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    Categories: 外交

ウクライナ大統領がイジウム訪問

ウクライナのゼレンスキー大統領がロシアから奪還した物流の要衝・イジウム(イジューム)を訪問し、人々を鼓舞したそうです。その一方でロシアではミシュスティン首相が「西側諸国の経済制裁にも関わらず、ロシア経済は揺るがない」、「むしろ西側諸国が物価上昇や来るべき冬の資源不足を懸念している」などと強がりを述べているようです。本当にわかりやすい国だと思ってしまうのは気のせいでしょうか。

ウクライナや英国の情報は正しかったのか

ウクライナ戦争において、ウクライナ側が戦略上の要衝をいくつか回復したらしい、などとする話題については、当ウェブサイトでは英国防衛省などの情報を参考に、日曜日の『ウクライナの積極攻勢で「数千人のロシア兵」が孤立か』でも取り上げたとおりです。

ウクライナ戦争で転機が生じつつあるのかもしれません。英国防衛省が昨日出した『インテリジェンス・アップデート』などを読むと、ウクライナ軍がハルキウ州のロシア占領地域を一気に東西に横切り、一点突破方式で50㎞ほど侵攻した可能性があります。とくにハルキウ州を南北に流れるオスキル川の起点であるクビャンスクという街を制圧したとする報道が事実なら、イジウム周辺に展開しているロシア軍が補給を失い孤立する可能性が出てきました。半年目にして大きな転機?ウクライナ戦争開始から、すでに半年以上が経過しました。開戦前...
ウクライナの積極攻勢で「数千人のロシア兵」が孤立か - 新宿会計士の政治経済評論

ただ、今週日曜日の時点では、「ウクライナの反転攻勢」については英国やウクライナの公式発表などを主な情報源としていました。このため、「ロシア・フレンズ(?)」の皆さんから見ると、情報源としてはさまざまな不満があったのではないでしょうか。

このあたり、ロシア政府やロシアのメディアは頻繁に虚偽の情報を流しているからであり、「ロシア・フレンズ」の皆さんからすれば、おそらくは英国やウクライナ側もロシア側と似たようなウソを流しているのではないか、といった「自己投影」でもあるのかもしれません。

ゼレンスキー大統領がイジウムを訪問

ただ、結論的にいえば、先日紹介した英国防衛省やウクライナ政府などの発表は、虚偽ではありませんでした。

BBCによると、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、先日ウクライナが奪還した、物流の要衝であるイジウム(イジューム)の街を訪れたのだそうです。

Ukraine war: President Zelensky visits city recaptured in rapid counter-offensive

―――2022/09/15付 BBC NEWSより

BBCは「ここ数日、ウクライナ軍は占領地の大部分を取り戻し、ロシア軍を撤退に追い込んでいる」としつつ、ウクライナ軍が「今後はドンバス地方東部の街の奪還を目標にしている」、などとしています。

このあたり、BBCは「ウクライナが奪還した地域の正確な面積は、BBCとしては確認していない」、などとしているのですが、先週まではロシアが兵站の拠点にしていたイジュームをゼレンスキー大統領自身が訪問したくらいですから、戦況がかなり変わったことだけは間違いありません。

ちなみにBBCによると、ゼレンスキー大統領は「ロシア軍に占領されたウクライナの全領土を奪還する」とも宣言したそうであり、また、ウクライナ側は、ロシアが自軍部隊の逃亡を防ぐための「バリア部隊」を配備しているとも述べたのだそうです。

ただ、ウクライナがロシアの占領地のうち、ハルキウ州を回復したことについては間違いないにせよ、ロシアによる占領地は、依然としてドンバス(自称「ドネツク人民共和国」・「ルガンスク人民共和国」)やクリミア半島、ヘルソン州などに及んでおり、これらのすべてを「回復」するまではまだ時間がかかるでしょう。

ロシアの首相は「西側制裁に困っていない」

こうしたなか、ロシアのメディア『タス通信』(英語版)によれば、ロシアの首相が「長期戦」を前提に、あたかも西側諸国の経済制裁が効いていないかのような発言を行ったようです。

West failed to eject Russia from global economy, says PM

―――2022/09/15 00:14付 タス通信英語版より

タス通信によると、ロシアのミハイル・ミシュスティン首相は水曜日、連邦予算案に関する会議で、「米国が主導する西側諸国はロシアを世界経済から追い出すことに失敗している」としつつも、「今後も彼らはロシアを配乗する動きを続けるだろう」と指摘。

