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また出てきた、日韓諸懸案の「包括的解決」という主張

「保守派の尹錫悦氏が大統領に就任すれば、日韓諸懸案の包括的な解決が図られ、日韓関係は雪解けへと向かう」。こんな事実誤認に満ちた主張が出て来ました。そもそも尹錫悦氏が「保守派」なのかは微妙ですが、日韓諸懸案については、韓国が自国の判断と責任において、国際法に照らしてひとつずつ丁寧に解決していかねばならないものであって、「日本を巻き込んだ解決」というものは、あってはならないものなのです。

日韓諸懸案の「共通点」

ここ数年、当ウェブサイトで何度となく議論してきた論点のひとつが、日韓関係です。

島根県竹島に対する韓国当局による継続的な不法占拠、日韓慰安婦合意の一方的破棄はもとより、2018年10月と11月の自称元徴用工判決、2018年12月の火器管制レーダー照射事件、2021年1月の主権免除違反判決など、論点はいくらでもあります。

あるいは、2019年7月に、日本政府が韓国に対する輸出管理を厳格化すると発表したこと(対韓輸出管理適正化措置)、これに対し韓国政府が日韓GSOMIAを破棄すると日本に通告してきたことなども、広い意味では日韓関係という文脈で整理することができるでしょう。

ただ、日韓間でさまざまな懸案があることは事実ですが、そのひとつひとつについて眺めてみると、「日本の側に明らかな過失がある」、「日本が根本的な原因を作った」、といった論点は、見当たりません。

とくに自称元徴用工判決問題に関していえば、日韓請求権協定に違反する違法判決を一方的に下したのは韓国の裁判所の方であり、しかも、日本政府がこうした違法状態を解消しようと、韓請求権協定に従った協議や仲裁手続を申し入れたのに、それらを無視したのも韓国の側です。

「日本が譲歩する」という選択肢はあってはならない

このように考えていくと、正直、日韓諸懸案を巡っては、最終的には次の3つのいずれかしか「落としどころ」はあり得ないのです。

日韓諸懸案を巡る「3つの落としどころ」
  • ①韓国が国際法や国際約束を守る方向に舵を切ることによって、日韓関係の破綻を回避する
  • ②日本が原理原則を捻じ曲げ、韓国に対して譲歩することによって、日韓関係の破綻を回避する
  • ③韓国が国際法や国際約束を守らず、日本も韓国に譲歩しない結果、日韓関係が破綻する

(【出所】著者作成)

日韓関係の破綻を回避するためには、選択肢①か②、すなわち「韓国が国際法などをちゃんと守る方向に舵を切る」か、「日本が(またしても)韓国に対して譲歩する」か、そのどちらかしかありません。

この点、「折衷案」として「日韓それぞれが少しずつ譲歩すれば良いではないか」、などと寝言を発言する者もいるのですが、残念ながら、それは「折衷案」ではありません。当ウェブサイトで普段から指摘しているとおり、「ゼロ対100」理論に基づけば、そもそも過失の100%が韓国の側にあるからです。

※ゼロ対100理論とは?

自分たちの側に100%の過失がある場合でも、インチキ外交の数々を駆使し、過失割合を「50対50」、あるいは「ゼロ対100」だと言い募るなど、まるで相手側にも落ち度があるかのように持っていく屁理屈のこと。

(【出所】著者作成)

したがって、「折衷案」が成立するのは、日韓それぞれに過失があるときの話です。日韓諸懸案で日本の側にほとんど過失がない(※)ことを考慮すれば、日本が少しでも譲歩する案は、「折衷案」ではなく、「日本が一方的に譲歩している」のと同じであることを、私たちは理解する必要があります。

日本が譲歩する形での解決策は、あってはならないのです。

(※なお、韓国に対し、「権利もないのに債権者として振る舞う」ことを許してきたという意味では、厳密に「日本側の過失がゼロ」というわけではありませんが、この論点については本質的なものではないため割愛したいと思います)。

