ブリンケン国務長官の訪日を前に米国務省は日米同盟を絶賛も…
米国務省に現地時間3月14日付で、「日米同盟」に関する声明が掲載されました。これは、アントニー・ブリンケン国務長官らが日本を訪問するのに先立って出てきたメッセージであり、内容は日米同盟に対する期待で満ち溢れているのですが、なぜか唐突に「韓国」という文言が出て来ます。これについて、どう考えるのが良いのでしょうか。
米国務省「不滅の日米同盟」
アントニー・ブリンケン米国務長官、ロイド・J・オースティン米国防長官が、15日から17日にかけて東京に滞在し、「日米2+2会合」などの日程をこなすという話題については、先日の『日経報道「日米2+2で中国名指し」、むしろ遅いほど』などでも取り上げました。
両長官の訪日を前に、米国務省ウェブサイトには現地時間3月14日付で、こんな「ファクトシート」が掲載されました。
Reaffirming the Unbreakable U.S.-Japan Alliance
―――2021/03/14付 米国務省HPより
ここで、 “unbreakable” は「壊れない」という意味ですが、ニュアンス的には「不滅の」、と訳した方が正確に伝わるような気がします。このように訳すと、記事タイトルは「不滅の日米同盟を再確認する」、といったところでしょう。
著者の主観で恐縮ですが、バイデン政権発足以降、ホワイトハウスや米国務省には「あっさりしたプレスリリース」が増えているような気がしますが、このファクトシートについては例外であり、翻訳エンジンで日本語に直訳して3000文字前後というボリュームがあります。
冒頭でいきなりインド太平洋:米国の日本に対する期待の大きさ
逐語訳をするつもりはないのですが、目についた部分を紹介しましょう。たとえば、両長官の今回の訪日目的については、次のような具合です(※引用文中の下線は引用者による加工)。
(They) will travel to Tokyo, Japan, March 15-17 to reaffirm the United States’ commitment to strengthening our alliance and to highlight cooperation that promotes peace, security, and prosperity in the Indo-Pacific and around the world.
冒頭でいきなり、「インド太平洋」という表現が出て来ます。
このことは、日本が米国にとって、単なる「日米同盟」を超えて、「インド太平洋を含めた全世界の平和と安保と繁栄」について話し合う相手に浮上した、ということを意味しています。そのうえで、国務省は日米同盟について、次のような認識を示しています。
The U.S.-Japan Alliance has served as the cornerstone of peace, security, and prosperity in the Indo-Pacific and across the world for over six decades.
意訳すると、「日米同盟は60年以上にわたってインド太平洋および世界の平和、安全保障、繁栄のためのコーナーストーンとして機能してきた」、という意味です。ずいぶんと高い評価ですし、「過去60年」、「インド太平洋」「世界」、といった文言が出て来ること自体、やや唐突感がないではありません。
ただ、これについては「米国務省がこれまでの日米同盟を現時点において振り返った結果、そのように再評価した」、という意味だと捉えるならば、「米国がこれまで以上に日本を必要としている」、ということの裏付でもあります。
そのうえで、例の「基本的価値の共有」についても言及があります。
The American and Japanese people share deeply rooted values of defending freedom, championing economic and social opportunity and inclusion, upholding human rights, respecting the rule of law, and treating every person with dignity.
意訳すれば、「日米両国の市民は自由、経済的・社会的機会の包摂の擁護、人権、法の支配の尊重、個人の尊厳などの根深い価値観を共有している」、といったところです( “championing economic and social opportunity and inclusion” にはやや唐突感がありますが…)。
さらには、日本が「9・11テロ」や「ハリケーン・カトリーナ」で米国に最初に支援を提供した国のひとつであること、米国が東日本大震災で日本を支援した国のひとつであることなどに言及し、日米両国が「確固たる友情」で結びついている、と述べています。
ほかにも、民間の草の根交流、日米両国の貿易、投資、次世代インフラ等の開発など、幅広い範囲で密接に協力しており、コロナ禍への対処や5Gネットワークなどの協力の「最前線にいる」、などと絶賛しているのです。
唐突に出てくる「韓国」
ただし、こうした記述に混じって、唐突に、こんな節が設けられています。
Strengthening U.S.-Japan-Republic of Korea Cooperation
- The Biden-Harris Administration is working to strengthen America’s relationships with our allies, and the relationships between those allies. No relationship is more important than that between Japan and the Republic of Korea (ROK). The United States continues to promote expanded U.S.-Japan-ROK cooperation to tackle COVID-19 and combat climate change, as well as reinvigorate trilateral cooperation on a broad range of global issues, including the denuclearization of North Korea.
