昨日、米国のアレックス・アザー厚生長官が台湾を訪問し、台湾との医療・衛生協力に関する覚書を取り交わしたほか、蔡英文総統を表敬訪問しました。米国側からは台湾を「国」と位置付けないような配慮は見えますが、それと同時にWHOからの脱退を表明している米国としては、今回の訪台はWHOに代替する何らかの国際機関創設の布石ではないか、との見方もあるようです。また、米台関係の好転は日本にとっても間違いなく良いことです。なぜなら台湾は日本にとって、「基本的な価値観を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する重要なパートナーであり、大切な友人」だからです。
アザー米厚生長官が訪台
昨日、アレックス・アザー米厚生長官が台湾を訪問し、陳時中(ちん・じちゅう)衛生福利部長(※保健相に相当)と医療・衛生協力に関する覚書を取り交わし、蔡英文(さい・えいぶん)総統とも面会したそうです。
ここでは米メディアWSJとCNN、台湾メディア・中央通訊社が運営する日本語版サイト『フォーカス台湾』の記事を紹介しておきましょう。
U.S. Health Chief Praises Taiwan’s Covid-19 Success, Irks Beijing in Rare Visit
―――米国夏時間2020/08/10(月) 14:56付=日本時間2020/08/11(火) 03:56付 WSJより
Top US health official meets with Taiwan President Tsai Ing-wen in highest-level summit for decades
A lex Azar, the United States Health and Human Services secretary, met with Taiwanese President Tsai Ing-wen Monday, the highest-level meeting between Washington and the self-ruled island in decades.<<…続きを読む>>
―――2020/08/10 19:58HKT付 CNNより
台湾、米厚生省と初覚書 アザー長官、WHO脱退後は「台湾と協議」
(台北中央社)衛生福利部(保健省)は10日、米厚生省と医療や衛生の協力に向けた覚書を初めて締結した。<<…続きを読む>>
―――2020/08/10 19:10付 フォーカス台湾より
今回台湾を訪問したアザー氏は、米台断交以来、米政府関係者の職位としては最高であり、これについてWSJは「異例な会合(a rare meeting)」などとしつつ、中国との論争が深まるレッドラインに近付いた、と評しています。
ただ、アザー氏の訪台目的は、(表面上は)台湾のCOVID-19対策の成功を称賛するとともに、米台双方が保健・衛生協力を進めるためであり、これについてWSJは次のように述べています。
“Health and Human Services Secretary Alex Azar relayed a message of support from the White House and praised Taiwan’s Covid-19 response in his meeting Monday with the island’s leader, Tsai Ing-wen.”
意訳すれば、「米国としては台湾の取り組みを称賛し、全面的に支持する」、というメッセージですね。
また、蔡英文氏はアザー氏に対し、米台関係の強化を歓迎するとともに、40年間の米台関係の歴史で双方の関係が最も良好だと応じたそうです。
一方の中国は、台湾近海にジェット戦闘機を出動させて牽制したそうですが、これに対し台湾空軍がスクランブル発進する局面もみられたようです。
CNN、中国に忖度?
また、WSJの記事には
“Alex Azar’s visit meant to convey message of strong support for Taiwan and to discuss cooperation in public health efforts”
とあります。
つまり、「米国として、衛生に関して台湾の取り組みを強く支持するとともに、台湾との協力を模索する」、という、異例の強いメッセージですね。これは見方によっては、中国や中国に忖度してばかりいる世界保健機関(WHO)に対する強力な牽制でもあります。
もっとも、あくまでも個人的な印象ですが、報道から伝わるアザー氏の発言、中国を過度に刺激しないような配慮が見えます。というのも、CNNによると、アザー氏は月曜日、次のように述べたからです。
“My trip demonstrates the robust US-Taiwan partnership on global health and health security, one of many aspects of our comprehensive friendship.”
