民党が2敗となっていたならば、「岸田おろし」が始まっていた可能性があるとしつつも、現在の自民党で岸田首相に代わる「神輿」が見当たらない、とも指摘しています。
目次
「増税メガネ」巡る山崎元氏の解釈
岸田文雄首相に対し、SNSなどネット上では「増税メガネ」というあだ名が付けられている、とする話題は、当ウェブサイトでもかなり以前からしばしば取り上げてきた論点のひとつです。
岸田首相自身が就任以来、所得税、消費税、法人税の増税を決断したという事実はありませんが、どうしてこのようなあだ名が付けられてしまったのでしょうか。
このあたりの事情については、先日の『首相は「増税メガネ」→「減税メガネ」に豹変しては?』でも取り上げたとおり、山崎元氏がウェブ評論サイト『ダイヤモンドオンライン』に寄稿した次の記事などで、非常にすっきりとまとめていると思います。
岸田首相はなぜ「増税メガネ」と呼ばれるのか
―――2023.10.18 5:55付 ダイヤモンドオンライン『山崎元のマルチスコープ』より
要するに、「岸田首相なら増税をやりかねない」、という悪評は、岸田氏の首相就任前後の言動から醸成されてきたものだ、という意見でしょう。当ウェブサイトとしては必ずしも特定の人の見解に全面的に同意するものではありませんが、こと「増税メガネ」に関しては、この山崎氏の説明がストンと腑に落ちます。
やらない方がマシな「4万円減税」
実際、その後の岸田首相の言動を眺めていると、やはり少なくとも減税には後ろ向きであろうと判断せざるを得ません。
あくまでも報道ベースですが、政府・与党内では現在、納税者1人あたり一律で4万円の(しかも1回限りの)「減税」を検討していると伝えられています。また、扶養親族1人あたり4万円を加算するという案、低所得者向けには7万円(報道によっては10万円)を給付するという案なども報じられています。
しかし、『国民民主党がブラケット・クリープ対策の必要性を提唱』などでも触れたとおり、現在の日本から見て、減税には「税制の適正化」、「経済対策」という少なくとも2つの意味があるのですが、今回の「4万円減税」案は、どちらの観点からも不十分と断じざるを得ません。
このうち「税制の適正化」には、いわゆるインフレ増税(ブラケット・クリープ)対策という側面が強く、実質減税というよりも、世の中がインフレ化するなかで、売上増や賃上げが実現した際の、所得税、法人税などに関する適用税率区分を適正化するというものであるといえます。
また、経済対策という意味では、小渕恵三内閣時代の所得税に関する「恒久減税」などが参考になるかもしれません。現在でいえば、さしずめ、復興税の廃止、消費税にゼロ%軽減税率区分を設ける(あるいは合計税率を10%から5%に引き下げてしまう)、社会保険料率を下げる、といった対策が考えられます。
残念ながら、岸田首相やその周辺からは、こうした細かい税制の適正化、包括的な減税といった議論が、まったく見えてきません。4万円減税など、有権者の神経を逆撫でするものとなりかねず、正直、「やらない方がマシ」というレベルです。
余談ですが、宮沢洋一・自民党税調会長(※宮澤喜一の甥で岸田首相の従兄)からは、「所得減税は1年が常識的」などとする発言も出てきました。ここまでくると、もはやカルト教団「ザイム真理教」の忠実なるしもべであることを、隠し立てもしなくなったのでしょう。
岸田首相はあまり有権者の反発を恐れていないのか?
