韓国の尹錫悦（いん・しゃくえつ）大統領が「日本は普遍的価値を共有するパートナー」と呼んだのだそうです。国際法違反の自称元徴用工判決を放置し、自衛隊機に火器管制レーダーを照射してくる国が、わが国と普遍的価値も共有しているといえるのか、パートナーといえるのか、といった点はツッコミどころです。ただ、それ以上に尹錫悦氏の演説を眺めていて気付くのは、その内容の薄さです。

ある程度予想されていたこととはいえ、やはり現実に目にすると、なんとも言えない気分になります。

韓国の尹錫悦（いん・しゃくえつ）大統領は「３・１独立節記念式典」で演説し、日本を「私たちと普遍的な価値を共有する安全保障と経済、そしてグローバルアジェンダで協力するパートナー」と呼んだのだそうです。

●●独立宣言の精神を継承し、自由、平和、繁栄の未来を築いていきましょう【※韓国語】

―――2023/03/01付　韓国大統領府ウェブサイト『大統領の言葉』より。なお、「●●」部分は解読できなかった箇所を意味する

韓国大統領府ウェブサイトの記載から尹錫悦氏の日本に関連する発言を抜粋すると、こんな具合です。

「３・１運動から１世紀が過ぎたいま、過去に軍国主義の侵略者だった日本は、私たちと普遍的な価値を共有し、安全保障と経済、そしてグローバルなアジェンダで協力するパートナーになりました。とくに、複合的な機器や深刻な北朝鮮の核脅威など、安全保障危機を克服するための韓米日３ヵ国協力は、これまで以上に重要です」。

正直、困惑するよりほかありません。

国際法に反した判決を下し、日本企業の権利を侵害しているだけでなく、日本の自衛隊機に火器管制レーダーを照射しておきながら開き直るその態度は、わが国と基本的価値を共有していると称するにふさわしいものではないからです。

もっとも、これに関して韓国メディア『聯合ニュース』（日本語版）は、「韓日両国間の最大の懸案である徴用被害者への賠償問題を巡る交渉が大詰めを迎え、今年上半期の韓日首脳会談開催が予想されている現状が反映されたとの見方が出ている」、などとも報じています。

日本との「パートナーシップ」前面に　独立運動記念日の演説で方向性一新＝韓国大統領

―――2023.03.01 14:34付　聯合ニュース日本語版より

そのうえで、聯合ニュースはこうも述べます。

「韓日両国は、外交当局を中心に徴用被害者への賠償問題を巡る協議に全力を挙げている。このような中、韓日関係を表すバロメーターといえる三・一節の演説で尹大統領が日本との協力を前面に押し出したことで、韓日首脳会談の開催に関する議論がまとまるかにも関心が集まる」。

韓国側のフィルターを通せば、自称元徴用工問題を巡る日韓協議も「大詰めを迎えている」ように見える、ということでしょうか。

この点、聯合ニュースによると大統領室関係者は、自称元徴用工問題関連の交渉が「今月中に妥結する可能性」について「まだ断言するのは難しい状況」と述べたのだそうですが、これも非常に怪しい限りです。

今朝の『自称元徴用工の現状①日韓協議は「進展」しているのか』でも取り上げたとおり、正直、自称元徴用工問題を巡る日韓協議は、（あくまでも外から見た限りは）現在のところ、停滞しているように見受けられるからです。

いずれにせよ、日韓協議については私たち日本国民としても予断することなく、慎重に見守る必要があることだけは間違いありません。

ただ、それと同時に、韓国大統領府の発表文を読んで抱く違和感があるとすると、その「短さ」です。

文在寅（ぶん・ざいいん）前大統領のころだと、翻訳エンジンで日本語訳すると数千文字という長さになることも多かったのですが、今回の尹錫悦氏の演説は、直訳してもわずか1000文字少々とあっさりしたものです。内容も抽象的なものが多く、大変失礼ながら、個人的には「まったく心に響かない」代物です。

また、北朝鮮の核への脅威や「世界的な複合危機」などに言及はありますが、ロシアによるウクライナ侵略、中国による違法な海洋進出といった、西側諸国であれば当然に注目しておくべき重要な話題に対する言及はありません。

というよりも、尹錫悦氏の演説では、「日米韓」で間接的に米国に触れられているのを除けば、触れられている具体的な国名は日本と北朝鮮だけです。ほかの国は、いったいどこに行ってしまったのでしょうか？

個人的には政治家の演説を見聞すると、どうしても故・安倍晋三総理のそれを思い出してしまうのですが、「自由で開かれたインド太平洋（ＦＯＩＰ）」を含め、地球儀を俯瞰するような視点が多かった安倍総理の演説と比べ、尹錫悦氏の演説には具体的なビジョンが見え辛いようです。