民進党の代表選に出馬している蓮舫氏に対し、急遽浮上した「二重国籍問題」が、連日、ネットや報道を賑わせています。私自身はこの問題について、蓮舫氏は十分な説明責任を果たしていないと考えていますが、民進党が「難しい問題」から逃げるのは今に始まったことではありません。本日は、「不祥事を起こした会社は通常、どうすれば消費者の信頼を回付することができるか」という一般論をベースに、民進党という組織の隠蔽体質について、改めて考えてみたいと思います。
二重国籍事件の顛末は?
民進党の代表選に出馬している蓮舫(れんほう)参議院議員に「二重国籍疑惑」が生じていることは、既に大々的に報じられている通りです。蓮舫議員は父親が台湾人、母親が日本人で、ご本人が日本人と結婚したために「戸籍名」は「村田蓮舫」(むらた・れんほう)というそうですが、各種報道によれば「台湾国籍」(当ウェブサイトでは「台湾籍」ではなく「台湾国籍」と称します)が抜けていなかったという疑惑があり、論壇では、様々な議論が行われています。
私自身が調べたところ、論点としてはおおむね「二重国籍なのに日本の国会議員となることは許されない」「台湾人の血を引いているという『出自』を攻撃することは許されない」といった議論を中心に、左派・右派で激しい論争が生じています(図表1)。
図表1 「二重国籍疑惑」の主な論点
論点 | 右派論壇 | 左派論壇 |
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二重国籍について | 二重国籍者が国会議員になっていること自体が問題だ | 国籍法上、二重国籍には罰則もないし、法的な禁止規定もない |
経歴詐称について | 二重国籍を保有しているという事実を国民に隠していたことが問題だ | 台湾の置かれた複雑な法的地位などに照らし、国籍放棄ができているかを本人が確認するというのも酷だ |
国籍条項について | 二重国籍保有者が日本の国会議員になるときに罰則が存在しないこと自体が問題だ | 世界的な潮流として複数の国籍を認める国も多く、有権者が判断すれば良い問題だ |
(出所:各種報道等より著者作成)
実は、法的には確かに「二重国籍」に対する罰則は設けられていません。そのため、極端な話、別に二重国籍を保持したままでも、現行法上はなにも問題ありませんし、本人が「気付かなかった」と言い張ったうえで今すぐにでも台湾国籍の放棄手続を取れば、二重国籍状態は解消します。
ただ、正直に申し上げるならば、この問題を巡る蓮舫議員の証言が二転三転していること、記者会見でも都合が悪い質問に対しては「わかりません」と答えたことなどから判断する限り、蓮舫氏に野党第一党の党首になる資格があるのかと言われれば、個人的には極めて疑問です。議院内閣制をとるわが国において「野党第一党」の党首に立候補するということは、万が一自民党が敗北して民進党が第一党になった場合に、「日本国総理大臣」に就任する可能性がある立場だ、ということです。常識的に考えて、一国の行政の最高責任者を目指そうとする者が、外国籍を保持したままであって良いはずがありません。また、蓮舫氏の説明責任の欠如を考えるならば、この人物が日本国内閣総理大臣候補になること自体が不適切ですし、もっと言えば、蓮舫氏を代表に選出しようとしている民進党が「野党第一党」の地位にあること自体がおかしい、という議論に発展すべきでしょう。
国籍法の不備
ただ、蓮舫議員の「二重国籍事件」に対し、法的な制裁を加えることは難しいでしょう。確かに、国籍法第11条(国籍の喪失)には、次のように規定されています。
- (第1項)日本国民は、自己の志望によつて外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う。
- (第2項)外国の国籍を有する日本国民は、その外国の法令によりその国の国籍を選択したときは、日本の国籍を失う。
