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税制優遇・子会社配当吸い上げで経常黒字確保した韓国

韓国の3月の経常収支が小幅な黒字となりました。これに関し、韓国メディアの報道によると、税制優遇で海外子会社からの配当金を吸い上げる動きが所得黒字を押し上げ、貿易赤字を相殺したという側面が強いのだそうです。もっとも、今後の貿易収支動向、あるいは「配当金で巨額の資金流出」が生じる4月のデータ次第では、韓国では経常赤字が常態化する可能性も出ているのだとか。

「貿易立国・韓国」

私たち日本の隣国・韓国といえば、経済・金融評論的には大変に興味深いモデルの国です。

ろくに資源も文化もない小国でありながら、また、1948年に米国から独立した直後は世界の最貧国レベルにあったにも関わらず、最近ではGDPで世界10位圏を伺うほどの経済大国にまで成長したわけですから、やはり何らかの「秘密」があるのではないかと疑うのは当然のことでしょう。

こうしたなかで、韓国の「強み」があるとしたら、貿易です。

たとえば韓国から輸出される半導体は「産業のコメ」とも呼ばれ、米調査会社ICインサイツの調査に基づけば、2020年における世界シェアは20%と、米国の55%に次ぎ世界で2番目を占めています(電波新聞・2021年4月27日付『20年の国別半導体市場シェア米国55%でトップ、日本は6%』等参照)。

また、『OTONA LIFE』というウェブサイトに2月14日付で掲載された『スマホ世界シェア「Samsung逆転」Appleを抜きトップ奪取!』という記事によれば、韓国・Samusung製のスマートフォンは世界40ヵ国のスマホ市場で昨年12月、Appleから首位を奪ったのだそうです。

つまり、韓国は半導体やスマートフォンなどの高度な製品・素材を世界中に提供することで大きく潤っている格好で、実際、韓国は長年、貿易黒字を謳歌してきましたし、経済も順調に伸びてきたのです。

(それを支えているのが隣国・日本から調達する高性能の素材・部品・装備である、という事実については、とりあえず本稿では触れないことにしたいと思います。)

貿易収支が赤字に転落

もっとも、ここに来て、長年、韓国経済を支えてきた貿易黒字構造が変化しつつあります。とくに昨年7月以降、断続的に貿易赤字に転落することが増えているのです(図表1)。

図表1 韓国の貿易収支

(【出所】韓国銀行データをもとに著者作成)

また、貿易収支にサービス収支、第一次所得収支(利子・配当所得など)、第二次所得収支を加減して計算した経常収支に関しては、所得収支の黒字でプラスになることもあるのですが、やはり貿易赤字のマイナス幅が大きいためか、これに引っ張られる形で赤字となることが増えています(図表2)。

図表2 韓国の経常収支

(【出所】韓国銀行データをもとに著者作成)

少なくとも2017年3月以降で見ると、韓国の経常収支はコロナ直後の2020年4月を除き、おおむね黒字基調が続いてきましたが、昨年8月にマイナスに転落し、その後はプラス、マイナスを行き来しつつ、今年1月には42億ドルという比較的大きな赤字を計上しました。

配当所得が非常に増えている!

もっとも、直近の2023年3月に関していえば、経常収支はプラス3億ドルと小幅な黒字となったのですが、それと同時に気づくのは、「第一次所得収支」の黒字幅が非常に増えていることです。

図表2については少々見辛いので、ここから第一次所得収支のみを抜き出したものが、図表3です。

図表3 韓国の第一次所得収支

(【出所】韓国銀行データをもとに著者作成)

