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徴用工で必要なのは「日韓の努力」ではなく韓国の決断

次期韓国大統領の有力候補である李在明(り・ざいめい)氏が中央日報のインタビューで、自称元徴用工問題を巡って、日韓は「対話を通して信頼を築かねばならない」、「両国政府の合理的な対話の努力が必要だ」と述べたのだそうです。100%、間違った見解です。必要なのは「両国政府の努力」ではなく「韓国政府の決断」だからです。

自称元徴用工問題

自称元徴用工問題を巡っては、当ウェブサイトではこの3年あまり、これまでさんざん議論してきたつもりですし、もはや議論し尽くした感があります。

自称元徴用工問題とは、言うまでもなく、「戦時中、強制徴用された」などと自称する者たちやその遺族らが日本企業を相手取って裁判を行っていることがその中核にありますが、それだけではありません。

韓国の最高裁に相当する「大法院」が2018年10月と11月に日本企業に対して下した損害賠償判決は、結果として1965年の日韓請求権協定に違反する状態を作り出してしまったという意味で、まさに韓国の裁判所自身が国際法に違反しているという問題です。

それだけではありません。

日本政府は今からちょうど3年前、2019年1月に、韓国政府に対し、日韓請求権協定に従った問題解決プロセスとして、外交的協議を呼びかけましたが、韓国政府はこの呼びかけを一切無視し、2019年7月には請求権協定のプロセスを完全に無視したという意味で、韓国によるもうひとつの国際法違反が確定しました。

つまり、自称元徴用工問題とは、韓国の国家権力(司法府、行政府)による「二重の国際法違反の問題」と言い換えても良いのです。

さらには、自称元徴用工問題自体、「日帝による強制徴用の被害に遭った」とする証拠がほとんど存在しません。そこにあるのは、基本的には自称元徴用工の「証言」が中心です。

そういえば、昨年の『「強制労働」なのに年金加入?不自然過ぎる徴用工問題』でも触れましたが、最近ではむしろ、自称元徴用工側は「年金の加入記録」などを証拠に持ち出して来るなど、「強制労働なのに年金に加入していた」という矛盾が出現している状況にあります。

「強制徴用被害者が年金に加入していた」というのは、ストーリーとしても、かなりの無理があります。自称元徴用工側が日本共産党衆議院議員の支援を得て、厚生年金への加入が認められたという記事がありましたが、もしその年金加入が事実だったとすれば、むしろ自称元徴用工側が主張する「強制労働」というストーリーが虚偽であり、実態がたんなる応募工に過ぎない、という証拠ではないでしょうか。自称元徴用工問題の不思議さ自称元徴用工、すなわち「戦時中、日本に強制連行された」と自称する者たちが日本企業を訴え、韓国の最高裁...
「強制労働」なのに年金加入?不自然過ぎる徴用工問題 - 新宿会計士の政治経済評論

このあたり、自称元徴用工問題の迷走を感じずにはいられません。

歴史捏造に付き合ってきた日本

冷静に考えてみると、韓国の歴史問題とは、韓国側の歴史捏造に加え、「何事も穏便に済ませようとする」という日本社会(あるいは外務省、一部の政治家など)の悪いクセが相乗効果となったものでもあります。

韓国側が主張する、慰安婦だ、徴用工だといった歴史問題の多くは、そもそもが根も葉もない捏造のたぐいですが、日本では「韓国がそこまで怒っているのなら、とりあえず(ウソでもいいから)事実を認めて謝ってしまえば良い」、などと対応してきたのも事実でしょう。

その典型例が、宏池会出身の首相・宮澤喜一のもとで官房長官を務めていた河野洋平が、内閣総辞職直前の1993年8月4日に公表した『河野談話』でしょう。

これなど、慰安婦問題という与太話を日本政府が認めてしまい、「いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる」、などと述べてしまったという意味では、明らかに日本外交の失敗です。

もちろん、河野洋平のこんな対応の背景には、当時はまだまだ新聞の社会的影響力が強かったことも無視できません(※朝日新聞が一連の慰安婦捏造報道について取り消すのは、河野談話から21年後の2014年8月5日のことです)。

ただ、韓国が次から次へとゴールポストを動かし、新しい歴史問題を捏造し続けるのを許したのは、日本政府が都度、毅然と対処しなかったことにもあります。

慰安婦合意以降は流れが変わった

もっとも、2015年12月28日の日韓慰安婦合意以降は、この流れが大きく変わった、というのが著者自身の見立てでもあります。

この「慰安婦合意」、岸田文雄・現首相が外相時代に韓国の尹炳世(いん・へいせい)外交部長官(当時)と取り交わしたものですが、それと同時に、文在寅(ぶん・ざいいん)政権下であっけなく反故にされてしまったものでもあります。