蓮舫氏の場合、台湾人と日本人の間に出生しており、同第2項をそのまま読むと、「台湾国籍を有する日本国民」である蓮舫氏が、「台湾の法令により」台湾国籍を選んだとみなされないかぎり、日本の国籍を失うことはなさそうです(ただし、この辺りは法務省が厳格に解釈してくれれば、同氏から日本国籍を剥奪することができる可能性もありますが…)。しかし、外国法令によっては、特殊な手続を取らないと国籍の離脱ができない場合もあるようであり、「単なる外国籍の抜き忘れ」に対して国籍法第11条第2項が適用された事例はないようです。
いずれにせよ、私個人としては二重国籍を保持したまま国会議員選挙に立候補したという蓮舫氏の不誠実さにも呆れますし、そのような人物を国会議員に選出した東京選挙区の有権者たちには猛省を促したいと思います。しかし、現状のままでは法の不備もあり、蓮舫氏に法的制裁を加えることはかなり難しいのも事実なのです。
民進党の不誠実さ
ただ、今回の一件を受けて、一つ明らかになったことがあります。それは、民進党が全身の民主党時代から一貫して、不祥事に対しては完全にホッカムリを決め込む「隠蔽体質」を伴った政党である、ということです(図表2)。
図表2 民主党・民進党の不誠実さ
論点 | 内容 | 顛末 |
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2009年の政権公約 | 2009年8月に21世紀臨調が主催した党首討論で、到底実現不能な政権公約を麻生太郎総理大臣から突っ込まれる | 政権を奪取したまではよかったものの、3年3か月の政権担当中、公約の大半は実現できないまま下野を余儀なくされる |
鳩山政権の失政 | 就任直後に沖縄県の普天間米軍基地移設問題で、それまでの日米交渉をらひっくり返した | バラク・オバマ米大統領に「トラスト・ミー」と発言し、世界中から失笑を買う |
菅政権の失政 | 東日本大震災の対応に失敗したばかりか、官邸が介入し、福島第一原発の爆発事故が発生してしまう | 福島第一原発事故の収束もできないまま、菅直人政権は退陣を余儀なくされる |
野田政権の失政 | 震災復興に手を付けず、日韓通貨スワップ協定を増額し、政権公約にない消費増税を推進した | 韓国の李明博(り・めいはく)大統領=当時=が島根県竹島に不法上陸するなどした |
下野後の総括 | 2012年に下野後、政権担当時代の何が悪かったのかについての反省・総括を行っていない | 2014年の解散総選挙でも獲得議席数は73議席に留まる |
ガソリーヌ事件 | 民進党に党名を変更後、山尾しおり政調会長が地球5周分のガソリン代を記載した政治資金収支報告書を公表していたことが問題に | 山尾氏はこの件でいまだに国民に対してきちんとした説明を行わずに逃げている |
(出所)各種報道より著者作成
民主党が政権を取る直前の2009年8月12日夕刻、ANAインターコンチネンタルホテルで21世紀臨調が主催した「自民・民主党首討論会」が開催されました(この模様は現在でも映像でご覧いただくことが可能です)。この時、自民党総裁でもあった麻生太郎総理大臣(=当時)の主張は理路整然とわかりやすく、これに対して鳩山由紀夫・民主党代表(=当時)の主張は支離滅裂でした。
また、民主党が政権を取ったあとで、真っ先にやったことと言えば、鳩山由紀夫政権時代に沖縄県・普天間基地の移設問題をひっくり返したことと、小沢一郎幹事長(当時)が天皇陛下を政治利用したことが、多くの人々の記憶に残っています。何より、鳩山政権退陣後の菅直人政権では、菅直人首相(=当時)に対する外国人からの政治献金疑惑、東日本大震災の対応の不備、福島第一原発事故などが発生。民主党政権最後の野田佳彦首相は、民主党の政権公約にない「消費増税」をゴリ押しし、完全に国民からの信頼を失ったのです。
また、下野後もこうした体質は変わらず、今年は「民進党」に党名を変更した際に政調会長に就任した山尾しおり議員が「地球5周分のガソリン代」を政治資金収支報告書に記載するなどの疑惑を抱えていますが、山尾氏はいまだにこの件について国民に対して報告すらしていません。インターネットでは「ガソリーヌ山尾」というあだ名も付いているようですが、裏を返せば民進党の不誠実さに対する有権者の怒りがインターネット上で表明されているということです。
