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皇帝(ぷりんす)君の将来を憂う

本稿は、昨年の『「輝星(べが)君の改名問題」について考える』の議論の「続編」です。「金星=まあず」、「王子=きんぐ」…。この手のお名前を巡っては「一般常識から大きく外れる」と違和感を訴える人が多いようですが、その一方で、この手の名前を巡り、某著名人の方が発したツイートが、ちょっとした議論を招いているようです。

「金星=まあず」は「読み方としては」間違っていません

最近よく「キラキラネーム」という表現を見かけます。

これは、あまり一般的ではない読み方の名前や、多くの人が「一般常識から外れる」と違和感を訴える名前などのことを指す俗語です。最近では「キラキラネーム」ではなく、「DQN(ドキュン)ネーム」と呼ぶ人もいるようです。

ちなみにこの「キラキラネーム」ないし「DQNネーム」、当ウェブサイトでは昨年の『「輝星(べが)君の改名問題」について考える』でも取り上げたのですが、改めて調べてみると、さまざまな系統のものが存在しているようです(図表)。

図表 いわゆる難読系のお名前
系統 お名前 読み方
星空系 金星 まあず
輝星 べが
新星 ねお
昊空 そら
天使 ふぇあり
聖夜 いぶ
音楽系 美音 りずむ
七音 どれみ
和音 どれみ
なぞなぞ系 あだむ
皇帝 ぷりんす
王子 きんぐ
皇帝 はです
純粋 ぴゅわ

(【出所】著者調べ)

以上、ほんの一例を挙げるだけでも壮絶です。もちろん、これらの中にはインターネットのサイトで面白おかしく脚色しているものもあるのだと思います(いや、そう信じたいところです)が、それにしても強烈と言わざるを得ません。

ちなみに前稿の「金星=まあず」に対しては、「『金星』は『びいなす』では?」、「『まあず』なら『火星』では?」といったツッコミを多数いただきましたが、残念ながら(?)、「金星=まあず」は読み方として間違いではありません。たしかに「金星」で「まあず」と読ませるのです。

その意味で、あらかじめお断りしておきますが、「『皇帝』だと『えんぺらー』じゃないの?」、「『王子』こそ『プリンス』じゃないの?」といった苦情をお寄せいただいても、対応することは致しかねます。あらかじめご了承ください。

「難読ネームの人、親の頭は悪い」

さて、難読ネームに関連し、J-CASTニュースに先日、こんな記事が掲載されていました。

ワタナベマホトめぐり「逮捕より本名にびっくり」 ニュース記事に驚き広がる

―――2021年03月17日18時06分付 J-CASTニュースより

J-CASTニュースは、元YouTuberが児童ポルノ禁止法違反の疑いで3月17日に警視庁に逮捕されたことを巡り、インターネット上ではむしろ、各メディアが報じたこの容疑者の「本名の方に驚きの声があがっている」、と報じています。

これに対し、某匿名掲示板の元管理人としても有名な人物が発したこんなツイートが、さまざまな反響を呼んでいるようです。

ひろゆき, Hiroyuki Nishimura

親の知能は子供に遺伝します。/他人が自分の子供を呼ぶために、名前をつけるのですが、一般的に読めない名前をつける親は頭が良くない可能性が高いです。/よって、読めない名前の子供は遺伝により頭が悪い可能性が高いです。/と言う話をしてたら、また実例が増えました。
―――2021/03/17 20:20付 ツイッターより

表現の過激さはさておき、ここではその論理構成に注目したいと思います。この論者の方のツイートを箇条書きにすると、おそらく次のような論理の流れがあるのでしょう。

  • ①一般に、親の知能は子供に遺伝するものだ。
  • ②一般的に読めない名前を付ける親は頭が良くない可能性が高い。
  • ③よって、読めない名前の子供は遺伝により頭が悪い。
  • ④この事例は上記①~③の仮説を裏付ける実例だ。

一見すると説得力がありそうなこの議論、どう考えれば良いのでしょうか。

論理的にはやや無理がある?

