先ほどの『近隣国重視から価値重視へ:菅総理が日本外交を変えた』では日米豪印クアッド首脳会談の様子などについて話題として取り上げたのですが、本稿ではこれに関連し、韓国の「保守系」最大手とされるメディア『朝鮮日報』(日本語版)に掲載された記事をもとに、なぜか韓国メディアがかたくなに「FOIP」の用語を使わないという点についても紹介しておきたいと思います。
お断り
当初、誤って草稿状態で記事を公表してしまいました。いったん非公表にして修正し、再公表します。なお、誤って公表したさいにいただいた読者コメントについては削除しておりません。
FOIPの用語に触れないメディア
先ほどの『近隣国重視から価値重視へ:菅総理が日本外交を変えた』では、「FOIP」、つまり「自由で開かれたインド太平洋」が、名実ともに日本外交の基軸となった、とする話題を取り上げました(※FOIPは英語の “Free and Open Indo-Pacific” の略です)。
この点、当ウェブサイトでは一貫して、「日米豪印4ヵ国」の「4」が重要なのではなく、これら4ヵ国が実現しようとしている「自由で開かれたインド太平洋」という「世界観」が重要なのだ、と指摘してきたつもりです。中国などの圧政的な専制国家が支配する不自由で暗黒の世界に住みたいと思う人は少ないでしょう。
ところが、著者自身がメディアの報道を調べていくと、この「FOIP」という大変に重要な用語を報じている社は非常に少なく、なかには「クアッドは中国を牽制するために結成された枠組みである」、といった、大変に不適切で誤解に満ちた記述もあります。
このあたり、とくに外交などに関する話題を調べるときには、メディアの劣化バイアスがかかった報道ではなく、できれば政府(この場合は首相官邸や外務省など)のウェブサイトを直接読みに行く癖をつけた方がよいのかもしれないと痛感した次第です。
朝鮮日報はFOIPを無視して「クアッド」のみに言及
ただ、この「FOIP」の概念を無視しているという意味で、さらに酷いのが、韓国メディアです。
韓国メディア『朝鮮日報』(日本語版)に昨日掲載された次の記事など、その典型例でしょう。
米日豪印4カ国「クアッド」、中国けん制に向け宇宙分野で協力拡大へ
―――2021/09/25 09:19付 朝鮮日報日本語版より
(※朝鮮日報の記事は、公表から数日経過すると読めなくなるようですので、ご注意ください。)
少しだけ、わりとどうでもよい余談です。
記事タイトルや本文に「けん制」という表現が出てきますが、これは「牽制」のことです。「常用漢字表」なる表に「牽」の字が含まれていないためでしょうか、一部メディアは、「牽制」「捏造」などと表記すべき単語を「けん制」「ねつ造」などと表記します。政府への忖度でしょうか。
朝鮮日報さんは日本のメディアではないので、「けん制」ではなく「牽制」と堂々と書けば良いのに、と思ってしまうのはここだけの話です。もちろん、当ウェブサイトでは「けん制」ではなく「牽制」、「ねつ造」ではなく「捏造」と表記するつもりです。
朝鮮日報は日米豪印の4ヵ国による協力体「クアッド(Quad)」が「中国けん制に向けインド・太平洋地域から宇宙空間にまで協力の範囲を拡大する」と報じました。
たしかに、先ほどの『近隣国重視から価値重視へ:菅総理が日本外交を変えた』でも触れた共同声明では、宇宙分野に関する協力が謳われています。
これについて朝鮮日報は、「今年に入り中露両国が2030年代に月面に研究吉を共同建設することで合意したこと」に対抗する、という側面があると指摘。さらには日本のメディアなどの報道をもとに、観測衛星画像などを4ヵ国で共有し、災害予測などに役立てるなどの狙いについて、次のように評しています。
「地球観測衛星のデータ共有は長期的には中国けん制を目的とする軍事面での宇宙協力につながる可能性が高い」。
対中牽制の結果、どうなるのか
なかなか、鋭い視点でしょう。
もちろん、朝鮮日報は、あくまでもこのクアッドが「中国を『けん制』(※原文ママ)する」ためのものであると位置づけていて、この点については先ほどの『近隣国重視から価値重視へ:菅総理が日本外交を変えた』でも触れたとおり、理解が非常に浅い部分ではないかと思います。
しかし、それと同時に、どんな連携も仮想敵国がいれば協力が進むのも間違いありません。
朝鮮日報が「宇宙」と「日米豪印連携」を絡めて報じたのは、おそらく、「米中対立局面が自国の利害にも直結する」との問題意識に基づくものではないでしょうか。
もっとも、朝鮮日報は韓国の「保守系」とされるメディアの最大手であるはずですが、その朝鮮日報でさえ、記事で「FOIP」、「自由」、「開かれた」などの極めて重要なキーワードを報じていません。
その理由は、おそらく、日本が「地理的に近いだけの近隣国」との連携ではなく、「地理的に多少遠くても良いから、日本と価値を共有する相手国」との同盟に舵を切ったことの意味に、薄々気付き始めているからではないかと思う次第です。
日韓関係、ますます薄まる?