この点、『韓国紙、ラムザイヤー氏反論を妄言・歪曲と決めつける』などでも議論したとおり、慰安婦合意以降は韓国が慰安婦問題を持ち出すこと自体、韓国が自分で「わが国は約束を破る国だ」と宣言しているようなものになってしまっています。

ハーバード大のラムザイヤー教授が自身の論考への批判に再反論したようですが、これに対する韓国メディアの反応が大変興味深いです。ラムザイヤー氏の論考のどこがどう間違っているかについて、具体的な証拠を挙げず、ただ「妄言」だ、「歪曲」だ、などと繰り返しているだけだからです。韓国が大騒ぎすればするほど、国際的な「アカデミズム」の世界からは注目されてしまうというのは、大変興味深いところです。ラムザイヤー氏の反論を「妄言」と決めつける韓国メディア今朝の『日本大使館前の集会で文在寅氏が関係者の労をねぎらう』...
韓国紙、ラムザイヤー氏反論を妄言・歪曲と決めつける - 新宿会計士の政治経済評論

その意味では、この慰安婦合意自体、国際社会において、あるいは米国との関係において、韓国の位置付けを苦しいものに追いやっているのです。

このように考えていくと、日本が韓国に対し、「大人の態度」を取らなくなったこと自体、日韓関係が行き詰るのも、ある意味では当然なのです。

こうしたなか、文在寅氏は日韓関係を修復不能な状態に追いやるきっかけを作った人物だ、という言い方もできると思いますが、その日韓関係を「文在寅以前」に戻すのは、結局のところ、残り任期が4ヵ月を割った文在寅氏ではなく、その後継者の課題に委ねられることになります。

しかし、文在寅氏の後継者が誰になったとしても、日韓関係を「文在寅以前」に戻すことは、なかなかに困難でしょう。

なにせ、日本側は「日韓関係を正常化するきっかけは韓国が作らなければならない」とする姿勢で一貫していますし、いくら岸田首相が「リベラル」(?)だからといって、安倍晋三総理や菅義偉総理が作ったこの方針を覆すだけの政治力があるとも思えません。

そうなると、日韓関係を修復するためには、韓国側が歴史捏造を引っ込め、慰安婦合意を着実に履行し、自称元徴用工判決を無効にするための措置を講じなければならないからです。

はたして現在の韓国に、それができる政治家がいるのでしょうか。

李在明氏のインタビュー

それどころか、韓国メディア『中央日報』(日本語版)を眺めていると、こんな記事が目につきました。

韓国与党大統領候補「金正恩の非核化意志を信じるかより、やるべきというのが重要」

―――2022.01.11 09:08付 中央日報日本語版より

リンク先記事は、3月に実施される韓国大統領選において、現時点で最有力候補とされる李在明(り・ざいめい)前京畿道知事に対するインタビュー記事です。

李在明氏といえば、「ライバル」だった尹錫悦(いん・しゃくえつ)氏が年明け以降、苦戦を余儀なくされている(『保守系候補の支持率急落のなか、韓国の外交は視界不良』等参照)なかで、事実上、最も大統領の座に近い人物に浮上しています。

韓国大統領選で尹錫悦(いん・しゃくえつ)氏の支持率が急降下しています。果たして次期大統領は李在明(り・ざいめい)氏で決まってしまうのでしょうか、それとも第三の候補者が現れるのでしょうか。こうしたなか、毎日新聞のソウル特派員などを経験した重村智計氏はウェブ評論サイト『デイリー新潮』に「2022年の韓国を占う」と題した記事を寄稿しています。尹錫悦氏の支持率が降下中隣国・韓国では今年3月、文在寅(ぶん・ざいいん)大統領の後継者を選ぶための大統領選が行われますが、年が明けてからでしょうか、かなり興味深い...
保守系候補の支持率急落のなか、韓国の外交は視界不良 - 新宿会計士の政治経済評論