不祥事を起こした会社の再起
少し視点を変えて、「不祥事を起こした会社がその後、どうやって再起するか」を考えてみましょう。近年の代表的な企業不祥事として、三つほど例を挙げます(図表3)。
図表3 企業不祥事
事件 | 概要 | 顛末 |
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集団食中毒事件 | 2000年6月、某著名ブランドの大阪工場で製造された飲料等から集団食中毒が発生 | 他の食品偽装問題に打撃を受けたこともあり、会社自体が経営再編対象になったものの、ブランドのイメージ改善に努力中 |
有価証券報告書虚偽記載事件 | 2004年10月、有価証券報告書に虚偽記載を行ったとして、某大企業が上場廃止に | 上場廃止の原因となった不透明な資本構造を改革するなどして再上場を果たした |
朝日新聞捏造報道事件 | 2014年8月から9月にかけて、朝日新聞社は「従軍慰安婦報道」「福島原発の吉田調書」などの報道が誤っていたとして、記事を撤回 | 同社は記事が「捏造」であったという事実を未だに認めておらず、企業風土の改革にも意欲をしめしていない |
最初の事例は、私自身も当時、近畿地方に居住していたという事情もあり、近所で汚染された食品・飲料が販売されていたと知り、愕然とした記憶があります。また、子供を育てる立場となった現在、私はスーパーなどでこのブランドを目にしても、絶対に購入しないようにしています。この会社自体はブランドイメージの改善に努力しているようですが、「食中毒イメージ」の払拭には、場合によってはさらに数十年単位で努力が必要でしょう。
一方で、有価証券報告書に株主構成についての虚偽記載をしたとして経営者が逮捕された事件がありました。しかし、この会社は「本業で失敗した」わけではなく、不透明なガバナンス構造を改革し、このほど再上場に成功しています。つまり、企業不祥事にも「その会社の製品自体で発生した不祥事」と、「本業以外で発生した不祥事」があり、後者の場合は、回復は比較的容易です。
最後の事例は実名です。これは、朝日新聞社が長年、「日本軍が戦時中に慰安婦を強制連行した」とされる「従軍慰安婦問題」というウソを捏造して放置していた問題であり、また、福島第一原発の吉田所長の証言を捏造して報じたという件とあいまって、日本国民の報道機関に対する信頼を完全に破壊した事件です。これは、類型でいえば「その会社の製品(=新聞記事)自体でウソをついた」という事例であり、きわめて悪質で、深刻な事件です。
集団食中毒事件を起こした会社がそのブランドの名称を変更したように、本来、朝日新聞社は「朝日新聞」をいったん廃刊し、社名を変えて新しく新聞を刊行するなどの対策を取るべきでした。しかし、朝日新聞社は慰安婦問題という「世紀の捏造報道事件」に対し、「誤報」と言い張り、いまだにこれが「捏造」であったという事実を認めていません。朝日新聞社は財政状態も良いため、今すぐ倒産するという状況にはありませんが、いずれ読者の支持を失い、部数は激減していくことになるでしょう。
民進党は反省しているのか?
不祥事を起こした企業の事例を基に、国民の信頼を失った組織がその後、どのようにすればよいかについて考えてみましたが、いわば民進党も「不祥事の数々」を起こした組織でもあります。ただし、不祥事を起こした企業であっても、その不祥事と正面から向き合い、国民の信頼を回復しようと努力するならば、将来的に組織が再帰する可能性もあるでしょう。しかし、民進党が今のままの「都合が悪いことに耳をふさぐ姿勢」を続けるならば、国民からの信頼も回復しないでしょう。私は現在の情勢から見る限り、蓮舫氏が民進党の代表に選出されることはほぼ間違いないと見ていますが、蓮舫氏が代表に就任して真っ先にやらなければならないことは、今回の顛末についてきちんと有権者に向かって説明することです。
ちなみに、民進党にはそんなことはどうせできっこないと思っていますが…。