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鈴置論考で読み解く、2022年韓国大統領選の前哨戦

日韓関係改善は隠れ蓑、文在寅氏の真の狙いは南北融和』でも触れたとおり、文在寅(ぶん・ざいいん)韓国大統領が3月1日に発したメッセージについては、端的に言えば「日本を利用して苦境を打破しよう」という魂胆が見え隠れしています。こうしたなか、日本を代表する優れた韓国観察者である鈴置高史氏が、来年の韓国大統領選の前哨戦についての論考を発しています。

混乱する韓国

文在寅氏のまことにふざけた演説

文在寅(ぶん・ざいいん)韓国大統領が3月1日の独立運動記念演説で、「わが政府はいつでも日本政府と対話する準備ができている」となどとするメッセージを発したことについては、先週の『【資料】文在寅氏「3・1節」演説の日本に関する発言』でも紹介したとおりです。

ただし、当ウェブサイトにいわせれば、文在寅氏がこのタイミングでこの手のメッセージを発信した理由は、本気で日韓関係改善を目指したからではありません。

日韓関係改善は隠れ蓑、文在寅氏の真の狙いは南北融和』でも述べたとおり、おそらく文在寅氏の真の狙いは、東京五輪などの機会をとらえ、日韓関係改善を装いながら、南北関係、米朝関係、米韓関係の改善を達成することにあるのでしょう。

あるいは、文在寅氏のメッセージを日本政府が聞いてくれれば儲けもの、といった程度の認識しかないのかもしれませんし、日本政府が文在寅氏のメッセージを無視した場合には、「せっかく韓国が手を差し出したのに、日本がその手を振り払った」とばかりに、日本に責任転嫁するつもりかもしれません。

いずれにせよ、この文在寅氏の目論み、底が浅すぎます。

尹錫悦氏の急浮上

ただし、なぜ文在寅氏がこのような発信をしたのかについては、韓国の選挙スケジュールとの関係で把握しておくことは必要でしょう。文在寅氏自身の大統領としての任期があと1年少々で満了するなか、次期政権も文在寅路線を引き継ぐのか、それとも「保守派」に政権交代するのかは気になるところです。

ことに、昨年の『検察総長の停職解除、韓国で新たな泥仕合が始まるのか』でも議論した、文在寅政権と尹錫悦(いん・しゃくえつ)前検事総長との闘争については、注意が必要でしょう。

尹錫悦氏の肩書に「前」と付したのは、尹錫悦氏が3月4日に突如として辞意を表明し、文在寅大統領が辞表を受理したからです。一説によると、尹錫悦氏が電撃的に辞任したのは、大統領選への出馬を念頭に置いたものだ、との可能性も議論されています。

そうだとすれば、1年後の大統領選に向けた「前哨戦」が、唐突に始まった、という言い方をしても良いのかもしれません。

待望の鈴置論考

文在寅氏の演説を「猿芝居」と喝破

こうした複雑な情勢を読み解くうえでは、やはり日本を代表する優れた韓国観察者である鈴置高史氏の論考の力を借りるのが良いでしょう。有難いことに、鈴置氏の最新論考が本日、デイリー新潮に掲載されていました。

独立式典で「文在寅」が猿芝居 韓国大統領選挙の底流を読む

2022年5月の大統領選挙に向け韓国がそろりと動く。さらに強硬な反米反日政権が登場するのか、中道保守政権が生まれるのか――。韓国観察者の鈴置高史氏が選挙の底流を読む。<<…続きを読む>>
―――2021/03/08付 デイリー新潮『鈴置高史 半島を読む』より

この論考、トータルの文字数が8000文字近くに達する長文ですが、いつにもまして説得力があり、読んでいるとグイグイ引き込まれてしまいます。その理由は何といっても、記事タイトルで用いられている「猿芝居」というパンチが効いた表現にあります。

「猿芝居」とは、3月1日の文在寅氏の演説以降、「ボールは日本側にある」とでも言わんばかりの姿勢を取る韓国政府の下手な芝居のことを指しているのでしょう。問題の「対話の準備ができている」発言を巡り、鈴置氏はこう述べます。