つまり、アザー氏は今回の訪問について、「包括的な友情の多くの側面のひとつである、世界の健康と健康の安全に関する強力な米国と台湾のパートナーシップを示すもの」と位置付けていて、あくまでも保健・健康分野に限っている、というわけですね。
ただ、米国側も台湾をどう呼ぶかで、かなり配慮をしている様子がうかがえます。端的に言えば、「国」とは認めていない、ということですね。
ついでに、本件を巡ってほかにもいくつかの米メディアの報道を読んでみたのですが、台湾を巡って奇妙な表現が多数出てきました。それが、「自治する島」(self-ruled island)という表現です(ちなみにこの表現はCNNの記事に出てきたものです)。
なんだか奇妙な表現ですね。
いちおう、日本政府などは「中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府である」とする立場を取っており、台湾のことを「国家」とは位置付けていませんが、これはあくまでも政府レベルのものであり、メディアが中国に忖度するのにも強い違和感を覚えざるを得ません。
今回の訪台の意義
さて、台湾は現在、中国からの物理的な距離の近さにも関わらず、コロナ防疫に大いに成功した「国」として、世界的にも大きく注目されています(本稿では、あえて台湾のことを「国」と表現しておきたいと思います)。
当然、本来ならば台湾の知見については全世界にも共有されるべきですが、残念なことに、世界保健機関(WHO)は中国に忖度するあまり、台湾のオブザーバーとしての参加すらも拒絶しているという状況にあります。
先ほど紹介したフォーカス台湾の記事によれば、米国がWHOから脱退の意向を示している点を巡り、アザー氏は記者会見で、WHOに代わる新組織の立ち上げの可能性を問われると、次のように答えたそうです。
- 公衆衛生の向上を図る手段を国際社会と模索していく
- 台湾とももちろん協議する
…。
なかなか、興味深いですね。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
さて、当たり前の話ですが、国際社会において「永遠の敵対国」もなければ、「永遠の味方」もいません。
現在、日本は中国との国交の都合上、台湾を「国」と認めるわけにはいかず、公式には日台国交は存在していません。
しかし、日本政府は密かに、台湾を「基本的な価値観を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する重要なパートナーであり、大切な友人」と位置付けています(『日本政府にとっての台湾と韓国の地位が逆転?』等参照)。
もちろん、「今すぐ日中断交して台湾と国交を開け」、という話にはなり辛いのですが、ただ、いつまでも中国に忖度し続けるのもいかがなものかと思います。
もっとも、台湾が自分たちを「中国の一部」と位置付けるのか、「中国の正統な政府」と位置付けるのか、それとも「台湾共和国」を名乗るつもりがあるのかは、いまひとつ、見えて来ません。
その意味では、私たちの国・日本としても、台湾は「基本的な価値観を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する重要なパートナーであり、大切な友人」ですので、友好協力関係をますます深めていきたいものです。
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「主権・領土・国民」が、「国家の3要素」。
台湾はどれも欠けていません。
ついでにいうと、北朝鮮も。
それは事実。
更新、アザーす!
…誰かに書かれる前に書きたかったのです(*´ω`)♪
>ついでに、本件を巡ってほかにもいくつかの米メディアの報道を読んでみたのですが、台湾を巡って奇妙な表現が多数出てきました。それが、「自治する島」(self-ruled island)という表現です(ちなみにこの表現はCNNの記事に出てきたものです)。
南北朝鮮については「self ruled peninsula」という表現が可能か悩んじゃいますね。
自治を出来る知識も能力も気概も無い「三不」状態に見受けられ。
しまった。
先にやられてしまいました…
謝罪と賠償を(以下略)
たい さん
お先!( ̄∇ ̄)
台湾は米国のWHO脱退表明後も
「WTOオブザーバー参加」の方針は変わってないと思いましたが
日本もユネスコやIPCC等「ムダ」な国際機関は脱退して浮いた拠出金を有効活用してほしいものです
すいません
「WTOオブザーバー参加」→「WHOオブザーバー参加」
メディアが中国に忖度するのにも強い違和感を覚えざるを得ません
>アメリカメディアも、チャイナマネーで汚染されているんじゃ無いかと思います。
