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最大野党の地位喪失危機?立民若手が緊急提言するも…

新聞、テレビの社会的影響力がつるべ落としのように下落するなかで、オールドメディアの全面的な応援を受けてきた利権野党の代表格である立憲民主党の「野党利権」も崩壊の危機にあります。産経によると、立憲民主党の若手らが次回衆院選で「200人以上の候補者擁立」などを求める提言をまとめ、泉健太代表に提出したそうですが、その背景には、勝てるはずの補選を落とした立憲民主党の党内での危機感があるようですが…。

最大野党利権を悪用してきた立憲民主党

普段から当ウェブサイトをご愛読いただいている皆さまであれば、当ウェブサイトにおいて「利権」という用語を多用していることにお気づきになるでしょう。

一般に利権とは「不当な利得を固定化する仕組み」と定義されますが、この利権には①得てして理不尽なものであり、②外から壊すのが難しいという特徴があるものの、③いずれ利権を持っている者の強欲や怠惰によりあっけなく自壊するものである、という3つの法則が存在します。

この利権の代表的なものが、「最大野党利権」です。

慣例上、最大野党には国会で大変に大きな権限を持っているからです。そのもっとも大きな問題が、質問時間の采配権でしょう。最大野党は野党全体に与えられた質問時間を各党に配分することができるのです。

ちなみに立憲民主党の前身政党である民主党は2016年1月、日本維新の会の前身である「おおさか維新の会」に対し、野党に配分されるべき質問時間を、維新に配分しないということをやっています。毎日新聞の次の記事がその証拠です。

「民主許せない」…質問時間配分で批判

―――2016/1/13 00:05付 毎日新聞デジタル日本語版より

また、産経ニュースの次の記事によると、2021年2月には、日本維新の会の足立康史・衆議院議員が予算委員会で、当時の立憲民主党で予算委筆頭理事を務めていた辻元清美・衆議院議員(現・参議院議員)の質問時間の配分方法が恣意的であると批判しています。

維新・足立氏、国民より短い質問時間に不満 立民・辻元氏に矛先

―――2021/2/5 20:02付 産経ニュースより

野党議員の質問時間は与党と比べ圧倒的に多い

しかも、ここで忘れてはならないのは、そもそも論として国会における質問時間は、与党よりも野党に対し、厚く配分されている、という論点でしょう。

与野党の質問時間の割合に関する基準などについて、明確に公表されているものは見当たりませんが、報道等から判断するに衆議院ではおおむね3対7、参議院に至って2対8の割合で、与党よりも野党に厚く質問時間が配分されているようです。

その一方で、現実に衆参両院では、与党(自民党+公明党)が議席占有率ではそれぞれ63.44%、58.87%です。

つまり、衆院では全体で63.44%の議席を持っている与党議員が質問時間全体の30%しか与えられておらず、これに対し議席率では36.56%に過ぎないが質問時間全体の70%を持っていってしまうのです。単純に議員1人あたりで見た質問時間の格差は、4.05倍と計算できます。

一方、参院では与野党の議席率は58.87%対41.13%と、衆院と比べて与党の議席占有率は低いのですが、それでも与党には質問時間が全体の20%しか与えられていないとすれば、単純に議員1人あたりで見た質問時間の格差は5.73倍です。

これをまとめたものが、次の図表1です。

図表1 衆参の議席数
衆議院 参議院
与党(自民+公明) 295議席(63.44%) 146議席(58.87%)
野党(自公以外) 170議席(36.56%) 102議席(41.13%)
合計 465議席 248議席
質問時間の割合 与党30%対野党70% 与党20%対野党80%
質問時間の格差 4.05倍 5.73倍

(【出所】衆参両院ウェブサイトを参考に著者作成。議席数は衆院については4月25日時点、参院については5月9日時点のものを使用)

いわば、野党議員になれば、与党議員と比べ、衆院では4倍以上の、参院では6倍近い質問時間を与えられる、という格好です。

立憲民主党の問題、メディアの問題

このあたり、質問時間を野党に厚く配分するという慣例自体は、正当化できるものです。

与党は政権を保持している立場でもあるため、ある議員は大臣・副大臣・政務官として、ある議員は部会などを通じて、それぞれ官庁からヒアリングを行うなど、政府に濃厚に関与することができる一方、野党にはこうした機会が少ないからです。

また、上記図表では与野党の質問時間の格差を「単純に議員1人あたり」で割って求めていますが、与党からは総理大臣、国務大臣、政務官などが選出されるため、たとえば大臣を務めている国会議員が国会で質問に立つというのは非現実的でもあります。

したがって、野党に求められる本来の役割とは、たとえば最大野党の党首が「影の首相」として内閣総理大臣に論戦を挑むなど、国民の見ている前で政策論争を戦わせることであるはずです。

それを視聴した国民が、政府や与党に対し不満を抱くとともに、野党議員の姿を見て、「この政党なら信頼できる」と判断し、それによって政権交代も発生し得る、というのが、民主主義の本来のあるべき姿なのでしょう。