韓国の所得収支構造は大変に面白く、毎年4月になると巨額の赤字に陥ります。

しかし、とくに2021年5がつに巨額の黒字が発生しているほか、22年12月以降、所得収支の黒字が続いているのです。

これはいったいどういうことでしょうか。

韓国紙「税制優遇で海外子会社からの配当金増」

そのヒントが、韓国メディア『ハンギョレ新聞』(日本語版)に掲載されていました。

マイナス44億ドル…韓国の第1四半期の経常収支、17年ぶりに最大の赤字

―――2023-05-11 07:38付 ハンギョレ新聞日本語版より

とくに3月の第一次所得収支のプラスに関し、同紙には次のように記載されているのです。

国内企業の海外出資会社の配当金流入を中心に昨年同月より3倍以上多い36億5千万ドルの黒字を記録し、経常収支の黒字転換を導いた」。

この説明が正しければ、韓国企業が経常収支を黒字にするために、海外子会社に溜め込んでいる出資金を配当金のかたちで吸い上げた、という意味にも見えます。

これに関連し、ハンギョレ新聞は第1四半期(1-3月期)を通じた経常収支が44億ドルを超える赤字だったとしつつ、その要因が史上最大貿易赤字によるものだったと説明。次のように結論付けています。

第2四半期以降で輸出が回復しない限り、韓国政府と韓国銀行が予想する今年の年間200億ドル台の経常収支黒字達成は難しいものとみられる」。

つまり、今回は配当金を吸い上げることで貿易赤字の大幅なマイナスを賄うことができたけれども、同じ手法は通用しないかもしれない、ということでしょう。

ちなみに第一次所得収支について、ハンギョレ新聞はこう指摘しています。

韓銀のシン・スンチョル経済統計局長は『今年1月から国外現地法人から入ってくる配当収益に対し、法人税減免の恩恵を施行したことで、大幅な第一次所得収支黒字の効果をもたらした』と述べた」。

経常収支の黒字を支えている第一次所得収支は、今後4月の実績が重要とみられる。毎年4月には国内外国人投資家に対する配当金支給が集中し、第一次所得収支が赤字になる可能性が高くなる。第一次所得収支まで赤字に転じれば、4月の経常収支は再び悪化しかねない」。

意訳すれば、「税制優遇で海外子会社から無理やり配当金を吸収したものの、貿易赤字の動向次第では経常収支すら赤字体質に転換するかもしれない」、といったことでしょうか。なんとも興味深いところだと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (7)

  • >この説明が正しければ、韓国企業が経常収支を黒字にするために、海外子会社に溜め込んでいる出資金を配当金のかたちで吸い上げた、という意味にも見えます。

    4月に要するであろう配当の原資を、海外子会社からかき集めたのではないでしょうか?

  • 韓国が日本から半導体や鉄鋼、造船、自動車などの市場を奪ったように、今度は韓国が中国から市場を奪われる段階ということですかね。
    中国は、半導体や自動車などの輸出はまだまだのようですが、韓国から買うものは無くなりつつあるようです。
    韓国の半導体や自動車産業は、海外展開で生き残りを目指すのでしょうけど、国内産業はお先真っ暗ではないでしょうか?
    日韓関係改善に浮かれている岸田首相には、くれぐれも泥棒に追い銭のような韓国支援策は止めて頂きたいです。
    韓国は、過去日韓通貨スワップで息を吹き返したこともありましたが、今回は最早ウォン安でなんとかなるような問題ではないと思われます。
    ただ、ウォン安しか対策はなさそうですので、日韓通貨スワップがあれば日本企業にもそれなりの被害があると思います。
    それにしても、麻生さんが気になりますね。
    麻生さんは、基本的には吉田茂のアメリカ従属路線のようですので、バイデンから韓国を助けてやれと言われているのかも知れませんね。

    • ポスコの電磁鋼板技術が中国に流出して、流出させた韓国人技術者が訴えられた事件がありました。裁判でこの技術者が「あれはポスコの技術ではなく日本から盗んだものだ」と証言して日鉄から流出させた日本人技術者の名前まで出てきました。
      結局ポスコが日鉄に和解金300億円を支払い決着。
      一事が万事これ。韓国企業の価格競争力の源泉は開発費に金をかけないからです。最近問題になっている異常に安い電気料金、これも競争力の源泉。OECDの中で2番目に安いそうです。そのしわ寄せは韓国電力の赤字。公企業のため信用力はトリプルA級。高利で起債して債券市場におおきなゆがみをもたらしているそうです。