『日本外交は「クアッド+台湾」>「中露朝韓」の時代へ』あたりでも指摘したとおり、日本外交が「価値重視」に転換すれば、日本と価値を共有しない国――その筆頭格は中国や北朝鮮であり、もしかしたらロシアや韓国も含まれるかもしれない――との関係が急速に薄まる可能性が出てきます。
もちろん、現時点において日本にとっての韓国との関係は断絶させることができませんが、ただ、少し長い目で見ていけば、国際法も約束も守らないし、国際社会でウソをばら撒くという国との関係は、間違いなく薄まる方向にあります。
とりあえず、9月末までに財務省から普通貿易統計のデータが公表されるはずです。
これらのデータをチェックし、日韓関係がさらに薄まっていくのかどうかについて、予測を加えてみるのも興味深いかもしれないと思う次第です。
View Comments (33)
自由で開かれたインド太平洋
これは、太平洋インド洋において貿易航行の自由を侵さないという意味で
この看板だけ見れば、法の支配とか民主主義とか共産主義とかは関係無いのだけどね
国内でいくら弾圧虐殺していても航行の自由を侵さなければ関係無いし
韓国が慰安婦に関する日本との国際的取り決め、条約を破ったとしても、単なる二国間関係で、航行の自由を侵さなければFOIPが関知する話ではないはず
FOIPが云う「Free」と「Open」は、「国際法下における」という前提だと思いますよ。
国際法を守れない国は、FOIPの議論に加えてもらえないのでは。
その点、インドがどうなのかはよくわかりませんが。少なくとも QUAD各国とは国際法遵守の合意あるんでないでしょうか。
よって、某国がFOIPに言及しないのは当然というか、自ら地雷を踏むほどアレなのかな、あるいは最悪のタイミングで最悪の行動を取る法則から行けば、「FOIPは国際法違反」などとブチ切れやしないかなと、たの心配に見物しております。
ラスタ 様
>「国際法下における」という前提
このお見立てに同意します。
更に言うと、「現下の国際法下における」なんだと思います。
中国は国力の伸張に伴い、既存の枠組みて中国有利にしたいと思ってる。その一つが南シナ海の領有権主張なので、「現下の国際法下における」自由通行は認められないのだと思います。
尤も「新しい国際法下における」自由通行も認められないのでしょうけど。
同様に「現下の国際法下における」制約を取っ払って、自由に条約を踏み倒したいと思ってる某韓国と相通じるものがありますね。
中国は国際海洋法裁判所の判決に従え、というのが錦の御旗ですからね。
その国際法違反も航行の自由以外についてはFOIPは関知しないということにならないか?
自由で開かれた「インド太平洋」と言っているわけだから
関知しないということは、加盟国が、航行の自由以外の他国の国際法違反について提訴なり制裁することも「どうぞご自由に」となるけど
非FOIP国の行為に FOIP国が干渉するのは、航行の自由も含めてすべてにおいて難しいでしょう。
その点において反論はありません。同意します。
さきのコメントは、FOIPが国際法を前提としているのではないかという仮定のもとに、FOIPコミット国に対して国際条約を無視した行動を取っている国、これが FOIPに参加させてもらえることはないだろうし、FOIPに干渉または言及することもできないのではないか(ただし「FOIPは国際法違反だ」というイチャモンはやりかねない)、ということを申し上げました。
FOIPの効力については、また別の議論であろうかと思います。
うろ覚えですが、なんかIPS とか言い変えていたと思います。
IPS : インド太平洋システム?
福島の処理水を汚染水、輸出管理適正化(厳格化)を輸出規制、旧朝鮮半島出身労働者を(自称)徴用工とかとか、いちいち言葉から歪めてくるミンジョク性ですから。
Free and Open という部分を、何がなんでも認めたくないんでしょうね。
Indo-Pacific Strategyのことらしいですよ。「インド太平洋戦略」というだけであれば、ごく普通の言い回しであり、他国が使用したとしても不思議ではありませんが、わざわざIPSとかいう略語を発明してまでFOIPという用語を避けるのは、韓国以外の事例は聞いたことがありません。
まあ、理由としては、以下のいずれかでしょう。
1. Free and Openという概念を理解できない(=国際法遵守という概念が理解できない)
2. 日本発の概念だから、絶対に使いたくない
3. 太平洋にもインド洋にも面してないから、その広がりが理解できない
4. 中国様への遠慮
どれも実にしょーもない話ですが。
龍 様
>Indo-Pacific Strategy
そうそれ、です!
