どんな議論も前提条件が誤っていれば、どんなに正しい考察であっても、結論がおかしなものになります。ましてや考察過程に問題があれば、なおさらのことでしょう。韓国メディア『中央日報』(日本語版)に本日、自称元徴用工判決問題を巡って「文喜相(ぶん・きそう)案をベースにした解決策をわが国が先制的に日本に提案しよう」とする主張が掲載されました。これなど、前提条件も考察も結論もすべて間違っているという典型例かもしれません。
目次
「前提条件+考察=結論」
「議論」というものは、慣れてくれば大変に面白いものです。
たいていの議論は、「前提条件」と「考察」があって「結論」に至るのですが、前提条件が同じであっても、考察次第では、まったく異なった結論が出て来ることもあるからです。
たとえば、「2018年10月30日、韓国の大法院は被告である日本企業に対し、原告らに1人あたり1000万円相当の金員を損害賠償として支払うことを命じた」という「事実」があったとしましょう。
これに関しては、議論する人によっては「2018年」の部分を「平成30年」と称するかもしれませんし、「被告である日本企業」を「新日鐵住金(現在の日本製鉄)」と呼称するかもしれません。あるいは「韓国の大法院」を「韓国の最高裁」と言い換えるかもしれませんが、こうした細かい言い換えは、この際無視します。
ここでは、「そのような判決が出た」ということを前提条件として、どのような立場からどのように議論するかという点に、知的好奇心を刺激する材料が詰まっています。
たとえば、純粋な法律論からすれば、「たしかにそのような判決が韓国の国内で下されたことは事実だが、それと同時にこの判決内容自体は、1965年に日韓両国が取り交わした日韓請求権に反する状態を作り出している」、ということが言えるでしょう。
前提条件の「さらに前提条件」が異なれば
ただ、同じ前提条件でも、考察が異なれば結論が代わってくる可能性がありますし、前提条件のさらに前提条件が異なれば、やはり結論が変わって来る可能性はあります。
実際、自称元徴用工判決問題を巡っては、「そもそも強制徴用された人々に対し、これまで日本政府や日本企業が真摯に向き合ってこなかったという問題がある」、「判決自体が国際法に抵触する可能性があることは事実だが、こうした人々の救済に道を開いたという側面もある」、と主張されることもある四津エス。
そして、もしそのような立場を取るのであれば、その議論の結果出て来る結論は、「この大法院判決は決して不当なものではなく、むしろ歴代の韓日両国政府の不作為を韓国大法院がただしたという意味では、画期的なものだ」、「日本企業はこの判決を速やかに履行しなければならない」、といったものかもしれません。
もちろん、この「日本企業は判決を履行せよ」とする結論については、ツッコミどころがたくさんあります。
たとえば、「強制徴用された」と自称する者たちが、本当に「強制徴用」されたのか、といった事実認定の問題もありますし、これに加えて日韓請求権協定という国際条約を韓国の裁判所が破ったという行為自体が、国と国との関係を根底から覆すことにつながりかねない、といった問題もあるでしょう。
ただ、彼らの側から「日本企業は大法院判決に従え」とする主張が出てきているのであれば、その主張にある前提条件と考察過程を分析しておくことは、非常に有意義でもあります。というのも、その考察のパターンは、たいていの場合、ほかの諸懸案にもそのまま流用されているからです。
前提条件がおかしければ結論も間違うのは当然
そして、議論というものは、出発点である前提条件が間違っていれば、そこから先の考察なり、推論なりが、いくら正しくても、出て来る結論は間違ってしまうものです。
結局、私たち日本人の多くを悩ませている、韓国が主張してくる日韓歴史問題というものに関しては、そのほとんどは、①前提条件が間違っているか、②思考過程が間違っているか、③その両方が間違っているか、という問題に尽きるのでしょう。
そんな思いを新たにするコラム記事が、本日、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に掲載されていました。
【コラム】最悪の韓日関係を解決すべき韓国新政権(1)
―――2022.04.05 11:02付 中央日報日本語版より
【コラム】最悪の韓日関係を解決すべき韓国新政権(2)
―――2022.04.05 11:06付 中央日報日本語版より
冒頭の記載は、こうです。
「こじれるだけこじれた韓日歴史問題を解決し、破局直前の韓日関係の改善を模索する時だ」。
これなど、議論の前提条件が誤っているという典型例だからです。
