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    Categories: 金融

岸田首相「株主資本主義からの転換は重要」発言の衝撃

岸田首相が「株主資本主義からの転換は重要な考え」として、株主配当よりも従業員への賃金分配などを重視する考えを示したようです。株主配当と賃金というまったく次元が異なる概念をいっしょくたに議論している時点で恐ろしいところがありますが、岸田首相のいう「新しい資本主義」とは、もしかしたら資本主義そのものの否定なのかもしれません。

岸田首相のちょっと驚く認識

以前の『不勉強すぎる岸田首相「株主は賃上げ必要性理解せよ」』では、岸田文雄首相が「賃上げの必要性は株主も理解すべき」などと述べた、とする話題を取り上げました。

岸田首相は昨日の会見で、「賃上げの必要性を企業の株主も理解すべき」などと言い放ちました。不勉強、不見識にもほどがあります。あるいは、あまり考えたくないのですが、岸田文雄さんという人物は、そもそも会社法や株式市場などの基礎知識を持っていない可能性もありますし、あるいは「確信犯」として、日本を社会主義国か何かに私用としているのかもしれません。株式会社の社員カネさえあれば誰でも上場会社の社員になれますよ!「カネさえあれば、上場している株式会社の『社員』には、誰でもなれる」――。こんなことを申し上げる...
不勉強すぎる岸田首相「株主は賃上げ必要性理解せよ」 - 新宿会計士の政治経済評論

正直、不勉強にもほどがある、というレベルでしょう。なぜなら、上場会社の場合、所有と経営は完全に分離しており、極端な話、個々の株主がその会社の経営方針に対し、個別に口出しをすることなど、ほとんど不可能だからです。

一般に会社の規模が大きくなればなるほど時価総額も発行済株式数も株主数も増える傾向にありますので、個々の株主は株主総会でもほとんど意見を反映させることはできません(※というよりも、多くの場合、株主はその会社の経営に関わろうとは思わないでしょうが…)。

このため、多くの場合、経営陣の経営方針が気に喰わなかった場合でも、株主が経営者を更迭させることは困難ですし、株主が「自分自身を取締役にしろ」とする株主提案を要求しても、株主総会で否決されるのが関の山でしょう。

結局、「その会社の経営方針が気に入らない」場合に上場会社の株主にできることといえば、何も言わずにその株式を市場で売却することです。

逆にいえば、株主価値の創造に失敗している会社の株式を「買いたい」と思う人は少ないでしょうから、そのような会社の株式は市場で低い評価しかつけられず、場合によってはTOBなどの標的にもなります。

これが、「市場を通じたガバナンス」です。

岸田首相「株主資本主義からの転換は重要な考え方のひとつ」

だからこそ、「株主は賃上げの必要性を理解せよ」、などと首相に言われても、多くの投資家は驚いてしまいますし、日本において株主に厳しい制度(金融課税の強化など)がなされれば、下手をすれば株主の資金は海外に出て行ってしまいます。

こうしたなか、岸田文雄首相という人物の認識を巡って、かなり不安になってしまいそうな話題が、もうひとつ出て来ました。

岸田首相、株主資本主義からの転換は重要な考え方の一つ

―――2022年1月25日 16:35付 Bloombergより

Bloombergによると、衆院予算委員会で25日、「企業支出のうち配当金の割合が過度に上昇している」との国民民主党の前原誠司議員の質問に対し、岸田首相は次のように述べたのだそうです。

  • 企業文化のなかで分配を考えた場合、おっしゃるような点は大変重要
  • 気候変動、デジタル化の遅れ、経済安保など、今の資本主義の弱みを成長エンジンにすることが、私の申し上げている経済モデルの有り様
  • そうした中で株主資本主義からの転換は重要な考え方のひとつ
  • 市場や競争に全て任せるのではなく官民共同でそういった仕組みを作っていこうと繰り返している

