「茹でガエル理論」というものがあります。カエルもいきなり熱いお湯に飛び込むと驚いて飛び出し、火傷を負うかもしれませんが致命傷とはならないが、ぬるま湯に浸かっていていて徐々に熱くなると、逃げ遅れてしまう、という理論です。現在のテレビ業界は、緩慢な衰退に向かっているように思えてならないのですが、その兆候はちょっとしたニュースに出て来ます。
テレビは「見ない人との戦い」へ
「テレビ視聴者は減少の一途をたどっており、テレビは現在、『見ない人』との戦いに突入している」――。
これは、当ウェブサイトでこれまでに何度となく申し上げて来た仮説です。
ただ、「仮説」と申し上げた理由は、「テレビ視聴者が減少している」という事実をダイレクトに証明する手段が乏しいからです。ここでカギとなるのは「視聴回数」「と視聴率」の違いでしょう。
ビデオリサーチのウェブサイトにある『視聴率』というページに記載されている内容によると、視聴率とは「テレビの番組やCMがどのくらい見られているのかを示すデータ」だそうですが、これだけだと、定義はよくわかりません。
これに対し、動画サイト『YouTube』などの場合は「視聴回数」そのものが表示されます。すなわち、「実際に何回再生されたか」という回数そのものですね。
一般的な理解に基づけば、世の中に存在する「稼働中のテレビ」が1000万台だったとして、視聴率が50%ならば、500万回視聴された、と計算できそうな気がしますが、実際にはそう単純なものではありません。
ビデオリサーチによれば、視聴率には「世帯視聴率」、「個人視聴率」などの違いがあり、また、2020年4月時点においては、全国27ヵ所で「PM(ピープルメーター)」を使って調査をしているのだそうですが、このPMという方式自体、極めて前時代的です。
『ADfeed』というウェブサイトに2019年12月27日付で掲載された『意外と知らない視聴率~視聴率の種類と調査方法~』という記事を読むと、このPMは次のような方式だそうです。
「テレビを視聴するたびに測定機付きのリモコンボタンを押して個人データを入力することで、家族の誰が、いつ、どの番組(放送局)を視聴したかを記録する」。
なんだか、ずいぶんとアナログな方式ですね。
多くの動画サイトでは、ユーザー属性に応じて自動的に再生回数がカウントされますが、テレビ番組の場合はそもそもの視聴率調査の方法自体、この四半世紀において、ほとんど進歩していないのです。
民放・朝の情報番組で「予算切り詰め」
こうしたなか、産経系のメディア『zakzak』に本日、こんな記事が掲載されていました。
朝の情報番組バトルに異変!? TBSの“独自路線”に業界注目も…「局内は早くも白旗ムード」 目標は『グッとラック!』から予算3割減
―――2021.3.17付 zakzakより
記事の内容自体は各局の個別のテレビ番組やその出演者などに関するもので、正直、当ウェブサイトとしてコメントすべきことはありません。
ただ、この記事を取り上げた理由は、テレビ局の内情について、興味深い情報がいくつか含まれているからです。
たとえば、ある民放テレビ局の編成担当者は、こんな趣旨のことを述べます。
「テレビ局にとって朝の情報番組は好調だ。視聴者も出勤・通学の準備、家事などをしながらテレビに目を向ける人も多い。とくに最近はコロナ禍の影響もあり、報道・情報番組の視聴率は総じて好調」。
このあたり、なかなか興味深い点です。
長距離ドライバーや深夜の勉強にいそしむ受験生などを中心に、ラジオに対する需要が根強いのと同様、たしかにテレビの場合も、朝の時間帯ならば「忙しい時間帯にながら視聴できる」という特徴が生きるのかもしれません。
予算切り詰め:負のスパイラル?
