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野党選挙協力がなくなると立憲民主党は「さらに困る」

当落線上の「ボーダー議員」の人数が2番目に多いのが立憲民主党であるという事実を思い出しておくと、衆院の早期解散が見送られたことが、立憲民主党にとって良いことなのかどうかは微妙です。それだけではありません。日本共産党との選挙協力の動向が見通せないこともまた、立憲民主党にとっては逆風です。こうしたなか、目立ってきたのが立憲民主党の党内の路線対立なのだとか。

解散を見送ったことが自民党にどう働くか

昨日の『岸田首相は「6月に解散しておけばよかった」=髙橋氏』でも報告したとおり、今月に入り、当ウェブサイトでは2021年の衆院選の全小選挙区における得票データなどをもとに、岸田文雄首相率いる自民党にとっては「6月解散」が最善シナリオだったのではないかとする仮説を「数字で」説明してきました。

衆院解散・総選挙を巡って、先般より当ウェブサイトでは、「6月解散なら自民党惨敗シナリオは考え辛い」との仮説を提示してきました。しかし、この前提条件は、先週の「解散見送り」で崩れました。それどころか「LGBT法」「少子化対策増税」など、岸田首相は今後、支持率を落とす可能性が高い課題に直面していく可能性すらあります。これに関連し、髙橋洋一氏が「あの時解散していればよかったということになりかねない」と指摘しています。数字に基づく選挙予測当ウェブサイトにひとつの「ウリ」があるとしたら、それは「数字に...
岸田首相は「6月に解散しておけばよかった」=髙橋氏 - 新宿会計士の政治経済評論

一般に小選挙区制度では、その選挙区内でトップ得票の人が1人しか当選できない、という仕組みが採用されているからです。そうなると、前回の選挙でギリギリの得票で滑り込んだような候補者は、次回の選挙で苦戦する可能性があるということは、容易に想像できるところです。

この点、『選挙でカギを握る自民・立民「99人のボーダー議員」』などでも指摘したとおり、「2位の候補者との差が2万票以内」の議員(便宜上「ボーダー議員」と呼びます)は115人おり、このうち自民党が58人と最も多いことを忘れてはなりません。

小選挙区では簡単に与野党が覆りかねない

自民党が前回、小選挙区で獲得したのが187議席であるため、「ボーダー議員」の割合は全体の30%あまりに達します。もしも自民党議員から一律で大量に票が失われ、2位の候補者にその票が移転すれば、自民党は数十人単位で議席を減らし、下手をすると単独過半数を割り込むどころか政権を失うこともあり得ます。

現在、262議席と過半数(233議席)を大きく超えている自民党が、いきなり政権を失うほどに大敗を喫するわけがない」。

そう考えている方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、たとえば2009年8月の衆院選では、自民党は小選挙区で全体の40%弱の得票を得たにも関わらず、議席はたった64議席、つまり当時の小選挙区の定数(300議席)のたった20%あまりしか獲得できませんでした。

これに対し、民主党は50%近い得票率で、221議席、つまり定数全体の4分の3(!)近くの議席をかっさらったわけです。

2009年といえば「自民党に極端な逆風が吹いた」とする印象を持っている方も多いかもしれませんが、自民党と民主党の得票率の差は10%ポイントもなかったという事実を忘れてはなりません。つまり、わが国が小選挙区制度を採用し続ける限り、たった1回の選挙で与野党が完全に逆転する、といった事態はあり得るのです。

では、立憲民主党が次回選挙で大きな「風」を得て、自民党を追い落として政権与党に座に就くことはあり得るのでしょうか。

これについて、「数字」だけの議論をするならば、「かなり確率は低い」と考えて良いでしょう。

先ほど、「ボーダー議員は自民党が58人と最も多い」という話が出ましたが、じつはこの「ボーダー議員」、立憲民主党は41人にも達しているということもまた忘れてはなりません。立憲民主党が小選挙区で獲得したのは57議席ですので、「ボーダー議員」の割合は70%を優に超え、自民党のそれを遥かに上回ります。

有権者が岸田文雄首相に不満を抱き、とくに安倍晋三総理や菅義偉総理のころは「岩盤支持層」と呼ばれていた層が自民党にそっぽを向いたところで、彼らが立憲民主党に投票するとは到底考えられません。

敢えてあり得るシナリオは、「各小選挙区で2万票を持っている」とされる公明党が自民党との連立を解消し、立憲民主党との連立を前提に、新たな政権奪取を目指して「立憲・公明の選挙協力」が成立することでしょう(そもそも「公明党が選挙区で2万票を持っている」とする説の信憑性自体、よくわかりませんが…)。

立憲民主党も困ったことに!

