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韓国大統領の「日本はパートナー」発言は信頼できない

尹錫悦(いん・しゃくえつ)韓国大統領が「光復節」演説で、日本を「普遍的価値を共有するパートナー」などと述べたうえで、(おそらくは半島有事を念頭に)日本との協力の重要性に言及したそうです。まさに「全力で日本に抱き着きに来ている」ようですが、これについて日本はどう対処すべきでしょうか。そもそも「朝鮮半島生命線説」自体が正しくないことを、改めて認識する必要はないのでしょうか。

鈴置氏「日本にとって韓国は要らない」

先日の『日本の半導体産業にとって「韓国は要らない」=鈴置氏』では、韓国観察者である鈴置高史氏がYouTube動画に出演し、「日韓は半導体産業で協力すべき」とする俗説に対し、「日本にとって韓国は要らない」と一蹴した、とする話題を取り上げました。

鈴置高史氏と大山聡氏の対談動画の第4弾が11日、公開されています。「尹錫悦(イン・シーユエ)政権で韓日関係は改善された」、などと思っている方にこそ、是非とも視聴していただきたいと思います。『チップワンストップチャンネル』がアップロードした動画では、鈴置氏は歯切れよく、半導体産業において「日本にとって韓国は不要」と言い切っているからです。その理由は何か。そして日韓が連携することの本当のリスクは何か。じっくりと考えてみたいものです。鈴置高史氏は「韓国観察者」ではない…のかも?当ウェブサイトで頻繁に言...
日本の半導体産業にとって「韓国は要らない」=鈴置氏 - 新宿会計士の政治経済評論

鈴置氏のこの見解は、「半導体において、日本と米国(にとっては)台湾は必要だが韓国はなくてもやっていける」とする文脈で出て来たものですが、ただ、この「日本にとって韓国は不要」とする評価は、じつは半導体産業だけでなく、もっと広く当てはまる考え方なのかもしれません。

ここで思い出していただきたいのが、当ウェブサイトでも以前から取り上げて来た、「朝鮮半島生命線説」なる考え方です。

これは、韓国が日本から見て、地理的に非常に近い位置にあることから、「朝鮮半島が日本の敵対勢力の影響下に入れば、日本の安全保障に深刻な脅威がもたらされる」としたうえで、「だからこそ日本はあらゆるコストを払ってでも、この地域を味方にしておかねばならない」、などと説くものです。

朝鮮半島生命線説とは?

韓国は地理的に見て日本に非常に近く、この地域が日本の敵対勢力に入れば、日本の安全保障に深刻な脅威をもたらす。だからこそ、日本はあらゆるコストを払ってでも、朝鮮半島を日本の友好国に引きとどめておかなければならない。

(【出所】『新宿会計士の政治経済評論』)

この考え方には、ほかにもいくつかの派生形があります。

たとえば「北朝鮮に対する牽制のためには日韓連携が必要だ」、「中国と対峙するためには日韓連携が必要だ」、といった考え方であり、また、「北朝鮮や中国に対処するうえでは韓国と良好な関係を維持しておくことが望ましい」、などとする主張につながることもあります。

酷い場合には、「日韓が連携すれば、米国に対しても意見を述べることができる」、などと主張するものもあります(これはおもに韓国メディアから出て来ることが多いようですが、ごくまれに、日本の自称「保守派」からもこのような主張が出ることがあります)。

朝鮮半島生命線説の根本的欠陥

ただ、こうした「朝鮮半島生命線説」には、根本的な欠陥があります。

それは、「仮に日本が韓国と仲良くしようとしても、韓国が日本と仲良くするかどうかはわからない」、という疑問点に対し、正面から答えていないことです。

もっといえば、日本が「あらゆるコスト」を払ったとしても、朝鮮半島(あるいは韓国)を日本の友好国に引きとどめておけるというものではありませんし、また、韓国を日本の「味方」「友好国」にしたとして、それが日本の安全保障上の地位向上に寄与するという保証もありません。

鈴置氏は韓国観察者として、ウェブ評論サイト『デイリー新潮』などへの寄稿、あるいは『韓国民主政治の自壊』などの著書を通じ、これまで何度も、「韓国の特殊性」を警告してきました。

【参考】『韓国民主政治の自壊

(【出所】アマゾンアフィリエイト)

この「韓国の特殊性」については、鈴置氏が『デイリー新潮』に2021年7月16日付で寄稿した、『文在寅が菅首相をストーカーするのはなぜか 「北京五輪説」「米国圧力説」……やはり「監獄回避説」が有力』という記事に出て来る、こんな記述が参考になるかもしれません。

