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韓国の外貨準備停滞をどう見るか

韓国の外貨準備の伸びが停滞してきました。韓国銀行が発表した2022年2月時点の同国の外貨準備高は前月比2.4億ドル増加の4617.7億ドルであり、「韓国が為替介入で外貨準備を減らしている」とする当ウェブサイトなりの仮説とは整合しない結果が出て来ました。ただ、前年同月比で見てみると、同国の外貨準備の伸びが停滞していることもまた間違いありません。

韓国資産バブルFRB主犯説

不動産市場から「韓国資産バブル」を解説する鈴置論考』などを含め、以前からしばしば言及してきたとおり、当ウェブサイトでは韓国のコロナ禍後から昨年末ごろにかけての資産バブルに関しては、米FRBなどの主要国中央銀行による積極的な金融緩和政策と密接な関係があると考えています。

鈴置高史氏の最新論考によると、米FRBなどの金融緩和政策が韓国における不動産などの価格を押し上げる「資産バブル」を形成した、という説明があります。これについてはそのとおりでしょう。ただ、問題はその「調整のスピード」であり、バブルの崩壊が生じるかどうか、という点にかかっています。そして韓国の場合、バブル崩壊は資本逃避とセットで発生するかもしれません。FRBテーパリングと韓国デレバレッジ韓国の資産バブル「FRB主犯」説昨今は世界経済の一体化が進行しており、ある国における金融政策がほかの国にも大き...
不動産市場から「韓国資産バブル」を解説する鈴置論考 - 新宿会計士の政治経済評論

詳しいロジックについては、上記記事を含め、過去に何度となく指摘してきたとおりですので、本稿では繰り返しませんが、要約すると次の①~⑧のような流れです。

韓国資産バブルFRB主犯説
  • ①FRB等、主要国中央銀行による金融緩和
  • ②為替市場で韓国ウォンを含めたEM(※)通貨高
  • ③韓国の通貨当局が「ウォン高になり過ぎれば輸出業者が困る」と判断
  • ④韓国のウォン売り・ドル買い介入(→外貨準備の増加)
  • ⑤市中のウォン流通量が増大(→マネタリーベースの増加)
  • ⑥金融機関の家計向けローンが増大(→家計債務の増大)
  • ⑦カネを借りた家計がリスク資産(株式、不動産、暗号資産など)に投資
  • ⑧韓国ウォンがビットコイン取引通貨の第3位に浮上

(【出所】著者作成。なお、「EM」とは “Emerging Markets” 、つまり「新興市場諸国」のこと)

ちなみに上記①~⑧の流れも、③を除けばいずれも間接的に立証可能な客観的な統計、報告書などが存在しています。とくに、韓国では通貨当局が日常的に為替市場に介入を行っていることは、米財務省がレポートで指摘しています(『米国財務省が「韓国は為替介入を行っている」と認める』等参照)。

米財務省が先日公表した為替監視レポートを読んでいると、韓国が2020年下期にかなり多額の為替介入を行ったと読める記述があります。これは、当ウェブサイトでかなり以前から提唱してきた「韓国の資産バブルFRB主犯説」ともかなり整合している話題であり、また、韓国が公然と為替介入を行っている証拠でもあります(※もっとも、米国は韓国について「不透明」という表現は使っていませんが…)。韓国の資産バブル韓国の資産バブルFRB主犯説当ウェブサイトではかねてより、新型コロナウィルス感染症拡大に伴う米FRBなどの金融緩...
米国財務省が「韓国は為替介入を行っている」と認める - 新宿会計士の政治経済評論

先月分の外貨準備統計が公表される

こうした文脈もあり、FRBが金融引締めに転じたいま、この流れも「逆回転」をし始めるのではないか、という論点については、非常に注目に値すると考えており、その視点で以前から興味深くウォッチしている統計のひとつが、韓国銀行が毎月発表している外貨準備統計です。

韓国銀行は本日、2022年2月時点の外貨準備高を公表しました(図表1)。

図表1 韓国の外貨準備高(2022年2月時点)
項目 2022年2月 前月比増減
外貨準備高合計 4617.7億ドル +2.4億ドル
うち金 47.9億ドル ±0
うちSDR 153.1億ドル +0.3億ドル
うちIMFRP 46.1億ドル +0.1億ドル
うち現金預金・有価証券 4370.4億ドル +2.1億ドル

