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    Categories: 外交

フィリピン大統領訪日の成功

当ウェブサイトの管理人「新宿会計士」は、某出版社と約束した「10月末までに仕上げる」と約束した専門書籍の原稿が全く進んでおらず(!)、現在、泣きながら、原稿に打ち込んでおります(泣)。という訳で、本日は普段の「一つのテーマをじっくりと追いかける」コンテンツの執筆が難しいのですが、それでも、「時事ネタ」がかなり溜まっているので、本日はいくつかの雑感を綴る格好にしたいと思います。

2016/10/28 07:40 追記

内容的にはマスコミ批判よりも日比首脳会談の方が多いため、記事タイトルを「『生前退位』という言葉遣いをやめよ!」から「フィリピン大統領訪日の成功」に改めるとともに、カテゴリーも「外交評論」に変更しました。

マスゴミ用語「生前退位」を今すぐやめよ!

昨日、昭和天皇の弟君で、皇族最高齢でもあらせられた三笠宮崇仁(たかひと)親王殿下が百歳にて薨去になられました。ここにお悼み申し上げたいと思います。

三笠宮殿下の訃報にしてもそうですが、マス・メディアの皇室に対する報道は年々、言葉遣いが劣化しています。その最たるものは「生前退位」でしょう。これを言い出したのはおそらくNHKですが、こんな奇妙な日本語、どこにも存在しません。しかし、「慰安婦捏造メディア」こと朝日新聞は当然のこととして、自称「保守派」の産経新聞や、日本のビジネス界(特に経団連)に「信者」をたくさん抱える日経新聞のような新聞各紙も、判で押したように「生前退位」という不吉かつ無礼極まりない用語を平気で使っているのです。呆れて物も言えません。

正しい用語は「ご譲位」です。

これは、天皇陛下が皇太子殿下(あるいはそのほかの皇族)に皇位を譲ることであり、「生前退位」なる日本語は皇室用語としても日本語としても存在しません。平成28年に入り、NHKが急に広めた言葉であり、この言葉を「開発」した人間については、そろそろ日本全体として「犯人捜し」をすべきでしょう。

私は「言葉狩り」が嫌いですが、それでもこのような無礼極まりない、醜悪な言葉を、毎日のように活字として使うマス・メディア関係者らには、心の底からの嫌悪感を抑えることができません。

ちなみにタイトルにある「マスゴミ」とは、マス・メディア(特に新聞やテレビ)の別名称である「マス・コミュニケーション」を略した和製英語の「マスコミ」をもじったものであり、インターネットでは口の悪いネット・ユーザーを中心に、マス・メディアを揶揄する時に使われます。私も特定の業界を侮蔑する用語を使うことは本意ではないのですが、それでも「慰安婦問題を捏造した朝日新聞社」を筆頭に、確かに「ゴミのような情報」ばかり発信して来るマス・メディア各社に対しては、「マスゴミ」と吐き捨てたい気持ちを抑えきれない日本人も多いのではないでしょうか?

中国とフィリピン

さて、話題かわりまして、フィリピンです。

今週の日本のメディアを騒がせたのは、何といってもフィリピンのドゥテルテ大統領の訪日です。事実関係を振り返っておきましょう。

ドゥテルテ大統領の訪日

「フィリピンの大統領が日本を訪れる」。このことがなぜ、ここまで注目されたのでしょうか?その大きな理由は、二つあります。

一つ目の理由は、フィリピンが日米による「対中牽制戦略」の中での「地政学的要衝」にあるからです。地図を広げてみると分かりますが、フィリピンの西には「南シナ海」、東には「太平洋」があります。「海洋進出」を目論む中国にとっては、南シナ海を軍事拠点化し、フィリピンを「友好国」にしてしまえば、容易に太平洋に打って出ることができます。日本にとってはフィリピンが「中国の軍事的同盟国」になってしまうことを、何としても防がねばなりません。

そして、二つ目の理由は、ドゥテルテ大統領の強烈な個性にあります。国内では裁判などの正式な手続によらずに麻薬犯などを処断しているとのことですが、こうした「人権抑圧的姿勢」が外国からの強い批判を受けているにも関わらず、フィリピン国民の支持は非常に高いようです。さらに、ドゥテルテ大統領は米国に対し、オバマ大統領を公然と侮辱するなど、しばしば挑発しています。

ただ、今月25日から27日にかけてのドゥテルテ大統領の訪日は、次の報道発表で見る限りは、おおむね「成功だった」と言って良いでしょう。

日・フィリピン首脳会談(2016/10/26付 外務省ウェブサイトより)

報道を私の文責で要約しておきますと、

  • 日本とフィリピンは親密なパートナーである
  • これからもインフラ投資、安保・防衛協力を継続する
  • 日本はASEANにとって対等な戦略的パートナーである
  • 北朝鮮を六者会合に戻すことが必要である
  • 南シナ海問題を巡って「フィリピンはいつも日本と同じ立場に立っているので安心してほしい」

というもので、安倍総理がドゥテルテ大統領に「突きつけた」懸念を、ドゥテルテ氏は正面から受け止めた格好となっています。ドゥテルテ氏は日本に先立って中国を訪問しましたが、その中国の習近平(しゅう・きんぺい)国家主席とはポッケに手を突っ込んでガムを噛みながら会談したのと、ずいぶんと対照的です。

