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記者会見で「経済、外交、コロナ」に言及した岸田首相

「ある国」への言及はゼロ

岸田文雄氏が「第100代首相」に選ばれ、新内閣が発足したことにともない、岸田首相自身が昨晩、記者会見に応じています。その内容が首相官邸ウェブサイトにアップロードされていました。さっそく一読してみたのですが、若干わかり辛い点がないわけではないにせよ、まずは無難な内容だと考えて良いでしょう(ちなみに「ある国」には言及すらなく、記者の質問にも出て来ませんでした)。

岸田首相の記者会見

岸田文雄首相の昨日の記者会見について、首相官邸のウェブサイトにテキストがアップロードされていました。

岸田内閣総理大臣記者会見

―――2021/10/04付 首相官邸HPより

冒頭発言をあえて要約すると、「新型コロナ対策」、「新しい資本主義の実現」、「外交・安全保障」が岸田氏にとっての「3本柱」、といったところでしょう。

そのうえで、各論点について岸田首相は次のように述べました。

  • 1.コロナについては「ワクチン接種、医療体制の確保、検査の拡充」などの取り組みを強化するとして、山際大志郎大臣(新型コロナ対策・健康危機管理担当)、後藤茂之・厚労相、堀内詔子・ワクチン担当相の3大臣に支持を出した
  • 2.「新しい資本主義の実現」は、成長と分配の好循環と、コロナ後の新しい社会の開拓がコンセプト
    • (1)成長戦略に関しては①科学技術立国の実現、②デジタル田園都市国家構想、③経済安全保障、④人生100年時代の不安解消
    • (2)分配戦略に関しては①働く人への分配機能の強化、②中間層の拡大、③少子化政策
    • (3)公的価格の在り方の抜本的な見直し。医師、看護師、介護士、さらには幼稚園教諭、保育士の所得向上に向け、公的価格の在り方の抜本的見直しを行う
    • (4)財政の単年度主義の弊害是正。科学技術の振興、経済安全保障、重要インフラの整備などの国家的な課題に計画的に取り組む
  • 3.外交・安全保障は日米同盟を基軸にし、3つの覚悟を持って毅然とした外交・安全保障を展開する
    • (1)自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的な価値を守り抜く覚悟。同盟国、同志国と連携し、自由で開かれたインド太平洋を強力に推進していく
    • (2)我が国の平和と安定を守り抜く覚悟。領土、領海、領空、そして国民の生命と財産を断固として守るとともに、拉致問題を最重要課題とする。私自身、条件を付けずに、金正恩委員長と直接向き合う覚悟である
    • (3)地球規模の課題に向き合い、人類に貢献し、国際社会を主導する覚悟

…。

意外と読みやすい

こう申し上げては失礼ですが、意外とすっきりまとめられています。

抽象的な「日本型資本主義」とやらについては何かと不安もありますし、また、岸田首相自身が財務省の強い影響を受けているのではないかとの疑念は払拭できませんが、ただ、発言内容のうち、介護士や幼稚園教諭、保育士らの待遇改善に言及したことは高く評価して良いと思います。

また、外交においては、日米安保の堅持に加え、前任者である安倍晋三総理、菅義偉総理らが確立させた「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)の推進という方針をそのまま承継しましたし、安全保障、拉致問題解決などにコミットしたことについても歓迎したいと思います。

そのうえで、岸田首相は大方の予想よりも早く、10月21日の衆議院の任期満了に先立ち、10月14日に衆院を解散し、10月19日公示、10月31日に投開票という方針を示しました。

こうした野党側の思惑をくじく日程設定は、自民党総裁としては、大変に賢明です。

菅総理続投というシナリオが狂って大慌ての立憲民主党』でも指摘しましたが、とくに最大野党である立憲民主党は、どうも菅総理の続投を前提に選挙の準備をしていたらしいということを、平野博文選対委員長自身が認めています。

「菅総理の新型コロナ対策の大失敗」を執拗に責め立てるつもりで選挙を迎えようと思っていた野党側としては、まさかの菅内閣の総辞職、さらに新型コロナウィルスの新規陽性者数の全国的な激減という状況については、まさに「アテが外れた」と言いたくなる気持ちもあるでしょう。

日経の先月末の記事によると、岸田首相自身、自民党総裁選勝利直後に衆院選における「勝利ライン」を「与党で過半数」と非常に低く設定しているため、ある意味では「楽勝」といえるのかもしれません。

