当ウェブサイトでは選挙期間に突入した選挙に関する話題については、あまり触れないようにしているのですが、本日はどうしても紹介しておきたい話題をひとつ発見してしまいました。それは、週刊朝日に掲載された、「自民党40議席減」「単独過半数割れも」、と題した記事です。自民党にとって、情勢はそこまで厳しいのか――。そう思って読んでみて、思わず脱力しました。これ、調査の結果ではなく、2人の「政治ジャーナリスト」の方が予測した結果に過ぎないからです。しかも、記事の執筆者は初歩的な検算すらしていないようです。
選挙活動と論評の線引きは難しいが…
すでに選挙期間に突入してしまったという事情もあり、当ウェブサイトでは、個別選挙区に関する話題、あるいは特定の候補者、政党などの当落に関する記述については、できるだけ控えようと考えています。
ことに、当選ギリギリの候補者に対し、「この候補はこういうところが良いから、地元選挙区の方はこの候補者に投票してほしい」、「この候補者は落選させるべきだ」、などと迂闊に発言し、そのことが結果的に選挙運動と認定されれば、思わぬところに迷惑を掛けたりする可能性もあります。
もっとも、新聞、テレビなどのマスメディアが行っている「報道」を見ても、あからさまに特定政党、特定候補を応援していると思しき記事なども見かけるため、「選挙運動」と「報道・論評」、あるいは「選挙運動」と「政治活動」の線引きは、じつに曖昧でもあります。
このあたり、マスメディアの報道が選挙違反として摘発・立件されたという事例は、個人的にはあまり存じ上げません。
唯一個人的に思いつく事例があるとしたら、青山繁晴氏(現・参議院議員)が今から約5年前、2016年7月に参議院議員選挙の選挙活動をしていた際、「虚偽の記事で公正な選挙を妨害した」として、週刊文春の記者らを東京地検に刑事告発した(※)ことくらいでしょうか。
(※詳細は青山氏の個人ブログ『青山繁晴の道すがらエッセイ/On the Road』に2016年7月6日付で掲載された記事などが参考になると思います。)
これについてはしかし、残念なことに、東京地検が文春の記者らを刑事訴追したという話は聞きません。やはり、検察当局というのは、メディアには極端に甘いのでしょうか。
選挙には行きましょう!
この点、「どうせ摘発されないから、なにを書いても良い」、というのもおかしな話です。
当ウェブサイトではいちおう、選挙が始まったならば、その選挙についてはできるだけ「見守る」という態度を取るのが正しいと考えており、したがって、個別の選挙区、あるいは比例区におけるウェブサイト読者の皆さまの具体的な投票行動について言及することはできるだけ控えるようにしている、というわけです。
ただし、例外があるとしたら、「選挙には行きましょう」という呼びかけです。
この「選挙に行きましょう」は、いわゆる特定候補者・特定政党にとっての選挙運動ではありませんので、いくらこれを連呼しても、公選法上は問題ないはずです(※もっとも、実際には組織票に強い政党にとってのネガティブ・キャンペーンのようなものですが…笑)。
そういうわけで、謹んでこう申し上げておきます。
- ①内容に同意できない新聞を購読しないようにしましょう。
- ②内容に同意できないテレビを視聴しないようにしましょう。
- ③選挙では必ず投票しましょう。
週刊朝日「自民40議席減」「単独過半数割れ」
さて、こうしたなかで、本稿ではもうひとつ、こんな話題を取り上げておきたいと思います。
岸田首相の大誤算 衆院選で「自民40議席」減、単独過半数割れの予測も
―――2021/10/20 07:00付 週刊朝日より
リンク先記事は朝日新聞系の『アエラドット』というウェブサイトに掲載された週刊朝日の記事だそうですが、記事タイトルに「今回の衆院選で、自民党は40議席減らす」、「単独過半数割れの予測も」、とあります。
いったいどういうことでしょうか。ついに自民党は「下野」でもするのでしょうか。
気になって記事本文を読むと、こうあります。
「各選挙区の当落予測については調査の結果ではありません。公示日前に識者2人が予想しました」
…??
何のことはない、べつに何らかの調査をしたわけではなく、単純に2人の「識者(?)」の方が予測した内容を記事にした、というだけのもののようです(※それにしても「識者」だの、「政治ジャーナリスト」だのといった肩書は便利ですね)。
しかも、片方の方の予測だと、自民党は現有議席276を239議席(小選挙区171議席、比例68議席)にまで減らすということですが、単純計算だと40議席減ではなく、37議席減です。もうひと方の予測だと243議席(小選挙区176議席、比例67議席)なので、33議席減に留まります。
さらにいえば、465議席の過半数は233議席ですので、最悪シナリオである239議席だったとしても、単独過半数割れはありません。
「40議席減・過半数割れ」に根拠はなかった!
