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地方で「公共事業悪玉論」の間違いを実感する

本日も出張先からのウェブサイト更新です。地方出張ならではの視点は、「現地で何をどう実感するか」、だと思います。

さ、寒い…!

今月、私は2回の地方出張を行っており、現在がその2回目の出張の最中です。

1回目、2回目ともに、具体的な道県の名前は申し上げません。1回目は「美しい島」、2回目は「北の方」、とだけ申しておきましょう。

そして、間抜けなことに、私は今回、コートを持ってくるのを忘れてしまいました。というのも、1回目の出張の際、とても暑く、それと同じような感覚で「2回目の出張場所は1回目の出張場所と比べて少し涼しい程度だろう」と軽く見ていたからです。

しかし、地理的に見て、気温は常に「1回目の出張場所」>東京>「2回目の出張場所」という不等号が成り立っています。そして、11月中旬以降、東京がめっきり冷え込んできたという事実を、私は完全に失念していたのです。

結果、私は現在進行形で、震え上がる寒さを体験している次第です(涙)

日本は「小国」ではない!

地図で日本の広さを実感する

ところで、私たち日本国民の中には、「日本は小さな国だ」という教育を受けてきたという人も多いのではないでしょうか?

たとえば、総務省統計局が公表する『世界の統計2017』をもとに計算してみると、日本の面積377,971平方キロメートルであり、これを上回る国は60ヵ国あります。

なかでもオーストラリアは約20.4倍、南米最大の国・ブラジルは約22.5倍、中華人民共和国は約25倍、アメリカ合衆国とカナダはそれぞれ約26倍、そして世界最大の面積を誇るロシア連邦に至っては、実に日本の45倍以上にも達しています。

世界には192ヵ国があると言われていますが、確かにこのデータだけを見ると、地球上に占める日本の面積など取るに足らないほど小さなものに過ぎないと思えてしまうかもしれません。

しかし、地球儀で見てみればよくわかりますが、日本列島は北から南まで細長く、ロシアに不法占拠されている南樺太と千島列島を除外しても、北緯45度の北海道・宗谷岬から北緯20度の沖ノ鳥島まで、実に25度にもわたって国土が存在しているのです(ただし民間人が到達可能な最南端は沖縄県波照間島で、北緯24度)。

同様に、民間人が到達可能な最東端である北海道根室市納沙布岬(東経145度)と最西端である沖縄県与那国島(東経122度)も23度程度の開きがあります。

「陸地面積」だけで見たら、確かに日本よりも大きな国は地球上に60ヵ国あるかもしれませんが、海洋まで含めて日本という国を考えるならば、世界でも随一の大国ですし、北から南まで、東から西までの幅で見ても、日本は立派な大国でしょう。

離島、僻地…国土が広いがゆえの悩み

ただ、日本が広い国土を有していることは事実ですが、その国土を、はたして本当に有効活用しているのかといわれれば、心もとない気がします。

首都圏近郊だと、現在は東海道本線が東北本線や常磐線などと直通運転をしているため、たとえば熱海から水戸までの移動は、電車だけで可能です。

また、東京・大阪間は、日中だと、新幹線のぞみ号が10分間隔で発着しており、非常に快適に移動することができます。

しかし、地方に行けば、A市とB市の間の移動が非常に不便である、というのはよくあることです。

私が実際に経験したものですが、四国の香川県高松市から愛媛県松山市まで鉄道で移動する場合、隣県同士であるにも関わらず、鉄道で3時間近くを要します。しかし、対岸の本州では、山陽新幹線が走っており、似た距離にある岡山市と広島市の間は、新幹線でわずか40分であるにも関わらず、です。

私は昨日、某地方でレンタカーを借り、半日間、移動のために運転しっ放しでした。その理由は、某地方の2つの街を、公共交通機関を使って移動することが、非常に困難だったからです。

この2つの街は、直線距離ではわずか130kmほどですが、公共交通機関(高速バス、鉄道など)を使った場合には、移動だけで7時間以上かかりますし、運賃も1万円以上取られます。

そこでやむなく、レンタカーを借りることにしたのですが、本当に疲れました。

その理由は、単に移動距離が長かっただけではありません。地方の場合、道路も片側1車線しかないというケースが多いからです。

とくに、法定速度を守って走っている時に、後ろから猛スピードで煽られるのは困ります。中には追い越し禁止区間で追い抜いて行く不届きなドライバーもいますが、こうした運転は事故のもとです。

公共事業悪玉論はだれが言い出したのか?

