東北新社の認定取り消しを踏まえると、ダブルスタンダードは許されない
外国人議決権割合20%超過を理由として、東北新社に対するBS放送サービスが4月30日に終了となる、という話題は、すでにいくつかのメディアで報じられているのでご存知の方も多いでしょう。少し厳し過ぎる処分かもしれませんが、法令に違反していた以上は仕方がありません。では、これがもし、もっと大手の、たとえば在京キー局の親会社だったら、いったいどう考えるべきでしょうか。
株式会社東北新社のBS放送サービス終了
少し前に、株式会社東北新社を巡って、「外国人等が議決権の20%以上を保有している」ことを理由として、放送法に基づく認定を取り消される、という事態が生じました。これが、いわゆる「外資規制違反」の問題です。
株式会社東北新社メディアサービスの放送法第93条第1項の認定(BS第125号)の取消し
―――2021/03/26付 総務省HPより
放送法第93条第1項は、「基幹放送業務」を行う業者が満たさなければならない要件が列挙されているのですが、そのなかに
放送法第93条第1項
基幹放送の業務を行おうとする者(電波法の規定により当該基幹放送の業務に用いられる特定地上基幹放送局の免許を受けようとする者又は受けた者を除く。)は、次に掲げる要件のいずれにも該当することについて、総務大臣の認定を受けなければならない。
(略)
七 当該業務を行おうとする者が次のイからルまで(衛星基幹放送又は移動受信用地上基幹放送の業務を行おうとする場合にあつては、ホを除く。)のいずれにも該当しないこと。
イ 日本の国籍を有しない人
ロ 外国政府又はその代表者
ハ 外国の法人又は団体
ニ 法人又は団体であつて、イからハまでに掲げる者が特定役員であるもの又はこれらの者がその議決権の五分の一以上を占めるもの
(以下略)
総務省によると、株式会社東北新社は2017年1月24日(つまり今から約4年前)に「BS第125号」という認定を受け、その地位が株式会社東北新社メディアサービスに継承されたのだそうです。
しかし、今年3月9日に株式会社東北新社が提出した「株式分布状況表」を総務省が精査したところ、その認定時点において、株式会社東北新社の議決権総数に対する外国人等の議決権の割合が20%を超えていたことが判明。
これにより、「BS第125号」の認定を取り消す、という処分が下されたのだとか。
フジHDも同じだった可能性が出てきた
じつに厳しい処分ですが、法律で定められている要件に違反していた以上、文句は言えないでしょう。
実際、東北新社のウェブサイトに同日付で『BS放送「ザ・シネマ4K」サービス終了について』という発表が掲載され、「BS放送『ザ・シネマ4K』(BSパススルー方式によるケーブルテレビ経由を含む)の放送サービスは、本年4月30日24時をもって終了いたします」、と記載されています。
ところが、この「外国人議決権問題」が、今度はフジ・メディア・ホールディングス(以下「フジHD」)に飛び火したようです。
フジHD、外資規制違反の疑い 12~14年、議決権算出に誤り
―――2021年04月05日22時50分付 時事通信より
時事通信によると、フジHDは2012年から14年にかけ、放送法の外資規制に「違反していた疑いがある」ことが5日に判明したそうです。いちおう、当時の外資比率は精査中とのことですが、時事通信は「一時的に外資比率が20%を上回っていた可能性がある」などとしています。
具体的には、2012年4月に番組制作会社を完全子会社化した際、同社が保有していた親会社株式を誤って議決権総数にカウントしてしまい、そのことで外資比率が20%を若干超過してしまっていた、というわけです。
もしもこれが事実なのだとしたら、いったいどうなるのでしょうか。
この点、フジHDは「持株会社」であるため、先ほどの株式会社東北新社の件とは認定に際しての放送法の根拠規定が異なりますが(ホールディング・カンパニーの場合は第159条などが適用されます)、やはり同じような規定が設けられています。
放送法第159条第1項
次の各号のいずれかに該当する者は、総務大臣の認定を受けることができる。
(略)
五 申請対象会社が、次のイからヌまでのいずれにも該当しないこと。
イ (1)若しくは(2)に掲げる者が特定役員である株式会社又は(1)から(3)までに掲げる者がその議決権の五分の一以上を占める株式会社
(1) 日本の国籍を有しない人
(2) 外国政府又はその代表者
(3) 外国の法人又は団体
ロ (1)に掲げる者により直接に占められる議決権の割合とこれらの者により(2)に掲げる者を通じて間接に占められる議決権の割合として総務省令で定める割合とを合計した割合がその議決権の五分の一以上を占める株式会社(イに該当する場合を除く。)
(1) イ(1)から(3)までに掲げる者
(2) (1)に掲げる者により直接に占められる議決権の割合が総務省令で定める割合以上である法人又は団体
(以下略)
さて、総務省さん、どうするつもりですか?