平気で約束を破り、堂々と他人を裏切る韓国と首脳会談を開こうとする国はまず出てこない。何を取りきめようが、すぐに反故にされるからです。日本と韓国がうまくいかない原因は『日韓関係の特殊性』ではなく『韓国の特殊性』にあるのです」(※下線部は引用者による加工)。

この「韓国の特殊性」という特徴、「米中二股外交」、「食い逃げ外交」と並んで、韓国の外交を論じるうえで極めて重要な概念です。そして、韓国が日本に「抱き着いてきている」ときは、たいていの場合、韓国が経済、安保などにおいて、本当に「ヤバい」ときであることについても、また忘れてはならないでしょう。

尹錫悦氏「日本はパートナー」

こうしたなかで、韓国大統領の口から、とうとう「日本はパートナー」という表現が飛び出してきました。

尹大統領「日本はパートナー…共産勢力、進歩を偽装して非倫理的工作」

―――2023.08.15 13:02付 中央日報日本語版より

韓国メディア『中央日報』(日本語版)の報道によると、尹錫悦(いん・しゃくえつ)韓国大統領は15日、韓国の祝日にあたる「光復節」で演説し、「日本はもう我々と普遍的価値を共有し、共同の利益を追及するパートナー」、などと述べたというのです。

はて?

「平気で約束を破り、ウソをつく」というカルチャー、日本には存在しませんが、この人物はいったいなにをもって日本が韓国と「価値を共有している」とおっしゃっているのでしょうか?なんとも理解に苦しみます。

ただ、尹錫悦氏の発言で注目すべきは、こんなくだりでしょう。

  • 韓半島と域内で韓日米安保協力の重要性が日々高まっている
  • 日本が国連軍司令部に提供する7カ所の後方基地の役割は、北の南侵を遮断する最大抑止要因だ
  • 3日後の韓日米首脳会談は3カ国の連携の新たな里程標になるだろう

…。

発言をそのまま読めば、「朝鮮半島生命線説」を信奉する人にとっては狂喜乱舞して喜びそうになるところかもしれませんが、裏を返せば、尹錫悦氏の発言からは、ごく近い将来、朝鮮半島で何らかの「動乱」が生じることへの警戒が滲み出ています。

このあたり、現在の東アジアの地政学的状況に照らせば、もっとも懸念されるのは台湾有事でしょう。

中国人民解放軍が台湾に軍事侵攻をすれば、日米が台湾防衛に成功したとしても、結果的に中台両岸だけでなく、沖縄を含めた在日米軍基地にも被害が及ぶ可能性が高いですが、それだけではありません。台湾有事に乗じて、在韓米軍が手薄になった隙を突き、北朝鮮が南侵する可能性もあります。

このあたり、日米の「ホンネ」は、「韓国防衛に力を割かれたくない」、といったところですが、尹錫悦政権としては全力で日本に「抱き着き」に来ているのではないでしょうか。

ただ、韓国がこれまでに自称元徴用工問題、慰安婦合意破り、火器管制レーダー照射、不正輸出疑惑などを通じ、日本にさんざん「殴りかかって来ていた」ことを思い出すならば、こうした韓国の「抱き着き戦略」を安易に歓迎して良いものかどうかは微妙でしょう。

そもそも信頼に値する国ではない

なにより、朝鮮半島生命線説に欠落している視点は、韓国が日本にとって「同盟国として信頼に値するかどうか」、です。

そもそも韓国は日本にとって、現時点で「同盟国」ではありませんが、仮に「同盟」を目指すにしても、中国を牽制するための同盟を韓国と構築することは、現実的ではありません。肝心の韓国が中国に立ち向かう意思を持っていないからです。

実際、数日後に日米韓3ヵ国首脳会談を控え、中央日報からはこんな報道も出ています。

北朝鮮を明示して韓日米軍訓練を定例化…共同声明で中国に言及しない見込み

―――2023.08.15 14:33付 中央日報日本語版より

中国牽制を盛り込まないのに、日米韓連携が日米豪印「クアッド」よりも重要になるはずなどありません。

このあたり、どこかの国には「私こそ外交の●●●だ」、などと自画自賛する首相がいるようですが(●●●にはその人物の名字が入るそうです)、インテリジェンスもプリンシプルも欠落していることが自覚できていないのは困った話ではあります。

ただ、現実に日米が「日米韓3ヵ国連携」を深めようとしたところで、それは機能しないでしょう。肝心の対中牽制の枠組みに加わる意思を、韓国自身が持っていないからです。

あるいは、尹錫悦氏が遅くとも4年後に退任し、後継大統領が日米韓の枠組みを承継しようとしないという可能性や、あるいはそれ以前の段階で、尹錫悦氏自身が李明博(り・めいはく)元大統領のように、任期中に突如として変節して反日に舵を切るという可能性もあるかもしれません。

このあたり、日本としては決して警戒を緩めてはならないのです。

新宿会計士:

View Comments (26)

  • 「何を言ったかではなく、何をやったか」

    一言で終わる話題ですね…

  • アメリカは分かっていて“日米韓”の枠組みを強調し、韓国に踏み絵を迫っていると思います。

    共同声明から中国牽制の要素を抜いてほしい、クアッドには部分的に協力したい、etc.