…。

岸田首相の認識は資本主義の否定

いったい何をおっしゃっているのか、という気がします。

株主への配当と従業員に対する賃金を同列に置いている時点で、岸田首相の経済制度自体に対する基礎知識水準が非常に怪しい限りですが、正直、この程度の認識で「賃上げ」「分配」などとおっしゃっているというのでしょうか。

Bloombergによれば、岸田首相は就任以来、「市場偏重・株主偏重の資本主義がもたらした歪みの是正に取り組む」考えを示しているのだそうですが、株主への配当は株式投資に伴うリスクの対価であり、その「リスクの対価」を国全体で規制する、という発想は、まさに資本主義の否定そのものでしょう。

岸田首相のこうしたお粗末な認識に対し、自民党側はいったいどう考えているのでしょうか。

非常に心もとないと思ってしまう次第です。

新宿会計士:

View Comments (74)

  • まずはその制度を見せよ。と言いたい。
    判断はそれから。まったく期待していないが。

    今の日本の制度から受ける印象は、消費するな、人を雇うな、利益を出すな、と言われている印象。
    これに投資するな、が加わるのか。

    現状の制度すら改善して成長路線に乗せられないのに、何ができる?誰が賛同する?

    • 資本が世界を飛び回る時代で、各国の法人税値下げ競争も行くところまで行って、何らか規制が必要と言う所まで行ってます。

      日本では製造業が海外に出てしまったため空洞化しました。若者の就職口は減って、派遣になるか飲食業など低賃金の職場ばかりが増えました。結果、先進国では賃金が上がらない数少ない国と言われる様になりました。

      社会の継続性のためのSDGsも注目されてます。資本主義は完璧なものではなく、その欠点も見えてきました。新しい資本主義が何なのかは良くわかりませんが、これまでの考え方だけでは、この先の発展は難しいと思います。

      • こーち会の首魁でもあるきっしー総理がここらへんあたりで批判されがちなのは、
        自身の発信するその「新しい資本主義」の中身に関して個別具体的な施策も明快なビジョンも一貫した説明も放置したまま「ふわっとした」態度で終始している(様に見受けられる)からではないかと愚考イタシて居りマス
        まーこーち会ぽいっちゃあぽいような気がシナイデモナイコトモナイ…っス

    • 今は「株主資本主義」から「ステークホルダー資本主義」に転換しつつあります。
      ご指摘のとおり制度が追いついていませんね。

  • 「株で儲けた人から金を取って貧民に配る」
    を、アベノミクスを批判する文脈で野党が語り、マスコミもそう語ってきていました。
    人の話をよく聞く総理がそれを取り入れたのだろうなぁ、と勘ぐっています。
    浅いと思います。

  • 先日実施されたバイデンさんとの日米首脳会談後の発表でも日本の発表では新資本主義の記載があり、米国の発表では書いていなかったような。バイデンさんからも「何言ってんだ、こいつ?」的な扱いだったのかも。 

  • 岸田氏が総理である限り、日本株に未来はありませんね。日本株を下支えしてきた日銀はETFの購入をやめましたし、外国人投資家も日本株をどんどん売ってます。
    日本人投資家は米国株か全世界株へ投資した方が良さそうです。

    • おかげで,かなり確信を持って日本株のカラ売りが始められました。

  • かつて日本企業が絶好調だった時に、アメリカが日本企業の強みを分析して、「目先の四半期の利益にとらわれない中長期視点の経営」、「株主への配当を薄くして研究開発に投資」といった分析をしていました。今、これらを実践しているのは、GAFAとりわけAmazonです。Amazonは、配当すべきカネを投資に回して、株価を向上させる方針と言われています。株主は、キャピタルゲインで儲けよということですね。かつての日本企業の経営上の特徴は、今は海外企業に見られます。

    「日本が賃上げできないのは、原資が配当に当てられたからだ」という話があります。真偽は分かりません。しかし、もしそれが事実であれば、賃上げ、購買力の向上、売り上げの増大、株価の上昇といったサイクルを目指すというのも、資本主義の否定とまでは言えないかもしれません。