ただ、個人的に引っ掛かったのは、あるテレビ局員が語ったとされる、こんな記述です。
「ハッキリいって、朝の時間帯は裏番組が強いので、局内は早くも白旗ムード。スタート前から最優先事項は制作費の削減で、前番組から予算3割減が目標だそうです。報道番組から生活情報番組にシフトチェンジするのもしかり。スタッフの数も減らしていますしね」
この点、『「長寿番組」打ち切り相次ぐ地上波テレビの将来性は?』などでも述べたとおり、テレビ局にとっては広告収入も減少しているようですし、制作費の切り詰めは止むを得ないのでしょう。
しかし、朝の時間帯はテレビ局にとって数少ない収益源であるはず。おもしろい番組を作れば、「テレビを見ない人」がテレビに戻って来てくれるかもしれないこの時間帯に集中的に経営資源を投入しなくてどうするのか、という気がしてなりません。
つまり、このテレビ局員のコメントからは、「ジリジリ減っていくであろう視聴者層」のパイの奪い合いという消耗戦に引きずり込まれるテレビ局の姿が見て取れます。彼らには「業界全体でパイを拡大する」という発想はないのかもしれません。
ちなみに先日の『埼玉県民様から:2020年版「日本の広告費」を読む』では、株式会社電通が公表する『日本の広告費』というレポートをもとに、新聞、テレビ、雑誌、ラジオという「マスコミ4媒体」に対する広告費がインターネット広告費とほぼ並んだ、とする話題を取り上げました。
テレビ広告費はすでに2019年時点でネット広告費に追い抜かれていますが、個人的な予測に基づけば、この差は今後、どんどんと開いていくのではないでしょうか。
このように考えていくと、今後のテレビ局では、「製作費が足りないから番組の質を落とす」、「番組の視聴者が離れる」、「広告主が離れる」、「製作費が足りなくなる」、という「負のスパイラル」に陥るのかもしれません(いや、すでにそうなっているのだと思いますが…)。
しかも、『zakzak』の記事によると、これらの番組は「生活情報番組」でありながらも人件費や製作費を切り詰めるためにロケを減らし、その分、スタジオでの出演者のやり取りやフリップを活用した「スタジオショー」で補うということだそうです。
貧すれば何とやら、でしょうか。
経営学的には「失敗事例」として興味深い
さて、テレビ業界を取り巻く経営環境は、経営学的には非常に興味深い事例です。
「視聴率を測定するテクノロジーが時代遅れであること」、「広告市場もジリ貧であること」、「視聴者・スポンサー・クリエイター離れがジワリと進んでいること」などの状況を見るに、テレビ業界が「緩慢な衰退」に向かっていることは間違いないからです。
しかも、得てして環境の変化というものは、じっくりと生じます。テレビ局各社は、なまじっか中途半端に経営に余力があるからこそ、変化を嫌うのかもしれません。そして、「茹でガエル」理論ではありませんが、気付いたら手遅れ、というわけですね。
その意味では、個人的にはテレビ業界に対して何の愛着もありませんが、経営学的な意味での「変化に対応することに失敗した事例」という視点からは、ウォッチする価値が十分にあると考える次第です。
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こんにちは。
朝の情報番組も同じ番組内で「コロナ怖い怖い、自粛だ出歩くな」って言ったと思ったら「何処何処のこんな食べ物に注目!」みたいなコーナーがあったりで「番組全体をまとめる人いないの?」状態だったりします。我が家も朝はテレビつけてますが、隅っこに時刻が表示されて、ちょうど見やすい高さになるので忙しい時間帯には便利だから、ですね。
朝の番組で情報を期待している方は少数ではないでしょうか?