- A robust and effective trilateral relationship between and among the United States, the ROK, and Japan is critical for our joint security and interests in defending freedom and democracy, upholding human rights, championing women’s empowerment, combating climate change, promoting regional and global peace, security, and the rule of law in the Indo-Pacific and across the globe.
全体の分量と比べると少ないのですが、ここで「韓国」という文言が出て来るのです。
記事中の “ROK” は “Republic of Korea” 、つまり「大韓民国」のことです(漢字に含まれている「大」の字が、英語表記で行方不明になってしまうのはご愛嬌でしょうか)。
ことに、著者などは、 “No relationship is more important than that between Japan and the Republic of Korea (ROK)” のくだりに対し、非常に強い違和感を覚えます。直訳すれば「日本と大韓民国の間の協力関係ほど大事なものはない」、という意味だからです。
「日米関係について記述している文章で、なぜ唐突に『韓国』という単語が出て来るのか」についての検証はのちほど加えるとして、その先についても読んでおきましょう。
そのうえで、米国としては日米韓3ヵ国協力を、「コロナ禍、気候変動」などの分野で活用することに加え、北朝鮮の非核化問題などの「幅広いグローバルな課題に向けて “reinvigorate” する」、と宣言しているのです。
辞書で “reinvigorate” を調べると、「再活性化させる」という意味があるそうです。つまり、日米韓3ヵ国連携が「停滞していた」ことを率直に認めたうえで、これをさらに推進して行こうという宣言にも聞こえますね。
そのうえで、米国務省は、日米韓3ヵ国の連携が、「自由・民主主義、人権、女性の社会進出、気候変動、地域と世界の平和、安全保障、インド太平洋と世界の法の支配」のために必要だ、などと提唱しているのです。
韓国に突き付けるのは「踏み絵」?
では、これをどう考えれば良いのでしょうか。
当ウェブサイトでかねてより懸念として表明しているとおり、ジョー・バイデン政権自体、「日米韓3ヵ国連携」の復活に野心を抱いているフシがあります。
というよりも、著者自身、日韓関係、日米韓連携、米韓同盟などは、「壊れるかどうか」ではなく、「いつ壊れるか」という問題だと捉えており、敢えてその修復を試みるということ自体、せっかくうまく機能している日米関係に波紋を立てるおそれもあると懸念しているのです。
ただし、「なぜ唐突に韓国という文言が入ったのか」に関し、ここでヒントとなり得る事実がいくつかありますが、その最たるものは、国務省が発したメッセージは日本に宛てたものであり、韓国に宛てたものではない、という点です。
実際、記事タイトルに “Korea” “South Korea” “ROK” などの文言は含まれていませんし、本文でも韓国が出て来るのは上記の節の124語に限定されています。韓国に関する言及は全体のなかのほんの一部に過ぎません。
さらに、国務省のプレスリリースのページを見ても、同じ3月14日付で韓国に対して宛てられたメッセージは存在しません。このことから、「わざわざ韓国に対してメッセージを発信するのではなく、日本に対するメッセージのついでに韓国にも言及しておこう」、という、国務省の意図を感じることができます。
このように考えていくならば、現在の米国にとっての韓国とは、少なくともオバマ政権時代の「日米韓3ヵ国連携」からは後退し、「いちおう言及した」というレベルだと位置付けることもできる、という仮説が成り立つ余地もあります。
いつまでも米中二股外交は続けられない
こうしたなか、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に本日、米シンクタンク「スティムソンセンター」の東アジアプログラム共同局長で中華系のユン・スン氏に対するオンラインインタビュー記事が掲載されていました。
「米中間でバランス外交の韓国、選択すべきタイミングがくるだろう」(2)
―――2021.03.15 12:09付 中央日報日本語版より
記事タイトルでもわかるとおり、これは、「韓国が(現在のような)米中バランス外交をいつまでも続けることはできず、いずれその選択を迫られる」とする見解です。
Q:米国がクアッドを「クアッド・プラス」に拡大して韓国を迎え入れる計画があると考えるか。