時事通信の記事が正しければ、フジHDの場合、今から約7~9年前の期間、この法令に違反していた可能性がある、ということでしょう。当然、法令に照らして判断するならば、最悪の場合、認定の取消もあり得る、というわけです。
「そんな昔の話を蒸し返して、どうするのか」。
そういうお叱りもあるでしょう。現在、この外資規制違反状態が解消されているのならば、わざわざ認定を取り消す必要などない、というわけです。
しかし、株式会社東北新社については、今から4年前の外資規制違反により認定が取り消されました。フジHDについて、同じような法令違反がなされていたのであれば、当然、同じような処分を下さねばおかしいでしょう。
総務官僚の皆さんにとっても、マスメディア産業の皆さんにとっても、本当に困ったことになりましたね。
マスメディア業界にとっては、「菅総理長男による総務官僚高額接待疑惑」を焚き付けたところ、まわりまわって大手メディアの一角を占めるフジHDにそれが跳ね返ってきたというわけです。
また、天下り先から恨まれるわけにもいかず、さりとてフジHDに処分を下さなければ、株式会社東北新社に対する処分とはダブルスタンダードが生じることになりかねません。
いずれにせよ、総務省さんにおかれては、行政の適正な執行を期待したいと思いますし、こうした不祥事を契機に、NHK問題を含め、総務省の電波行政そのものについて抜本的なメスを入れることが必要だと思う次第です。
View Comments (17)
中国や韓国に対しては国際法を守れとか、南シナ海での法の支配とか法治とか言っているわけですから足元の国内ではもっと法の支配が実施されていなければならない、というのが普通の感覚だと思います。
2012年から14年にかけての外資規制違反状態において、外資とは具体的にどこの国だったのか知りたいですね。
ちなみにその期間は、フジTVは韓流押しで世間から非難されていた時期でもあったような。。
それはもっと前でしたっけ?
認定の取消は166条ですね♪
1項だと「取り消さなければならない」だけど、2項だと「取り消すことができる」ですね♪
どっちが適用条文になるのか、よくわかんないけど2項だと、「今は改善されてる」って言って、お目溢しをしちゃうんじゃないかと心配なのです♪
この事件をきっかけに、違法状態を何年も放置する放送法の運用の不備って話から、そもそもの規制の必要性みたいなことに話を広げて、放送法の改正論議が始まらないかな?って思うのです♪
そこから、さらに変化してNHKまで踏み込めば、総務省さんも仕事をしたってことになるんじゃないかな・・・・・・さすがにムリかな??
第166条 総務大臣は、認定放送持株会社が次の各号のいずれかに該当するときは、その認定を取り消さなければならない。
2 総務大臣は、認定放送持株会社が次の各号のいずれかに該当するときは、その認定を取り消すことができる。
フジHDのケースは、第159条第2項第5号該当なので、第166条第1項が適用され「認定を取り消さなければならない」ことになります。しかし、放送局の免許は5年更新なので、2014年の違反当時の免許は失効しています。つまり、現免許申請時には適法ですから、法律上は取り消しようがないことになります。うまく考えましたね。東北新社は、申請から4年なので、違反時の免許が生きているので取り消す必要があったようです。
七味様
報道されている内容が事実であれば、放送法(以下「法」という。)159条2項5号ロに該当する状態であるため、法166条1項1号の規定により、総務大臣は、裁量の余地なく、フジ・メディア・HDに対し、認定放送持株会社の取消しをせざるを得ないでしょう。
一方で、法に基づく放送事業者となっているのは、フジ・メディア・HDの子会社・関係会社であり、法律上はあくまで当該事業者は違反した本人ではありません。したがって、東北新社のように直ちに放送事業者の認定取消といった話にはならずに、フジ・メディア・HD傘下の放送事業者は、一定期間内に資本関係及び役員関係の清算を行うことを条件に免許継続、というのが落としどころではないでしょうか。(まあ、フジ・産経グループの統括企業の認定取消は、グループ経営にとってかなりの痛手となると思います。)
まあ、どこかで聞いた話ですが、そもそもこの外資規制と認定放送持株会社の制度は、孫正義氏やライブドア、楽天といった当時の新興IT企業による放送局買収の阻止を目的に作られたものと言うのを聞いたことがあります。しかし、ネット隆盛の時世において、このような買収規制は、果たして必要なんでしょうか…という議論になりそうですが、もともとは総務省から出た錆なので、なかなか政府側から抜本的な放送法改正の流れを作るのは難しいんじゃないかと思います。
放送法
(認定)
第百五十九条 (略)