自称・元徴用工や元慰安婦の裁判により日韓関係がこう着しました。その責任を日本側に押し付ける狙いです。(中略)『日本との関係改善に努力している』フリをし、バイデン政権に『それに応じない日本が悪い』と訴えたわけです」。

今さら申し上げるまでもありませんが、自称元徴用工問題にせよ、自称元慰安婦問題にせよ、日韓関係が膠着した責任は、本来、韓国の側にあります。そして、文在寅氏の言動はその全責任を日本側に押し付けるという意図がアリアリであり、その意味で、まさに「猿芝居」は言い得て妙、というわけです。

保守派と左派の争い、左派同士の争い

ただ、鈴置氏は、この「猿芝居」を手掛かりにしつつ、韓国国内で保守派の反撃が始まったとして、次のように指摘します。

保守系紙は文在寅政権の『猿芝居』に冷笑を浴びせました。(中略)朝鮮日報はじめ保守は、文在寅政権を含む左派から『土着倭寇』と罵倒されてきました。文在寅が突然に変節したので『『土着倭寇』と他人を非難したお前は何なのだ』と反撃に出たのです」。

しかも、文在寅氏の演説で慰安婦への言及がなかったことが、却って保守派から、「文在寅政権が慰安婦問題を都合よく利用してきた証拠」という、政権にとって痛いところを突かれる原因にもなっていたのだそうです。まさに、泥仕合ですね。

それだけではありません。

「弱腰に転じた文在寅政権」に対し、左派からも批判が上がっているというのです。そこでカギを握る人物の1人目が、李在明(り・ざいめい)京畿道知事です。

中央日報の記事は、そんな左派内部の亀裂に焦点を当てました。(中略)『京畿道知事』とは、文在寅大統領よりも左と見なされる李在明(イ・ジェミョン)氏。『日本は敵性国家だ』と発言するなど過激な言動で有名です。与党『共に民主党』所属ですが、大統領との関係はよくありません」。

そのうえで、鈴置氏は中央日報の報道をもとに、李在明氏が3月1日に行った演説の内容の一部を紹介します。

ナチに等しい親日勢力が未だに韓国に根を張って既得権をむさぼっている。親日派を見つけて追い出す」。

同じ日の文在寅氏の演説と比べ、明らかに過激です。しかも、鈴置氏によると、この人物は「民族主義を全面に打ち出して人気を得る人」だそうであり、実際、世論調査でも次期大統領選で「現時点で最も当選可能性が高い」と見られています。

つまり、文在寅氏の演説は、韓国国内の大統領選が左派の内部でも過激派の台頭を招くきっかけとなってしまった可能性がある、というわけです。とくに、同じ左派では、李在明氏と比べ「穏健派」とされる与党の李洛淵(り・らくえん)代表との争いについても注目する必要があるでしょう。

与党の大統領候補選びの過程で『軟弱な』李洛淵氏を追い落とすために李在明氏が強硬左派路線を打ち出す可能性が高い。すると李洛淵氏もそれに引っ張られ、党全体が左に寄ることになるでしょう」。

また、鈴置氏によると、急進左派のあいだで現在、検察からさらに捜査権をはぎ取るために、「重大犯罪捜査庁」なる組織を設立しようとする構想があるようですが、こんな法案が実現してしまえば、場合によっては民主主義そのものが転覆することにもなりかねません。

尹錫悦氏が有力候補に浮上?

こうしたなか、もう1人注目に値するのが、尹錫悦氏です。

――保守は『極左』にどう対抗するのでしょうか。

鈴置:先ほど引用した、柳根一氏の寄稿『586強硬派のクーデター…尹錫悦が選択する時が迫った』に1つの答が示されています。見出しに『尹錫悦が選択する時』とあります。検事総長の尹錫悦(ユン・ソギョル)氏に大統領選挙への出馬を促したのです」。

じつは、尹錫悦氏自身、「リアルメーター」の2月下旬の世論調査で、李洛淵氏と同率2位になった人物でもあります。もともとは左派として知られていましたが、文在寅政権の検察改革に抵抗したことで、「その硬骨漢ぶりに中道や保守の間で人気が高まった」のだとか。