ただ、こうした現実性の低いシナリオを除くと、「数字」で見て、「6月解散」が自民党にとって有利という最大の理由は、日本維新の会の選挙準備が間に合わなかったという点に尽きます。

そして、こうした事情は立憲民主党もまったく同じです。いや、立憲民主党の方が切実だという言い方もできるでしょうか。

野党利権は終焉へ?末期状態の「活動家政党」が迷走中』などでも説明したとおり、立憲民主党は「最大野党であること」という状態を維持することが最も大きな目標となっているフシもありますし、日本の国会運営上、「最大野党であること」はその政党に対し、絶大な利益をもたらします。

「利権は怠惰や強欲で自壊する」。これは当ウェブサイトなりの持論ですが、この法則は立憲民主党にも成り立つようです。衆院法務委員会は金曜日、入管法改正案を可決したのですが、この改正案に、立憲が提案した「第三者機関に関する附則」などは盛り込まれませんでした。産経によると、立憲の寺田学氏らがせっかく与党に働きかけて譲歩を勝ち取りかけたものの、党内の「活動家」の反対を受け、立憲民主党執行部がこれを蹴ってしまったようなのです。利権の3法則と立憲民主党普段から当ウェブサイトで説明している通り、利権とは、い...
野党利権は終焉へ?末期状態の「活動家政党」が迷走中 - 新宿会計士の政治経済評論

逆にいえば、最大野党ではなくなった瞬間、立憲民主党議員は国会質問の機会も激減する可能性が高く、そうなると今までのような「スキャンダル追及」でメディアなどから注目されるという可能性も減りますし、下手をするとあと2~3回の選挙を経て、立憲民主党は跡形もなく消滅してしまうかもしれません。

だからこそ、立憲民主党にとっては「最大野党でいること」という状態が消滅した瞬間、それは党存亡の危機に直結するのです。

しかも、立憲民主党に対しては、例の「小西問題」――とくに立憲民主党・小西洋之参議院議員の「サル・蛮族」発言問題――などの影響もあってか、基本的に票が伸びる要素がありません。

だからこそ、日本維新の会の態勢が整わないうちにさっさと解散総選挙をやってもらった方が、立憲民主党が辛うじて最大野党の地位を維持できる可能性が高い、というのが、当ウェブサイトにおける「数字に基づく結論」だった、というわけです。

もちろん、現在の状況が続けば、立憲民主党が最大野党の地位を失うのは時間の問題なのですが、それを少しでも先延ばしすることが、立憲民主党にとっての至上命題だったことは間違いありません。

ところが、6月解散が実現しなかったことで、日本維新の会(や国民民主党など)が全国で候補者を立てるうえでの時間的余裕ができました。立憲民主党の議員の危機感は、大変なものではないかと推察します。

とくに小選挙区で当選した57人のうち、41人のボーダー議員にとっては、自身の選挙区で日本維新の会が候補を立てようものなら、次回選挙で「ただの人」になる確率が日々高まっているのです。

路線対立深刻化

こうしたなかで、やっぱり出て来たのが「野党共闘」です。

立憲民主党、野党共闘めぐり党内で温度差 泉代表会見の裏で…一本化への「有志の会」も会見

―――2023/06/19 18:33付 Yahoo!ニュースより【J-CASTニュース配信】

ウェブメディア『J-CASTニュース』によると、解散総選挙がいったん遠のいたことを受け、「立憲民主党内の路線対立が顕在化してきた」のだそうです。

具体的には、日本維新の会や日本共産党などとは選挙協力せず、立憲民主党が自力で選挙戦に臨むべきとする立場をとる泉健太代表に対し、小沢一郎衆議院議員ら「野党候補の一本化で政権交代を実現する有志の会」は16日、記者会見を開き、「他の野党との候補者調整の必要性を訴えた」というのです。

