とあるツイートによると、おそらくABC部数に基づくものでしょうか、5つの主要全国紙がコロナを挟んだ3年間で約23%減っているとする趣旨のツイートがありました。このなかで注目すべきは、5紙のなかで「部数がゼロになる」までの「残り年数」に大きな違いがあることです。朝日、日経、産経の3紙はいずれも7~8年ですが、毎日は11.16年、読売に至っては15.08年です。このことは逆に、新聞によっては紙媒体が「お荷物」になる可能性を示唆しています。
コロナ前後で部数が約23%減少
こんなツイートを発見しました。
ツイートによると、5つの全国紙(読売、朝日、毎日、日経、産経)について、コロナ直前の2020年2月と現時点で手に入る最新の2023年3月を比較したものだそうです(おそらくはABC部数でしょうか?)。
このツイートの内容を信頼するならば、この5紙は合計1883.9万部から1454.1万部へと429.8万部減少した計算で、3年間の平均減少率は22.81%、部数減少率が最も低い読売新聞でも16.98%、最も高い日経新聞の場合は29.36%に達していることがわかります(図表1)。
図表1 コロナ前後の部数の変化(2020年2月→2023年3月)
新聞 | 部数の変化 | 変化率 |
読売新聞 | 776.2万部→644.4万部 | 16.98% |
朝日新聞 | 521.4万部→376.1万部 | 27.87% |
毎日新聞 | 230.0万部→180.2万部 | 21.65% |
日経新聞 | 222.1万部→156.9万部 | 29.36% |
産経新聞 | 134.2万部→96.5万部 | 28.09% |
5紙合計 | 1,883.9万部→1,454.1万部 | 22.81% |
(【出所】上記ツイート)
残り年数にはかなりのバラツキがある
ちなみにこの減少速度、一般社団法人日本新聞協会が公表している『新聞の発行部数と世帯数の推移』というデータから判明する数値とも、ほぼ整合しています。
日本新聞協会のデータによれば、2019年10月1日時点の朝刊部数(「セット部数+朝刊単独部数」、一般紙、スポーツ紙を含む)は3697.6万部でしたが、これが3年後の22年10月1日時点だと3032.9万部にまで減っています。3年間の減少幅は664.8万部、減少率は21.92%です。
また、該当するツイートに戻り、この約3年間の部数減少速度から「1年あたりの平均減少部数」を逆算し、その減少ペースが続いたものと仮定して、2023年3月を起点にそれぞれの新聞の部数がゼロになるまでの年数(残り年数)を求めてみたものが、図表2です。
図表2 新聞部数がゼロになるまでの年数
新聞 | 年間平均減少部数 | 残り年数 |
読売新聞 | 42.7万部 | 15.08年 |
朝日新聞 | 47.1万部 | 7.98年 |
毎日新聞 | 16.2万部 | 11.16年 |
日経新聞 | 21.1万部 | 7.42年 |
産経新聞 | 12.2万部 | 7.89年 |
5紙合計 | 139.4万部 | 10.43年 |
(【出所】上記ツイートを参考に著者作成)
もちろん、ここでいう「残存年数」は、コロナ禍という一時的な要因もありますので、この調子で部数が減少していくというものとは限りませんが、中・長期的な傾向としては、だいたいこの通りと考えておいて良いでしょう。
ここで注目すべきは、残り年数にかなりのバラツキがある、という点です。
5紙平均だと10.43年ですが、最も長い読売で15.08年、最も短い日経新聞で7.42年と弾き出されます。また、5紙以外にも地方紙などが含まれていると推測される日本新聞協会のデータで同じ計算をしてみると、朝刊部数がゼロになるまでの「残り年数」は13.69年と、上記図表2と比べてさらに長めです。
このように考えていくと、読売新聞と毎日新聞の部数減少速度が緩やかである(あるいは逆に、朝日、日経、産経の部数減少速度が急速である)のには、何か「理由」があるように思えてなりません。
朝日、日経、産経の3紙は「水膨れ」を整理したのか?