中国としては、アメリカに一歩踏み込まれた状態ですが、香港で民主化指導者を逮捕しており、米中対立はより深刻化すると思います。
台湾と公式な国交が無いのは、今現在と中国との国交が正常化してからだけです。今後台湾が、価値観を共有した状態を継続出来れば、正式に国と認めて、植民地とは別の形の国交が成立すると思います。
だんな様
メディアと言えば、トランプ大統領が大統領に就任してからも随分と長い間、場合によっては今も「トランプ氏」と報道するのはなんか理由があるんですかね。
お隣の大統領を就任以後「文在寅氏」とかやらないのに。
東京カモノハシ倶楽部さま
日本のマスゴミは、中朝工作機関ですから。
更新ありがとうございます。
これでは、マスゴミと言われても全否定できませんね。
日本政府も吹っ切れて欲しい。
台湾関連報道を「なるたけ目立たないようにする」のは、洋の東西を問わずメディアに共通しています。
BBC記事2020-8-10
"US angers China with high-profile Taiwan visit"
https://www.bbc.com/news/world-asia-53719333
まるで米中のせめぎ合いが人類の公共保健よりも重大であるかのような印象操作目的タイトルをつけています。今朝の日経記事はなお一層ひどいものです。
今回BBCはかなり踏み込んだ表現をしました。いつもはもっとモゴモゴと書いてます。
"Taiwan is, to all intents and purposes, an independent state, but China regards it as a breakaway province."
アザー厚生長官の現地における声明は以下のように明快なものだったそうです。BBC記事より抜き出します。
“The first is to recognise Taiwan as an open and democratic society, executing a highly successful and transparent Covid-19 response,” he said.
“The second is to reaffirm Taiwan as a long partner and friend of the United States.
“The third is to note that Taiwan deserves to be recognised as a global health leader with an excellent track record of contributing to international health."
更新ありがとうございます。
台湾国は主権を持ち正式な領土も持ち、国民は自由と民主主義を享受し、責任を負担します。つまり、日本や米国、加、豪、NZ、仏、英ら先進国と同じグループです。
中国や北朝鮮、下朝鮮、香港とは違います。日本政府は中華人民共和国を唯一の正式な国家と認めてますが、「日中友好」「日中親善」「日中友邦」と言われた50年前と異なり、チカラを蓄えた中国は世界の覇権を握ろうと無茶苦茶な事をやりたい放題です。
「離中」と言えばよろしいでしょうか。日本は中国とは疎遠になるべきです。あまりにも手の内を見せ過ぎた。工賃が安いからと、飛びつき過ぎた。やはりmade in japanです。世界の人が信頼し、憧れるモノ作り。朝、言いました通り、安もんの液晶テレビは要りません。(欲しい人はどうぞ)
このモノ作りを中国から国内に戻すか、中国からASEAN等に転地するかです。中国も完全にゼロにするわけじゃない。適品適時で中国が選ばれるケースもある。
但し、経済的な結びつきはともかく、WHOのように中国の言いなり、またユネスコ等、日本の資金が無駄に使われる所からは脱退して、新しい組織を作り、参加すべきと思います。中国はやはり信頼、信用出来ないですね。
>台湾が自分たちを「中国の一部」と位置付けるのか、「中国の正統な政府」と位置付けるのか、それとも「台湾共和国」を名乗るつもりがあるのかは、いまひとつ、見えて来ません
・・・まあ、今日も暑いから、こんなコメントが出るのもしょうがないんだろうけど。どうしちゃったのかな。
台湾は 中華民国 ですよ。
わざわざ「」を付けた文意の読めない人?
あと「台湾正名運動」の流れも知らないのでしょう。
そういえば財政赤字が国際条約で禁止されてるってアホコメント書いてたの、あなたでしたっけ?
>・・・まあ、今日も暑いから、こんなコメントが出るのもしょうがないんだろうけど。どうしちゃったのかな。
揚げ足を取ったつもりですか?
話の本題どころか、文中に影響しない事にいちいち取るに足らない事に下らないケチつける方が、「どうしちゃったのかな」。
あとそんな講釈垂れたかったら、ご自身の投稿を希望してみたらいかが?