もちろん、選挙は水物ですし、韓国のことですから、最後の最後まで何があるかわかりません。

しかし、私たち日本人は、李在明氏が次期大統領に選ばれたときに備える必要があることもまた事実でしょう。

リンク先記事では、「強制徴用被害補償判決」(※自称元徴用工判決の誤り)を巡って、李在明氏の発言が掲載されています。

李在明氏は自称元徴用工問題を巡り、日本政府が日本企業の資産の現金化により日韓関係の「回復が難しくなる」と述べている点に関連し、「法律家」の立場からは裁判所の判決を尊重すべきとしつつ、「政治家」としての立場からは、日本との協議が必要だとして、次のように述べたのだそうです。

ひとまず(日本と)会って話し、互いにプラスになる道を見いだそうと言いたい。日本が大法院の判決を理由に過去の問題と社会・経済的協力問題を混ぜた側面があるが、これを分離してツートラックにするものの互いに了解できる方法を探そうということ」。

「過去の問題と社会・経済問題を混ぜた」とは、なんともメチャクチャな言い分です。

くどいようですが、現在の日韓関係の要諦は、韓国が国際法や条約、約束を守るのか、守らないのか、という点にかかっています。もしも韓国がこの違法判決を放置し、それどころか違法判決が執行される状態になれば、日韓関係は法的に覆ってしまうのです。

最後は韓国の決断が必要

このように考えていくと、李在明氏のいう「ツートラック」も、なかなかに意味不明です。

日本の側としては、韓国が国際法を守るか、守らないか、という「ワントラック」に過ぎないからです。

それなのに、李在明氏の言い分は、次のように続きます。

第3の案を作り出さなければいけない。対話を通して信頼が築かれれば、両国が、被害者が共に同意できる案を作り出すことができる。人が作った問題をなぜ人が解決できないのか」。

そもそも「人が作った問題」、ではありません。

「韓国が作った問題」です。

韓国が作った問題を、なぜ日本が解決しなければならないのでしょうか。「対話を通して信頼を」とおっしゃいますが、国際法破りで信頼を踏みにじったのは韓国の側ではないでしょうか。

記事の末尾では、李在明氏のこんな発言も取り上げられています。

両国の国民感情(に合わなければならず)、両国政府の合理的な対話の努力が必要だ」。

違います。

必要なのは韓国政府の決断です。

まことに残念な話ですが、李在明氏がその点を理解しないまま大統領に就任してしまうことがあれば、このまま日韓関係は漂流していく可能性が高いと思わざるを得ないのです。

新宿会計士:

View Comments (27)

  • 大統領になる前から、手の内を明かすバカのようで、良かったじゃない。
    まず日本と会って話す事が、出来るかどうかは知らんけど。

    • 中央日報の記事から
      >李候補は「中国の人権問題に関心を持つより、我々の経済と国民の生活に関心を持つことがさらに重要だ」とし、即答を避けた。「国際社会の一員として民主主義と人権を追求する努力は必要だが、我々の国益が損なわれる形でする必要はない」と話しながらだ。五輪ボイコットによる「失」が「得」より大きいという趣旨だった。

      こういう考え方が、デフォルトでしょう。

    • これからは頻繁に会えるようになるかもしれないよ
      会うたびに「約束守れや」と催促されることになるが

  • 自称さん現金化→日本制裁発動→韓国甘受ってすれば、特に協議もいらないし、悩まくて良いと思うのです♪

    • 七味様
      そうですよね。考えずに済むのが何よりだと思います。

      「現金化=外国政府による収容リスクの発露=カントリーリスクの見直し=金融(投資)資本の引揚げ」までが既定路線のような気がします。
      民間企業の自己判断によるシステマチックなリスク回避に過ぎないのですから、国の関与する経済制裁には非ず、面倒な法整備も不要ではないのかと・・。

      • カズ様

        コメントありがとなのです♪

        新宿会計士様は、
        >必要なのは韓国政府の決断です。
        って言うけど、韓国政府にとって「約束を守る」って決断が難しいなら、次善の策として「この件でどんな不利益を蒙っても、それを甘受して他に影響させない」って決断くらいはしとくべきと思うのです♪

        それが、彼らの言うツートラックの実現に他ならないと思うのです♪

  • 李在明が順当に?大統領になれば、日韓関係がこれまで以上に膠着するのは既定路線です。
    それよりも、李在明は在韓米軍を「占領軍」と規定し、南北分断の責任を米国に負わせようとしていますので、米韓関係の更なる悪化の方が、国際的には問題になるでしょう。
    新宿会計士さんも指摘されていた通り、私は日韓関係よりも先に米韓関係が破綻すると思います。米韓関係が破綻すれば、日本も米国に遠慮する部分がなくなりますので、いよいよ、日韓関係が正常化していくものと期待しております。
    同時に、日本は、防共ラインが38度線から対馬海峡に下がる事を想定し、早く手を打つ必要があります。冗談抜きに、対馬に防人を派遣し、北九州沿岸に石塁を築かなくてはなりません。

  • 「ひとまず」ですと!