こういうことを言い出すと、「田舎の道路の片側1車線を2車線にするなんて、そんな無駄な公共事業をやれというのか!」と批判する人がいます。

もちろん、地方都市に片側2車線の道路を作ったとしても、それほどの通行量がないのであれば、費用対効果が薄い、という批判が生じることは重々承知しています。

ただ、この「誰も使わない道路を作るのは無駄だ」というロジック、果たして正しいのでしょうか?

私自身の持論ですが、東京への一極集中が進む大きな理由とは、地方の生産性が低いことにあります。公共の交通機関を使って移動するのが困難であるにも関わらず、そもそも主要道路が片道1車線しかない以上、生産性が上がらないのは当たり前の話でしょう。

そこで思い出す必要があります。

もともと、こうした「公共事業悪玉論」を言い出したのは、朝日新聞社だった、ということです。

地方に高速道路なんて作るな。どうせ無駄になる。

新幹線なんて作るな。どうせ無駄になる。

こうした感情的な「公共事業悪玉論」は、決して有益なものではありません。

では、日本という国を考える上で、基本的なインフラをどのように考えれば良いのでしょうか?

遠隔地に住んで下さるのは当然のコストだ!

生産性だけで考えるならば、いますぐ日本国民は全員、東京近郊に移住したら良いと思います。

いや、別に東京でなくても良いです。北海道のあたりの原野を開拓し、環状道路、放射道路、地下鉄網からなる、人口1億人の完璧な計画都市を作ればよいのです(※もちろん冗談です)。

では、なぜ日本はそれをやらないのでしょうか?

その理由は簡単。国土には人が住んでこそ維持されるからです。

冒頭で、ロシアの面積は日本の45倍だと申し上げました。では、ロシアの人々は幸せなのでしょうか?

飛行機で成田空港などからヨーロッパに旅行に行くことがあれば、途中、飛行機はシベリアの上空を飛びます。窓際の席に座ることがあれば、眼下を眺めてみてください。辺りには一面の荒野が広がっているはずです。

ロシアの人口1億4300万人少々で、日本より少し多いくらいですが、どう見ても、ロシアは国土を維持・開発することに失敗しているのです。多くの天然資源が手つかずで眠る、無駄に広い国土を、ロシア人は持て余してしまっています。

たとえば、極東の沿海州は、人口がせいぜい数百万人に過ぎません。その沿海州は、人口が1億人を超える中国の東北地区と隣接しており、常に中国という人口圧力の脅威を感じながら暮らしているのではないでしょうか?

そのように考えていけば、国土を開発し、維持するためには、多少不便であってもその地方に住んでくれる人が必要です。

日本だと、北海道や沖縄県、あるいは長崎県などの離島に暮らしている人々は、その人たちがそこに暮らしてくれるおかげで、国土が維持されているという側面があることを、絶対に忘れてはならないのです。

地方空港こそ効率が良い投資だ!

さて、道路と並んで「無駄な公共投資」の代表例として批判されがちなのが地方空港です。

新聞などを開くと、「地方空港は赤字」というニュースが並びますが、これは本当でしょうか?

実は、わが国の空港には、いくつかの種類があります。たとえば、「拠点空港」(国や空港会社が管理する空港で、昔の用語でいう「第1種空港」「第2種空港」)や「地方管理空港」(地方自治体などが管理する空港)、さらには「共用空港」(いわゆる軍民共用空港)などの区別がありますが、このうち「無駄だ」と批判されることが多いのは「地方管理空港」でしょう。

そして、得てして空港単体で見ると赤字になっているというケースが多いのも事実です。空港の整備費、減価償却費などが発着料収入に追いつかないからですが、その理由は、多くの場合地方自治体特有の「バラ色の需要予測」に、実際の利用客数が全く足りていないからです。

ただ、「赤字だから地方空港を廃止しろ」という議論は、あまりにも短絡的過ぎます。いやむしろ、道路や鉄道と異なり、空港は一箇所だけ整備すれば良いからです。

たとえば、北海道には新千歳空港に加えて、道内の主要都市ごとに空港がありますが(たとえば稚内空港、旭川空港、女満別空港、十勝帯広空港、たんちょう釧路空港、函館空港など)、「空港を作るな」と主張するならば、その人は代案を示す義務があります。

空港の代わりに道内に新幹線を津々浦々まで通せというのでしょうか?それとも東名高速道路並みの高規格な高速道路を、北海道にくまなく通せというのでしょうか?