本稿冒頭でも尹錫悦氏がこのタイミングで辞任した理由が大統領選との関係にあったという仮説を紹介しましたが、これについて鈴置氏はこう述べます。

尹錫悦氏の出馬を阻止しようと『検事は辞任後1年間は公職選挙に立候補できない』との法律を与党が準備していました。この法案が成立すると、次回の大統領選挙に出馬するには3月9日までに辞任する必要があったから、と言われています。

実際、尹錫悦氏の行動は大統領選を念頭に置いたものと受け止められても仕方がないでしょう。

それに、保守派の間では、次期大統領選に負けられない事情もあります。

次の大統領選挙で負ければ『与党になれない』だけではありません。公捜処や捜査庁が動き出して、保守政治家が根こそぎ刑務所に送られかねないのです」。

だからこそ、次の大統領選に向けて、すでに熾烈な前哨戦が始まっていると見て良いでしょう。

韓国と距離を置く契機に?

さて、ここから先は当ウェブサイトの見解です。

正直、現在の韓国の混乱を見ていると、彼らの行動は李朝時代のそれとまったく変わっていないか、むしろ悪化しているのではないかと思わざるを得ません。ことに、国内で権力闘争を行うに飽き足らず、外国勢力を混乱に巻き込んできたのが朝鮮半島という地域だからです。

韓国国内では、日本との関係では「用日派」、「純粋反日派」という争いがありますが、米国との関係では「親米派」「反米派」、南北関係では「反北派」「親北派」などの違いもあるようです(※もっとも、中国との関係では「反中派」という勢力がほとんどいないというのも興味深い点ですが)。

当然のことながら、ありもしない歴史問題に拘泥し、国内の争いに現を抜かすような国と、軍事的・経済的に深い協力関係を築き上げるというのは賢明な選択肢ではありませんし、「朝鮮半島と距離を置け」というのは、歴史が教える鉄則のようなものでしょう。

その意味で、李在明氏あたりが次期韓国大統領に選ばれようものなら、短期的には日韓関係にトドメを刺されることにつながりかねず、日韓関係は破綻し、日本の安全保障や経済にも大きな影響が生じる可能性は否定できません。

ただ、それと同時に、李在明氏のような「わかりやすい人物」が大統領に就任すれば、日本は政財官を挙げ、本格的に「韓国と距離を置く」という選択を取らざるを得なくなるかもしれません。

そのことが、日本にとって中・長期的に悪いことと言えるのかどうかは微妙だと思うのですが、いかがでしょうか。

新宿会計士:

View Comments (27)

  • 李在明氏あたりが次期韓国大統領に選ばれないと、現状の打破ができないとなると、モオンザイトラ大統領の存在価値はなんだったのだ、ということになります。期待していた側としては、残り1年の中で、早く韓国内の日本企業の財産の現金化や、韓国売春婦の日本へのたかり訴訟の国際司法裁判所付託を宣言し、日本に韓国の訴えを却下しないように国際世論に働きかけて欲しいものです。

  • 検察官が辞任後1年は大統領選挙に出馬できないというのは、尹錫悦氏を出馬させないためじゃなくて、すぐに検察総長を辞めさせるための画策な感じがします。まあ、それって大統領の被選挙権を制限する、民主主義的に問題があるもので、流石にリアルに法案通すのは困難で、見せ球だと認識してます。

    そこまでして強引に辞表出させて、短期的には苦しさが和らぐのでしょうが、文大統領にとっては、有力な対抗候補を作ってしまう悪手です。

    まあ、残念ながら、文大統領一派の時代は来年で終わりでしょう。文大統領の収監まで含めてほぼ決まったように思えます。

    ただ、それに代わる尹錫悦氏のサイドももともとは革新系と言われており、「そのあと」がどうなのかはさっぱり読めません。敵の敵が味方とは限りません。

    まあ、とにかく日本としては何もしないことが最強の攻撃になっています。がっちり現状維持で対応しましょう

    • > 文大統領の収監まで含めてほぼ決まったように思えます。

      政権与党が、引き続き「共に民主党」であれば、文在寅氏は収監されないと予測します。現在の韓国では、保守系政党プロパーの大統領候補者が見当たらず、外部から尹錫悦氏を招くようでは、勝ち目は薄いと思います。