「韓国は、日本に謝罪を要求する権利もないのに債権国のように振る舞っている」。大変に良いたとえです。当ウェブサイトでも韓国による日本に対する不合理な行動の数々を何度となく取り上げてきましたが、これらの行動を端的に指摘するうえで、非常に良い表現だと思う次第です。こうしたなか、韓国では今年3月の大統領選に向け、左派候補が保守(?)候補を突き放しつつあるようです。韓国による対日不法行為の数々当ウェブサイトでは、開始してからのこの5年半あまり、韓国の日本に対する不法行為の数々について、もう数えきれない...
「韓国は権利もないのに債権国として振る舞う」の指摘 - 新宿会計士の政治経済評論

「韓国の政権交代で日韓関係は雪解け」?はて、そうですかね?

したがって、もしも日本が原理原則を捻じ曲げず、韓国も国際法理や国際常識をないがしろにし続けるのであれば、日韓関係は破綻するしかないのです(上記③)。そして、この構図自体は、韓国で政権交代が発生したとしてもまったく変わりません。

こうしたなか、『日刊SPA!』なるウェブサイトに、韓国大統領選を巡って「政権交代濃厚で日韓関係は雪解けへ」、などとする記事が掲載されていたようです。

韓国大統領選、政権交代濃厚で日韓関係は雪解けへ。文在寅大統領には冬の時代到来?

―――2022/03//08 08:51付 Yahoo!ニュースより【日刊SPA!配信】

記事によると、「ソウル在住のジャーナリスト」の方が、こんな趣旨のことを述べているのだとか。

保守系の尹候補は『日本との歴史問題や経済・安全保障問題を包括的に解決する』と柔軟な姿勢を見せている。首脳が相互訪問するシャトル外交を復活させる意向も示しており、日韓関係は雪解けへと向かうはず」。

はて、そうでしょうか?

「保守系の尹候補」とあるのは、最大野党「国民の力」の公認を受けている尹錫悦(いん・しゃくえつ)氏のことだと思われますが、そもそも文在寅(ぶん・ざいいん)政権下で検事総長に出世した尹錫悦氏自身が「保守派の政治家」なのかと問われれば、そこは甚だ疑問です。

1945年8月15日以前の問題は日韓請求権協定ですべて解決済み

また、「包括的解決」というのも、何やら意味不明です。

1945年8月15日までの請求権の問題を述べているのだとしたら、それはすでに1965年の日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決済みですし、1945年8月15日以降に出てきた日韓諸懸案の数々については、韓国が自身の責任において、解決していかねばならないものだからです。

たとえば、自称元徴用工判決問題に関しては、韓国側が2018年10月と11月の大法院判決を無効化する措置を講じなければ解決しませんし、自称元慰安婦問題に関しても、2015年12月の日韓慰安婦合意を破った状態を修復する措置を韓国政府自身が講じなければなりません。

そのやり方は韓国に委ねられていますが(たとえば自称元徴用工判決の場合「判決で確定した自称元徴用工らへの賠償金を韓国政府が肩代わりする」、といった特別法を韓国の国会が可決しても良いでしょう)、日本政府や日本企業を巻き込んだ「解決」は「解決」ではありません。

つまり、日韓間の諸懸案については、韓国側が自国の責任と判断において、ひとつひとつ、丁寧に処理していかなければならないのであって、「包括的に」解決できる、というほど単純なものではないからです。

いずれにせよ、韓国大統領選の結果については、早ければ明日中に、遅くとも明後日には判明しているのではないかと思うのですが、誰が次の大統領に就任したとしても、「日韓諸懸案の包括的解決で両国関係が雪解けに向かう」という単純なものではありませんし、かつ、そうであってはならないという点は間違いないでしょう。

新宿会計士:

View Comments (20)