そのように考えていけば、空港は非常に効率が良い投資であることは間違いありません。収支も、本来ならば空港単体で見るべきではなく、少なくとも経済面からは、地方経済の浮揚効果、それによる税収の増収効果などを総合的に勘案して判断すべきです。

さらに、沖縄県の離島のように、空港が設けられ、日常的に便が発着している状況は、日本の国防という観点からも好ましいことです。

地方出張は面白い!

以上、本日は普段と全く違う、「目に見える公共事業」をテーマに議論してみました。

朝日新聞社が広めた「公共事業悪玉論」や、財務省と日本経済新聞社あたりが唱える「日本は財政再建が必要だ」とするプロパガンダについては、意外と信じている人が多いのですが、このあたりについては、また東京に戻ってからじっくりと議論したいと思います。

いずれにせよ、地方出張をしていると、それなりに疲れるものの、普段は気付かない視点を持つことができるため、面白いのです。

これだから地方出張はやめられない!

以上、ますます日本が好きになった「新宿会計士」でした。

新宿会計士:

View Comments (6)

  • 更新お疲れ様です。

    深く共感する事しきりで、効率を云々するなら地方に何も作らないで中央にだけ投資してれば済む事です。

    明治から戦前にかけての日本はそれを実施して極端な格差社会をつくり、国民の九割は江戸時代以下、一割は現代とそう変わらずという状況となり、クーデターや暗殺が頻発し、政府は国民の憎悪を買い、軍部の暴走を国民が歓迎する末期的状況となりました。

    国民の国家に対する忠誠をないがしろにして国家運営ができるものならやってみろと数字しか見ないでしたり顔の方々には言って差し上げたいものです。なお、私は右翼ですが戦前日本を全肯定はしませんし、いくつかの戦争犯罪は事実と見ています。

    私は安倍総理が推し進める国土強靭化に心から賛成します。災害に強く、国内移動が便利な日本の創造は、たとえ百年、二百年計画だとしても実施の価値があります。
    ただ、一方で短兵急に推し進められた計画のせいで土木業者は手が回らず、仕事の山に喘いでいるという話も小耳に挟みました。この辺りの真実はもう少し調べたいところです。

    なにかと無駄遣いの象徴にされる公共事業ですが、多くの雇用を確保できて、継続的に需要のあるこれら事業は絶対に必要と確信しています。
    今あるライフラインを劣化させることなく維持し、更に改善する事で、日本を支える地方も輝くでしょう。

  • < 出張先からご苦労様です。
    < 本日、朝コンビニに寄ったら、新聞コーナーの各社見出しだけ見えました。朝日新聞だけ、まだ1面トップは「森友学園、録音」となってました。まだやってんの?阿呆かと思いました。世論を敵に回しつつ、煽る徹底抗戦のようです(笑)。
    < 日本には民間が使える空港、飛行場は97あるそうです。その60%以上が規模の小さい地方管理空港です。東西、南北に細長い日本の広い国土は、航空路が欠かせません。安全性さえ確保出来れば、わずか数百億円で長さ2,000m幅45mの立派な空港が出来ます。インフラコストという面では新幹線やミニ新幹線、高速道路を作るに比べ、圧倒的に低いです。新幹線など1km単価数十億円(トンネル、橋梁、融雪対策込み)かかります。また、地方自治体も空港に立派なものを求め過ぎ、会計士様言われる通り、「薔薇色の未来」を描き、4,000m〜3,000m級の滑走路等必要ないのです。国内線主力で、インバウンドで見られる通り、東南アジア、豪、南太平洋、ハワイまでが大半、それも1日数便、2,500mで十分です。
    < 空港の認可や便の発着は国土交通省が権限を持ってますが、航空会社、地元選出議員、族議員、自治体の請願を受けて、省は地図を見て線を書き込むだけ。地元も会社も羽田便が欲しいんです(補助金が出る離島航路を除く)。でも国交省は不採算路線も抱き合わせで民間に認可するそうです(不採算路線は半年〜1年で廃止)。
    < 会計士様言われる通り、瀬戸内では新幹線で広島→岡山で40分、対岸の同距離松山→高松でJRで3時間。予讃線は単線電化なので仕方ないですが、でも客数は広島→岡山が5倍も10倍も多いとは思えません。長い事出張で利用したので、実感としてそこまでの差は無いと思います。多くは広島、岡山で乗り京阪神で下車またはそのまま新横、東京まで乗り通しです。西へは途中で拾う客はいても小倉、博多まで乗り通します。何が言いたいかと言うと新幹線、飛行機は拠点都市から東阪、または地方拠点都市から、さらなるメガ拠点都市の移動が多く、域内はマイカー、高速バス、在来線ではないかと思います。また、地方高速道は一車線が多く、事故、渋滞に備える為、作る以上二車線は必須です。公共事業悪用論の朝日新聞、日経、財務省の財務再建論は歪んでいる。本当に日本をおかしくする。
    < 但し何でも作ればいいのではなく、例を出せばフル規格でデイタイム1時間に1〜2本の上越新幹線、ミニの秋田、山形新幹線など本当に必要だったのか私は疑問です(沿線の方ごめんなさい)。一部は空路と高速バスとの取り合い、ましてやミニとは名ばかりで遅すぎ。インフラ過剰ではないですか。あれは仙台、盛岡乗換在来線で十分。
    < 地方管理空港の多くは羽田便などハブ空港を望みます。しかし1日1便では日帰り出来ない。最低2便必要ですが、そうなると乗客数が毎日確保できるか難しいですが、60人乗り以下の小型機にすれば見合うとしても、逆にハブ空港から、そんな小型機導入は拒否されます。地方空港は着陸手数料の他は微々たる収入なので、単体で見ると赤字ですが、空港周辺のインフラ整備、街作り、産業団地誘致等が期待出来ますし、その域内で総合メリットを勘案すべきでしょう。私は地方空港の中央と地方一帯となった整備に賛成です(意味の見えない例えば静岡など無理筋ですが)。
    < 一度廃港になると日本では復活が難しいです。また離島空路は船便同様、その土地に住む人の足の確保と共に国土の安全保障、国防の点からも重要です。
    < 長文失礼いたしました。