衆院選の勝敗ライン「与党で過半数」 岸田新総裁

―――2021年9月29日 19:00付 日本経済新聞電子版より

もっとも、「自公あわせて過半数」といえば、全465議席のうち、自公で233議席です。公明党の議席が前回並みの29議席なら、自民党は204議席で良い、すなわち「現有勢力から72議席、前回獲得議席からは80議席も減らして良い」、とおっしゃっているようなものです。

これに関して、個人的には「なんだかガッカリ」ではありますが、ただ、2017年10月の衆院選では安倍総理のもとで自民党が大勝したという事情もあるため、ある程度議席を減らす可能性を織り込んでおくことは必要なのかもしれません。

FOIPの継承と中国への対応

さて、個人的に岸田首相の経済政策についてはさまざまな不安や期待が入り混じっていることはたしかですが、外交・安全保障に関して、FOIPをそのまま引き継ぐ方針を示していることは、まずは安心材料のひとつでしょう。

東シナ海や南シナ海では中国による不法な領土拡張活動が続いていますし、台湾の防空識別圏に中国の軍用機が進入するなどの挑発も相次いでいます。

自由・民主主義国家群にとっては、中国リスクは対応すべき課題のなかの筆頭格でしょう。

折しも日本がFOIPの旗印を掲げたのは、大変に良いタイミングでした。というのも、FOIPのもとに、日本は米豪印とともに「クアッド」を結成したからであり、さらにそのFOIPにはカナダ、英国、フランスなども関心を示しているからです。

さらに、豪州、英国、米国のあらたな枠組み「AUKUS」(オーカス)も始動しました(※もっとも、フランスが最近、FOIPから距離を置いているように見受けられるなか、AUKUS結成が米仏関係などの悪化を招かないかについては若干懸念事項ではありますが…)。

日米同盟、FOIP、AUKUS、クアッド、そして「新日英同盟」などが成立して行けば、まさに「ルールを守る国」対「ルールを守らない国」という構図は、よりいっそうクッキリしてくるでしょう。

岸田首相は中国との関係について時事通信の記者に尋ねられ、次のような趣旨の内容を答えています。

  • 中国はわが国の隣国であり、最大の貿易相手国であり、様々な民間の交流等を考えると、日本にとって重要な国であり、対話は続けていかなければならない
  • しかしながら、東シナ海、南シナ海などのさまざまな地域で力による現状変更と言えるような動きが見られ、私たちが大切にしている自由や民主主義、法の支配、人権などの価値観に対して、いかがかと思うような対応も感じられる
  • わが国のみならず、普遍的な価値を共有する同盟国や同志国とも連携しながら、中国に対しては、言うべきことはしっかり言っていくというのが重要なスタンスである
  • 中国のTPPの参加については、TPPが求める高い水準をしっかり満たすことが必要だが、国有地、国有企業の在り方、知的財産権に対する対応など、TPPが求める高い水準を中国がクリアできるかどうかは不透明ではないか

この点についても、まったくそのとおりでしょう。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

少しだけ余談です。

岸田首相の会見を読んでいて気付いたのは、具体的に言及した国が米国と北朝鮮、具体的に言及した構想がFOIPであるという点、そして記者からの質問で出て来たのが中国、といったところですが、「ある国」についてはいっさい言及がないというのも、興味深いところです。

菅総理による「FOIPシフト」が岸田首相にもしっかりと継承されたことを考えるなら、自由・民主主義国を装いながらも法を守らない国に言及しないというのは、ある意味では当然のことでしょう。

ただ、記者団から質問すら出なかったというのは、時代の変化を感じる次第でもある、といったところでしょうか。

新宿会計士:

View Comments (19)

  • 岸田首相の最重要案件は、日韓関係を改善する事ニダ。
    今回は、恥ずかしくって言い出せなかったに違いないニダ。

  • >ちなみに「ある国」には言及すらなく、記者の質問にも出て来ませんでした

    アフガニスタン情勢って大切だとは思うのですが、地球規模の課題ってとこに含まれちゃったんじゃないでしょうか?