「西側諸国がわが国を世界経済から追い出そうとするその試みは、世界の市場における価格暴騰に加え、これから到来する冬をどう乗り切るかという恐怖をもたらした」、などと述べたのだそうです。

そのうえでミシュスティン氏は、西側諸国の制裁には2つの目標――ロシアの金融システムを不安定化させることと、サプライチェーンの崩壊を通じてロシアの潜在力を弱めること――に置かれていると指摘。次のように述べたのだとか。

ロシア経済は揺るがなかった。政府や中央銀行が迅速に実施た措置により、国内の金融秩序も安定が維持され、多くのプロジェクトの改革が達成されるとともに、企業・市民の最も脆弱なグループを支援することが可能になった」。

このあたり、どこかの国が「日本の輸出規制にも関わらず、わが国は素材・部品・装備の国産化で乗り切った」、などと騙っているのを思い出してしまいますが、気のせいでしょうか。

いずれにせよ、自分たちが困っているときに、その一番困っている点について「困っていない」と言い張る癖があるのは、独裁国家ならではの特徴なのかもしれない、などと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (7)

  • ロシア軍のメッキが剥がれ、コーカサスの混乱に拍車がかかっています。
    もう、ロシアの言うことを聞く国はいないんじゃないかな。
    プーチンは、斜陽帝国にトドメを刺した大統領として歴史に名を残しそうです。

    ジョージア当局、対ロシア「第二戦線」開設の国民投票を提案(機械翻訳)
    https://charter97.org/ru/news/2022/9/13/515555/

    ウクライナ快進撃の後の、その他諸々。

    ISW:ロシアの攻撃キャンペーンの評価、9 月 13 日(機械翻訳)
    https://www.understandingwar.org/backgrounder/russian-offensive-campaign-assessment-september-13
    ・クレムリンはハリコフ州での敗北を認めた。これはロシアがこの戦争で認めた最初の敗北である。クレムリンは、プーチン大統領から非難をそらし、代わりに彼の軍事顧問に起因している。
    ・ウクライナにおけるロシアの軍事的失敗は、旧ソ連におけるロシアの影響力を弱め続けている。ロシアは、アルメニアとアゼルバイジャンの間で仲介した違反の停戦を実施する意志がなく、アルメニアがロシアの支配する集団安全保障条約機構の規定を援用することを認めていないようである。
    ・ウクライナ軍は、ドネツク州北部のライマン-ヤンピル-ビロホリフカ線に沿って地上攻撃を続けている可能性が高く、ハリコフ州のオスキル川を越えて限定的な地上攻撃を行っている可能性があります。
    ・ロシアとウクライナの情報筋は、進行中の南部の反撃の一環として、ウクライナ軍がヘルソン州の 3 つの地域で地上作戦を継続していることを示した。
    ・ロシア軍はバフムートの南で段階的に前進し、ドネツク州全体で地上攻撃を続けた。

  • ちょっとおもしろかったのでご紹介。

    露への経済制裁開始後、並行輸入(密輸入)でしのぎ始めていると伝えられていましたが、その実態がわかってきたと、メデューサの記事です。
    ものによって輸入可能/不可能があって、可能であっても時間はかかり価格も上がる。困っているのは間違いないですね。

    ロシアでの並行輸入は、すでに半年前から行われています。これは密輸と同じですか?彼は国を赤字から救ったのですか?薬やiPhoneは値上がりした?
    https://meduza.io/feature/2022/09/13/parallelnyy-import-rabotaet-v-rossii-uzhe-polgoda-eto-to-zhe-samoe-chto-kontrabanda-on-spas-stranu-ot-defitsita-a-lekarstva-i-ayfony-silno-podorozhali
    ・もちろん、配送ルートは輸送の速さやコストで選ぶのではなく、成功する確率を考えて選ぶことは言うまでもない。商品の種類や配送方法によってタイミングは異なります。例えば、ロシアへのチップの輸送は10週間から60週間まで伸びました。
    ・海外から100個の部品を輸入して最終製品を組み立てる場合、そのうちの1個でも納品されないと、生産工程全体が遅くなってしまう。
    ・「権利者から大型機器をカザフスタンから列車で夜間に密輸するのは難しい」と説明する。ガスタービンや航空機の部品は無理です。だから、ロシアの政治家は「タービンを納入しないなら(ガス供給を)凍結する」と一喝するしかないのだ。
    ・ロシア人にとって幸いなことに、外国の製薬会社は国内市場への投資停止を発表したが、必要不可欠な医薬品の供給は続けると約束した。ですから、必要不可欠な医薬品が失われることはまずないでしょう。
    ・所詮並行輸入は火事場対策であって、予測可能な安定した供給はできない。