こうした正常な民主主義が機能している場合、与党側も政権を取ってのんべんだらりとしていたら、野党に議席を奪われてしまいますので、政権を失わないためには、日々、緊張感をもって職務に当たるしかありません。官僚にコントロールされるなどもってのほかです。

ところが、日本ではいつのまにか、多くの新聞、テレビといったマスメディア(あるいはオールドメディア)がスキャンダル追及ばかりを報じるようになり、また、野党議員も政策論争ができなくなり、テレビ中継が入っているなかで「大臣をお辞めください」などと格好よく(?)追及することが自分の仕事だと勘違いするようになりました。

つい最近の事例でも、総務省の怪文書を片手に高市早苗・経済安保担当相に辞職を迫った小西洋之・参議院議員、「うな丼を食べた」と発言した谷公一・国家公安委員長の更迭を迫った宮口治子・参議院議員(※どちらも立憲民主党)のようなケースがありました。

現代の日本には、高騰するエネルギー価格、緊迫する安全保障環境など、政策課題がいくらでもあるにも関わらず、最大野党である立憲民主党が「小西文書」や「うな丼」で大臣に辞職を迫るというのも、さすがに国民を舐め切っています。

しかも、産経などの一部メディアを除くと、「(旧)統一教会問題」にみられるように、新聞、テレビの多くは自民党の閣僚や議員の「不祥事(?)」については舌鋒鋭く追及するわりに、野党議員に対する追及については舌鋒が鈍いのです。

こうしたオールドメディアの体質も、野党議員を甘やかしていると断じざるを得ません。

(※余談ですが、新聞の部数がつるべ落としのように急落しているのも、テレビの視聴時間が減っているのも、チューナーレステレビが普及する兆しを見せているのも、ネットの普及だけでなく、なかば新聞業界、テレビ業界の「自業自得」という側面があるというのが著者自身の持論でもあります。)

議席占有率の低さ、そして選挙での弱さ

もっとも、立憲民主党にひとつ、困ったことがあるとしたら、その議席占有率の低さでしょう。

先ほどの図表1に示した野党について、立憲民主党、社民党、日本共産党、れいわ新選組、参院の「沖縄の風」を「野党(左)」と、日本維新の会、国民民主党、衆院の「有志の会」などを「野党(右)」と括ってみると、勢力図は次のように書き換えることができます(図表2)。

図表2 衆参の議席数
区分 衆議院 参議院
与党 295議席(63.44%) 146議席(58.87%)
野党(右) 56議席(12.04%) 34議席(13.71%)
野党(左) 110議席(23.66%) 58議席(23.39%)
その他 4議席(0.86%) 10議席(4.03%)
合計 465議席(100.00%) 248議席(100.00%)

(【出所】衆参両院ウェブサイトを参考に著者作成。議席数は衆院については4月25日時点、参院については5月9日時点のものを使用)

立憲民主党を中心とする「野党(左)」は、衆参いずれにおいても4分の1弱の勢力しか有していないわけですが、この「たった4分の1」が野党利権を悪用し、国会をスキャンダル追及、失言追及の場かなにかだと勘違いしているのは、本当に罪深いことです。

もっとも、この「野党(左)」は、社会党時代から一貫して、基本的には政府の揚げ足を取ることに専念してきた勢力であり、選挙のたびに議席を減らしているという点には注目に値します。

著者自身の持論ですが、これも社会のネット化が進展し、新聞、テレビを中心とするオールドメディアが凋落していることと密接な関係があると考えています。

立憲民主党の若手らが泉健太代表に「提言書」

ただ、立憲民主党関係者がこれに危機感を覚えたのでしょうか、ゴールデンウィークから明けて、こんな動きが出てきたようです。

立民若手ら「200人以上擁立を」 維新に危機感

―――2023/5/8 20:32付 産経ニュースより

産経ニュースによると、立憲民主党の当選1~4回の中堅・若手議員32人は8日、次期衆院選に向け、全289選挙区のうち200人以上の候補者を擁立するよう求める緊急提言を取りまとめて泉健太代表に手渡したのだそうです。

こうした提言が出て来たのはおそらく、とくに日本維新の会が「最大野党」の地位奪取に向けて動き出すなか、選挙に弱い議員を中心に落選への危機感が切迫しているからでしょう。

あれだけ多くの質問時間を得ていながら、立憲民主党所属議員の多くが政府・与党に対するスキャンダル追及、失言追及しかして来なかった(あるいは小西氏のように、そうした強い印象を有権者に与えた)ことを踏まえると、正直、これも自業自得という気もします。

たしかに、立憲民主党は国政選挙のたびに議席を減らしてきました。2021年10月の衆院選では109議席から96議席へと13議席減、22年7月の参院選では45議席から39議席へと6議席減、と、少しずつ勢力が縮小しているのです。