「今日のわんこ」や「今日の占い」が終わった→出勤する時間
各コーナー等決まった時間に放送される場合が多いので他のことをしながら音声による時計として利用する方も少なからずいるかと思います
最近の傾向としては「見逃し配信」プッシュですね
見逃し配信ならどのくらいの方が見たかカウントは簡単ですね
昔のように録画してみると言うのは少数派になっていくような気がします
朝は、天気予報くらいかなぁ。
ジテツウなので雨が降るか降らないか、降るならどの位、は重要です。
前の晩とがらりと変わる時もあるので、最後の確認として見ざるを得ないです。
妻のセリフでは朝の番組は、単なるタイマーとしての機能なんだそうで、「何々のコーナーが始まるまでに、飯を出す。弁当の支度は終える。」とか。
これを本物のタイマーにすると、心理的に堪えるんだとかw。
私がテレビっ子だった30~40年前でも、朝の番組では家を出る直前に面白そうなコーナーが始まり、常に見逃していました。見ちゃったら遅刻確実。
また時折「今日は進行が遅れています」と司会者が注意喚起したり、当時も番組自体がタイマーの自負を持っていたと記憶しています。
今でも朝の番組はタイマーの役割を死守していると思いますが、もしサプライズだのシャッフルだの、番組の進行を崩すことに手を付けるようならば、いよいよテレビも終わりでしょう。
最近では、ネットから拾ってきた動画を集めた番組が多くなりました。はっきり言って、最近のテレビより素人が作った動画の方が面白いです。コロナで煽りまくって、スポンサーのひんしゅくを買って、早く滅亡してほしい。特に、テレ朝とTBSは。
更新ありがとうございます。
朝の時間帯ならば「忙しい時間帯ながら視聴できるという特徴が生きるのかもしれません。」(会計士様)いえ、とてもそんな悠長な時間は有りませんでした。
私は若い頃から朝は急いでます。睡眠をギリギリ迄取る為(笑)。敢えて言うなら朝の1分は、昼間の20分に相当します。夜は3分相当かな。どちらにしても、早め早めの行動を出来ない私ですが、遅い事がすべて健康、体調管理に「負」を与えて来た気がします。
だから朝はテレビが家にある時代から見ませんでした。天気予報ぐらい見るだろ?イエ、全国の天気予報なんて要りませんヨ。何で沖縄・九州から始まって、札幌・帯広稚内迄見なきゃいけないんですか?特にNHKの全国版は時間帯にもよりますが、酷いですね。
北海道は札幌始め函館、帯広、旭川の4カ所の予報が出て、九州は福岡、長崎、熊本、鹿児島、奄美、那覇、大東島。で四国は高松、高知。山陰は松江、中国地方が広島、岡山、それに比し近畿は大阪のみ(笑)。関東は東京、水戸(甲府)ぐらい。
こんなアバウトな天気予報なら必要無いです。それと海外の天気予報(まだ放送ありますかネ?)。明日、ロンドンやニューヨークに行く人、何人居るのか?(爆笑)そんな人は、事前に情報を取ってるでしょう。
さて、本論に入ります。ある芸能人ご夫婦(俳優、女優さん)の話。男優さんは松田優作さんが亡くなる迄、可愛がってた方で、もちろんイケメン、テレビや映画の主役、準主役級で売れっ子でした。
ところがあの業界も毎月のように新しい若手が出てきます。ココからは奥さんの回想記。「男優の場合、30歳代をレギュラーで過ごせても、40歳代になると急に仕事が来なくなる。40歳代以上50歳代以上でも主役を張れるのは、本当にごく一部の人なんです」。
確かに思い当たります。若い人は、テレビ・映画で優遇されますね。奥さんの話。「結局、ギャラが引っかかります。一度当たると一本30万円が300万円に跳ね上がる。それが何回か続くと、作り手は出演料を安く抑えて、次回は言う事を聞く若い子を使いたい。主人は自分から売り込みに行っても、『貴方は高いから、こんな低予算の番組には使えない』『出演すると、貴方のプライドにキズが付くと思って声を掛けなかった』と何度も言われた」。
露出が減ったその俳優は、経済的にも家族がどん底に。酒浸りになり鬱病も発症しました。安いギャラで良いから使ってくれと頼み込んで、また出演出来るようになりましたが、今度は演技自体が飽きられたらしい。カッコイイだけで表情や演技にも特出した所がない。事務所から仕事がまた来なくなって、とうとう自宅の欄間で首を吊りました。