記事タイトルにある「40議席」、「過半数割れ」の根拠は、いったい何でしょうか。
それが、記事のなかに唐突に出てくる、こんな記述です。
「今後の情勢次第では40議席減、よもやの単独過半数(233議席)割れも視野に入る」。
根拠は、これだけです。
しかも、冷静に考えてみたいのですが、40議席減ならば276議席が236議席ということですが、これは両氏が示した予測よりもさらに悲観的なものであるにも関わらず、単独過半数割れの水準ではありません。「よもやの過半数割れ」には「44議席減」が必要です。
せめて、記事にタイトルを付す際には、初歩的な検算くらいなさった方が良いのではないでしょうか。あるいは、こうした初歩的な計算もできないほど、日本のメディアは劣化した、ということでしょうか。
あるいは、読者をわざとミスリードする目的で、数字をごまかしているのでしょうか。
謎です。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
そのうえで、両氏の予測する中身についても、個人的には非常に疑問を持たざるを得ない部分があります。
たとえば、比例代表に注目すると、自民党と立憲民主党の議席は、片方の方の予測で68議席対52議席、もう片方の方の予測では67議席対58議席だそうですが、非常に乱暴な試算に基づけば、この予測は信頼に値しません。
なぜなら、『「立憲民主は自民の3分の1を上回るか」に注目したい』でも紹介したとおり、朝日新聞自身の10月4日・5日の調査に基づけば、比例代表での投票先は、自民党が44%であるのに対し、立憲民主党は12%に過ぎなかったからです。
日本が総選挙モードに突入するなか、各メディアがさまざまな調査を開始しています。こうしたなか、読売新聞や共同通信が今月2回目の内閣支持率調査などを実施しているのですが、興味深いことに、どの調査でみても、比例区で「自民党に投票する」、「立憲民主党に投票する」と答えた人の割合が、だいたい3対1なのです。逆に言えば、獲得議席数で立憲民主党が自民党の3分の1を上回るかどうかが、個人的な見どころ、というわけでもあります。選挙前の世論調査「共同通信トレンド調査」では自民党対立憲民主党が「3対1」に当ウェブ... 「立憲民主は自民の3分の1を上回るか」に注目したい - 新宿会計士の政治経済評論 |
とくに、前回の選挙(第48回衆院選)では、比例区で自民党が獲得したのは1856万票で議席は66議席でしたが、立憲民主党は1108万票で議席は37議席でした。1議席あたり、自民党は28万票、立憲民主党は30万票を要した計算で、得票率は33%対20%でした。
今回の両党の得票率が朝日新聞の調査どおり「44%対12%」だったとし、有権者数、投票率などの条件が前回と同じで、30万票で1議席得られると仮定すれば、今回の選挙では、自民党は2453万票で82議席、立憲民主党は669万票で22議席(!)という試算が出てくるはずです。
もちろん、当ウェブサイトのこの試算は、さすがにかなり雑ではありますし、また、今回の選挙自体、安倍晋三総理大臣のもとで圧勝した2017年10月と比べて自民党が苦戦するであろうことは予想できます。
しかし、少なくとも「自民党対立憲民主党」の比例での投票先は、どのメディアの直近調査で見てもだいたい3対1の割合なので、少なくともこの「68議席対52議席」、「67議席対58議席」は、こうしたメディア自身の調査結果から著しく乖離しています。
いったい、両氏はどういう計算でこれを導き出したのでしょうか。あるいは、そもそも計算なさったのでしょうか。
政治ジャーナリストの方々がどういう計算テクニックをお持ちなのか、ちょっと気になるところです。
いずれにせよ、この手の「議席予想」は、これから多数出て来ると思われますが、むしろ重要なのは、10月31日にその結果が判明したあとで、それを「検証すること」ではないかと思う次第です。
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こういう論考いいですね♪
どこのメディア(著者・識者・専門家)が、どのタイミングで、何と言っていたかを後々検証するのに便利そうです。
どうせ、オールドメディアは、言いたいことを言うだけ言って、責任も取らず、検証もしないでしょうからね。
二十歳の時から欠かすこと無く一貫して日本共産党と日共の推す候補ばかり投票して参りました。歴が長いせいで国会議員にも常任幹部会委員にも(笑)顔見知りが居ります。だが当面日本共産党には投票しません(私の目の黒いうちは絶対に、とまでは言わずに起きます)。