    なんか居酒屋の「とりあえず生大!」

    みたいな事を…

    心の底から相手したくないと思う方々ですこと。

  • 彼らの言う”努力”って何の意味もない言葉。問題解決の意思はこれぽっちもなく「相手に解決させるためのもの」でしかないんですものね。

    >李在明氏がその点を理解しないまま大統領に就任してしまうことがあれば、このまま日韓関係は漂流していく可能性が高いと思わざるを得ないのです。

    *岸田総理の ”効く力” しだいでは、李・岸の流れ(離岸流)が形成され、たどり着けもしなくなるのかもですね。

    • 韓国人が決断しない事より
      もし現金化実行された場合、日本政府は制裁を決断しない気がします

      韓国政府のダメさ加減は理解していますが
      日本政府も韓国に舐められるくらい 決断しない政府だと思います

  • 『韓国裁判所、強制労働賠償関連で「特許権差し押さえに不服」の三菱の再抗告を棄却』
    中央日報日本語版2022.01.11 11:33
    https://japanese.joins.com/JArticle/286587
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    いったいいつになったら現金化実現するのでしょうかね?
    「被害者中心主義」といいながら、判決確定から3年以上も現金化をここまで引っ張る原告弁護団(実際は反日活動か団体)や韓国司法(実際は前大法院長を逮捕拘束し、極左大法院長を任命した文在寅大統領とそのお仲間たち)の猿芝居には苦笑するしかない。

  • >そもそも「人が作った問題」、ではありません。
    >「韓国が作った問題」です。

    故に、韓国は「人」ではない、って事で(*´∇`*)

    • >まことに残念な話ですが、李在明氏がその点を理解しないまま大統領に就任してしまうことがあれば、このまま日韓関係は漂流していく可能性が高いと思わざるを得ないのです。

      韓国的には「理解したら負け」でしょうしね。

      李在明氏がサウスコリア最後の大統領にならないか、ワクワクしながら見物してます。

  • お疲れさまです。

    韓国の大統領選挙、国のありかた将来について真剣に議論して選ぶのが大切だと私はおもいます。

    しかし、スキャンダルとか反日の具合とかで選んでいるように気がいたします。

    これじゃあ、誰がなっても同じ。

    日本は、反日国家とのテーパリングが大切だとおもいました。

  • 「(自称元徴用工問題の解決に)必要なのは韓国政府の決断です。」
     本当にそのとおりなのですが、韓国の大統領は1000年経ってもこのことを理解できないでしょう。
     よって、日韓両国は「1000年の決別」時代に突入するでしょう。めでたしめでたし。

  • 新宿会計士様の
    >………… 違います。必要なのは韓国政府の決断です。

     日米中が、韓国を放置(無視)する前提で推察すれば、韓国は、絶対に自ら決断しないし、決断出来ない民族だと思います。
     彼らは中国歴代王朝に反抗してもどうにもならない事を精神に刷り込まれていて、仏教でいう無常観という観念でしょうか、幾らもがこうが、自らが鬼になろうが、全てが無に帰する事をDNAに嫌という程組み込まれている。ですから、いよいよ追い込まれた時に、思考を放棄し逃避します。
     古代より、多くの民族は戦争と滅亡で入れ替わってきたが、韓国人は思考を放棄し逃げる事で、無常観の中で生き延びてきたとも言えます。

     しかしもしも、強い大国のフォローがあれば、その傘下で抑圧されて来た反動か、目を覆うばかりの凶暴さ野蛮さを発揮し、自身の強さを誇示し、大国に取り入れられようとする。これがいわゆる狗です。これが大日本帝国の盛衰と共に彼らがいとも簡単に手のひらを返し、恩を仇に変えてきたその生き様です。
     
     現代に於いて、大国米国の庇護の元で彼らは、日本の贖罪意識の中で日本から養分を吸い続けることが可能だった。そうさせたのも米国の思惑があっただろうが。
     しかし米国も自立しない韓国を流石に見放した。韓国は妄想の中であろう事か次の大国を中国に求め、三たび手のひらを返したのが今だと思います。
     もう、二度と付き合ってはイケナイ国だと思います。

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