2 総務大臣は、前項の認定の申請が次の各号のいずれにも適合していると認めるときでなければ、同項の認定をしてはならない。
一~四 (略)
五 申請対象会社が、次のイからヌまでのいずれにも該当しないこと。
イ (1)若しくは(2)に掲げる者が特定役員である株式会社又は(1)から(3)までに掲げる者がその議決権の五分の一以上を占める株式会社
(1) 日本の国籍を有しない人
(2) 外国政府又はその代表者
(3) 外国の法人又は団体
ロ (1)に掲げる者により直接に占められる議決権の割合とこれらの者により(2)に掲げる者を通じて間接に占められる議決権の割合として総務省令で定める割合とを合計した割合がその議決権の五分の一以上を占める株式会社(イに該当する場合を除く。)
(1) イ(1)から(3)までに掲げる者
(2) (1)に掲げる者により直接に占められる議決権の割合が総務省令で定める割合以上である法人又は団体
(認定の取消し)
第百六十六条 総務大臣は、認定放送持株会社が次の各号のいずれかに該当するときは、その認定を取り消さなければならない。
一 第百五十九条第二項第五号イからヌまで(ヘを除く。)のいずれかに該当するに至つたとき。
二 (略)
2 (略)
失礼しました。放送局の免許5年は「電波法」でした。今回問題となっているのは「放送法」なので、5年の縛りはないようです。筋から言うと、認定は取り消さざるをえないと思いますが、影響が大きすぎるので、解釈を変更するのでしょうかね。
DKK様
お返事ありがとうございます。以下、かなり複雑な話となりますがご了承ください。
まず、放送事業者と認定持株会社について説明します。
地上波放送を行う放送事業者になるためには、放送法(以下、「法」という。)93条1項の基幹放送事業者の認定を総務大臣から受ける必要があります。しかし、その要件のうち同項5号及びその委任を受けた総務省令によって、他の放送事業者やその親会社の支配関係(一定割合以上の議決権を持つ等)にある会社は認定を受けることができません。つまり、放送事業者やその親会社は他の放送事業者を基本的に子会社にすることができません。(これを「マスメディア集中排除原則」と呼びます。)
一方で、法159条1項の認定を受けた放送持株会社の傘下にある放送事業者は、特例によりその原則が緩和されて、認定を受けることができます。要は、認定持株会社は複数の放送事業者を子会社にできます。
次に、今回のケースに当てはめてみます。
今回、外資規制が問題となっているのは、フジ・メディア・HDであり、これは法159条1項の認定を受けた認定放送持株会社です。一方で、法93条1項の放送事業者の認定を受けているのは、フジ・メディア・HDの子会社であるフジテレビジョン等です。
この認定放送持株会社については、放送事業者と異なり、認定の更新の必要性もありません。おそらく、一度でも法159条2項5号ロの規定に該当した状態になれば、消滅時効が明らかに過ぎている等、一見明白に取り消さない理由がない限り、解釈の余地なく認定を取り消さざるを得ないと思います。(放送法に消滅時効という概念があるのかがまず疑問ですが…)
では、この放送持株会社の認定が取り消された場合に、傘下の各放送事業者は法93条1項5号に違反する状態となりますが、こちらは法104条3号の規定により、「その認定を取り消すことができる」とあるので、こちらには総務大臣の裁量の余地があるわけです。
ということなので、私の上記のコメントのとおりですが、以下のような展開になると予想しています。
・フジ・メディア・HDの放送持株会社の認定取消については、裁量の余地がないので取消。
・フジ・メディア・HD傘下の放送事業者については、裁量の余地があるとともに、地上波の放送事業者そのものの認定を取り消すと影響が大きいことから、一定期間内にマスメディア集中排除原則に反しないようにグループの再編を行うことを条件に、放送事業者の認定の取消しは見送り。
⇒結果、見かけ上は問題なくフジテレビ(FNSグループ)はテレビ放送が今後も行うが、フジテレビ・産経グループの一体的な経営は解体されるので、傾き始めていた経営がさらに悪化する。
(ここで、ホリエモンが再びフジテレビを買収してくれると面白いですが、さすがにそれはないかなあ(笑))
放送法第96条に「5年ごとに認定を更新しなければならない」とあるので、やはり5年の縛りはあることになります。
そこで、少々アクロバティックな解釈にはなりますが、放送法第93条第1項第7号トの規定を援用すれば、以下のような展開もあり得るか、と。
・2014年の段階で放送法第93条第1項第7号ホの規定に反していたので、第103条第1項に従い、2014年に遡って認定を取り消す。
・しかしながら、取り消しの日付から2年以上経過しているので、改めて認定を行う
