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中国進出日本企業の5割近くは今年の投資額を減額予定

日本企業の脱中国は進むのか――。これに関し、興味深い調査が出てきました。中国に進出する日系企業から構成される中国日本商会が12日に公表したアンケート調査では、今年の投資額については「前年同額」が37%で最も多く、「投資額を減らす」が22%、「今年の投資はしない」が25%に達しており、投資額を増やすと回答した社は合計で16%に過ぎませんでした。つまり、全体の半数近くが投資額を前年より減らすのです。

中国で拘束される外国人

現在の中国は、とうてい、ビジネスフレンドリーな国であるとは言い難くなりつつあります。

たとえば、コロナ禍の影響もあってか、日本人を含めた外国人に対する入国ビザの申請がしばらく停止されており、日本人が中国に入国する際にはビザの取得が必須でした(※ただし、日本人などに対しては10月以降、観光や商用などを目的とした15日までの短期滞在ならビザ免除措置が再開されているようです)。

ただ、中国の怖さは、そこではありません。

罪状もわからないのに、突然拘束されるリスクが高まっていることにあります。

たとえば日中青年交流協会の元理事長で日中友好に尽力してきたことで知られる鈴木英司氏は2016年、「中国でスパイ活動をした」として拘束され、懲役6年の実刑判決を受け、2022年10月に帰国するまで収監されていました。

鈴木英司 日中友好の士が中国の獄中で過ごした6年

―――2022年12月23日付 中央公論.jpより

しかし、この鈴木氏の事例は氷山の一角に過ぎません。日本人のケースではほかにも、たとえば『中国のビジネス環境が悪化…日本企業の投資行動の今後』でも取り上げたとおり、アステラス製薬の関係者が現在中国で報道されているという事例があります。

投資した資金の回収は簡単ではない

そして、これは日本人に限った話ではありません。『英FT報道「野村香港幹部が中国出国禁止措置」の衝撃』でも取り上げたとおり、香港の投資銀行幹部が中国を旅行していたところ、中国からの出国禁止措置を喰らったとする報道もありました。

さらには『国家安全法「域外適用」で香港脱出の必要性は高まった』でも紹介したとおり、香港当局は日本に留学中だった2年前にSNSに投稿した内容が問題だったとして、香港の学生の身柄を拘束し、パスポートを没収したとする報道もありました。

正直、現在の中国や香港は私たち日本人にとって、気軽に渡航するには極めてリスクが高い地域となりつつあるのです。

ただ、日本企業が中国から簡単に投資をすべて回収できるのかといえば、そう単純ではありません。

外国への投資には一般論として、「おカネだけの投資」(たとえば対外証券投資や対外与信)、「モノを伴った投資」(たとえば対外直接投資)という2つのカテゴリーがありますが、このうちの直接投資など「モノを伴った投資」は、回収するのは簡単ではありません。

モノ、つまり工場や事務所の建物であったり、製造装置であったり、金型であったり、と、物理的な実態を伴うものも多く、これらを中国当局の目に触れないよう、コッソリと日本に持ち帰ることは難しいでしょうし、したがって、「中国リスクが高まった」からといって、中国工場を簡単に閉鎖したりできません。

もし企業が本気で中国拠点からの撤退をしようとしていたとしても、「うちの会社は中国から撤退します」などと公言しないことが一般的でしょうし、それこそ中国当局にわからないよう、少しずつ重要な製造拠点を中国から日本国内またはASEAN各国などに移すのが基本でしょう。

日本企業の回答内容:半数近くが「投資額減らす」

実務的には、たとえば日本の家電メーカーが中国に組み立て工場を所有している場合、その工場の設備更新は最低限にとどめ、最新モデルの製造拠点は中国以外の第三国に作り、数年かけて中国拠点で本当に少しずつ人員整理をしていく、といった主要によらざるを得ないのではないでしょうか。

こうしたなかで、中国に進出している日系企業で作る「中国日本商会」が12日、興味深いレポートを公表しました。

「会員企業 景気・事業環境認識アンケート」の結果について

―――2023/10/12付 中国日本商会HPより

アンケートの本文はPDFファイルでしか閲覧することができませんが(しかもこのファイルがやたらと重いです)、9月8日から22日にかけて在中日本企業に実施したアンケートで、1410社(製造業871社、非製造業539社)からの有効回答に基づくレポートです。

これによると、「今年の投資額」については「今年は投資をしない」、「前年より投資額を減らす」が5割、「前年同額」が4割という結果だったそうです。

有効回答1410社のうち、投資額を「大幅増加させる」と答えた企業は23社、「増加させる」と答えた企業は204社でしたが、「前年同額」が519社で最も多く、投資額を「減らす」が317社、「今年の投資はしない」が347社でした(図表)。