インド太平洋戦略=IPS 、って勝手に造語してるんですよね。
FOIPを使いたがらない理由の一つとして考えられるのが、Free ; 自由 というのを左派が嫌う傾向にあるからではないでしょうか。
日本でも社会党系、民主党系は昔から口を開けば政府批判ばかりしていますが、この時は民主、民主主義を強調する一方で、「自由」を口にする事はあまりありません。日本共産党に至っては皆無です。
北朝鮮も民主、民主と主張しますが、自由は一言も言いません。
韓国も左派は民主を強調する一方で、自由は極力使わないようにしてます。これはシンシアリーさんが言及してますが、共に民主党が提案する韓国の憲法改正案には現在の憲法にある「自由」がすっかり削られているとの事です。
社会主義、共産主義にとって自由は邪魔でしかないからでしょう。「全ての権力をソビエトへ」と主張したレーニンのように共産党の最高権力者に全権を握らせ、人民を党の命令に服従する奴隷にさせる事が統治の基本ですから。
ただし、服従だけを求めると反発を買うので、それをごまかすために「民主」を強調します。共産党の最高権力者に全権を委任したのは民主主義に基づくものとうそぶくためです。
韓国の場合は左派も、そして右派も自由は好みません。正確には、「ウリの自由は認められるべき。ナムの自由は認めてはならない」というわがままな考え方でしょうか。
それなら左派の半魚レだけでなく、右派の朝鮮日報も自由と書きたがらないのも不思議ではありません。
とある福岡市民様
いいえ、日本共産党志位委員長様も「自由」という言葉をつかっております。
例:共産党が目指す共産主義は自由・解放を目指している社会
と言っております。
この「自由」の定義が一般の人達の使う「自由」と
共産党の使う「自由」と異なっているだけだと思います。
例えば、例で使用した「自由:解放」は現実社会からの「自由:解放」では
ないかと思うのです。 早い話共産主義者以外を極楽に連行する事かと。
共産主義者へは、現在赤旗を配っても一日の最低賃金以下しか支給されない
(ボランティアとも言う)から、中共・ロシアのような大金持ちに変身させる
という事かも知れません。
今まで何度か書きましたが、韓国が意地でも FOIP と書きたがらないのは、それが日本初の戦略だからですね。
チキンサラダ様
Free: 日本にフリーハンド持たせたら、次もまた
Open: 開けっぱなしにしたら、土足で踏み込まれちゃう(ブルッ)
Indo: 事大するほどの国じゃなし
Pacific: たかが汚染水の捨て場じゃん
ということで、アチラの辞書にFOIPの語はありません(笑)
なるほど。座布団贈呈させていただきます。
確かに日本のメディアでFOIP表記は見たことない。
あさーい感じの言い訳をあえて考えてみる。FOIP使いにくい説。
カタカナ読みだと「フォイップ」?でTVメイン視聴層の高齢者に耳なじみ悪そうだし、下手するとホイップと思われる。
文字読みだと「エフオーアイピー」で長い。まん延防止措置の「まんぼう」が葬り去られたのと同じノリ。…違うか(苦笑
確かに「エフオーアイピー」は間が抜けてますねww
自分もホイップクリームを連想しました。一方クワッドはというとブラックデビルの叫び声が...
ならば、Jiyuu-de Hirakareta Indo Taiheiyou、略して「J―HIT」これなら語呂もよく某国も安心して不参加できますね。
FOIPの用語を頑なに無視するのは、韓国メディアだけでなく、NHKも同じように見えます。
(素人の予想ですけど)もし中国が、中国中心のFOIP(?)を言い出したら、一の子分の韓国もFOIPを連呼するのではないでしょうか。
引きこもり中年様
当然です。 中共様の言う事は、絶対正しいのです。
>この「FOIP」という大変に重要な用語を報じている社は非常に少なく
なんとなくだけど、価値観みたいなことを論じるよりも、誰と誰が手を握って誰に対抗してるみたいなことの方が、マスコミとしては興味があるってことなんじゃないかな?
一昔前(今でもかな?)、政局ばっかり追いかけてて政策なんて二の次だったみたいなのと、通じるとこがあるように思うのです♪
同意します。
インド太平洋に面していない韓国にとって、FOIPという名称だと仲間に入れないイメージがあって悔しいのでしょうね、また日本(安倍前総理)発の構想&名称であることも気に食わないのでしょう。
マスメディアがあまりFOIPという表現を使わないのは、日本発の表現で当初は日本のみが使用していたので、世界標準であろうクアッドという表現を重用したのでしょうね。
その後アメリカ政府も使いだしたので、そのうちFOIPが主流になるものと予測します。
何せ、FOIP構想は広大無双なので、そのうち10か国を超える参加が見込める、安全保障&相互補完経済圏になるでしょうから。。
「自由で開かれたインド太平洋」は2016年8月に、我が国の安倍元首相が提唱した考え方ですからね。米国が賛同し、世界の常識になったとはいえ、韓国から見れば、「日本の追随、とりわけ安倍の後追い」となりますからね。無視したくもなるでしょう。用語の使用不使用くらいのことは大目にみてあげましょう。別に実害もないし。TPPに入らないとまずそうだな、と思いつつも、手を挙げられないのも同じですよ。これも高見の見物かな。