まず、この方が指摘する「①親の知能は子供に遺伝する」、「②一般的に読めない名前を付ける親は頭が良くない」の2つの命題が正しければ、「③一般的に読めない名前の子供は遺伝により頭が悪い」という結論は正しいはずです。

ただし、大変申し訳ないのですが、このうち①の部分については、正直、当ウェブサイトでその是非について議論することは差し控えたいと思います。個人的に、そこまでの学識がないからです。

ただ、②の部分については、議論としてはやや苦しいです。「頭が良い」、「頭が悪い」の定義曖昧であることもさることながら、「一般的に読めない名前」というのも基準がよくわからないからです。

また、万が一、「頭が良い/悪い」、「一般的に読める名前/読めない名前」の定義が明確化だったとしても、「(A)頭が悪い親」が「(B)一般的に読めない名前を付けている」という事例をいくら集めたところで「(B)一般的に読めない名前を付ける親」が「(A)頭が悪い」を証明したことにはなりません。

というよりも、「(A)一般的に読めない名前を付けた親」の「(C)頭が良かった」という事例がひとつでも出てきたら、この「(A)一般的に読めない名前を付ける親」は「(B)頭が悪い」とする説は、間違っていると証明されてしまうでしょう。

また、この論者の議論とは関係ありませんが、かりに「(A)一般的に読めない名前を付ける親」は「(B)頭が悪い」、という命題が成り立ったとしても、「(B)頭が悪い親」のすべてが「(A)一般的に読めない名前を付ける」、とは限りません。

すなわち、「一般的に読めない名前を付ける親は頭が悪い」という命題が真だったとしても、「一般的に読める名前を付ける親は頭が良い」、という結論にはならない点に注意が必要でしょう。

常識的ではない名前の方は?

この点、「皇帝」と書いて「ぷりんす」と読ませるのは、「さすがに名付けた人に教養がなさすぎるなぁ」と思う反面、「キラキラネーム」ないし「DQNネーム」について、確立した定義ないし社会的コンセンサスはありません。

ただし、先ほどの「頭が悪い」云々のツイートはさておき、あくまでも一般論として、社会常識から著しく逸脱した名前や、社会通念に照らして「読めない」と感じる人が多い名前を付けられた人は、何かと苦労することが多いのも事実でしょう。

その一例が、就職です。

以前も指摘したのですが、個人的に存じ上げている、それなりに名前の通った組織(たとえば上場企業、中央官庁、大手法律事務所、大手監査法人など)に勤務されている20代から30代の方々は、決して古臭くなく、珍奇でもない名前が多いように思えます(※このあたりは主観も混じるので、賛否別れるところでしょうが…)。

こうしたなか、某有名企業の人事部に勤めている個人的な友人が以前、耳打ちしてくれたのですが、その企業の事例だと社内的に一定の基準が設けられていて、「この手の名前の人は学歴に関わらず、選考段階で落とす」のだそうです。

この友人によると、その会社がこのような基準を設けている理由は、珍奇な名前の従業員は常識的な名前の従業員と比べ、たとえ本人の学歴が高くても、やはり長く勤めている間に何らかのトラブルを発生させる可能性が「有意に高い」からだそうです。

もちろん、こうした選考基準が一般的だとは思いません。あくまでも「そうやっている企業もある」というだけのことでしょう。

ただ、その知り合いの説明だと、経験則に基づき、なんとなく「地雷」の名前を嗅ぎ分けているのだそうです。

このあたり、名前と業務遂行能力に何らかの相関関係または因果関係があるのかどうかについては、単純な学問的興味の対象でもありますが、さまざまな研究を待ちたいと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (29)

  • 更新を感謝します。

    以前、宮崎県にある航空自衛隊の「新田原基地」を「ニュータバル基地」と呼んでいるミリオタがいたので、DQN読みをしているのだなと勝手に思っていましたが、検索してみたら実際に日本語で正式に「にゅうたばるきち」なので驚いた経験があります。

    ですので、サイト主様を「ニューヤドアイハカリサムライ」と呼べますよね。

    • 野宿快景史さま
      最後の読み方には微笑んでしまいました。感じ方の問題かもですね。

    • 野宿快景史様

      私も以前に同じように詠んでみました。

      「新たとき 宿る正義に 会するは 計る未来の 士の友」

      だったかな?

  • 日本語の訓読みは本来意味が通れば何でもありなのです。
    特に人名にはこの傾向が強いと思います。
    「一」と書いて「はじめ」「すすむ」「まこと」以下・・・
    なので目くじら立てるほどの事も無いと思います。

    ただ「知能は親からの遺伝」は・・・辛いなあ。
    カエルの子はカエルには違いないのです(経験より)けど。

    • 個人的には「知能は親からの遺伝」では無く「知能は幼少期に周りの環境から得られた情報の蓄積の結果に基づく」ではないかと思います。
      「カエルの子はカエル」という言葉以外に「鳶が鷹を生む」という言葉もあります。

      言葉を悪く言えば
      「アホの親」を見て子供が「それで良いんだ!」と思って育てば「アホに育つ」。
      「それはだめだ!」と思って改善を考えて育てば「まともに育つ」のではないかと思います。