図表 今年の投資額
回答内容 社数 割合
大幅増加させる 23社 1.63%
増加させる 204社 14.47%
前年同額 519社 36.81%
投資額を減らす 317社 22.48%
今年の投資はしない 347社 24.61%
合計 1410社 100%

(【出所】中国日本商会レポートP15をもとに著者作成・計算)

ちなみに同レポートに掲載されているコメントとしては、次のようなものがありました。

「大幅増加させる」のコメント例
  • 自動化による効率化と機能強化による他社との差別化。(運輸・通信)
  • 主力の医療事業の現地生産子会社を設立したため。(医療機器)
  • 工場移転による新工場建設費用。(パルプ・紙加工品製造)
「増加させる」のコメント例
  • 環境関連投資を増やす。(化学)
  • 省人化促進※人件費高騰による対策。(輸送用機械)
  • 車載商品販売増に伴う生産増強。(電気・電子機械)
「前年同額」のコメント例
  • 老朽設備補修等中心で大きく変化なし。(鉄鋼・非鉄)
  • もう少し景気動向を見て増減を判断。(一般機械)
  • 中国、他関係国の景況感鑑み判断。(食料品)
「投資額を減らす」のコメント例
  • データ越境の規制により、市場の不確実性が高くなったため。(情報通信)
  • 投資に見合った収益を見通すことが出来ない。(金融(元:銀行)・保険・証券)
  • 現有リソースの最大活用による効率化。(輸送用機械)
「今年の投資はしない」のコメント例
  • 東京本社における中国への投資リスク懸念。(商社)
  • コスト構造上投資がしにくい環境に加え、エネルギー費用の上昇、原材料、包装材料も上昇しているため、投資を見合わせキャッシュフローを改善させたい。(医薬)
  • 大陸の需要及び海外の需要は低迷し、更に原料の相場も高くなり、販路拡大には難航になると推測。(食料品)

デフレ脱却と脱中国

これに加え、直近四半期と比べた営業利益動向は「上昇」(「やや上昇」を含む)は全体の23%に過ぎず、「低下」(「やや低下」を含む)は全体の54%を占め、「変化なし」の23%とあわせて4分の3が現状維持から減益という傾向が見られます。

基本的に、中国におけるビジネス環境は悪化しているという姿がレポートからは見えてきます。

もちろん、なかには「中国投資を大幅に増やす」と述べている企業も23社(つまり全体の2%弱)ありますが、日本は自由主義国であり、中国投資を増やすも減らすもその企業の自由ですので、これについては「正しい」、「間違っている」などと決めつけることには慎重でありたいところです。

ただし、中国は投資回収などが自由に行える国でもありませんので、とりあえず現状維持を図りつつ、少しずつ「足抜け」していくというのが、これらの企業の基本的な姿勢なのでしょう。

いずれにせよ、「ニッポン株式会社」は30年以上という時間をかけて中国に進出してしまったわけですから、「今すぐ足抜けする」ということは簡単ではありません。

しかし、日本社会全体が「脱デフレ」を志向するなかで、単なるコスト削減を理由にした安易な中国進出が通用しなくなっていることは間違いありませんし、そもそも「コスト削減こそが正義」といった企業経営の在り方が曲がり角に来ていることもまた間違いありません。

その意味で、中国の地政学リスク、政治リスクの高まりは、日本企業の「脱中国」の単なるきっかけのひとつに過ぎず、大きな流れでいえば、「脱中国」は日本の「脱デフレ」とセットでもあるのかもしれません。

新宿会計士:

View Comments (6)

  • 後で吠え面かくな。中国に投費が前年比同額あるいは増額か。万が一の被害者は社員だよ。欲の皮の突っ張った会社経営陣。税金つかって迷惑かけるなよ。バッカじゃないの!

  • 中国は独裁国家、これからどうなっていくか全く分からない。
    中国旅行をしようとしても現地ではキャッシュレス決済で現金(元)は使えない?クレジットカードもvizaなど使えないとのことです。中国への出張などは大変です。日本でgoogleの地図を見てもストリートビューは使えない。
    昨日のニュースでamazonも締め出しになっているらしい。

  • 「減らす」から「ゼロにする」は除外されているみたいなので、「まだ投資する」にはいりますよね。

    「減らさない」も含めると、「まだ投資する」が3/4位を占めているという事になりませんか?

    この期に及んで、「まだ投資する」が3/4もある事の方が驚きでは?