    • 七味様

      アフガン問題に日本は関係ありません。だから、必要ないのです。
      これからは中共の問題となります。 暖かく見守ってあげましょう。
      多分(99%の確率で)米国と同様に中共もこけるでしょう。
      共産主義は一般的に無宗教だと思われておりますが、実質的には一神教です。
      一神教と一神教との戦いは大概悲惨なものになる事は決まっております。
      (イスラム教対キリスト又はユダヤ教の変化版の戦いです。)
      又、中共にされたウィグル問題は無くなっておりません。
      中共がユーラシア大陸の奥に入るほど、ウィグル等多民族問題をどうするか
      考えこむ事になるでしょう。 中共内部では少数民族として迫害してますが
      外国の他民族の取り扱いを中共式でできるかどうかが、問題です。

  • 厚生大臣やワクチン担当大臣が首切り降格になったのは
    コロナ蔓延の責任を取らせたということかな
    次の大臣は有能だから、前職みたいなことは間違っても起きないと期待している

  • 早速、バイデンさんとは電話会談しましたし、午後にはモリソンさんともやるみたいです。その次は、ジョンソンさんとモディさんかな?
    このあたりで、「なじぇ、なじぇ、韓国が遅いニダ」といった報道が出てくると予想します。

  • 岸田新総理は、以前消費税減税について問われたとき消費税を上げる時に大変だったので下げることは考えてない、というニュアンスの回答をしていた記憶があり、自己都合に終始し、国民のことは全く見ていないと失望した記憶があります。財務省の犬、という印象を覆していただければいいのですが…。

    • 苦しいリーマン様

      岸田氏の自己都合でも、財務省の犬とかの問題ではありません。
      税金を上げる事は、政治上の重要な問題の一つです。
      へたすると、悪くて政権転覆、良くて政治動乱が続くのです。
      夜盗の皆様のように税金を下げる・消費税を下げると言う事は簡単です。
      後で今迄言っていた公約は嘘ぴょ~んとか、そんな事言っていました?と
      済ませれば良いからです。 ガソリン値下げ隊運動を覚えていますか?
      ガソリンが値上げになった時、与党であった民主党の若手議員が起こした運動です。 
      当然言うだけ、会議室にポスターを貼る運動をしただけです。
      議員であれば二重課税である通称ガソリン税を廃止すれば、直ぐガソリン代を半分
      程度迄引き下げる事が可能であるのに、何もしなかったのです。
      当然ですよね。 通称ガソリン税を廃止したら、代わりの財源を探さなければなりませんし、他の税を上げるか新しい税を創出しなければならないからです。
      (古い資料ですが、2018年度ガソリン税は2兆6千億円程度)
      又、国が負担すべき項目は多く、個人の負担を減らすと国に負担が回ります。
      国に負担が回るという事は、国にその財源が必要になるという事なのです。
      今回の武漢コロナウィルスの接種で個人負担はありませんでしたよね?
      その負担は、税金として回ってくるのです。 
      だから、自民党の政治家は夜盗のように簡単に税金を下げるとは言えないのです。

  • 予想通り総花的な話で、不安もありませんが、期待もありません。対韓国は、先方が歩み寄るとも思えず、このまま段階的先細りテーパリングでしょう。内政につき、デジタル化とか、年金改革とか蛮勇を奮って欲しいけど、無理でしょうね。あと甘利幹事長の影響力が増しているので、忖度による実質的腐敗が心配です。

  • ちょっと「おっ」と思ったのは以下を掲げたことですね。

    > 財政の単年度主義の弊害是正

    ある程度の枠組みは必要であるにせよ、防衛装備品調達やインフラ関係など、年度内に予算執行が完結しない対象には、単年度主義は明らかに弊害となります。年度をまたがる対象をきちんと明示したうえで、複数年予算を認めるべきだと思います。

  • わざわざ反日国家と仲良くして、良いことはなかったと思います。

    経験で学び、テーパリングに賛成です。

    反日はやめないでしょうから。

  •  長野民からすると、後藤茂之氏がやっと大臣かぁ、という感じです。しかもこの時勢に厚労相。
     でこの件も絶対批判したい日刊ゲンダイが、絶対批判したい金子勝(なぜこの方が内閣人事についての識者なのか……)にインタビューをし、「無名の後藤氏なんて、コロナ軽視だー」だそうで。今の時勢にコロナ軽視できる人間なんて、地球上に居ないと思いますが……
     法務副大臣まで経験、衆院6選、自民長野県連会長で地元知名度抜群ですが、無名だったんですねー。へー。

     ちなみに後藤氏の政治志向は、日刊ゲンダイの日頃の主張とは「ほぼすべて逆」です。

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