      • 知能を、ここでは知能指数に代表される頭の善し悪しと定義します。

        知能は生得的です。美醜や目の色と同じく、本人の努力による改善には限界があります。

        知能は生まれつき決まっているとはいっても、両親から何をどのくらい受け継ぐかは、卵子・精子の減数分裂がどのように行われるかによって確率論的に差異が発生します。(同じ親から生まれた兄弟なのに似ていないとか。)また、頻度は少ないとは言え、突然変異も発生します。さらにた、胎児が胎内にある間に受けるストレスによって脳の発達は影響を受けます。よって、ある人間の知能が確定するのは受精から出産の間と言うことになります。この間は、本人の努力も生育環境も関係ありません。

        もちろん、生後の環境は人間に大きな影響を及ぼします。特に性格や人格に影響大です。知識の範囲と量も環境によって影響を受けます。これにより、総合的な人間の能力は、極めて多く環境の影響を受けます。しかし、いわゆる頭の善し悪しを環境が変更することは困難です。

        > 「知能は幼少期に周りの環境から得られた情報の蓄積の結果に基づく」

        あり得ません。

        > 「アホの親」を見て子供が「それで良いんだ!」と思って育てば「アホに育つ」。
        > 「それはだめだ!」と思って改善を考えて育てば「まともに育つ」

        頭の善し悪しと、まともか否かを混同しているように見えます。
        頭が良くても、悪質な犯罪を犯す人間はいます。
        頭が良くても、国益を損なうことに血道を上げる財務省や外務省の人間はいます。

        • 匿名くん 様
          鳶が鷹を生む、のは鳶(を称する人)がホントは鷹だったからで、謙遜して鳶と言ってるだけなんですよ、だいたいは。

          阿野煮鱒 様
          お説に同意です。
          しかし辛いなあ・・・

  •  ぷりんす君の漢字が、皇帝や王子ではなく「威勒士公」だったら親の知性を感じ…ないか。体毛が濃くて歌が上手い人物に成長したら良いですね。

     ひろゆき発言の分析で思い出しましたが(以前書いた気がしますが)、地元新聞社(ウルトラレフト)が「新聞を読む子は学力テストの成績が高いって文科省がいってた!」という広告を出しています。自らは責を負わずに権威を利用しているのもさておき、冷静に考えたら学力が高い子が新聞も読んでいる、という因果関係なだけ(カラスは黒い、ならば黒い鳥はカラスである)の話ですが、さも新聞で学力が上がるぞという誤解を誘発したいのが見え見え。この謎の統計の主犯は誰なのやら。こういったこじつけを鵜呑みにはしないようにしたいものです。

  • 元祖キラキラネームといったら、森鴎外でしょう。
    子孫は皆様優秀な方ばかりで、数々の業績を残しています。やはり、「知能は親からの遺伝」を否定できないようです。もちろん、優秀な知能を開花させるにはそれなりの家庭環境が必要なことは言うまでもありませんが…。
    森鷗外
    森於菟(オットー) 台北帝国大学教授
    森真章(マクス) 医学者
    森富(トム) 東北大学教授
    森礼於(レオ) 東京帝国大学教授
    森樊須(ハンス) 動物学者
    森常治(ジョウジ) 早稲田大学教授
    森茉莉(マリ) 小説家
    森不律(フリツ) 夭折
    小堀杏奴(アンヌ)
    森類(ルイ) 随筆家

      ……森由利亜(ユリア) 早稲田大学教授
         ↑ちなみに、男性です
     

    • 既に森鴎外が出ていたので、徒然草の第116段をあげておきたいと思います。
      鎌倉時代から珍奇なネーミングには人をウンザリさせていたんですねぇ。

      • 付けられた当時は珍奇なネーミングだったものもその後の定番や古めかしい名前になってるものを多いのでは?
        ビートルズもデビュー当時は不良そのものだったそうですし

      • 「目慣めなれぬ文字」とは具体的にどんな名前か興味があって知らべてみましたがわからずじまいでした。
        他には平安時代の清少納言「枕草子」149段。
        人名ではなくモノの名前で見た目は普通なのに、漢字に書くと大げさなものをこちらは列挙。
        本居宣長「玉勝間」
        人の名前は読みやすい方がいい、と。

  • 「図表 いわゆる難読系お名前」を見ているとまるで頓智をしている気分になりました。
    キラキラネームという言葉も最近知りましたが、昔の人間には付いて行けません。
    以前「悪魔」という名で届出た親がいて大騒ぎになったことがありましたね。
    就職にも差し障りがあるとのことで、然も有りなんと思いました。
    最後は加地先生のように論語で締めたいところですが、やっぱり頭の出来が親・・・

