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コロナ禍でのテレビ局経営:在京5局はすべて減収減益

テレビ局が経費抑制で黒字を確保したことの本当の意味

インターネット上では「コロナを煽って自滅」、などと揶揄されている話題があります。在京民放キー局(5局)の親会社である持株会社の2021年3月期の連結決算が出揃いました。見た目はどの社もプラスの最終利益を確保したものの、経費抑制で何とか最終利益を確保した、という事例が散見されます。

2021/05/16 12:00追記

本文中の誤植を修正しています。

在京民放キー局の決算

在京民放キー局の親会社(持株会社)の2021年3月期の連結決算が、5社分、出揃いました(正式社名はいずれも長いので、本稿では断りがない限り、図表1に示す略称を使用します)。

図表1 在京民放キー局の持株会社
証券CD 本稿での略称 正式社名
4676 フジ 株式会社フジ・メディア・ホールディングス
9401 TBS 株式会社TBSホールディングス
9404 日テレ 日本テレビホールディングス株式会社
9409 テレ朝 株式会社テレビ朝日ホールディングス
9413 テレ東 株式会社テレビ東京ホールディングス

(【出所】著者作成)

全体的傾向

どの社も減収・減益

端的にいえば、どの社も前期比で見て、売上高は落ち込み(=減収)、また、最終利益もマイナス(=減益)でした。まずは売上高とその総括表を眺めておきましょう(図表2)。

図表2 在京キー局の親会社の2021年3月期連結業績(カッコ内は前年同期比)
売上高 当期純利益
フジ 5199.41億円(▲17.66%) 101.12億円(▲75.52%)
TBS 3256.82億円(▲8.72%) 280.72億円(▲6.97%)
日テレ 3913.35億円(▲8.27%) 240.42億円(▲21.32%)
テレ朝 2645.57億円(▲9.90%) 126.00億円(▲52.27%)
テレ東 1390.84億円(▲4.19%) 25.75億円(▲0.58%)

(【出所】各社決算短信より著者作成。なお、上記図表を含め、本稿では「親会社株主に帰属する当期純利益」を「当期純利益」と称している)

5社ともに減収・減益ですが、特に減収率が大きいのはフジで、じつに2割近くも落ち込んでいます。また、減益率に関してはフジが8割近い落ち込みで、ほかにもテレ朝が5割超、日テレも2割超の減益を記録しました。

一方で、堅調なのはテレ東でしょう。

減収率は5社で最も低い4.19%、減益率に至っては0.58%に過ぎなかったからです。

段階利益は「悲喜こもごも」

もう少し、全体のデータを見ておきましょう。

どの社も減収・減益だったということはわかりますが、営業利益、経常利益の各段階だと、また違った姿が見えてきます(図表3)。

図表3 在京キー局の親会社の2021年3月期連結段階利益(カッコ内は前年同期比)
営業利益 経常利益
フジ 162.74億円(▲101億円) 222.95億円(▲126億円)
TBS 108.41億円(▲23億円) 192.33億円(▲20億円)
日テレ 345.26億円(▲86億円) 429.44億円(▲63億円)
テレ朝 144.13億円(+18億円) 179.80億円(▲141億円)
テレ東 52.28億円(+1億円) 53.40億円(+2億円)

(【出所】各社決算短信より著者作成)

これで見ると、フジは営業利益、経常利益の各段階でいずれも前期比4割近い減益を記録している一方、テレ東は営業利益、経常利益ともに前期比小幅プラスを確保しました。

また、経常利益段階ではテレ東を除くすべての社が減益に陥りましたが、減益率が最も大きいのはフジではなくテレ朝であり、しかもテレ朝は営業利益段階で増収だったにも関わらず、経常利益で大きく落ち込んでしまった、ということです。

どの社も経費抑制が明らかに

さらには、一般にどんな業界でも、売上高が落ち込むと、まっさきに経費に手を付けるものです。

テレビ局等の場合は、番組制作費(売上原価など)をケチるか、人件費などの販管費をケチるか、という話ですが、これについてまとめたものが、次の図表4です。

図表4 在京キー局の親会社の2021年3月期連結経費等(カッコ内は前年同期比)
売上原価 販管費
フジ 3615.48億円(▲842億円) 1421.18億円(▲173億円)
TBS 2302.63億円(▲195億円) 845.76億円(▲93億円)
日テレ 2679.15億円(▲207億円) 888.93億円(▲60億円)
テレ朝 1932.70億円(▲255億円) 568.73億円(▲54億円)
テレ東 1007.42億円(▲42億円) 331.13億円(▲20億円)

(【出所】各社決算短信より著者作成)

これで確認すると、どの局も売上原価、販管費をともに抑制しているのですが、フジは売上原価を2割近く、販管費を1割以上削減しているのに対し、テレ東は売上原価を4%減、販管費を6%減程度に抑えています。