もう少し踏み込んで申し上げるならば、朝日、日経、産経の3紙に関しては、紙媒体の新聞が消滅することを見越し、その準備に入っているのではないか、という仮説が成り立ちそうです。つまり、新聞業界全体で、何らかの理由(たとえば「押し紙」など)で部数が水膨れしていたのを整理し始めているのかもしれません。
たとえば『新聞値上げ、実は「戦略的縮小」の布石だった可能性も』でも提示しましたが、朝日新聞が5月のタイミングで500円の値上げに踏み切ったこと自体、新聞事業をうまく撤収するための布石である、という可能性は成り立ちます。
新聞業界の苦境はむしろ「値上げできない新聞社」に現れるとあるウェブサイトの報道によると、某大手新聞社が希望退職の募集などに踏み切った、などとあります。これについては情報が不完全であり、具体的な実施時期や条件などについてはよくわかりませんが、ただ、ここでちょっとした「仮説」が浮かぶこともまた事実です。極端な話、不動産などの優良資産を抱えている社の場合だと、新聞は「第三種郵便物」の認可が得られるギリギリの500部まで減っても良い、という判断が働く可能性があります。そして、むしろ注目すべきは「値上げし... 新聞値上げ、実は「戦略的縮小」の布石だった可能性も - 新宿会計士の政治経済評論 |
じつは、株式会社朝日新聞社の連結財務諸表を分析していくと、不動産事業に加え、株式会社テレビ朝日ホールディングスなどの持分法投資利益でかなりの利益を叩き出している状況にあるため、無理して新聞事業で収益を出す必要はありません。
極端な話、新聞事業については最低限、赤字にならない程度の部数(あるいは第三種郵便物認可を維持するだけの部数)があればよく、残り数年で紙媒体の新聞事業を大幅に縮小し、新聞事業を朝日新聞デジタルにほぼ全面的に移管させれば、何とかビジネスが回っていく可能性があります。
また、日経新聞と産経新聞に関しては、あくまでも想像ベースではありますが、電子会員が順調に増えていて、紙媒体の発行を止めても存続できるという目途が立っているのかもしれません。
とくに株式会社日本経済新聞社のケースだと、日経新聞に加え、数年前に買収した英Financial Times紙のウェブ版は、それぞれ決して安くはありませんが、ビジネス需要もあって、有料契約がそれなりの件数に達している可能性があります。
さらに株式会社産業経済新聞社の場合は、逆に有料版は月額550円と「お手頃」ですので、契約件数さえ取れれば、ウェブ版でも十分にやっていけるという判断があるのかもしれません。
つまり、株式会社朝日新聞社は「不動産+テレビ局(持分法)」、株式会社日本経済新聞社は「日経電子版+FT電子版」、株式会社産業経済新聞社は「産経ニュース」をそれぞれ収益の柱として存続していける、という仮説です。
人員削減は必至:3紙以外はさらに厳しい状況に!?
ただし、どの場合であっても、新聞事業の人員の大幅な削減は避けられないでしょうし、全国の宅配網の縮小も今後の課題となり得ます。おそらく、新聞事業ではあと数回、大規模な早期退職制度が実施されるのではないでしょうか。
正直、新聞「紙」の使途は限られているからです。
参考:新聞紙(何も印刷されていないもの)
(【出所】アマゾンアフィリエイトリンク)
また、新聞絶滅に備えているメディアは良いかもしれませんが、「紙媒体」から撤収できない会社の場合は、なかなかに厳しそうです。逆に紙媒体の新聞が「お荷物」となるかもしれないからです。
これに加えて、新聞社のウェブ戦略は、あまりうまくいっているようには見受けられません。
先日の『朝日朝刊3ヵ月で7万部減なのに「有料会員数」横ばい』でも指摘しましたが、株式会社朝日新聞社が公表する「朝日新聞メディア指標」によると、紙媒体の部数は3ヵ月で7.7万部も減少する一方、有料デジタル会員数は30.5万人からまったく増えていないからです。
株式会社朝日新聞社が公表している「朝日新聞メディア指数」を巡り、昨年12月末と今年3月末の数値を比べると、新聞朝刊部数が7.7万部落ち込んでいるのに対し、朝日新聞デジタルの有料会員数がまったく増えていないこととが判明しました。最大手の一角を占める株式会社朝日新聞社ですらこうなのですから、他社の状況も「推して知るべし」、といったところです。その一方、暇空茜氏は毎日新聞社からの質問状とそれに対する回答のやり取りを、毎日新聞が報じる前に公表してしまったようです。新聞の影響力は20年で3分の1に!暇空茜氏、... 朝日朝刊3ヵ月で7万部減なのに「有料会員数」横ばい - 新宿会計士の政治経済評論 |
最大手である朝日新聞ですらこういう状況なのですから、それ以外のメディアに関しても、やはり相当の苦戦が予想されます。
これが日経電子版やFTなどを擁する株式会社日本経済新聞社、他社があまり取り上げない記事を積極的に配信している株式会社産業経済新聞社のように、コンテンツに独自性があれば、まだ救いはあるかもしれません。
しかし、決してクオリティが高いとはいえない日本の新聞社が紙媒体を廃して電子化したところで、損益分岐点を超えるほどのウェブ契約を多数獲得するのは、正直、至難の業です。なにせ、ウェブ上では無料または低廉で高品質な情報が溢れているからです。