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ト 第百三条第一項又は第百四条(第五号を除く。)の規定により認定の取消しを受け、その取消しの日から二年を経過しない者
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あるいは、第96条第2項を引っ張ってくることも考えられます。更新期限を迎える前に違反状態でなくなるようにすれば(したのであれば)、認定を取り消さなくても済むかもしれません。
放送法には認定取り消し以外に罰則規定がないため、結局のところ、社長などを総務省に呼び出し、「厳重注意」くらいで済まされてしまうような気がします。
今回のケースは法的には「取り消し」ではなく「撤回」になるようです。その場合は遡及適用はできません(東北新社もこのケース)。フジHDの認定の更新は2018年11月で、この時点では違法状態でありませんが、行政処分は時効がないらしいので、法的には取り消すのが「正統」な解釈のようです。
DKK様、通りすがりの地方公務員様、龍様
いろいろ教えて頂き、ありがとうございますm(_ _)m
皆さんのコメントをみて、フジに対して罰を与えるのは、なかなか難しそうだなって感じたのです♪
ただ、そもそもの外国人の規制の意義はあるのかもしれないけど・・・・、意図的に隠したんじゃないただの事務的なミスでザルになるような規制になんの意味があるのかって思うのです♪
企業が規制をちゃんと守るのは良い事だけど、それを企業の善意だけに頼っていたんじゃ、正直者が馬鹿を見ることになるんだと思うのです♪
某国やマスメディアが、自身にブーメランが突き刺さっている様子を見るにつけ、
我が身はそうならないよう常に自身に問いかけなければと思いました。
しかし、酷いですな。これは。
国はどうするのか、見守っていこうと思います。
放送会社の場合は法規制があるからいいのですが、現在のように、異常に多額な投資マネーがだぶついている状況では、ハゲタカファンド等による会社乗っ取りが起きる可能性は高くなっています。知らないうちに、自分の会社の社長が中国人になっていた、とか本当にある話かもしれません。
法律は、「公平」ではなく、「平等」に運用することを期待したいですね。
金持ちも、貧乏人も、男も女も、組織も大小に係わらず適用して欲しいです。
フジデモの頃から言われていた話ですね。ついでにクロスオーナーシップにも手を入れちゃいましょう。
日本国民の共有財産である電波の帯域を占有利用するテレビ局が外資に支配されることは国民の共有財産が外資に占有されるに等しいのでテレビ局に対する外資規制が必要なのは確かなのですが、問題は株式を公開している企業にとって誰に株を買われるかを制御する上で確実に機能する手段はどんなものが存在するのでしょうか?
外資に株を買われないようにする具体的な手段が株式市場の仕組みにおいて存在しないとすれば、外資規制を破れば放送免許を剥奪するというルールの下では、テレビ局に対する外資規制を悪用してライバル局Bが外資企業Xと組んで特定のテレビ局Aの放送免許を剥奪することが可能になってしまいます。例えばB局が外資X社に(Xの事業計画に投資する等の形で)資金を出してXにA局の株式を買わせてA局が外資規制を破った状態にすることが出来てしまうのではありませんか? これは明らかに外資規制の目的とするところとは全く反した状況を生み出します。
従って外資規制の現行のルールは重大な欠陥があると考える次第です。
正しくは外資が日本のテレビ局の株式を大量に取得すれば確実に損をする(従って大量に取得しようとすることに対して負のインセンティブを設けておく)ような仕掛け・仕組みを外資規制のルールと同時に用意しておかねばならないと考える次第です。
その一例が先日も提案した仕掛け、つまり半年毎の決算時点で外資規制を越えた比率の株式が外資に保有されていたら、外資規制の比率に収まるまで速やか(例えば決算期から3ヶ月以内)かつ自動的に政府に対して無償割当とする増資を行うことを法律で定めておくのです。
それ以外の仕掛けも色々と考えることが出来るでしょうが、ともかく外資規制を破ったら日本政府以外は確実に損をするから外資が経済合理性を追求する限りは外資規制を破ってまで放送局の株式を買おうとは考えなくなる(そして破った状態になれば株を手放そうと考える)仕掛けを法律で定めて用意しておくべきです。
放送法116条では、外国人等の議決権割合が全ての議決権の5分の1を超えて欠格事由に該当した場合は、その氏名および住所を株主名簿に記載し、または記録することを拒むことができる、とありますので、放送会社が名義書き換えを拒否できます。
みね様
なるほど、御教示有難うございました。テレビ局側にも一応の防御手段があるということですね。