実際、SNSなどを眺めていると、今回の4万円減税を「歓迎する」と表明している保守系のインフルエンサーなどが、あまりいません(まったくいないわけではありませんが、少数派です)。
それどころか、減税期待が高まる中での「4万円減税」は、むしろ自民党支持層を含めた有権者全般の神経を逆撫でしているフシがあるのです(このあたり、「ネット世論」というものを、数字などを使ってエビデンスとして提示することは、なかなかに困難はありますが…)。
どうして有権者の神経を逆撫でするような、中途半端な減税案歯科出してこないのでしょうか。
有権者の支持が減ることを、岸田首相は恐れていないとでもいうのでしょうか。
そのヒントは、現在の日本の選挙制度にあります。選挙制度が、結果として自民党にとって有利に働いている可能性があるのです。
『「立憲共産党で三つどもえ」なら自民に有利:解散好機』などを含め、これまでに当ウェブサイトで何度となく説明してきたとおり、もしも岸田首相が年内解散総選挙に踏み切った場合、自民党が政権を失う程度に惨敗するという可能性は、非常に低いといえます。
衆議院議員総選挙では、総議席数465議席のうち、全体の6割超に相当する289議席が小選挙区に配分されており、比例代表は全体の4割弱の176議席に過ぎません。そして、小選挙区では毎回、第1党が50%弱の得票で、全体の7割から8割という、圧倒的な数の議席を得ています。
仮に「2位との得票差が2万票以下の議員」を「ボーダー議員」と定義するなら、もしも全選挙区で有力野党候補者が自民党候補者から1万票ほど奪ったとしても、落選する自民党の現職議員は最大でも60人前後であり、130人前後に関しては、落選する可能性は極めて低いのです。
自民党が大敗を喫する可能性が低い理由
では、野党候補が自民党議員の票を奪う可能性は、どれだけあるのか。
先日の長崎第4区の補選でもわかるとおり、立憲民主党を中心とする野党連合が自民党から票を奪う可能性は、さほど高くありません。現実問題として、長崎第4区では当選した自民党候補と落選した野党候補の得票差が、2021年総選挙時と比べ、さらに拡大したからです。
言い換えれば、これだけ岸田自民に「逆風(?)」が吹いているなかでも選挙に勝てないほど、現在の立憲民主党や野党連合の力が弱い、という意味でもあります(あるいは「リアルの世界では岸田自民にもともと『逆風』など吹いていないのだ」、という仮説も、成り立たないではありませんが…)。
考えられるとしたら、日本維新の会の候補者が自民党(や立憲民主党)の候補者から票を奪う、というものですが、前回衆院選だと日本維新の会の候補者は大阪などの一部選挙区を除き、得票率で1位・2位に喰いこんだ候補者は多くありませんでした。
維新は前回、小選挙区で94人の候補者を立てたのですが、このうち1位、つまり小選挙区で当選したのは16人(うち15人は大阪府)であり、2位は17人、そして3位が58人と、全体の6割以上を占めていたのです(ちなみに4位も3人いました)。
ということは、維新系の候補者が1万票や2万票、自民党(や立憲民主党)の候補者から奪ったところで、自民党議員を落選させるどころか、むしろ自民党の対立候補の得票を減らす効果を生じさせ、場合によっては立憲民主党側の41人のボーダー議員を落選に追い込む可能性すらあるのです。
そうなると、「維新タナボタ効果」で自民党は(支持が増えていないのに)当選者を増やす、という可能性すらあります。いや、むしろその可能性も高いといえます。
岸田首相本人は気にしている!?
だからこそ、選挙で「楽勝ムード」が出ているのかもしれませんし、「増税メガネ」だの、「減税詐欺」だのといわれても、岸田首相本人を筆頭として、自民党内にはいまひとつ危機意識がないのかもしれません。
もっとも、岸田首相自身が「増税メガネ」というあだ名に「激怒」しているという指摘も出て来ています。
「岸田おろし」寸前だった 「増税メガネ」「減税詐欺」呼ばわりに激怒する首相の思考停止
―――2023年10月27日付 デイリー新潮より
ウェブ評論サイト『デイリー新潮』編集部が27日付で配信した記事によると、仮に先日の補選で自民党が2敗していたならば、自民党内で「岸田おろし」に発展した可能性が高まっていた、と「政治部デスク」が述べたのだそうです。
ここでいう「政治部デスク」がどなたなのかはわかりません。
この点、もともと徳島・高知合区は自民党前職参議院議員がパワハラで辞職したものであり、長崎第4区も前回、自民党の北村誠吾氏(故人)がわずか391票差で辛勝していた選挙区だったため、この2つの選挙区で敗北したところで、それが首相の進退問題につながったかどうかは微妙だとは思います。
ただ、この「政治部デスク」の指摘が仮に事実だったとしても、それでは岸田首相を下ろして、代わりに誰を総理・総裁に据えればよいというのでしょうか。