A:同盟とパートナーを強化するのがバイデン大統領の政策優先順位だ。インド太平洋戦略とクアッドはこれを実践しやすい枠組みだ。クアッドにさらに多くの国が追加されるだろう。韓国がクアッドに合流する意向があるかがもっと重要な質問だと考える。中国を狙って米国が率いる連帯に合流しどちらか一方の肩を持つ意志があるかとの質問を韓国政府に政策コミュニティが問わなければならない。
まったくの正論です。ただし、中央日報の記事タイトルにある「米中いずれかを選択せよ」とする記述はこの部分くらいですが。
このように考えていくと、やや希望的観測も含めて予測するなら、今回の「日米・日韓2+2会合」は、日米に関しては「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の推進、米韓に関しては「踏み絵」、という目的があるのかもしれません。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
そういえば、『日本がシベリア鉄道よりもFOIPを重視するのも当然』でも報告したとおり、自称元慰安婦が訪韓するブリンケン国務長官との面会を要求しているのだそうです。
米国側は慰安婦問題を巡り、「2015年の慰安婦合意がすべてだ」として、「慰安婦問題が未解決」とする韓国の立場を事実上否定しているのですが、韓国のことですから、米国との事前調整もなしに、「サプライズ」でこの自称元慰安婦が会見場に出現する、という可能性も考えておくべきかもしれません。
また、その可能性については、先日は「100KPWくらいを賭けても良い」と申し上げましたが、あと100KPWくらい追加しても良いと思う次第です。
View Comments (18)
アメリカが、2+2で日本と話したい事は、そんな感じだと思います。
韓国が話したいのは、米朝協議の再開から終戦宣言、戦時統制権を韓国内戻す話。
アメリカが話したいのは、対中国の姿勢と、新疆ウイグル自治区、北朝鮮の人権問題についてだと思います。
日韓問題は、対中国の姿勢に含まれているんじゃないかな。
米国が慰安婦問題は日韓慰安婦合意が全てだなどと述べていると、河野談話を破棄して「慰安婦は売春婦だった」と宣言することはできそうにないですね。元々菅義偉にやる気はないでしょうが。
ラムザイヤー教授の論文に乗っかって汚名を晴らす絶好の機会だったと思っていたのですが。サイトにはその辺りを書いた記事を貼っておきます。
更新ありがとうございます。
米国国務省から、「不滅の日米同盟」と思わぬほど過分な評価をいただきました。確かに米国の右腕としての力を持ち、お互いに信じ合える友邦国の一番は日本しか無いでしょう(英国もありますが)。
日本へ宛てた国務省の文面なのに、韓国(ROK)が登場する。これは、国務省も「日米韓の枠組み」としか言いようが無いからだと思います。踏み絵です。態度をハッキリしろ!と。
長官らが訪韓しても北への宥和策とかFOIPも断るとなると、韓国は完全に捨てられます。しかし、韓国はこれまでの行動と同じでしょう。「まだ米国は大丈夫、捨てられない」と思っているから(笑)。
アメリカはFOIPクアッドの発展に期待を持つつも、まだ日米韓の連携を諦めていない、連携強化に未練があるということでしょう。
日本と韓国の現状を冷静に分析すれば、もはや日韓連携は無理であることは理解しつつも、日米韓連携システム構築のために費やした過去の投資回収、韓国のアメリカ関与の期待、国務省内の伝統的な日米韓連携論者等を考慮すると、No relationship is more important than that between Japan and the Republic of Korea (ROK)、と発言せざるを得なかったのでしょうね。
日韓連携を強化するためには、日韓の間に横たわる歴史問題を解決せざるをえず、アメリカによる圧力等の関与を強化することで解決可能、と考えている現状認識ができない国務省官僚(あるいは韓国派)が未だいるということであり、最終的には日本が韓国に歩み寄るべきと考えている連中です。
菅首相には上記圧力を跳ねかえして頂きたいですが、幸いにも以前と違ってFOIPクアッドという代替手段があること、日本国内の対韓感情が劇的に悪化していることから、FOIPクアッドの今後の戦略方向性を具体的論理的に説明し、日本世論の怒りが下手すればアメリカに向かう危険性等を示せば、日韓連携はもはや困難と考えている政治家や国務省官僚に同調を求めること等で、伝統的な日韓連携論者を論破することは可能と考えます。
稀有な外交能力を駆使して新安全保障体制を構築しようとした、国士安倍元首相の意思をしっかり引き継いで頂きたいと思います。
米国も、期待としては、そう言うしかないでしょう。
一方、さすがに韓国の言い分は通せないことも、理解しているでしょう。
ところで、
"No relationship is more important than that between Japan and the Republic of Korea (ROK)"
「(現状の)日韓関係(が続く)より、無関係になることの方が重要だ」
誤訳したくなるのは私だけ ?