そもそも論として、現在の日韓諸懸案の本質は、「日韓歴史問題がこじれた」ものではありません。「韓国が法を破った」ものです。韓国メディアにしばしば掲載される、「そろそろ韓日関係の改善を模索すべきだ」などとする議論がほとんど意味をなさないのは、前提条件が誤っているためなのです。
(1)と(2)に分けられた中央日報のこの記事に関しても、「前提条件が誤っています」でお終い、というわけでしょう。
「国格の観点から日本に歩み寄ろう」
いちおう、念のためにこの記事に含まれている議論のごく一部を眺めておきましょう。たとえば、記事にはこんな記述もあります。
「岸田首相は、韓国大法院(最高裁)の強制徴用判決で悪化した韓日関係を改善するためには、韓国側が先制的な解決法を提示すべきだという日本政府の従来の立場を堅持している。なら、ようやく同意した両国間の協力が実行に移されるためには、文在寅(ムン・ジェイン)政権とは異なる接近が必要となる」。
これも、自称元徴用工判決の本質が「韓国による国際法破り」にある、という重要な前提条件を無視しています。そもそも論として、自称元徴用工判決自体を法的に無効化する措置を、韓国が「国家として」講じなければ意味がありません。
ただ、念のため、この論者の方が「絡んだ糸」を「どこからどう解いていくべきか」と議論している内容についても、簡単に眺めておきましょう。
「私は尹錫悦政府が韓国の高まった『国格』にふさわしい先制的解決法を果敢に提示してふさがった出口を開き、韓日歴史問題の解決過程で韓国が主導権を確保することを期待する。『包容論的な和解』はその解決方法の哲学的な土台になるだろう」。
…???
なにやら、よくわかりません。日韓諸懸案の解決は韓国が国際法を守るだけの話なのに、どうしてここで「国格」(?)などという概念が必要になるのでしょうか?
この論者の方の議論は、こう続きます。
「今まで韓日の過去をめぐる和解の摸索は『責任論的和解』に基づいて行われてきた」。
この方のおっしゃる「責任論的和解」とは、「加害者が謝罪して被害者が許すことを核心内容」とするもので、「第2次世界大戦以降、欧州国家間の和解のための理論として決定的な役割を果たしてきた」、などとするのがこの方の議論の本質でしょう。
歩み寄った結果がそれかい!
そして、この方は、この「責任論的和解」とやらを脱却し、「派生的怒りを一時的に保留」して、「韓国が解決法を提示すべきという日本の立場を理解し、彼らの要請を受け入れて、徴用者問題に対する先制的解決法を提示しよう」、というのがこの方の結論のようです。
当ウェブサイトなりに大雑把に要約すれば、「本来ならば被害者であるわが国も、『国格』が挙がったのだから、『責任論的和解』から脱却し、加害者である日本に歩み寄り、強制徴用問題についても先制的に解決策を提示しよう」、といったところでしょうか。
そもそも論として、韓国の論者が好む「被害者」「加害者」という認識自体も、国際社会における常識からかなり逸脱している考え方ですが、その考え方から脱却しよう、とする主張自体は悪いものではありません。
しかし、そこから出て来る結論は、こうです。
「2019年12月に文喜相(ムン・ヒサン)国会議長を代表とする14人の与野党議員が共同発議し、会期終了で廃案となった『文喜相法案』を再び進めるのが良い案になるはずだ」。
なりません。
日本に歩み寄った結果が「文喜相(ぶん・きそう)案」とは、何とも驚きます。
個人的な記憶ベースですが、これは上皇陛下を「日王」と侮辱したことでも知られる韓国の文喜相(ぶん・きそう)元国会議長が提案したとされるもので、2018年の判決を正当なものと認めたうえで、日韓両国の関連企業の自発的な寄付金などを財源とする基金が自称元徴用工らに賠償をする、といったものだったと思います。
当たり前の話ですが、こんな「解決」案、解決になっていません。
日本が求めているのは、そもそもの国際法違反状態の解消であり、とりわけ2018年10月と11月の大法院判決自体が国際法に違反しているという事実を解決することです。当然、それには、韓国が国としての責任をもってあたらねばなりません。
文喜相案なら日韓関係はさらにこじれる
中央日報といえば、「韓日ビジョンフォーラム」なる会合を主催しているメディアでもありますし、同フォーラムのメンバーは、尹錫悦(いん・しゃくえつ)次期政権の「引継委員会」の委員にも名を連ねているようです。
それだけ韓国社会に対する影響力が大きいメディアに、堂々と、こんな議論が掲載されているという事実は、文在寅(ぶん・ざいいん)政権下で韓国が作りまくったさまざまな問題が、尹錫悦政権下でも解決せずに引きずられるという可能性を濃厚に示しているように思えてなりません。
ちなみにリンク先記事の末尾には、こうあります。