逆にいえば、「情報配信で儲ける」という意味では、ウェブ空間も決して「ブルーオーシャン」ではありません。
著者自身も当ウェブサイトを運営していて痛感するのですが、一般にページビュー(PV)は一定水準に達すると頭打ちになります。日本語人口は一定なのですから、そうなるのもある意味では当然のことでしょう。
このように考えると、「ネット対新聞」、「ネット対テレビ」ではなく、新聞もテレビも、ウェブ評論サイトもポータルサイトも、いずれネットという「共通空間」上で競い合う関係になるのではないでしょうか。
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ホテルで。最近は必ずしもそうではないようだが、いわゆるシティホテルというカテゴリのホテルは朝刊を部屋まで無料で届けてくれるところがある。10年以上前はそういう宿泊料の高いホテルは何処でもそうであった。
対照的に、会社員出張者がよく利用するビジネスホテルでは朝刊が欲しいなら、フロントで一部売りの定価で購入していたものだ。ところが、そういったビジネスホテルでは10年以上前から様子が違ってきたようだ。
フロント横に、自由にお持ちください、と新聞が詰まれるようになった。その新聞は最初のころは決まって産経新聞だった。ところがいつの間にか、読売、朝日など最大手の新聞まで無料配布をするようになった。そうして、ホテルフロントに新聞が積まれ無料配布されるシーンこそ新聞業界の現状を表しているのだな、と理解した。
そころで、それらの無料配布の新聞はABCの発行部数に含まれるのだろうか。全国のビジネスホテルでそうであるなら、かなりの部数になるはず。誰かが一度は手に取ってくれたら、読者に届いていると言えないこともなかろう。そうであるなら広告主に対しても、部数を偽っていることにもならないのかもしれない。まるで、家庭の郵便受けに勝手に放り込まれる広告満載のフリーペーパーのごとく。
ホテルでの新聞無料配布は広告料稼ぎのための部数維持のためなのかと疑うことはあまりに無責任かもしれないので、保留しておく。
コロナ前は、ファミレスでも、朝刊が座席に置いてあったそうです。勿論、無料です。
私が知るホテルの事例ですが、
1)客室までお届けの場合
ホテルが新聞販売店と契約し、ホテルが費用を負担して宿泊客へのサービスとして提供しています。個室へのお届けは販売店の配達の方にお願いしています。
2)ご自由にお取りくださいスタイルの場合
ホテルが新聞販売店と契約し、ホテルが費用を負担してサービスとして提供しています。
費用は納入数ではなく、設置場所から減った数=「読まれた部数」と判断して清算します。
ファミレスの事例は存じません。
いちばん上に書き込みをしたものです。
自由にお取りくださいスタイルについて。
なるほど。
ビジネスホテルに宿泊して部屋や館内の様子を眺めると、できる限りコストカットしようという姿勢がありありで、自前で費用を負担してまで顧客に新聞を提供するというのは俄かには信じがたいことですが、それが事実であるなら、知らずに無責任なことを言うものではないですね。情報をありがとうございました。
まあ、どうでもいいことですが、ファミレスの無料新聞について、以下のような
記事を見つけました。
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1601/05/news033.html
https://shachuhaku-camp.com/gourmet/jonathan-morning-181123/
ご参考までに。
つまり、読売新聞と毎日新聞の部数減少速度は緩やかである為、両社は未だ大した対策をとってないのか、既に限界突破と見ているのでしょうか(笑)。M社の場合、もう身動き出来ないと思います。宗教系新聞が印刷中止にしたら、一気に沈没か・・・。
朝日は不動産業にシフトして最少部数さえ守れば「朝日新聞」の名は残る、とでも考えているかもしれません。日経はFT版、産経はweb550円均一に絞ったというのは、当たっていると思いますね。また「水膨れ」を早めに整理したのでしょう。余命が短い長いは、こうなると一概に言えないです。またマスコミ界に就職しようという、就活生は更に更に減り、「ブラック企業」以上の「不人気業種」となる事も考えられます。
最近の朝日は何か吹っ切れており、会計士様のおっしゃる様に、新聞業に見切りをつけ、最低限の発信力を残せれば良い感があります。
対する読売は主筆の紙へのこだわりが強く、古い従来路線を継続か。
最近、謎の部数キープを継続中の毎日他、各社5年先にはどうなっていることやら。
保険会社みたいに合併して「毎朝日産売新聞」とかにならないのですかね。毎朝日産自動車株を売ってる変な人みたいですけど。
大本営発表の一つの記事しかなくなりますね。
そんな新聞は、多分要らないかもしれませんね。
大本営発表とは違いますが、
多少の味付けの違いはあれども横並びになっていて、
一つの記事しかないようなものですよ。
読売新聞は、最後には残る一強の座を見据えているのではないでしょうか?