    そう言う度に「誰が大統領になっても、韓国は中国と対峙する気がない」という”証拠“が積み重なって行く。

    問題は日本で、岸田さんのように、何度韓国に騙されても懲りず、アメリカに「韓国を信用するな」と言うことも出来ないお人好しの善隣外交では、日米韓の枠組み維持のために日本だけが譲歩を迫られる構図から抜け出せないということ。

  • まぁ個人的には韓国が対中包囲網の中に入らないのは良いことかなと思います。アメリカ同盟国としてアメリカからの韓国の価値が下がるだけですし。そして対中戦略で韓国を混ぜない方が楽に話を進められるでしょう。
    それにしても、尹さんは日米事大に切り替えるべく国民の説得を頑張ってはいますね。今までの大統領なら考えられない発言です。

  • さんざん反日をしておいて、李在名と思いきや、こんどは尹錫悦。さっさと日本と関係改善を成功させ、ちゃっかり通貨スワップまで。いやあ、尹錫悦というか半島人は、彼ら半島が地政学的にカネになることがDNAに刻まれ、分かっているのでしょうか。したたかな民族です。アメリカを上手く使って、日本に見事な立ち回りをしてきました。賢いです。

    それにひきかえアホウは日本。

    半島有事は日本の有事・・などと、せめて、アメリカにそそのかされないことを願います。

  • とりあえず、条約とか協定とか
    「国家と国家で約束」

    するような場合に、韓国では国家元首である大統領ではなくて最高裁判所長が国の代表なのだそうですから、最高裁判所長が同じコメントを出してくるまでは、無視しておいて構わないと思いますけどね。

    あるいは韓国の最高裁判所が、
    「国家と国家の約束が、国内法より優先する」
    という判例を出してから、でもよいかな。

    大統領という肩書きなのに、韓国では最高裁判所長の使い走り役の小者だというのですから、わかはんもんですね。

    岸田首相が勘違いしないように、周りのみなさんは気をつけてあげてほしいものです。

  • 韓国を強かというコメントを散見しますが、どちらかというと「ズル賢い」と思います。岸田文雄がバカ過ぎて外務大臣時代から、何回騙されればいいのかと、忸怩たる思いです。韓国の尹大統領は信頼できかねる、、、は正解で処理水にしても、靖国参拝にしても、あの国は、統制が取れていない。せめて、科学的エビデンスと歴史的背景を認識し、自国の経済くらい自国でまわしてほしい。10年事に集られたんでは、税金払うのがイヤになる。日本政府も厳しい言い回しができないか?韓国とは国交断絶する位の気構えを見せて欲しい。

  • まあ●●をおだててリップサービスするだけで自国の利益になるというなら、そらやりますよねえ・・・。

  • バイデン大統領は、韓国の面倒を日本に見させるつもりです。
    台湾有事には、北朝鮮は中国支援のため、一応臨戦態勢をとると思います。
    ただし、北には南へ侵攻する気も力もないと思いますが。
    アメリカとしては、米韓同盟がありますので、一応朝鮮半島防衛のために対応せざるを得ません。
    現状、アメリカにすれば、北のICBMが直接アメリカを狙える段階にまで開発が進んでいますので、韓国を守るメリットが少なくなっています。
    アメリカにすれば、韓国などよりも台湾防衛に集中しなければいけませんので、日韓の軍事協力を目論んでいるのでしょう。
    ただ、日韓の軍事協力には双方に大きなハードルがあります。
    多分無理だと思うのですが、バイデン大統領はそのあたりのところは理解していないのでしょうね。
    尹大統領は、岸田首相から既にかなりの譲歩を引き出したので、アメリカのいう事は聞かないと思います。
    岸田首相のほうはまだまだバイデン大統領の言いなりになって韓国に譲歩しそうです。
    (※自分の支持率が何故下がったのか理解していないと思われます。)
    岸田首相は、今こそ朝鮮半島の歴史を思い起こすべきです。

  • サムライアベンジャー(「匿名」というHNは、在日コリアンの通名と同じ恥ずべき行為) says:

    >鈴置氏「日本にとって韓国は要らない」
    そうです、要らないのです。

    何度も何度も韓国は裏切ってきました。
    日本もいい加減、「うそつき」国家との距離を考えるべきでしょう。いい加減に、です。
    少なくとも「岸田さんのような政治家は日本にいらない」のです。

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