  • 独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
    (そう言っておかないと、色々と逆切れされそうなので)
    日本の高齢者を中心に、「みんなで知恵をだしあって、戦闘をやめさせるべきだ」と言っている人がいますが、「どうなることを理想として、知恵を出し合うのか」ということをハッキリさせなければならないと思います。つまり、(極論ですが)「ウクライナ軍またはロシア軍全員が捕虜、または戦死しても戦闘が終わればよいのか」、「仮に明日、戦闘が再開しても、今日は戦闘が終わればよいのか」、「自分の目にも耳にも入ってこなければ、遠くの国の現実は、どうなってもよいのか」ということです。(ロシアとウクライナでは、最終的な目標が違いすぎるので、どちらか又は双方が、目標を引き下げない限り、(日本人の好きな)話し合いでの解決は、開始すら出来ないでしょう)
    駄文にて失礼しました。

    • 開戦当初、「早く降伏するのが国民のためだ」なんて言ってた「自称頭の良い左巻き芸能人(玉川クンを含む)」が何人も居ましたが、どうしてるんでしょう?

  • 本日の朝日新聞【天声人語】欄(相変わらず惰性で購読を続けています)。

    >身勝手な侵略、戦場での残虐行為、国内の言論弾圧…。ロシアの行動はかつての日本を思わせる。

    ロシアの区議会で出てきたプーチン弾劾の動きについて触れたあとに突如でてくる、このフレーズ。後に続く日本の政府、軍部、国内動向などの記述も含め、ボリュームとしては全文の半分に満たない程度ですが、まあこの新聞のこれまでの有り様からして、ロシアを出汁にして、言いたかったのはむしろこっちの方かとつい勘ぐってしまいます。

    戦地において日本軍が模範的に振る舞ったなどという気はさらさらありませんし、実際に戦地に身を置いた人のほとんどが鬼籍に入ったいまでは、朝日が何を書こうが、その当不当を論ずるのは、水掛け論になるばかりで得るところはないでしょう。

    ただ、外地に攻め入り戦闘行為をおこなったとき、いかなる大義名分でそれをおこなおうが、現地の人にとっては侵略軍。反感を生み、反抗が起きるのは避けがたい。それを少しでも低減するために、少なからぬ宣伝・慰撫部隊が送り込まれ、(余裕のあるうちは)民生の向上を図り、現地民の感情悪化を少しでも防ごうと努めるものです。それが常識。無論日本軍だってそれには力を入れていました。だからこそ、周囲のすべてが敵と言って良い大陸で8年間も戦闘を継続することができたのだと思います(それを以て、よくやったという気持ちはありませんが)。

    今回のウクライナ侵攻を見ていると、開戦早々にブチャでの残虐行為が明るみに出たように、ロシア軍にはどうもそうした知恵はないように思えます。これから後も、占領地の住民の感情を少しでも良くしようとする配慮などそっちのけで、只管恐怖を植え付けることで抑え込もうとした実態が、次から次へと表に出てくることでしょう。

    情報宣伝戦でロシアはウクライナにボロ負けというのはよく言われることですが、この天声人語の筆者など、果たしてしてその意味を理解しているのか。おおよそこうした複雑な問題の根底にある部分を、わずか数百語の短文で読者に気付かせるほどの見識は、とてもお持ちでないように感じてしまいました。

  • >「困っていない」と言い張る癖があるのは、独裁国家ならではの特徴なのかもしれない、などと思う次第です。

    言われてみれば!
    高橋是清「困っているのでお金を貸してください」
    金子堅太郎「困っているので講和の仲介してください」
    ゼレンスキー「困っているので支援してください」
    ロシア「べ、別に困ってなんかいないんだからね!」
    確かにw

    あとロシアはウクライナの非ナチ化という設定を思い出してほしい。
    いや、嫌味でなく。
    だってこの設定なら
    「ゼレンスキーは非ナチ化を確約した。世界の耳目を集めロシア系ウクライナ人の安全は保証された。我々の勝利だ。同士諸君、さあ凱旋だ!」
    という体で撤退できる(いやマジで

    もちろん世界から
    「見えない何かと戦って勝手に自滅して勝利宣言した」
    と嘲笑されることくらいは甘受するw