各社は悲喜こもごも

フジの場合は「本業以外」で利益が落ち込む

もっとも、現実に各社の決算の詳細を眺めていくと、社によって状況はかなり異なることも事実です。

たとえば、フジの場合、事業セグメントでいう「メディア・コンテンツ事業」よりも、「都市開発・観光事業」、つまり不動産部門などの落ち込みが大きい、という特徴があります(図表5)。

図表5 フジのセグメント別売上高・営業利益(2021年3月期)
事業セグメント 売上高 営業利益
メディア・コンテンツ事業 4394.66億円(▲759億円) 137.23億円(▲2億円)
都市開発・観光事業 760.48億円(▲347億円) 37.28億円(▲100億円)

(【出所】同社決算短信より著者作成)

このあたりは、意外な気がします。

コロナ禍で「メディア・コンテンツ事業」の売上高は大きく落ち込んだものの、営業利益の落ち込みは前期比1.44%に抑え込んだ格好だからです。むしろ、「都市開発・観光事業」で売上高が3割超、営業利益に至っては7割超も落ち込んだという方が以外な気がしました。

TBSの不動産の減益幅はさほど大きくない

では、同じく不動産業などの売上が大きいTBSのケースだと、どうでしょうか(図表6)。

図表6 TBSのセグメント別売上高・営業利益(2021年3月期)
事業セグメント 売上高 営業利益
メディア・コンテンツ 2537.78億円(▲165億円) 28.81億円(+5億円)
ライフスタイル 559.83億円(▲140億円) 2.81億円(▲25億円)
不動産・その他 159.20億円(▲6億円) 76.79億円(▲3億円)

(【出所】同社決算短信より著者作成)

これで見ると、TBSについてはさらに意外な結果です。

メディア・コンテンツ事業の売上高の落ち込みは6%少々に過ぎず、営業利益に関してはむしろ「増益」だったのです。また、「不動産・その他」の落ち込みは、売上高、営業利益ともに数パーセントにすぎませんでした。

また、「ライフスタイル」事業(コスメティックやPLAZAなど)の減益率自体は非常に多き方のですが、そもそも営業利益に占める割合が低いので、業績全体に与えた影響については無視して差し支えないでしょう。

日テレは本業以外で営業赤字

さて、日テレに関しても、メディア・コンテンツ事業の減収・減益幅は大したものではないのですが、TBSと異なり、「生活・健康関連」というセグメントでは「営業損失」が生じているようです(図表7)。

図表7 TBSのセグメント別売上高・営業利益(2021年3月期)
事業セグメント 売上高 営業利益
メディア・コンテンツ 3641.27億円(▲198億円) 386.24億円(▲20億円)
生活・健康関連 206.07億円(▲153億円) ▲72.64億円(―)
不動産関連 32.74億円(+3億円) 37.15億円(+3億円)

(【出所】同社決算短信より著者作成)

このあたり、意外と「経営の多角化」があだとなった格好だ、という言い方もできるかもしれません。

ついでに、テレ朝のセグメント別売上高・営業利益についても確認しておくと、図表8のとおりですが、あまり特徴はないので詳細は割愛します(※テレ東についてはセグメント別開示そのものを本稿では割愛します)。

図表8 テレ朝のセグメント別売上高・営業利益(2021年3月期)
事業セグメント 売上高 営業利益
テレビ放送 2094.85億円(▲264億円) 110.59億円(+41億円)
音楽出版 61.68億円(▲35億円) 7.21億円(▲3億円)

(【出所】同社決算短信より著者作成)

いずれにせよ、コロナ禍でどの社も広告収入が落ち込んでいるものの、各社ともに売上原価、販管費(つまり番組制作費や経費)を抑えたため、とくにメディア・コンテンツ事業ないし放送事業に関しては、さほど大きな落ち込みとならずに済んだ格好です。

ただし、その減益幅の抑制が経費(とくに製作費)をケチったことによるものであるならば、これは却ってテレビ業界にとっては仇となる可能性もあります。あくまでも間接的な味方ですが、テレビ局にとって「本業」、「命」ともいえるコンテンツ自体の面白さを犠牲にした、という可能性が出てくるからです。

また、不動産だ、コスメティックだ、といった「副業」を持っている社に関しては、むしろそれらの副業が全体の足を引っ張っているというケースが多いのも気になるところではあります(とくに「生活・健康関連事業」が赤字となっている日テレのケース)。

テレビ業界の変化はこれから本格化?