      文在寅氏の余生が安泰だからと言って、この後の韓国が安泰とは限りませんが、韓国はいつだって崖っぷちに立ってきたのですから、今後も大丈夫だと思います。知らんけど。(←関西人のまねをしてみました。)

      • 私の見立てですけど、現在の与党が文大統領とごく一部の親文派を残して離脱し、尹錫悦氏のもとに巨大与党を形成するように思ってます。権力を継承するか、獄中まで転落するか。その2つに1つしかないように思っています。

        まあとにかく日本としては高みの見物。無視戦略で嫌がらせしつつ楽しみましょう。

  • 日本としては親米保守派が政権をとると、アメリカが日韓関係を取り持とうと無理な譲歩を日本政府に迫ってくるかもしれない・・・ということで「極左」候補に一票。

  • 国を憂いての争いというより利権を争う熾烈な内部闘争がぴったりの様相を呈してきました。闘争に、国の利益にはならない反日を利用する以外能はないのでしょうか。もっと優先すべき経済政策とかが一言も出てこないのはまさに亡国の内部闘争といえます。
    もっとも、韓国という国家自体が米国の勝利によってタナボタ式に手に入った国であり、亡くなったとしても惜しくは思わないのでしょう。
    しかし、近所迷惑なことこの上ないです。

  • 諸説あるようですな。
    検事総長が辞めたのは、大統領出馬を見据えての事。任期は7月までで、辞めるならもっと早く辞めるタイミングは、有りました。
    何れにせよ、左派政権が継続して、反日強度が上がるのは、間違い無いと思います。
    もう韓国は、後戻り出来ない所まで、進んでいると考えた方が、良いですよ。

  • 用日を絶賛褒め称え親日のレッテル!
    共産主義者が、また大統領になってくれる大韓民国!

    なるのが良いのか、どうなるのかは分からんが
     朝鮮人の本性が知れ渡ることとはなりそうですね。

    • >朝鮮人の本性が知れ渡ることとはなりそうですね。
      私もそう願っていますが、日本のメディアが朝鮮人の本性を今も徹底的に隠蔽しています。ハーバード大学ラムザイヤー教授に対する韓国の執拗な妨害工作の実態もスルーです。まあ、誰がなっても国家運営(用日の再構築)は出来ないから、内乱が勃発すると思います。

  • 杞憂に終わればいいんですが、今後、最も嫌なパターンは、アメリカが日本に譲歩を迫り、強く出れない菅政権が、その要求を呑んじゃう。めでたく韓国の親米(用日?)保守が与党に返り咲き、文大統領&左派以外は、落ち着く。日本の親韓勢力も、ほっこり幸せ。
    まずいです。頑張ってきた安倍政権の努力はどうなる?細いパイプかもしれませんが、また韓国と日韓友好?ダメだ。
    韓国の左派が引き続き与党に座り、完璧な反米反日路線を引き継いでくれることを望みます。そして、核を持った朝鮮国誕生前に、自爆してくれれば、いいなぁ~

  • 更新ありがとうございます。

    【朝鮮には近づかぬが誠に宜しきかな。】

    保守派と進歩派、そして更に進歩派の中でも超過激派。それらがバトルロイヤルを繰り広げるっと。

    つまり、最後に勝つのが一番人気とは限らない。狡猾で使えるネタは何でも利用。反日も半分の人くらいは選挙用、残りの方がゴリゴリの反日狂です。と言っても選挙用の方も日本嫌いですが(笑)。

    今度はトドメのトドメ、「重大犯罪捜査庁」を設立するらしい。同庁は検察から捜査権を完全にはぎ取る。ついこの間、「高位公職者犯罪捜査処」(公捜処)の設立を決めたばかりなのに。もうファシスト国家というか監獄国家ですネ。読み方を「カンゴク」に変えたらいいのに(笑)。これなら北朝鮮ともウマが合いそうだわ。強き者に媚びへつらい、弱き者には圧政を敷く。
     
     検事総長を辞任した尹氏は、たぶん選挙に出るでしょう。ややこしいのはこの方も左派系、更にもっと毒の強い者も出馬って、、もう誰がなっても貧乏市民は大人しく泣いてるだけ。富裕層とオンナを武器に出来る人は、国外に出るかしかないでしょう。文大統領も娘を頼って高跳びか(爆笑)?

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