業界が縮小していっても、かなり長く最後の一社は残るのではないでしょうか?
>>>一般にページビュー(PV)は一定水準に達すると頭打ちになります。
その商品やサービスに合う顧客の層と数には限りがあるのだから、当然の事ですね。
これを分かっていないで、経営の方針方向を変えると、顧客がヒットしなくなる事がありますね。
例えば、いきなりステーキ。これについては詳しく書く必要がないくらい、傍から見れば経営方針の変更はオカシナ事でした。
自社の顧客のいない所へ出店を展開していったのですから。
最近、記事になったシャウエッセンの値上げは、国民の収入が変わらないままなのに、値上げしたので、顧客の層の薄い方へ価格帯がシフトしました。
標準偏差のグラフの右側に位置していた商品だったが、更に右側の顧客数が少ない方へシフトしたんですね。だから、売り上げは減るんでしょう。
国民の収入も上がっている状況であれば、価格の上昇を市場は吸収できたでしょうけれど。
このサイトは、そもそも収益を目的としているのか分かりませんが、このサイトのテイストに合う層も限られているでしょう。
コメント投稿者の数も限定しているようですし。
しかし、自分に合う顧客の層と数を把握していれば、無理な拡張や路線の変更はしないでしょう。
演歌歌手は、3000人と握手すれば、一生食べて行けるそうですから。
考えてみれば、企業は、2割の顧客から8割の収益を得ていると言われています。
朝日も値上げを小刻みに繰り返して、コア購読者の数を把握しようとしているかも知れません。
朝日は、記事内容はともかく、経営は上手いようですから。
折り込み広告の単価高騰の影響もあって1地域あたり1強のみ生き残るのではないか(広告主も複数社にチラシを依頼する余力が無い)と、以前どなたかが言われてましたが、今のいわゆる全国紙も今後は例えば首都圏ローカル紙として生き残るのかもしれません。
もし興味のある方がいらっしゃれば
都道府県別新聞シェア
https://www.otokunamiyateu.com/entry/newspaper-share
値上すること自体は経営として何も間違ってない。むしろ正しい。
値上をしなかったら、売り上げも利益も、もっと減るかもしれない。
新聞業界の問題は値上げしようがしまいが顧客が減り続けること。
朝日新聞の戦略
朝日新聞デジタル総合ガイド
https://digital.asahi.com/info/price/
デジタルのみのコースはベーシック・スタンダード・プレミアムの3コース
新聞紙の値上げにより値段の安いデジタルプレミアムコースへの移行を期待したとの見方もできます
宅配+デジタル 宅配+1000円(宅配6か月契約は+500円)
※読売新聞の場合 宅配契約者はデジタルコンテンツ無料です
5月11日付け地方紙(共同通信)1面、ついに出ました。「日米欧の3割以上がSNSは民主主義に悪影響」。爆笑。利権の法則第3項発動。
補足です。茨城新聞です。中身を読めば、「SNSは好影響」のほうが多い。にも拘わらず大文字見出しはかくのごとし。切り取り扇動そのもの。本当にオールドマスコミは「俺たちはえらい。人民を啓蒙、オルグする。」と本気で思っているのですね。
安部さんには太刀打ちできなかったので高市さんを攻撃し、それもうまくいかなかったのでついにSNSを攻撃しはじめたのです。哀れなり。
朝日に続いて毎日も値上げのようですね。
朝夕刊セット版を4900円 朝刊のみの統合版を4000円
どちらも600円の値上げ
6月1日から