    • 世界でみて日本は給料上がってないみたいなので、なんとかしようと思われたのだとおもいます。

      日本が給料が上がらないのは、なぜなのかはわかりません。

      • 自由貿易は低賃金国との賃金の平準化をもたらします。
        日本の場合中国や東南アジアに近いので、ヨーロッパより影響は大きいのでは無いでしょうか?
        自由貿易の場合雇用を守るのは円安政策が正解という事になります。
        この点は日銀の政策は間違っていないと思います。
        日銀は円安が目的では無いと言っていますが。

        アメリカや日本で格差が問題になっているのも自由貿易に因るものだと思います。
        自由貿易には物価安という恩恵?もありますので一概に否定できませんが。

        自由貿易を守りつつ賃上げを実現するには、生産性の向上しかないのでは無いでしょうか?
        省力化か商品あるいは労働の高付加価値化が対策になると思います。

        • 追加ですが、域内で為替による調整が出来ないEUはドイツが支配する事になるというか既になっていると思います。

          格差問題で言えば、消費税が低所得者に重くのしかかっています。
          賃上げよりも消費税の廃止のほうが現実的な政策では無いでしょうか?
          岸田首相は隙あらば消費税の増税をしようと思っているのでは無いかと心配しています。
          賃上げ分を税金で吸い上げるつもりかも知れません。

    • 私も似たような内容のWEB記事を目にしたことがあります。
      ソースは失念してしまいました。。

      年配の男性へのインタビューで、たしかその方は結構な発明?をした方だったと思います。90年あたりから株主重視経営に変わり、それまでのような短期で結果が出せない研究は許可されなくなり、それが積み重なって今に至っている、という趣旨でした。

      なかなか難しいですね。

      • >90年あたりから株主重視経営に変わり、それまでのような短期で結果が出せない研究は許可されなくなり、それが積み重なって今に至っている、という趣旨でした。

        これは無能な経営者の言い訳を垂れ流しているだけ。

        Apple、Googleなどは、配当よりも研究・事業開発に投資することにより会社を成長させ、企業価値向上により株価を上昇させ、株主に還元しています。

        ”オーナー経営者だから出来る”という話もありますが、オーナー経営者がやりやすいのは確かですが、オーナー経営者でなくてもプロの経営者なら長期的視野に立った投資もできるはず。ただ、自分の短期利益第一の強欲経営者には無理でしょう。

        • 自分の利益第一の強欲経営者には無理というのは同感です。
          そしてまた同時に、自分の利益第一の投資家達に囲まれて、株主総会とかで吊し上げられても、経営者は無理でしょうね。

          株主とはそういう強欲なものだという人もいるかも知れませんが。
          理想論かも知れませんが、投資家も公的な利益を考えて投資して欲しいと願ってしまいます。
          特に、幕末や明治にかけて活躍した偉人達の話を見てしまうと。
          庶民で慎ましやかに株を持って運用する、個人投資家にまではそんな事言いませんけど。

          自分には、強欲な経営者と、強欲な投資家の意識改革がまず必要に思えてなりません。
          感情論で説いても難しいとは思うので、そういう行動に動くことが、投資家個人の利益にも適うような仕組みが作られて欲しいなあとか。漠然としていますが思ってしまいますね。

        • 日本が開発したテクノロジーは、経営者の目を盗んで開発されたものも少なくありません。JVCのVHS、富士通のプラズマ、ソニーのイメージセンサー等ですね。ウォークマンは、当時の井深名誉会長が、ゲリラ的に作らせたものですし。つまりは、R&Dの予算を、他の実験的製品に流用することができた時代の産物です。今では、それをイノベーションと呼んでいるわけです。

          当時の日本の強みを分析したアメリカが、日本に四半期経営やコンプライアンスを押しつけ、代わりに日本の経営の強みを学んで実践した結果が、今の日米格差だと考えています。日本企業は、欧州が仕掛けた「標準」や「ISO」という罠も加わって、完全に強みを消されてしまいました。

          今、日本には最先端のAndroidOSのスマホは入ってきていません。各企業のIT装備も、最先端の技術は使われていません。2番手市場です。スパコンの富岳もCPUは日本製ではありません。
          日本型資本主義の模索は、考えて良い課題だと思います。