なるたけ自民党には頑張って欲しいのですが自民党の候補者は高市氏の様な方ばかりでは無く、更に困るのはたまに連立与党の候補に選挙区を配慮して居たりする事。また地元の(よく知らない)候補に入れなければならない事です。外から見ていると自民党の代議士は一人一党みたいでそれぞれの立場で誂えた政策があり、それは外部からはよくわからない。権力が集中するせいでタチの悪い誘惑も桁違いにあるのでしょう。またぶっちゃけ二階俊博さんや横浜のセクシーさんの選挙区ならばその自民党推しを候補に名前書いて託せるかよくわかりません(その点判で推した様に党の政策を主張する日共を推して居た時には個別候補の資質や主張など心配無く推せました)。
元日本共産党員名無しさまの書き込みには
これまでと逡巡のはての今の戸惑い
とお考えが伝わってきて
とても共感させてもらってます。
学生運動終わったあとの世代の私の場合は
それまでの漠然とした心情左翼的なものが
すでに大学時代存在せず、かといって
若い時代はそれを秘めて温め続けていました。
ただ、年を重ねた今では、
朝日新聞天声人語の思惑通りの回答書くことで
得点もらっていた昔の呪縛がスッカリとけています。
近代経済学に「逆選択」という概念があります。
私も自民党は まあたいがいだなあ
とは思いますがだからといって、
それ以下で問題外の政党を
「逆選択」してはしまわない
というだけの今の私です。
令和特別高等警察は今回は議席取れそうですかね?
頑張れ頑張れドカベン山本太郎
少しそれますが
衆議院議員選挙と同時に行われる
最高裁判所裁判官国民審査についてです。
多くの人と同じく私も、
誰がどんな人かわからないまま
白票(=全員信任になる!)で済ましてきました。
また、ネットでは
政治的に歪んだ立ち位置からの
評価の書き込みは
嫌というほど目にします。
そんななかで、今回、NHKの特設HP
「最高裁判所裁判官国民審査2021」
がとても参考になるなあと思いました。
審査対象の11人について
「あの裁判での判断は?」
という資料をみると、
自分の考えにあった裁判官かどうかの
判断のとてもわかり易い参考になると思い
ました。
(もちろん、NHK全般に関しては
新宿会計士様やここのみなさんと同じ意見ですが
この特設サイトだけは(笑)評価しました)
特に関西方面で印象的なのが、自公どころか立民・共産にまで同時推薦されている無所属を謳う候補者…
利害が一致すれば与野党ともに分別や叙事なんぞ簡単に放棄する…
独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
(そう自分に言い聞かせないと、マスゴミと同じく、自分は間違いない存在と自惚れそうなので)
選挙前なら、どの党も全ての候補が当選または落選する可能性があります。つまり、可能性だけなら、何とでも予想することが出来るのです。どうせ、投票日になれば、どの予測があっていたかが分かるので、それまで「インパクトがある見出しをつけて、週刊誌を売ろう」という魂胆なのでしょう。
駄文にて失礼しました。
ふと気になったのですが、その識者さまの過去実績ってどうだったんですかね?
1ドル50円と毎年騒いで本を出す某経済評論家みたいに毎回トンチンカンなことを仰っているのか、それとも前回の選挙予想はドンピシャだったのかなど。
毎回トンチンカンなことを仰るようでしたら、それは識者ではなく妄想者だなーと思いますし、的確な予測ができているのであれば傾聴するべきかなぁと。
「自民党が大敗する」と、選挙ごとに言い続ければ、そのうち、当たるのではないでしょうか。(もっとも、「10議席も減らすほどの大敗をした」と言う手もありますが)
止まった時計も一日二回は正しい時刻を指すのです。
今回の衆議院選挙の選挙.comのリンクです。
https://shugiin.go2senkyo.com/49/
選挙の案内(投票券)が、届きました。
去年引っ越したので、初の国政選挙です。
私の選挙区は、立憲(比例復活の現職)、維新(新人)、自民(新人)の立候補が有ったようです。
前回自民党が勝った選挙区なんですが、やらかしたようで今回は新人。
維新の扱いが、悩みの種になりそうです。
素晴らしい論評です。
テメーら、自民が過半数割れで思い通りの運営が出来ず、野党が強くなるぞ。選挙で投票せずに予測どおりになったらテメーらはそれで良いのか。どうするんだよ。
投票率上げるアオリ?
私もこの記事の最後を見て膝カックンになりました。
まあ、野党統一候補はそこそこ議席取るだろうけど、比例の立憲民主党はそこまで稼げないじゃないかなと。そこの数字をいじらなきゃ出せない予測は流石にないでしょうね。
来週初に情勢判断出るのでそれを待ちましょう。