見つけたのは大学生の長男さん。「オーッ!オヤジがとうとうクビをくくったーー!」と母親を呼んだ。
結局、この俳優さんも「そこそこ」の人気なら長続きしたかも知れない。しかし大当たりを何度か取ると、使う側はカネと見合うのか、気になる。視聴率も伸びないし、ちょうどドラマが低空飛行に入り始めてたので、切られたんでしょうね。
年齢的には唐沢寿明さんより少し上。彼は50歳を遥かに超えているのに、まだまだ主役を張れる。やっぱり長く出続けるのは、ごくごく一部の方なんでしょうネ。
あ、それとスポンサーが激減し、出演者も減らし、有名どころは使わない。で、また不人気で途中で打ち切り。テレビは魔のスパイラルに嵌ってます。自業自得。
独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
(そう自分に言い聞かせないと、テレビ局と同じく、自分は間違えない存在と自惚れそうなので)
番組制作費とスポンサー企業の満足度が比例するとは限りません。(もちろん、最低限の番組制作費は必要でしょうが)安くあげた番組でも、それでスポンサー料に見合うだけの満足度をスポンサー企業に与えることが出来れば、ビジネスとしては成立します。(もっとも、「それが出来れば誰も苦労しない」と言われれば、それまでですが)
逆に言うと、どんなに制作費をかけても、それで、どんなに高視聴率をあげても、スポンサー企業が満足しなければビジネスとして失敗なのです。
蛇足ですが、同一ジャンル番組のスポンサー企業を、色んな業種に多様化しておかないと、ある特定業種が不況になった時に、そのジャンル番組が全滅して、制作ノウハウがなくなる危険性があるのではないでしょうか。(もっとも、「そうなものは必要ない」と言われれば、それまでですが)
駄文にて失礼しました。
蛇足へのコメントで恐縮です。
かつては総合電機メーカー一社提供の時代劇やアニメ、製薬会社提供のクイズ、毎週車両横転爆発大炎上の刑事ドラマなど、偉大なるマンネリ番組がありました。「印籠=20時46分」「フンガッフッフ」「○○教授に全部」「全員退避!(ドカーン)」みたいな。
今はバラエティ番組で提供は複数社、しかも「ここまでは***がお送りしました」で途中で入れ替わるのが多いこと多いこと。
番組を一社のスポンサーで支えられなくなった時が、そのジャンルの終焉だったのかも知れません。特に、時代劇はもう無理ではないかと。
制作費の削減で「報道番組から生活情報番組にシフトチェンジ」って、報道のほうがコストがかかるのが意外というか納得いかないです。コメンテーターとか街の声は省略して報道局デスクからストレートニュースを淡々と伝え、天気と運行情報を挟むのでは駄目なのでしょうか…
お金使ってさらに時間も使って取材するより、そこら辺の自称専門家や芸能人でも使った方がコストかからんのでしょう。つまり放送のプロとしてのプライドより、楽に稼げるほうがいいってなもんなんでしょう。まあ公共の電波をほぼ無料で独占しつぶれる心配のない東京キー5局としたら殿様商売なので危機感なんてないでしょうね。
いや、わざわざ取材しなくても「毒水を流すインフラ屋」さんから貰ったニュースで十分です。
テレビ(地上波に限定)なんて、2012年以降批判の名を借りたいじめ・言葉狩り・下品な誹謗中傷とかに溢れていてとても見れたものではなかったですからね。ほかの人が見ていなければ自分はCS見ますよ。その方がストレスなくてすっきりです。
「批判の名を借りたいじめ・言葉狩り・下品な誹謗中傷」は昔から珍しくもなかったと思いますが、2012年に何かターニングポイントありましたらご教示ください。私がすっかり忘れていて聞けば思い出すのかも…
ただ、三十数年前、失敗した出演者には番組の最後に水をぶっかけるようなお笑い番組がありましたが、時々プロデューサーも水をかぶってバランス?をとっていました。
衛星放送の方ですが、残念ながらCSを視聴できる環境がなく未見です。BSは地上波より落ち着いているので旅行先の宿ではよく流しますが、買物番組と菅流銅鑼魔が続くのに閉口し、結局WifiでYouTubeかニコ動に逃げてしまいます。
羽鳥慎一モーニングショーは玉川が悪役やってるから、おもしろいんだよな
グッとラック!は立川 志らくが戦犯だな コメンテータとしてはハンパ過ぎる