「二人のかおりさん」

ちなみに、私がフィリピン問題を勉強する際に、大いに参考にしたジャーナリストが「二人のかおりさん」です。

有本香さんと福島香織さん。この「二人のかおりさん」には、名前だけでなく、「信頼に値するジャーナリストである」という共通点があります。

来日していたドゥテルテ大統領の動静については、日本国内のメディアが大々的に取り上げていましたが、有本香さんは動画サイトなどで配信されているニュースの中で、「フィリピン問題の本質」に触れており、日本国内のメディア報道の中で異彩を放っていました。

有本香さんが述べておられた内容を私なりに咀嚼すれば、フィリピンは社会格差や治安問題を抱えています。日本が統治した朝鮮には日本により多大なインフラ投資と教育が実施されましたが、それとは対照的に、米国が統治したフィリピンには大した投資も行われず、教育も不十分なままです。さらに、フィリピン国内では「反米感情」も根強く、地政学的には「米国の同盟国」である必要性がある一方で、どこか支援してくれる国があれば容易に靡(なび)くという国柄なのでしょう。

したがって、ドゥテルテ氏のような「強権的な」大統領は、フィリピンではむしろ、指導者として「歓迎」されているようなのです。

一方、フィリピン大統領の訪中を中国から見た優れた分析記事は、「もう一人のかおりさん」である、福島香織さんが、次の記事を日経ビジネスオンラインに寄稿されています。

ドゥテルテ訪中は中国の外交的勝利なのか(2016年10月26日付 日経ビジネスオンラインより)

福島香織さんは記事の中で、ドゥテルテ氏の訪中は「日本より先に」「六中全会前に」、やや無理やりねじ込まれた可能性に言及されています(「六中全会」とは「中国とは党中央委員会第六回全体会議」のこと)。ドゥテルテ氏が訪日より前に、唐突な訪中を行ったのは、こうした「メンツ」を重んじる中国当局の、フィリピン政府に対する執拗なロビー活動・ばら撒き外交の成果なのかもしれません。

対比外交でも勝利

しかし、ドゥテルテ氏の「訪中」と「訪日」がここまで短い時間で続いたことで、逆に、

  • 習近平国家主席の前でガムを噛んでいたらしい
  • 安倍総理に対しては「フィリピンはいつも日本と同じ立場に立っているので安心してほしい」と述べる

という具合に、フィリピンの中国に対する態度と日本に対する態度が見事なコントラストを示しています(※なお、ドゥテルテ氏が習近平国家主席と会談した時の同氏の振る舞いについては、次のロイター・ニュースの動画などが参考になると思います)。

Duterte aligns Philippines with China, says U.S. has lost(米国時間2016/10/20 19:39付 ロイターより)

少なくとも、「日本に先立って中国を訪問させる」というのが中国の外交目的だったとすれば、実際にドゥテルテ氏が日本に先立って中国に訪問した以上、中国にとっての外交的勝利であることは間違いありません。しかし、現実にはドゥテルテ氏が習近平国家主席の前で無礼を働き、安倍総理の前ではこのような無礼を働かなかったばかりか、「フィリピンは日本の味方だ」との力強い言質を与えたのですから、これは明らかに「安倍外交の勝利」と見るべきでしょう。

地政学的には困りもの

私が見る限り、ドゥテルテ氏はなかなかの「やり手」です。日本を訪問した際には大きな注目を集めましたし、また、日本に先立って中国を訪問した時には、巨額の経済支援を獲得することに成功しました。あるいは、フィリピン大統領が米国に対して暴言を吐くなどして「噛み付く」ことにより、必然的にフィリピンは世界から注目を集めることになります。米国の軍事的存在感が弱まることは望ましくありませんが、ただ、「米比の仲を取り持つ」という観点からも日本の地位は間違いなく上昇するため、こうした状況は日本にとっては必ずしも悪いことであるとは言えません。

その意味で、ドゥテルテ氏の行動は、「フィリピンの国益」に忠実なものであり、むしろここまで強い指導力を持つ大統領がフィリピンに出現したことは、なかなか「興味深い」現象だと思います。ただ、フィリピンに限らず、地政学的な要衝にある国が、あちらこちらと「ふらつく」ことは、周辺国にとっては何かと迷惑でもあります。特に、ドゥテルテ政権が続いている間は良いかもしれませんが、同政権が何らかの事情で倒れてしまった時に、次の政権が再び「中国か米国か」などと揺れ動くことは望ましくありません。

今のところ、今回のドゥテルテ氏訪日は、「とりあえずは成功」だったと見てドゥテルテ氏自身の断固たる言動に対する国民からの支持が厚いようですが、それでも、同氏の国内の権力基盤がしっかりと根を下ろすのかどうかを見極める必要もあります。「地政学的な困りもの」であるフィリピンの新政権ですが、安倍総理とドゥテルテ大統領が個人的な信頼関係で結合し、日本が米比関係の仲介役となれば、結果的に米国に対する日本の発言力を高めるのに役立つともいえるでしょう。その点に期待したいと思います。

新宿会計士:

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  • 日経ビジネスオンライン『二段構えで皇室典範の改正を議論すべきだ』にコメントを投稿しました says:

    田原総一郎氏は、まず、「生前退位」という不敬表現を止めよ。

    この表現は天皇陛下に対する不敬であるという点と同時に、日本国民のすべてを侮辱している表現だ。田原氏はいったい誰に向かって議論をしているのだろうか?私の理解だと、少なくともこの「日経ビジネスオンライン」のメイン読者は、日本人だ。

    正しい表現は、「ご譲位」である。
    田原氏自身、やはり、しょせんは日本人の意識変化について行けていない、古いマス・メディア人なのだろう。