  • 歴代最高の「親日大統領」ともいえる文在寅大統領を超える「真の親日」の呼び声高い、李在明候補になんとしても(いかなる手段=例えば、投票・開票操作などを駆使しても)当選していただきたい、と願うのは真の日韓関係正常化を心から望んでいる私だけでしょうか。

  • 今般ウクライナ戦争を視ても「戦争」の姿は変容しておると実感するところでアリマス
    マスメディアのみならずもっと広範囲深々度に「情報」が飛び交うインターネット空間もそろそろ戦場と捉えるべきやもシレマセヌ
    トナレバ記事中件のジャーナリスト氏はフェイク垂れ流して国民の認識を歪め、カエスカタナデ韓国側の(情報戦における)侵攻をあおっておるとイフコトで、外患誘致罪の予備構成要件を満たすのでは…

  • 今、ロシアは

     ①国際法を守らない国
     ➁他国を軍事侵攻して、他国の領土を不法占拠している国、
     ③ミンスク合意など、国家間の約束や合意を守らない国

    として、信用できない危険な国家として嫌われ、国際的に孤立しています。

     上のような同じことをして、日本人から嫌われている国が
    ありますよね。ロシアと同じようなことをしているから、嫌われているのに
    『日本人のヘイトニダー』『日本の民族差別ニダー』とか言って
    論理をすり替えて、日本が悪いとする民族・・・・・

  • 心配いらないです。
    日本側から韓国と話をするには安倍総理レベルのリーダーシップが必要で、岸田さんにはちょっとそれは望めません。

    で、韓国としても、話をしに行って無視されるという前例を作りたくはないので、現在の文大統領のように、奥にこもって一応上から目線でつぶやくだけになります。いつでも話し合う用意がある、というだけ。

    まあ、あちらはそれで支持率が維持できるみたいだから問題ないのではないですか?

  • 一木一草生えていないナミブ砂漠が、一旦雨が降るとたちまち一面の「お花畑」に変貌する、2,3日前に見たテレビ番組の映像が、ふと頭に浮かびました。

    そんなこと期待するにしても、な~んにもやらずに実現できると思う、その厚かましさって、いったいなに?

    せめて、恵みの雨に降ってもらうために、一所懸命、雨乞いの祈祷やってます、くらいの姿勢は見せないと。

    • 伊江太様
      李在明候補陣営「牛と豚いっぱいお供えして祈祷したニダ」
      昨年末に、「クネザククッ」という巫俗祈祷を盛大にやったそうですが…。
      ダメ…? w

  • 韓国とのあらゆる交渉ごとは、後から韓国側に否定されるので
    日本としては
    「前の約束事を守ってください 話はそれから」と、突っぱねられる
    韓国側が粘っても
    「将来の韓国国民からの合意を取り付けて下さいねw」でスルー

    約束事交わす価値があるかどうかの問題でもありますが

  • SPAの記事は、韓国大統領選挙を面白おかしく書いてあるだけで、論評する価値は無いでしょう。

  • まあ、無理じゃないかな。
    日本政府の主張を認めた上で、韓国国民を納得させることはできないと思いますので。

  • SPA!の記事はあくまでも”ソウル在住のジャーナリスト・朴承珉”が
    「日韓関係は雪解けへ向かうはず」と主張していると書いてあるだけですね。
    SPA!自身の見解はほとんど書いてないにも等しい。

    とりあえずこの”ソウル在住のジャーナリスト・朴承珉”とやらが勝手に期待している、
    と言う情報でしかありませんね。実際に韓国世論が
    「次のスーパーヒーロー大統領が今度こそ日本に言う事を聞かせてくれるはず!」などと
    勝手に期待していたとしても驚きませんが……

  • 保守?

    左派と極左派しかいないのに。

    日本側には包括妥結のメリットは皆無。

    グランドバーゲンを語るのなら、竹島から撤退くらいしなくっちゃ・・。

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