J-CASTニュースによると、泉氏は先月19日の記者会見で、日本共産党との選挙協力を巡っては「他党に頼らないということがまず大事」などとしたうえで、政策協議などをすっ飛ばし、「数字だけを期待するという考え方」を取る場合は「絶対に小選挙区では勝てないと思う」と述べたそうです。

これに「有志の会」は立憲民主党に所属する衆議院議員97人のうち53人(!)から賛同署名が集まったそうです(どうでも良い疑問点ですが、この53人には、先ほど挙げたボーダー議員41人も含まれているのでしょうか?)

これについては泉氏が正しいのか、小沢氏が正しいのか――。

「あるべき論」だけでいえば、当然、泉氏の発言が正論です。

国会議員選挙というものはそもそも「私たち国民のために奉仕してくれる国会議員」を選ぶための手続であり、私たち国民のために動いてくれる議員をちゃんと選べるかどうかが重要です。その際に重要なのは、「どの政党に所属しているか」ではなく、「どんな政策を掲げているか」、です。

きちんと政策をすり合わせた結果、選挙協力をするというのは、通常の選挙戦略としてはあり得る話ですが、こうした政策のすり合わせをろくに行わず、数合わせだけで選挙協力をするというのは、まさに国民を舐めた態度であると断じざるを得ません。

数字だけで見たら立憲民主党はかなり厳しい事態に

ただ、「数字の上の分析」という立場に立つと、小沢氏の動きの方が正解です。

立憲民主党にとっては、とにかく「最大野党であり続けること」が党益を最大化する重要な要素ですので、党利党略を第一に考えるならば、とにかく選挙協力を進めることが大切です。

例の「小西問題」もあり、日本維新の会や国民民主党などとの選挙協力がすんなり進むとも思えませんが、少なくとも立憲民主党にとっては日本共産党、れいわ新選組、社民党といった「友党(?)」との協力は進めた方が良いでしょう。

実際、J-CASTの報道によれば、現時点で立憲民主党ウェブサイト上、次期衆院選公認候補予定者として掲載されているのは51人ですが、そのうち少なくとも10選挙区以上で日本共産党と競合しているそうです。

ということは、泉氏が目標とする「150議席以上」という候補者調整が進んでいけば、立憲・共産のバッティングはさらに拡大する可能性が高い、ということです。

2021年の選挙では、立憲民主党と日本共産党は、少なくとも223選挙区で選挙協力を行いました。具体的には166選挙区で立憲民主党が、57選挙区で日本共産党が候補者を立てたのです(ただし双方が候補者を立てたのも48選挙区に及びましたが…)。

もしも立憲民主党と日本共産党が選挙協力できずにお互いバッティングする選挙区が増えた場合、仮に有権者の投票行動が2021年とあまり変わらなかったならば、立憲民主党はさらに議席を減らす可能性が濃厚です。

その意味では、「立憲共産党」などと揶揄された、枝野幸男・前代表時代のような「立憲・共産蜜月」がなくなることで、ボーダー41人の当選がさらに危うくなる可能性についても、次回衆院選に向けての隠れたテーマのひとつであることは間違いないでしょう。

新宿会計士:

View Comments (9)

  • 立憲民主党が共産党や日本維新の会などと選挙協力せずに、一本でやっていったらかなり悲惨な現実が待っているのではないでしょうか?それを踏まえて考えれば、岸田氏の解散総選挙せず、は決して悪いハナシではありません。マグレ?かな。それともそこまでの思慮が無かったか(笑)。

    現状が続けば、立憲民主党が最大野党の地位を失うのは時間の問題ですが、立憲民主党の泉代表らも危機感は無かったのか?何処も頭の悪いリーダーばかりですネ。「野党共闘」と言っても何処と組むのか?日本維新の会や公明党、国民民主党は立憲民主党より、今は少数議席ですが、何処と組んでも相手にキャスティングボードを握られるでしょう。