    • >「日本が賃上げできないのは、原資が配当に当てられたからだ」という話があります。
      自分も、真偽は分かりませんが。昔どこかで似たような話を見掛けた覚えがあります。
      日本の企業は株価のために、株主に配当を分けすぎていると。

      自分も岸田総理の発言は、賃上げ、購買力の向上、売り上げの増大、株価の上場ひいては景気の回復というサイクルを目指したものだと受け取っています。
      そもそも、賃上げをお願いしたのは安倍総理も同じであり、じゃあその分のお金をどこから引っ張ってくるのかとなると、内部留保か経営陣の給与か配当ぐらいしかないんじゃないかと。
      結局、自分には岸田総理も安倍総理と同じ路線をそのまま踏襲しているだけに見えるのですが、何故安倍総理と違って叩かれるのか謎です。

      配当が減るとなれば、それは株主としては嫌でしょうし株価が下がるのも予想されますが。
      そこは、この配当の減りは一時的なもので、長期的には賃金に回した方が株主にとってもお得なのだというビジョンを岸田総理が見せられるかどうかということの方が問題のように思えます。

      • 限られたパイの奪い合いは、あまり意味を持たないと思います。
        営業利益を増やして原資を確保するのが王道でしょう。
        それが出来ない経営者は報酬を減らすべき。

        安倍さんはそこにきちんと言及しているのに対して、岸田さんは、そこに目が行かないかとってつけたような表現なのでたたかれているように思います。

        >そこは、この配当の減りは一時的なもので、長期的には賃金に回した方が株主に とってもお得なのだというビジョンを岸田総理が見せられるかどうかということの方が問題のように思えます。

        仰る通りですね。但し、実行するのは経営者。其れを支援するための国民的なコンセンサス形成という事だと思います。

        ”個別配当にも累進課税”と言うような考えが有っても良いと思います。

  • 具体的な施策も挙げず「選挙近いし、ま、こういうふうにいっときゃウケるだろ」的な中身の無い発信に見えます

    画餅てな一応2次元平面上とはいえ餅は見える化されてるモンで
    きっしーのは只管"総理席に座し続ける"というビジョンしか提供してくれとりゃせんかい?

  • 雇用を破壊し尽くした隣国の「所得主導成長戦略」を他山の石とすべきです。

    本来は、
    賃上げは雇用拡大に付随して生じるもの。
    雇用拡大は景気高揚によって生じるもの。
    景気高揚は先行投資によって生じるもの。

    *無理な賃上げは雇用を損なうだけです。因果の逆転はありません。

  • 株主=搾取者=強者=悪
    労働者=被搾取者=弱者=善
    ・・・といった単純な思考しかしていないのでしょう。
    ポピュリズム政治家なんだろうと思います。
    余りに浅薄ですよね。

    • 150年前の経済学のレベルで頭が止まっているのでしょうね。
      使う言葉も全くの誤り。否定すべきは「株主資本主義」ではなく「強欲資本主義」。
      一国の首相が「国民を分断」する言葉を使ってどうする。

      今の日本経済低迷の原因はグローバリズムへの対応を誤ったこと、及びその見識の無い対処策が「怠け者の国民」と「無能な経営者」を生み出したこと。

      岸田さんがすべきは、国内投資を誘導する効果的かつ高効率な政出動と、低賃金外国人労働者導入制度である私費留学生支援制度と技能実習生制度の廃止。留学生支援制度は相手国との合意による国費(またはこれに準ずる)留学生のみにすべき。

  • NISAに課税するって言った国民民主党の玉木といい…
    投資利益に追加課税って言ったあたりから岸田胡散臭いんだよなぁ。
    与野党一緒くたで、その中に立憲民主みたいな論外がいるってだけの状況なのかなぁ…
    どっち向いても経済や生活ぶっ壊すことしか考えてない奴らばっかりな気がする。
    そんなに貧困層が偉いのかよ!

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