  •  去年の熊本地震の現地近くで実感した事実は、「クマしか走らない道路」がいざという時、人命を救うということです。阿蘇外輪山内に至る国道等が震災で寸断された時、僅かに災害を免れた細い林道が、現地への物流等を維持しました。同じ状況は、東日本大震災時の岩手県や宮城県でも見られました。
     行政に全てコスパを求めてはならないということが、良く分かります。

  • ご指摘ごもっともと思います。
    東京、山陽の経済発展も列島改造論に則った湾口整備と鉄道、新幹線、高速道路網整備が基盤になっています。経済発展が先で公共事業によるインフラ整備が後の考えが蔓延ってますが、主要都市も過去に大名や領主が都市を整備し街道水運を整備したから、招聘した産業が根付いて発展したのであって、その逆は稀です。
    子ども税とか議論するなら、インフラ税をインフラ整備が進んでいる土地の企業や住民から徴収し、整備されていない地域を減税、インフラ整備に充てるなど、地方への移動にインセンティブをつけるべきだと思うのですが。
    大都市、首都圏だけが日本と思っているのでしょうか。その発想は北朝鮮と同じだと思うのですが

  •  日本の場合、公共投資というか、国土開発の均衡にある程度、他の国より注意を払わなければならない理由があります。
     それは、我が国が世界の地震最多発国だという点です。特に、東京から東海道・山陽に至る地方には、商工業の極端な集中が見られますが、近い将来予測される首都直下型地震や房総半島沖地震、東海・東南海・南海地震は、これらの地域を直撃する可能性が極めて高いのです。現状のままでこれら地震の発生を見た場合、我が国の国力は根幹から破壊される恐れがあり、救援活動を行いたくとも、基本的物資・資材すら喪失され、過去の大災害を遥かに上回る犠牲を発生されるばかりでなく、国家単位の経済力を一気に失う可能性すら高いのです。先の東日本大震災では、生産能力のある地域以外で発生したからこそ、国家の有する災害対処能力を投入できたのみならず、時間が経つと共に十分な食料、衣類、仮設住宅を被災地に輸送することができました。
     このように考えると、多少の経済的非効率を甘受してでも、我が国は商工業・生産能力を日本全土にある程度人為的にでも分散させざるを得ません。このための公共投資は、惜しんではならないでしょう。

  • 以前、民主党政権のときに北海道に旅行しました。タクシーの運転手から聞いた話です。
    「公共事業費削減」、「無駄をなくす」とのかけ声で、痛んだ道路の補修を以前は全面張り替えていたのを、陥没箇所だけ補修して予算を削りました。おかげで、残りの痛んだ箇所が陥没して(当然です)事故が多発したということです。
    素人が研究もせず、薄っぺらな政治ショー(政権発足後わずかの期間だった)。
    こういう連中に議席を与えてはいけません。