(【出所】韓国銀行)

外貨準備全体は前月と比べて2.4億ドル増え、内訳でいえば、現金預金・有価証券の合計額が2.1億ドルの増加です。

これ自体、「FRBの金融引締めに伴い、韓国の通貨当局は自国通貨安を防ぐために外貨を売っているのではないか」という仮説とは整合しない結果です。なぜなら、外貨準備を売っていれば、「現金預金+有価証券」の合計額がマイナスとなるはずだからです。

(※なお、内訳で見れば現金預金は前月比15.6億ドル減っていますが、有価証券が前月比17.7億ドル増えており、これは通常のポートフォリオ運営の一環として十分に説明可能です。)

前月比、および前年同月比の推移

いちおう、韓国銀行によれば、この増加要因は「為替相場変動で米ドル以外の外貨建て資産をドル換算した金額が増えたこと」、「運用収益が増加したこと」にある、などとしていますが、正直、この説明自体はあまり当てになりません。

韓国の外貨準備高の増減要因については、「運用収益」では説明がつかないからです。

「現金預金+有価証券」について、「前月比」での推移(図表2)、「前年同月比」での推移(図表3)をそれぞれグラフ化してみると、なんとなくその不自然さが見えて来ると思います。

図表2 韓国の外貨準備高のうち「現金預金+有価証券」の前月比推移

(【出所】韓国銀行データをもとに著者作成)

図表3 韓国の外貨準備高のうち「現金預金+有価証券」の前年同月比推移

(【出所】韓国銀行データをもとに著者作成)

図表2、図表3ともに、2008年10月頃から2009年2月頃にかけ、外貨準備が急激に減っていることが確認できますが、これは2008年9月に米投資銀行大手のリーマン・ブラザーズの経営破綻に端を発する国際的な金融危機の影響と考えられます。

しかし、それ以外の時期に関しては、正直、外貨準備高の増え方には時期的なバラツキが非常に不自然です。

経済ショック時に前年同月比の伸びが停滞していたことが確認できる

この点、とくに図表3の方では、「前年同月比増減」がゼロに近づいているあたりは、何らかのショックが韓国を襲っていたことを思い出してしまいます。

たとえば2012年10月は欧州債務危機の影響で、当時の野田佳彦首相・李明博(り・めいはく)大統領が日韓通貨スワップの規模を700億ドルに大幅増額することで合意した時点ですが、当時、韓国の外貨準備高の前年同月比の伸びが止まっていたことが、グラフ上からもはっきり確認できます。

また、2020年3月といえば、コロナ禍の初期の頃であり、米FRBが緊急で韓国銀行を含めた9つの外国中央銀行・通貨当局と為替スワップを締結した時期でもありますが、このときも外貨準備の前年同月比の伸びがややマイナスに陥っていることが確認できます。

いずれにせよ、2022年以降、韓国の外貨準備の伸びの停滞がとくに顕著となっているという点については、留意して良い論点のひとつではないかと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (17)

  • 韓国は、コロナ感染者が過去最高の二十万人台になりましたが、ロックダウンせずに、緩和する政策をとってます。
    大統領選挙で国民の不満の矛先を作らないためかと邪推してましたが、もしかして、経済まわさないと、ホント厳しいのかも。

    • 武藤元大使によると、韓国では毎日1000社以上の自営業者が廃業に追い込まれており、コロナ危機発生後の累計は15万社を超えているそうです。というのも、韓国でも飲食店などに対する営業時間短縮や停止が行われていたのですが、業者に対する補償は日本の1/10以下だったのだそうで、日本でも多くの飲食業者が苦境に呻吟しているのに、韓国ではさらに厳しい状況になっているだろうと思われます。
      そうでなくとも、全就業者の25%以上が自営業と言われる韓国で、これ以上自営業者に負担を掛けられないということでしょう。選挙も近いことですし。

  • 内訳で見れば現金預金は前月比15.6億ドル減っていますが、有価証券が前月比17.7億ドル増えており >

    この辺りが何やら非常にきな臭く感じられるのですが、ここにあるだけの情報ではその裏の事情までは特定できそうにありません。ただ韓国には「1997年IMF」という前科がありますから、どうしても色眼鏡で見てしまいます。

  • ウォンドルは、1215を抜けましたので、今晩1220攻防戦になる可能性が有ります。

    • だんな様

      >今晩1220攻防戦になる可能性が有ります。

      通貨当局は本気で攻防戦やってるんでしょうか?