      • 韓電は資源高とウォン安に因る赤字で青息吐息のようですね。
        いつまで起債で凌げるのでしょうかね。
        産業用の電気料金を上げると弱っている国内産業に追い打ちをかけますので、一般の電気料金を上げることになるのでしょうけど。
        そのうちローソク革命が起こりそうです。
        伊大統領の命脈も尽きつつあるようですが、韓国ですから想定外の事

        • 文章が途中で消えてしまってますね。
          以下消えた部分の訂正です。

          伊大統領の命脈も尽きつつあるようですが、韓国ですから想定外の事もありそうです。
          何が起こるか楽しみにしています。

  • 1ドル150円になった時日本でも海外子会社からの配当を無税にしたらいいという議論はあったね。
    日本(企業)はカネがうなってるからそこまでして海外から送金してもらわなくてもということ。
    韓国はカネがないんだね。
    米国子会社または欧州子会社から韓国に送金するとき現地で源泉税とられるんじゃないかな?

    もうひとつ海外子会社が必ずしも利益剰余金相当の現預金を保持しているわけではないということ。そのばあいは足りない分を現地で借入することになる。
    いずれ資金繰りが悪化して海外子会社に送金てなことになるのでは。

  • サムスンとかLGとか有力企業があるのに、何故こうなるのか?
    この辺りのこと新宿会計士さんにしっかり解説して頂きたいものです。

    日本から、安くて優秀な部品・半製品を輸入して、しかも優秀な製造設備まで安く提供してもらって、何某かの加工をして一応付加価値を付けて輸出しているのに、何故万年赤字(見せかけの黒字)で、通貨が安定せず、安くて優秀な部品を供給してもらってお世話をしてもらっている国に、更にスワップまで当然の如く要求してくるのか?
    全く、不思議の国のアリス以上に不思議な国ですね。

    要は、貿易黒字になるほどの付加価値が付けられない状態で輸出しているということでは?
    付加価値が国内の溜まらないのだから。
    そうするとダンピング輸出になるのだけれども、その最後のツケを日本が負担するってことになるんじゃないの?これ以上、いろいろお世話すると。
    日本の経団連は、そうするつもりらしいけれど。そんなことするなら、日本国内にもっと投資して国内にお金を落としてください。

    さらに、金も無いのに、借金をして海外旅行に行く国民が、外貨を無駄に使うことも対外収支赤字の一因なのか?
    その借金の原資は、日本の銀行が貸しているんだけれども、日本人は自分で金を使わないで、韓国人に貸し、その借金で旅行に来る韓国人観光客を、おもてなし、といって丁重に扱い、代金を有難く頂いているけれど、そのお金、元々は自分たちのお金なんだけど、というカラクリが分かっていない。
    貸した金は、返ってくるものやら。何しろ、韓国の家庭債務は200兆円以上という数字も出ているらしいので。日本の銀行の赤字要因になり、その要因を消すために、日本国内での投資金利を上げたり、合理化というコスト削減やリストラをやることになり、結局、日本国内のお金が減っていきますね、となりませんか?

    韓国にとっての根本的な解決策は、100年も前の解決済みのことを未だ毎日グダグダ言って時間潰しをしている暇がったら、少しは自分たちで基礎研究開発をして、本当の国力を付ける努力をする方向に舵をきることです。兎に角、国民の意識を変えなくては駄目なんですけどね。

    人間は、何かを他人のせいにしている限り、自分の本来の力付かないのだ、ということが分かっていない、儒教の中には、そんな考えは無いようですから。