  • 会期中から揉めに揉めていて、泉代表側が空手形で150人ぶち上げたようなもんですからねえ・・・。
    正直、協力次第で選挙までに立憲共産派が党を割る可能性すらあると思います。まあ、どっちにせよもう立憲民主党はおしまいだと思いますよ。

  • ようやく、安心して自民党にお灸を据えれる時代になってきており、非常にワクワクしてます。
    必ず維新、国民に投票します、はい!
    ジリ貧になった自民に尻に火がついたら、安倍さんみたいな真の保守派が台頭するとにらんでおります。
    日本の未来には株価と共に割と楽観的です。
    新宿会計士さん、応援してます!

  • 立憲民主党が躍進するには、なまじ政策で勝負などせずに、
    野合と言われようが共産党と選挙協力をし、「小西問題」では不発に終わったがなんらか仕掛けで反自民の雰囲気を醸成した上で、
    各個撃破的に対立候補をスキャンダルで追い詰める戦略がよろしいかと。
    これならば勉強して政策を練り上げる必要もなく、普段の得意技だけで戦える。

    衆参東京選挙区の当選者の面々を見れば、
    衰えたとはいえオールドメディアの扇動に乗る人が一定以上いることがわかるし、
    甘利幹事長の首を取れたことからも対立候補をスキャンダルで沈めるのは可能と思う。

    ん〜いつも通りか・・・。

  • >「あるべき論」だけでいえば、当然、泉氏の発言が正論です。
    >「数字の上の分析」という立場に立つと、小沢氏の動きの方が正解です。

    そのとおりだと思います。小沢一郎氏は決して好きな政治家ではなかったですが現実問題として選挙や結果に強い政治屋ではありましたね(晩年はその神通力も失せた感はありますが・・)

    企業経営などにおいても、純粋な企業理念や高品質な商品が必ずしも勝利するわけではなく、マーケ分析や赤字覚悟のシェア奪取等のある種搦手的な戦法が勝利するのはよく見る光景で、各方向を批判をかわしながらバランスよく見るのが必要かと思います。

    立憲民主的には難しいでしょうが、最適解は泉氏の正論を表の顔として大々的に一般層にアピールしつつ、水面下で小沢氏一派にうまく立ち回って貰うことでしょうかね?
    速攻で内ゲバのリーク合戦になって機能するとはとても思えないですがw

  •  立民が共産と手を組んで「俺たちは1+1で200だ。10倍だぞ10倍!」などと言い出した時は「いや相手が共産じゃ、さすがに共産は無いわって支持者が離れて、共産側も他所と組むなんてと離れるから、10+5→11がせいぜいじゃねーの……」と思ったらその通りでしたが。
     では今回共産と組まなければ、その時離れた立民支持者が戻ってきてプラスになる?いや、もう立民は共産とほぼ同枠に自ら進んでなってしまったので、それも無いでしょう。
     野党第一党であることだけが取り柄だったのに、その取り柄が無くなればどうなるやら。
     取り柄のある野党が第一党になり、実績を積んで与党になる本来は当然の時代が来るのかどうか、期待しています。なんか自民党ががんばらないのが前提になっちゃってますけど。

  • 立憲民主党、日本共産党、れいわ新選組ですか?
    類は友を呼ぶと言うか、カスはカスを呼ぶと言うか、
    残念ながら有権者は、あなた方が思って以上にとても賢いと思いますよ。
    舐めるなよ‼️

  • 焼き肉屋に残していった〇〇この件はどうなったのか気になります。

  • 小西議員の例のアレと言い、蓮舫議員と泉代表のツイッター上での小競り合いと言い、
    今の立憲民主党は以前にも増して規律も結束もあった物じゃないんでしょうね。
    彼らを繋ぎとめる思いはもはや「反自民」ですらなく、「最大野党でなくなる恐怖」だけかも。

    逆に言えば、今の立憲民主党はさすがに分裂騒動だけは起こさないと言う事でもある。
    支持者達にとっては数少ない安心できる材料かな?