「現役国会議員154人が所属する韓日議員連盟は超党派的協議体であるだけに、陣営論理と政党の利害関係を離れて、国益のための判断と行動ができる。多数の与野党議員が同意して文喜相法案を修正して通過させることを期待する」。
本当に文喜相案が法律として可決されたならば、いったい何が起こるのでしょうか。
おそらく、韓国側は「我々が日本に歩み寄ってやった」と豪語するでしょうが、そもそもの文喜相案自体が国際法に照らしてお話にならないレベルの代物でもあるため、日本政府や日本企業がこれを受け入れることはないでしょう。
すなわち、日韓関係がよりいっそう複雑化する、というのがその答えではないかと思う次第です。
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韓国の保守派新政権およびそのブレーンが、全く理解していないのは、日本国民と韓国民のこの問題への捉え方が全く食い違っているということです。そして韓国のそれが、国際常識とあまりにもズレていることから、誰がトップになろうと埋めようがないのです。契約・合意といったことは、個人・企業・国家を問わず、守らなければならないというのが、近代社会の鉄則です。ところが、韓国民にとっては対日本のいわゆる”歴史問題”はそうではないのです。従って、米国も仲介の匙を投げざるを得ません。これを埋めるには、まず韓国マスコミが「日本がかかわる問題で、日本に有利あるいは韓国に不利な記事を書いてはいけない」という不文律から脱し、自国の国益に沿うよう、政権の方針と反しても、事実と的確な分析で、韓国民を啓蒙しなければなりませんが、今のところその兆候はありません(本記事もその典型、「ちょっと何言ってるんだか判らない」レベル)。従って、本格的な日韓関係改善には時間がかかります。ここで中途半端な妥協をすることは、長期的な日韓関係には必ずマイナスになります。テーパリング(段階的縮小)でやむをえないのです。目先の対応としては、「我が国の一貫した立場を守り、韓国側の適切な対応を求める」で良い、と思います。絶対に事前協議には応じてはいけません。韓国内はまだ百家争鳴状態ですから、朴鴻圭教授がどう考えようと、「日本がたたき台として受け入れ可能な」成案を日本には提示できません。文喜相案も詳細が固まらないまま廃案となりました。安倍元首相が共感を示したとされるその内容は判りませんが、合意でもなんでもなく、日本が拘束される筋合いのものではありません。提示された成案が、日韓基本協定に矛盾しないか、日本国民が受け入れ可能か、だけで判断すれば良いのです。「オーストラリアからシンガポールまでアジア国家のほとんどの政府は現在の日韓関係悪化の主要な原因は韓国にあるとみている」(マイケル・グリーン元アメリカ合衆国国家安全保障会議上級アジア部長)のです。原則を曲げてはいけません。
今回取り上げられた呆れた主張が
一部の一般大衆のものではなく
韓国の『教授』を名乗る人の
発言であるということに呆れます。
このことは、
韓国という国自体の持つ特性と
それに見合った見られ方と位置づけは
他のまともな国と同列にはならないことを
あらわしていると考えます。
『韓国の大学教授』と書いてある今回は
まだマシな方で、
『日本の大学教授』として
韓流脱糞派の人を頻繁に登場させる手法まで
韓流メディアが取っていることには
およそ韓流モロモロはそうしたものだと
距離をおいて眺めてあげて相手せず
他のまともな国に劣後する位置づけで
接してあげることが寛容と感じます。
基本的に教授って、専門外のことについては単なる素人です。少なくとも学術的な評価の選別を受けていません。
教授が専門について、学会の多数意見を反映してマスコミに話をする場合、それはしっかり傾聴しなければなりません。その発言の責任を職を賭して負う覚悟がある。それが専門家たる教授です。
対して専門外の教授の発言なんぞ、銭湯にいる物知りおっちゃんのレベルでしかありません。子どもが目をキラキラさせるような魅力的なお話をしてくれるのは確かですが、レベルとしてはそこまで、何の責任も取りません。(私の父が子どものころ銭湯のおっちゃんがヘリウムが太陽の観測で見つかった話をしてくれたのをベースにしてます。それそのものは亡き父と会話した大切な思い出。昔あった素晴らしい銭湯文化にリスペクト)
日本もある程度はありますが、韓国は教授信仰がさらにひどく、実害もいろいろ起きている印象です。例の盗まれた仏像の判決も専門外の教授の意見を参照しているようですし。
韓国の教授は一般大衆よりさらに思想が片寄っている
朝鮮の歴史を顧みるだけで分かりますが、この民族国家には「まともな人材がいない」ことです。