中華民国は辛亥革命(1911年)によって、孫文が、清王朝から天命を譲り受け成立した(ことになっている)。その中華民国は、国民党政権として収斂され一時は中国全土の支配勢力だったのだが、以後様々な経緯あり、最終的に共産党政権によって台湾島に追い落とされた。現在の台湾・中華民国は、いわば亡命政権の末裔といえるであろう。ただ亡命政権ではあるが、前朝から引き継いだ天命は依然保持している。なので、中共政権はこの天命(天下に一つしかない)を有しておらず、中国古来の天命思想の観点では、正統性の無い政府ということになる。
これを日本の場合にたとえてみれば、維新で成立した明治政府が、戦後に成立した政府に従わず、皇室を擁し沖縄に亡命政権を建てなお存命中という感じであろう。日本本土の戦後政府は国土の大部分を支配してはいるが、沖縄政権は日本の象徴である天皇を戴いている。この状況で、沖縄政権が一国として独立すると本土日本はどうなるか?、という問題。なので、台湾独立は、そこらの植民地が独立するのとは異なり単純ではない。
無論、中共政権にとり、台湾が中国の太平洋進出に必須の要地であることも関係している。ここを支配下に置くのとそうでないのとでは太平洋進出の難易度が格段に違うのだから。さらに台湾は、世界の半導体生産にとっても重要な場所であるので、中共はそれを喉から手が出るほど欲しい、ということもある。
だから台湾独立のためには、この二つ(中華の国体問題、安保・経済的実利)で妥協する必要がある。通例通りであれば禅譲(正統性の平和的移譲)か放伐(武力統一)しかないのだが、いずれ日本としてできることは精神的支援くらいで、他にはそれ程多くない気がする。
素朴な疑問ですが、辛亥革命は共和革命ですので、以後天命とは縁が切れたはずですよね。どうして中国共産党は天命にこだわるのでしょう。
未だに易姓革命の発想から逃れられないのでしょうか。
天安門事件を見て、中国の支配者の意識は中華帝国の頃と何も変わってないのだと痛感しました。
共産党という看板を掲げていようが、中国は「中国」でしかないのです。
阿野煮鱒さま
共産主義は唯物史観ですから、公式コメントは、当然「天命?そんなものと我々は無関係!」でしょう。しかし彼らも、共産主義者である以前に伝統を継承する中国人です。頭の片隅にはそんな思いも残っているはずです。少なくとも一般大衆向け中国歴史ドラマのテーマの一つでもあります。この説は、私の憶測にすぎませんが、それでなくとも最近の中共中国、特に習近平になってからのそれは、皇帝を戴くかつての王朝に似た様相を呈しているように見えてなりません。なので、そのようなファクターも考慮に入れておく必要があると思ったわけです。
はぐれ鳥様、龍様、
結局、イデオロギーは国家の薄皮に過ぎず、その下には民族の本質が永続しているということですよね。
それでも、共産主義を標榜するなら、自国の正統性を台湾に求めるような非科学的発想は表向きは否定して欲しいですね。
結局は、天命は台湾を我が物にしたいが故の口実なのかもしれません。
私、亡くなられた李登輝総統を尊敬しておりますし、台湾の民主独立のために、戦っている蔡英文総統も尊敬しています。でもね、現在の台湾がそのまま、未来の台湾とは限らない。
私ごく最近ですが、お花畑に至らないよう、現に慎んでいることがあります。
それは、「他人は他人であり、自分ではない。」ということです。暑さにやられた訳ではありませんのよ(笑)。
続けます。国も同じじゃないかしら?
他国はあくまで他国です。当り前のことですが、その国の国益で動きます。その国の現在の国益が、日本の現在の国益に沿っているなら、日本の実力で協力する。それでいいのじゃないかしら。
日本の国益は、現在中国共産党の核心的利益とやらを認める訳にはいきません。それを認めたら、日本という国も無くなってしまいます。
同じ立場で、台湾が戦うというのであれば、協力しないという選択肢はありません。あくまで、日本の実力で。