これについてデイリー新潮は、こう指摘します。
「ただ、そういった勢力にとって悩ましいのは『担ぐ神輿』がいないことだという」。
後継候補とされる茂木敏充・自民党幹事長、河野太郎・デジタル相らはいずれも「帯に短し、たすきに長し」(同)なのだとか。
岸田首相は良い意味で豹変できるのか
また、デイリー新潮によると、この「政治部デスク」は、岸田首相本人が最近、「増税メガネ」「減税詐欺」などの呼称がSNSなどで流れていることに対し、「怒りをあらわにしていた」と指摘したそうですが、これについてデイリー新潮はこう指摘します。
「聞く力を売り文句にして首相・総裁に上り詰めたのだから国民の声には過去の首相以上に耳を傾ける姿勢は示したいところだろう。が、賛辞が聞こえることは極めて少ない」。
岸田首相に「聴く力」があるのかどうかは別として、税制を巡るスタンスで有権者の不信感が高まっていることについては、デイリー新潮の指摘通りでしょうし、このインターネット時代のこと、それを岸田首相が気にしていたとしても不思議ではありません。
そのうえで、今回の減税(おそらくは「4万円減税」のことでしょうか)を巡って、デイリー新潮は、結果的に「バラマキ損」になる気配が濃厚だ、などと評しているのですが、これもまったくそのとおりでしょう。
このあたり、岸田首相本人が覚醒し、「ザイム真理教」こと財務省系のブレーンを思い切って排除したうえで、真に日本経済のためになるような政策はなにか、たとえばアベノミクスの考え方に近いとされる人たちに教えを乞う姿勢を示せるかどうかは、気になる点です(正直、個人的にはまったく期待していませんが…)。
いずれにせよ、岸田政権下で4万円減税という政策が実施される気配が高まってきていることは間違いありません。しかし、もしそれで有権者の不満が高まったとしても、現在の選挙制度と選挙情勢から判断する限り、岸田首相が解散総選挙に踏み切ったとして、自民党が大敗するという可能性は高くありません。
ただ、それでも有権者の皆さまにおかれては、必ず選挙に行き、ご自身の判断において1票を投じて来ていただきたいと思う次第です。
View Comments (27)
そりゃ身近にいる増税したいしたい病の人たちの発言を注意しないからでしょ。
自分も同じように思われてるってわからないのかね?
ほんとにどうしようもないね。
今まで国会が盛り上がっていなかったが、今度の減税問題で賑わっているのは国民から見ると本当に侘しい。
そもそも減税対策なんて選挙対策の一環だけで何の意味もない。おそらく減税問題が解決して落ち着いたら、選挙をやるつもりかもしれない。
今年はあと2ヶ月しかないので、選挙は間に合わない。来年になると国防増税があるので、減税は意味がないと思われる。
今、習近平は李克強を殺害し、台湾侵攻をやるかもしれない。岸田文雄は、理解しているだろうか?
岸田文雄ってパシリとしては超一流ですけどリーダーとしては最底辺ですからね。
安倍政権時の外相としての云々眺むるに、パシリとしてはせいぜい二流ドコロかと
あー相対する陣営側からみたら御しやすく超一流のアタリキャラだったカモ??
カモネギってヤツですね笑
私は、増えた税収を所得税減税で国民に返すことに「直接は」反対しませんが・・・
ただ、やるのであれば、本来は昨年からやるべきだったでしょうし、恐らくは来年度も増収でしょうから、今後の恒久的な対応(会計士様が指摘されているブラケットクリープ対策も含めて)も盛り込めば良いと思うのです。消費税を上げ下げするのに手間がかかるのであれば、その手間を簡単にして、こういった時には上げる、こういった時には下げる、という制度を設計すべきなのだろうとも思います。
加えて、ガソリンの暫定税率は、既にトリガー条項が定められているのですから、それを粛々とやれば良いだけなのです。出来ないのであれば、トリガー条項を撤廃する必要もあります。
お隣の国じゃあるまいし、この国ではいつから決められていることをやらないし、そのまま放置する様になったのでしょうか。
今、キシダ氏が非難されているのは、将来のビジョンが無いその場限りの対処しか考えていないことに加え、将来こういうことが起きたらやるよ、と約束したことすら守らないことなのですよ。
・・・と、私は思います。
約束を守らない守れない韓国とああして約束が出来るのは、岸田文雄自身が約束を守らない人格だからって事ですかねぇ。。。
昼食時のたまたまリコメンド動画。
岸博幸:ガッカリ所信表明!!党内からも批判の声!「経済」連呼も…国民には届いていませんよ
https://youtu.be/Q_dR-5-xwl4
・所信表明を全部読んだが政治家本人の言葉が全く見えない。役所から集まった原稿を精査せずにそのまま読んでるのでは?