強制徴用問題なんてそもそもないし、韓国紙が盛んに使う「先制的」「解決」も絶対に彼らはやりません。彼らが変わることを期待するのは時間の無駄です。
岸田首相とのたった一度の電話会談で、韓国紙では連日のように「次期大統領はこじれた日韓関係を先制的なアイデアで解決を」とか「未来志向」といつもの過去で止まった思考で報じています。
引っ掛かりやすいお人よしの日本人、いや、もう岸田さん自体が危ない気がしますが、この妄言製造機にはもう近づかないくらいしか手がないでしょうかね。つまり関係を徐々にテーパリングしてゆくと。
韓国はもっとわかりやすく、
お金がないので恵んでください
と言えば良い。
結局の所、解決のしようがないんですよね。
「もう過去の問題で日本には何も要求できない、謝罪も現金も要求できない。
”被害者”への救済は全て韓国側が自分だけでやるしかない」
こんな事を書いたら韓国社会ではつるし上げを喰らいます。朴槿恵に何があったかを
考慮すれば、大統領ですら破滅してしまう。それが韓国社会。
かと言って
「韓国には日本が必要だが、日本には韓国は必要ない」
なんて認めるのも同様の自殺行為。バンダービルド氏の様に一応は”分かっている”
韓国人も居るのでしょうが、あまりに少数派すぎてどうしようもない。
あるいは韓国人のそれなりの割合が”内心では分かっている”が、反日と言う「宗教」を
捨てたらどうなるかが怖くて怖くてとても認められない、なんてのもありそうですね。
よくお分かりですね。韓国に限らず「宗教」がからむ問題は解決不可能的に難しいです。
でも,近々韓国国内で起きるであろう政治的戦争には興味があります。
そもそも前回の文喜相案に日本はどう反応してたんでしたっけ。全く無視していたはずです。
それをもう一回やったからって日本の反応は変わりありません。この方は記憶喪失なのでしょうか?
自称徴用工問題の前提条件を賠償金のお代わりだとしているので日韓請求権協定で解決済みだと思っている人が多いが、判決内容は植民地支配下での強制労働の慰謝料請求なので新たな事案なのです。
前提条件が違うとすれば植民地支配下での強制労働、についてです、安易に妥協すれば韓国の捏造史を認めたことになってしまうのです。
彼らはお金ではなく判決を認めさせることが目的なので先伸ばしにしているのです。
>彼らはお金ではなく
お金「だけ」ではなく、、ではないかと思います。日本からお金をとるのは、間違いなく目的の一つだと思います。判決を認めさせることで、何度でも何度でもお金をとることが可能になります。さらに自尊心も満たされますし、他国に言いふらし日本の評判を落とすこともできますので何重にもおいしい。徴用工がうまくいった後の、次の手をとっくに考えているでしょう(うまくいかなくても、いくつも考えていると思いますが)。彼らは、有利な立場を終わりにするつもりは、全くないんですよね。でも、そろそろ終わらせなければいけません。
最終目的はお金なのでしょうが、現時点ではお金ではなく錬金システムの構築に注力してと思います、換金スルスル詐欺もそのせいでしょう。
前提の前提の大前提:日本は常に絶対悪で、韓国は常に絶対無謬である。-議論終了-
国家は全て対等で国格なんてランキングは存在しないと思いますが、仮にあったとしても韓国の国格……きっと自国が満たされていて他国に貢献していらっしゃるんでしょうね(笑)
朴鴻圭(パク・ホンギュ)/高麗大政治外交学科教授の論考を要約すると次のようになります。
➀第二次世界大戦の歴史問題について、欧州では、被害者の「本源的怒り」という「本源的問題」を加害者の「真の謝罪」と「賠償」により和解するという「責任論的和解論」で解決することが出来た。
➁しかし、日韓の歴史問題では、加害者(日本)から「真の謝罪」がなされなかったので、「本源的問題」が「責任論的和解論」で解決されなかったのみならず、被害者の「派生的怒り」という「派生的問題」を生じさせ、増幅させることにより、「派生的怒り」は雪だるま式に膨らんでいき、「本源的怒り」を圧倒するほどの問題になった。
➂この「派生的問題」は、「責任論的和解論」で解決することはできないので、高まった国格にふさわしい「包容論的和解論」という相手(日本)を包容する新しい哲学で解決を図るべきである。この「包容論的和解論」を形にしたのが「文喜相法案」である。
朴鴻圭教授は、問題の本質は「怒り」だとしていますが、間違いです。問題の本質は「国と国の約束が守られないこと」です。また、「包容論的和解論」などという哲学が韓国の国民や自称被害者に受け入れられるとは到底考えられません。
親米だという新政権の動向はアメリカもマークしていることでしょうから、半端な提案はよしたほうがいいのではないのでしょうかねぇ。