ここに来て、立憲民主党の獲得議席がゼロとなった今年4月の衆参補選が響いたのかもしれません。いや、正確にいえば、「獲得議席ゼロ」ではなく、むしろ2019年の参院選で比例当選した吉田忠智氏がわざわざ辞職して出馬したため、立憲民主党としては、1議席の純減となりました。

(※ただし、吉田氏が比例当選したのは社民党時代でしたので、吉田氏の議員辞職に伴い、社民党の大椿裕子・副党首が社民党枠で繰り上げ当選となっています。)

直近の補選に関しては、これまでこぞって立憲民主党を応援してくれていたオールドメディアの凋落が原因なのか、それとも小西洋之氏の「サル・蛮族」発言が響いたのかはわかりませんが、数字の上では、とくに参院大分では、当初はむしろ、立憲民主党が優勢だったほどです(実際、僅差での敗北でした)。

また、千葉5区や山口2区でも立憲民主党(あるいは立憲民主党系)の候補者が善戦し、自民党候補に肉薄したものの及ばずに落選となりました。

つまり、立憲民主党は、「勝てるはずの選挙」を落としたのです。

最大野党としての地位を失うこと

そうなると、当然、「次回選挙が危うい」と感じている人ほど危機意識が強くなるはずですが、それだけではありません。「最大野党の地位を失うこと」は、立憲民主党にとっての最大の脅威なのです。

つまり、万が一衆院選で当選できたとしても、もしも立憲民主党が次回選挙で最大野党としての地位を失うことにつながれば、いったい何が起きるかは明らかでしょう。質問時間の配分が減り、「政府・与党に対してスキャンダル追及をして存在感を示す」という従来の手法が使えなくなるのです。

しかも、かつて民主党・立憲民主党は、おおさか維新の会・日本維新の会に対し、質問時間の配分をゼロにするという嫌がらせをやったことがあります。自分たちが同じことをやられたら一巻の終わり、という危機感を持っているのでしょう(日本維新の会が最大野党になったときにそれをやるかどうかは別として)。

ただ、こうした変化は、不可避です。

なぜなら遅くとも10年のうちに、紙媒体の新聞の多くは廃刊に追い込まれるからであり、これに加えて例の「チューナーレステレビ」の普及などとともに、地上波も急速に廃れ、新聞業界の後を追うからです。

こうしたなか、一部メディアは「6月の解散総選挙」説を報じ始めました。

解散総選挙そのものについては別途議論したい点があるので稿を分けますが、立憲民主党だけに焦点を絞るならば、じつはこのタイミングでの総選挙は「時間を稼ぐ」という意味では好ましいものといえるかもしれません。

立憲民主党の衆院の現有勢力は97議席ですが(※海江田万里・衆議院副議長を含む)、日本維新の会の側の準備がまだ整っていないとみられるため、うまくいけば今回の総選挙では最大野党の地位をかろうじて維持することができる可能性が高いでしょう。

しかし、日本維新の会は現在、各選挙区への候補者擁立を急いでいるとされており、もしも解散総選挙の時期が今年ではなく来年、再来年などになれば、その分、維新の影響力はさらに増えるでしょう(これは同時に自民党に対する牽制にもつながります)。

その意味では、「立憲民主党が野党第1党でなくなるかどうか」は、まさにこれから数年間の国政選挙における最も重要なテーマのひとつではないかと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (6)

  • >吉田氏が比例当選したのは社民党時代でしたので、吉田氏の議員辞職に伴い、社民党の大椿裕子・副党首が社民党枠で繰り上げ当選となっています。

    比例枠選出者は、「職を辞してから移籍」すべきです。
    有権者は、個人を推した訳ではないのですから・・。

  • 各党各会派においては議員数頭割りの時間計算の元、質問時間の一票格差とか求めてみると…

  • 産経新聞記事の文末で紹介の
    >>別の野党関係者は
    >>「暴れるときはもっと思い切って暴れないとだめだ」
    >>と指摘した。
    (笑)に私も全くもって同感です。

    THE小西議員(以下、略称:ザコニシ)問題で
    せっかくここまで世間の注目を浴びたのに
    へなへな巣ごもりしてる泉代表の弱腰姿勢には、
    いつも顔に青筋立ててるようなコアな支持者さんたちも
    しびれを切らしていることでしょう。

    そうです。
    我慢することはよくありませんし
    政党も人間も正直な姿で
    社会に信を問うべきです。
    立憲民主党はまさに
    日本の秩序とモラルと良識に対し
    総攻撃に撃って出る時ぞ 今デショ!
    の時なのです。

    その意味で、
    ~党風と支持者の生きザマを体現した~
    #ザコニシ立憲民主党党首実現を応援します!
            (^^)/

  • 維新の親中親露疑惑がどうも払拭できません。それが無ければ維新の躍進は大歓迎です。内政は地方で着実に実績を上げてますが、外交が全く分かりません。お花畑外交しそうです。

  • 泉健太は48歳ですが、もう若手では無いんですね。
    確かに「老害」としての存在感を叩き出している感じはしますが。