もっとも、コロナ禍はテレビ業界に変革を迫るひとつのきっかけとなり得ます。

ネットの急速な普及などの要因もあり、苦戦を余儀なくされていたテレビ業界に、今度はコロナ禍という大きな波が押し寄せた格好です。

しかも、今年4月には、「テレビCMをゼロにしてみたら、むしろ増収増益になった」という企業が出現し、少し話題となりましたが(『メディア崩壊へ?「広告宣伝費2割削減」でも増収増益』等参照)、こうした「広告のネットシフト」という流れは、おそらくこれから本格化していくでしょう。

下手な経営の多角化が裏目に出ているのに加え、「本業」であるテレビ事業自体も、経費抑制でなんとか黒字を確保した社が多かったという事情に照らすならば、今回の決算について、テレビ業界の経営者の皆さんは決して楽観視して良い状況ではないことだけは間違いないでしょう。

新宿会計士:

View Comments (22)

  • 最近のテレビ番組の悪化は酷いですね。動物ものや素人が撮影した動画をネットから拾ってきたりしたものが多く見る価値ありません。その他の番組もレベルが低く、報道番組でさえ検証さえせず、虚偽報道垂れ流し、間違ってても「ちょっとしたミスでした」程度しか謝罪もしない。一般の会社がやらかしたら潰れるくらい批判するのに。新聞と同様、テレビの存在価値が消滅するのも早そうです。昔、親から「テレビばっかり見てるとバカになるぞ」と言われてましたが、そのとおりでした。

    • ジロウ様へ
      >動物ものや素人が撮影した動画をネットから拾ってきたりしたものが多く見る価値ありません。
       (フジ系放送局の番組からの情報で申し訳ないのですが)「人は40代を越えると、動画を選ぶ選択が変化して、動物系が増える」、「40代になると若いイケメン俳優の顔が、同じに見える」とありました。となれば、テレビ局としても40代以上の人に視聴してもらうためには、「動物系の番組を増やす」、「若い俳優を起用しても区別がつかいので、若者の出演者を減らして、実年齢は高い俳優を増やす」しかないのではないでしょうか。
       蛇足ですが、間違っても「若いものが、高齢者に文句をつけている」と、匂わせているのではないでしょうか。
       駄文にて失礼しました。

    • 「若者の出演者を減らして、実年齢は高い俳優を増やす」

      いいアイデアだと思います。
      半島直輸入の出稼ぎ即席タレントは本国にすべてお帰りいただき、旧作ドラマや新日本紀行の再放送だけ繰り返してぜんぜん大丈夫と思います。当時の世相を分析総括する派生番組を作ればそれでますます「番組の値打ち」は高まります。
      老醜は恥とするところ、昔話をするかつての青年男女は画面に出さないほうがいいかと。

      • はにわファクトリー様へ
        >旧作ドラマや新日本紀行の再放送だけ繰り返してぜんぜん大丈夫と思います。
         確かに、(古代から昭和30年代までを舞台にした)旧作ドラマの再放送が増えそうです。なぜなら
        ①旧作ドラマの再放送なら、制作費がかからない。
        ②トレンディドラマなら、「普通のOLが、こんなマンションに住めるはずがない」という批判がされる。(つまり、今と違っていても不自然でないようにする、ということです)
        ③当時、そのドラマを制作していた、今のオジサン(テレビ)社員が威張れる。
        ④そのドラマの出演していた役者が、すでに亡くなられていたら、新たなスキャンダルが発生しない。
        ⑤当時、そのドラマを視聴していた、(今は一定以上の年齢になった)人にとって、役者の顔を区別できる。(ある特定の人達にとって、若い俳優を出されても、誰が誰だか区別できない)
         駄文にて失礼しました。

      • 視聴者の教養や知識を小馬鹿にしているとしか考えられない火葬教養番組やN〇Kおスペシャルに製作費を投じていることに抗議声明をする次第です。

      • はにわファクトリー様

        旧作を流すのは良いと思います。例えば「日本紀行」や「新日本紀行」、日曜日の「大河ドラマ」「素人のど自慢」「ジェスチャー」「それは私です」「シャープさんフラットさん」「朝の15分帯ドラマ」、「米国テレビ看護婦物語(看護師ではない)」などを流したら、一度は見たい回もある、と私も思います。

        しかし話の内容、設定、セリフの言い回しが今の時代に合わなくなった佳品も多いと思いますし、故人ばかり見るのも私的にはちょっと、、(笑)です。

        • 「男たちの旅路」は視ます! 鶴田浩二 好きでした。
          現在の私より若いのかしら。

  • >しかもテレ朝は営業利益段階で増収だったにも関わらず、経常利益で大きくお吉込んでしまった、ということです。

    昨期、企業買収に伴い確定した「負ののれん」を営業外収益として計上したことによるものなのかな?
    (日経会社情報から)
    https://www.nikkei.com/nkd/disclosure/tdnr/c53kl3/