  • 新聞のお悔やみ欄をふと眺めると、以前はウメさんだの、シオだのといった、いかにも明治を思わせるような名前が目に付いたのですが、さすがに最近ではお目にかかれなくなりました。まあ、私ら団塊世代の感覚からすれば、フツウのお名前がばかりですね。

    私らの年代の最後の生き残りが鬼籍に入る時分に(新聞やそのお悔やみ欄なんかまでが、もし生き残ってればのはなしですが)、そうした名前を見た若い人達はどういう印象を抱くんでしょう。「全然キラキラしてない」とか、「DQNと腹に響かねぇ名前ばっかし」とか。

    子供の名前は前世代の感覚を身にまとっている親が付けるものだから、もっと保守的なものであってもおかしくないと思うのですが、事実はまったく逆ですね。自分たち世代では得られそうもないことを手にして欲しいとか、未来に夢を託すとか、我が子の命名の際には無意識のそういう思いがよぎるのかも知れません。

    戦後の焼け野原の時期から大して間もない頃、手塚治虫が鉄腕アトムを構想したことを考えれば、新宿会計士さんが例示したお名前くらいなら、キラキラ度はともかく、ワクワク感はまだまだという気がしますね。

  • > 「①親の知能は子供に遺伝する」、「②一般的に読めない名前を付ける親は頭が良くない」の2つの命題が正しければ、「③一般的に読めない名前の子供は遺伝により頭が悪い」という結論は正しいはず

    二値の命題論理として捉えればその通りですが、①も②も統計的な傾向であって、一意に真偽を決定できないので、同様に③も一意には真偽を決定できません。よくありがちな三段論法の誤謬ですので、注意が必要です。

    解りやすい例で説明します。まずは、正しい推論から。
    a. 人間は必ず死ぬ
    b. ソクラテスは人間である
    c. ゆえに、ソクラテスは必ず死ぬ

    では、次はどうでしょう。
    A. (平均寿命統計から)人間の男性は73年生きる
    B. (伝説によれば)ソクラテスは70歳で死んだ
    C. ゆえに、ソクラテスは人間の男性ではない

    AもBも正しい命題ですが、Cは明らかに間違いです。この誤謬は、統計的に導出された命題Aを一意に真偽を決定できる個体の命題としてそのまま適用したがために生じたものです。ここでの命題Aは解りやすくするために括弧で修飾してありますが、括弧が無かった場合を考えてみてください。ありがちな推論誤謬になりませんか?
    今回の場合、①も②も「統計的に真である場合が多い(ようだ)」という「命題(*)」であるため、③の導出自体は正しい推論ですが、真偽を一意に決定できるわけではありません。

      (*) 二値論理では、真偽を一意に決定できるものだけを「命題」として扱います。
        しかし、多値論理では可変の真理値を取れるので、真偽だけでは決定しません。

    もっとも、実生活でいわゆるDQNネームの人にあったことはありませんが、「金星」級のDQNネームに出くわしたら、本人はともかく、確実に「親はバカである」と判断するでしょうね。
    採用面接ならばおそらく減点対象になりますし、(いませんけど)子供の結婚相手(候補)だったら、絶対に反対します。

  • 自分は所謂DQNネームでは無いけれど、漢字から推定される
    読み方の候補の1位、2位からかなり落ちて3位くらいの読み方
    なので、初対面の人間にきちんと読んでもらえる事はほぼ無く、
    いちいち訂正するのが面倒に感じる。
    素直に読みにくい名前、しかも常識からあまりにも外れた
    字面や読み方の人は、本当に恥ずかしいし大変だと思う。

  • 日本語は難しい(特に姓名)

    月見里 「つきみさと」なのか「つきみざと」と濁るのか または「やまなし」なのかは文字だけでは判断が難しい
    幸子 「さちこ」か「ゆきこ」か
    同字で複数の読み方があるのでルビがふってあるか本人に聞くしかわからない

    「アベ」「ワタナベ」等同音で異字
    「サイトウ」「ワタナベ」等旧字か略字か
    「吉」は「士」か「土」か等 役所届け出時の誤字等

    「遺伝」か「環境」か
    重大犯罪を犯す人には「犯罪遺伝子」が存在すらのか と言う議論と同じ 明確な答えはない

    「金星(マーズ)」とか「水子」とかの極端な命名は
    知性か知識を疑わざるを得ない

  • 以前、音大の生徒さんの名簿を見る機会がありました。
    女子生徒の名を見て思い浮かんだのは、「宝塚歌劇団」。
    歌劇団の俳優そのものというものや読めない字というものまではありませんでしたが、
    「ご両親の願いが込められた名前なんだろうな」と思いました。
    おそらくは、その道の才能を育む数多のチャンスを与えられて育ったのでしょうね。

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