アメリカとの関係より重要なのか、とも言いたくなりますね。
イーシャ様、
自分もその部分だけ見ると変な感じがしました。なので前後の文を読み返したら、直前に「現政権はアメリカと同盟国の、同盟国同士の関係を強くする様に注力している」とあり直後にその文があります。なので(アメリカの仕事として)冷え込んだ同盟国同士の仲介はimportant = 優先事項 という意味で前文を引きずっている様に見えます。なんか公文書というより話し言葉的な解釈ですが。
どちらにしろ、口を出すならアチラに言って欲しいですね。コチラはFOIPで忙しいので。
「Reaffirming the Unbreakable U.S.-Japan Alliance」という米国務省のステートメントの内容とその流れの中で、この韓国に係わる記述。確かに唐突な感がありますね。
日韓関係がひたすら泥沼化に進んでいることは十分認識している一方で、日米関係はますます緊密化していると強調するなら、米国にとっては日本との関係を考える際、韓国の存在なんて何の障害にもならないと言ってるようなものだと思うのですが。
短い一節の中に、日米韓三国で協調できる事柄ということで、やたら具体的に、日本としては文句の付けようがない項目を並べ立てているように見えるのですが、面白いと思ったのが、「championing women’s empowerment」というフレーズ、女性活躍社会の実現を目指しましょうなら、日本にとっても是非一緒にと、同意するにやぶさかではない。
思うに、このあらずもがなの一節が挿入された理由は、少し前に米国務省の高官が、多分韓国メディアの誘導質問に引っかかったせいだと思いますが、韓国が言い張ってる「性奴隷」に関する米国の見解に変化がないかの如き発言を、ウッカリやらかしてしまったことへの、言い訳というか、お詫びの意ではないでしょうか。米国として日本と追求していきたいのは、いまやそんな与太話とは違った方向ですよと言わんがために、わざわざ書き込んだような気がします。
独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
(そう自分に言い聞かせないと、韓国と同じく、自惚れ屋になってしまうので)
結局のところ、韓国が考える「アメリカが見ているであろう韓国の姿」と、実際にアメリカが見ている韓国の姿が違いすぎることが問題ではないでしょうか。
駄文にて失礼しました。
引きこもり中年 様
韓国人は、自分の姿を知らないんです。
鏡に映らないですから。
ならばニンニクと十字架で撃退できる?
でも彼らはニンニク大好き。
彼らを貫ける銀の弾とは?
やっぱり太陽でしょう。
お日様マークを見るだけで発狂するくらい、嫌いなようです。
上手い!
アメリカ国務省の「ファクトシート」の中で「日韓協力の強化」という項目があり、
「バイデン・ハリス政権は、同盟国とのアメリカの関係と、それらの同盟国間の関係を強化するために取り組んでいます。日本と韓国(韓国)との関係ほど重要な関係はない。」とありますが、この文章には、省略されている言葉があると思います。すなわち、
「バイデン・ハリス政権は、同盟国とのアメリカの関係と、それらの同盟国間の関係を強化するために取り組んでいます。(2015年の日韓慰安婦合意は、そうした取り組みの大きな成果であり、バイデン・ハリス政権は、今後とも、こうした成果を基礎とした)日本と韓国(韓国)との関係ほど重要な関係はない(と考えています)。」
韓国か女性の人権を看板に掲げて「慰安婦問題の"解決"」をねじ込んで日本責任論を拡大させていくのは基本路線になるでしょう。自称慰安婦のサプライズseason2を計画するのも不自然ではありませんね。今となっては自称9○歳の彼女の手綱を取れていないことを韓国政府が危険視するかも知れませんが(ICJ方面へ話が転がる可能性もあります)。
市長選挙も近い中で慰安婦棚上げは文政権には不可能。お茶濁し、時間稼ぎ以外の展開は無いですね。
トランプ政権下で同盟国との負担見直しが取り沙汰されたように、バイデン政権でも安保負担の公平性について論議が起きない保証はありません。
そしてそれをどのような形で求められるかも予測は困難なのです。
当然ですが、国家戦略の中で正義の味方もボランティアも存在しません。
日本の望むようにwin-winが成立するように常に模索し提案するべきなのは変わりませんね。