  • NHKといういびつな存在がこれからますます浮き彫りに。会計士どのの見立てどおりの展開になりそうです。

  • TBSは家賃収入が。
    東京エレクトロンや博報堂の本社が入る赤坂Bizタワーや赤坂ザレジデンスといった高級マンションを保有します。
    他局に比べて”街作り”が上手くいっているテレビ局です。

  • 更新ありがとうございます。

    1社ぐらい経営不振で潰れればいいのにーーと思っていたら、5社とも真っ赤っか。テレ東がかなりマシとはいえ、弱小ですから、他社と同じ土俵では比べられません(というか誰が見てんの?と思う私 笑)。

    キー局5社対NHK。収入が湯水の如く、固定給として入るNHKを、キー局5社は反旗を翻せ。大阪の準キー局5社も、地方局も一致団結して戦うべし。お互いに潰し合ってくれたら、テレビの偏向報道を見なくて済む。

    • めがねのおやじ 様へ
      (個人的希望ですが)他局の捏造記事を指摘する番組を制作したら、その捏造記事を放送したテレビ局が、その費用をだすことを義務づければ、面白いのではないでしょうか。なにしろ、頭を下げてお金を出してもらうのではなく、こちらから、言い値で費用を請求できるのですから。(おまけに訂正番組の視聴率が悪くても文句は言われません)
       駄文にて失礼しました。

      • 引きこもり中年様

        そうなると、スクープの仕合ですネ(笑)。今の、しょうもない雛壇芸人のごった煮番組や動物の自然な仕草を人間風に解釈してバカにする番組や、海外制作の安モン危機一髪なんちゃらとかより、遥かにオモロイと思います。

      • 捏造指摘番組を制作した局に対しては、報復で他局が寄ってたかって捏造指摘番組を作り干上がらせるでしょう。それが怖いから何処の局も他局の指摘なんかしませんよ。

    • 民放の経営がいよいよ危うくなってきたら「NHKだけじゃないよ民放だって国民のシルケンリを保障するために必要不可欠なインフラだから国民が費用負担すべき」と称して、受信料に"ユニバーサルサービス料"を付加すれば解決です。NTTの加入電話・公衆電話・緊急通報の維持はユニバーサルサービス料ではとても賄えていないようですが、その反省を踏まえて、放送のユニバーサルサービス料は各局の言い値で設定すればよろしいです。

  • テレビはうちはカミサンがドラマが好きなので録画して、まとめて見てます。あとはお笑い系かな?
    娘はドラマはネット系のものとお笑い、エンターテイメント番組。
    犬が好きなので動物番組は見てます。
    娘は報道系は「教えて、正義の味方」(かなり右寄り)のみ。関東では流れてませんかね?
    テレビはエンターテイメント系に特化して、報道は無しで良いと思います。ある意味お笑い番組より質が悪いですから。
    テレビの活用は人それぞれです。

    • 娘はドラマはネット系のものと⋅⋅⋅⋅⋅❌
      娘はドラマはネットでしか見ません。🔴
      でした。

  • テレビ朝日の製作費に着目し、荒い方法ですが売上と利益を差引し費用概算を求めました。
    結果、2021年3月期は前年より売上261億円、費用301億円減でした。
    費用は前年費87%と1割ほど減少し、過去6期の水準からすると落ち込みが目立ちます。
    人件費・製作費の内訳は判りませんが、いずれにしてもコンテンツ制作に関わる費用であることからすれば、記事の通り「コンテンツ自体の面白さを犠牲にした」という読みは妥当だと思います。

          売上高  利益   差引費用(売上高-利益)
    2016/03期 244,256 14,853 229,403
    2017/03期 252,545 14,929 237,616
    2018/03期 252,765 15,550 237,215
    2019/03期 250,581 11,812 238,769
    2020/03期 239,283 7,000  232,283
    2021/03期 213,205 11,059 202,146

    上を踏まえてNHKと比較すると、売上も費用も約3倍、しかも中間決算を見る限りコロナ禍の影響をさほど受けていないようにも見えます。
    広告収入減、視聴率減、コンテンツ創出力減のスパイラルに陥りつつある民放が青息吐息のなか、放送業界という身内からもNHKが睨まれるのは無理もないことだと思います。

         事業収入  収支差金  事業支出
    2016/03期 686,800  288  658,000
    2017/03期 707,300  280  679,300
    2018/03期 720,200  229  697,200
    2019/03期 733,200  271  706,000
    2020/03期 738,400  220  716,300
    2021/03期 364,534  450  325,690(中間決算より)

    • 半角<記号を使ったらタグ扱いで非表示になってしまったので表の見出しを追記。

      上の表見出し ・テレビ朝日決算短信 テレビ放送事業 単位:百万円
      下の表見出し ・NHK決算概要 単位:百万円