      昨年来のレートの動きを見ていると、激変を避けながら意識的にウォン安方向にもっていっているような気がするんですが。貿易黒字いのちの経済ですから、だんだん輸出で稼ぐのが難しくなって来てることを気にしての対応かも。

      その分4月の経常収支は悲惨なことになりそうですが、まあこれまでのドル買い介入でたっぷり外貨準備はあるから大丈夫なんでしょう。多分(笑)

      • 伊江太 さま
        毎日ずっと見てる訳じゃ有りませんが、防衛線やってる時はやってる感じの動きが有ります。
        今日の夜は、今の所気配無し。

        >昨年来のレートの動きを見ていると、激変を避けながら意識的にウォン安方向にもっていっているような気がするんですが。

        これは、貿易赤字になってる時点で違うと思います。
        資源安の時にウォン安側の方にずれていた「儲かるゾーン」が、資源高になって、ウォン高側にずれたという仮説は、以前書きました。

        今現在のフリーフォール状況で韓国が放置している理由は、良く分からないです。何かおかしい、と思うだけ。

        • 昨夜は1218を挟んだ攻防が展開されてました。瞬間的に1219.9まで押し込まれましたが、なんとか1217程度まで押し戻した模様。どうにか1220ラインは死守したようですが、52週安値を更新し、2020年春の水準に近づいています。週明けに大規模介入で1200を下回る線まで戻すのか、あるいはさらにもう一段下げが入るのか、ここで下げが入るようだと、いよいよ1250が見えてくるようになるかもしれません。
          とりあえず、今のウォン安原油高の傾向が続くと、韓国電力が洒落にならない大赤字になるはずです。一つの注目ポイントかも。

          > 今現在のフリーフォール状況で韓国が放置している理由

          ま、まさか、実弾が尽きたなんてことは......

          • 龍さま
            似たような印象です。
            ここで弾切れは、流石に早いと思いますけどね。

  • あちらさんは、今頃は顔を真っ赤にして、為替介入されてるのでしょうか?

  • 少し気になるのだが。
    北のミサイル発射はアメリカに対するロシア・中国・北朝鮮(反米・反オーカス・反クワッド・反FOIP)トライアングルの極東におけるロシア支援、中国支援の一環ではないかとする説がある。
    確かに、韓国の選挙(かなり敗色濃い親北朝鮮政権)の交代を目前に射程300キロのミサイルで在韓米軍基地を叩き朝鮮統一に打って出る。
    これによって、極東の米軍と自衛隊はその対応に追われる。
    ロシアの苦戦に学んだ中国軍は大部隊によって一気に台湾併合を企てる。

    迷走が激しい韓国軍は有効に対応できず、朝鮮半島は大混乱に陥る。
    ウクライナとロシアの戦力比より、さらに厳しい中国と台湾の軍事バランス。
    矢継ぎ早に政治決断が求められる日本政府、こりゃダメかもな。

    恐ろしい。韓国の選挙の結果を心配する余裕などないのかも。

    • >恐ろしい。韓国の選挙の結果を心配する余裕などないのかも。

      それこそが「韓国なんてどうでも良い論」なのです。
      緩衝地帯になりたがる稀有な民族ですから。

    • 韓国軍が率先して 日本に逃亡してきそう。
      民間人を置き去りに 大統領が逃げ出した 歴史がありますから。
      韓国難民は とりあえず軍艦島に収容してあげましょう。

  • 素朴な疑問ですが金(ゴールド)の金額が不変です。
    金のドル相場は1か月で2-3%上がっていますが。

    • sqsqさま
      韓国の金の額は、不変です。
      その為現物かどうかが、疑われています。

  • 「ウクライナ危機だから通貨安もスタグフレーションもしょうがない」という言い訳ができるので
    無理な為替介入諦めるかも