・物価高対策なので、立法に時間をかけて所得税減税するより今すぐ配れる給付金が望ましい。
・所得税減税では非課税世帯などの真に物価高対策の支援を必要とする人々への効果が無い。
ざっくりはこんな感じでしたね。「ほんとに生活苦をなんとかしたいと思っているのか?増税メガネ払拭に拘りすぎてんじゃないの?」調でした。
所信表明は全てを読んでいないのですが給付金には言及がなかったのでしょうか。給付金は所得制限とセットで自民党から出ていたかと思いましたが。
やはり、岸田氏が最初に「所得税減税」と限定して上げちゃった時点でショボくなる運命は決まっていたんでしょうね。しみったれた話です。
仮に「増税メガネ」は返上できても「財務省のポチ」は返上できないということで。
岸氏はしばらく見ないと思っていましたが、今年7月~8月に重い病気の治療をしていたそうですね。
どんな人でも天命は如何ともしがたい。
最近、増税メガネから「増税クソメガネ」に脱皮してます。
まだそんなパヨクバリの下品な罵倒をしているんですか。
呆れますね。批判でも何でもありません。
過去に消費税率を上げたことはあっても下げたことはない。
税率を下げた場合の消費に与える影響は上げた場合の反対なのだろうか?
消費税率を上げると経済にはかならず負のインパクトがあった。では下げると良い影響が出るのだろうか。
内閣支持率を気にして政策を変えたり、SNS上のあだ名を気にしたり、一言で言えば、岸田首相は「総理の器」ではない、ということが露呈したのではないでしょうか。
もともと「総理になって何がやりたいのか、判らない」と言われて来ましたが。
確かに、解散総選挙となれば、野党も勢いはないので、自民党はそれほど負けないだろうという観測もあながち間違っているとは断言できないのですが、岸田首相にその胆力があるとは、思えません(自公が大きく議席を減らせば、そこで岸田内閣は終わる。このままずるずるした方が、ひょっとして挽回の可能性があるかも、になる)。
メインシナリオは、岸田首相はずるずる解散できず、来年6月総裁選前に退陣表明、総裁選で自民党の支持率回復、新首相で解散総選挙、自民党勝利かな。
サブワンシナリオは、岸田首相は、年内もしくは年明けに「投げやり解散」、自公は過半数ギリギリへ大敗、岸田内閣退陣、新総裁選出かな。維新、保守は大幅躍進でしょう。
サブツーシナリオは、来年に想定外の支持率回復イベント(例えば北朝鮮が新たな拉致日本人を開放とか)があり、解散総選挙、自公は現有議席を維持、岸田再選かな。
メインシナリオ60%、サブワンシナリオ35%、サブツーシナリオ5%と予想します。
揶揄されて怒る程度には気にしているなら、何故そう云われるのか? どうしてその様な受け止められ方をされているのか、『心静かに雑音を排し、大きく引いた目線をもって俯瞰で自身を省みる』好機なんじゃあないか、と思うンデスがね??
どうせソノ政治姿勢が「退かぬ媚びぬ省みぬ」ではないコトはバレバレなんだし、票欲しさに国民に媚びたいならキチンと効果測定に耐える方策をヒネリ出すべきなんじゃあないすか???
「増税メガネ」のあだ名が無ければ、岸田は減税に言及しなかったんじゃないかな、と思うと、こう言う揶揄も決して悪くないと思いました。「実際に増税してないし!」「悪口はやめよう!」って言う人もいますが、私はこういう自然発生する言葉って大事なんじゃないかと思います。
4万円の減税ならやらない方がいいし、1年限りなら尚更やる必要は無い。とにかく、取りすぎた税を納税者に返して欲しいし、取りすぎないような措置をきちんと講じて欲しい。ましてや給付なんてもってのほか。重税かけて給付するって、日本は社会主義国家か??
少なくとも、こんな減税や給付で自民党と政府を支持するなんて、私にはできません。