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「大国」という時代錯誤的概念

中国共産党の事実上の機関紙である「環球時報」や「新華社」などの記事を読むと、「大国」「小国」という用語が出てきます。「対等な主権国家間の関係」という概念に慣れた我々日本人にとっては、非常に違和感のある概念ですが、少なくとも現在の中国共産党政権は、この「大国」「小国」という、きわめて時代遅れで異常な概念を、外交の主軸に据えているようなのです。本日は、中国の報道から垣間見える中国共産党の時代錯誤的な発想について議論するとともに、「不測の事態」に備えて日本が何をしなければならないかについて考察してみたいと思います。

大国と小国の関係

今月4日から5日にかけて、中国・杭州で開催された「G20首脳会合」関連の報道をいくつか整理しているときに、ふと目に留まった報道があります。

「中国は日本に付き合っているひまはない」 安倍晋三首相を名指しで中国紙が論評(2016.9.6 23:11付 産経ニュースより【共同通信配信】)

共同通信が配信した産経ニュースによると、中国共産党の機関紙の一つである「環球時報」が、杭州G20首脳会合での安倍総理大臣の振る舞いを社説の中で厳しく批判したそうです。記事からの「孫引き」で恐縮ですが、環球時報の主張は次の通りです。

  • G20会合中、公開の場で南シナ海問題の発言をしたのは安倍晋三首相が最も多かった
  • 大国同士の首脳会談には通常、矛盾を解決し、お互いに善意を広げる効用がある
  • 「話をすればするほど状況が悪くなる」悪循環に陥るのであれば、中国は日本に付き合っているひまはない

私自身、中国語を読むことができないため、環球時報の原典を当たることは難しいのですが、環球時報の英語版でこんな記事がありました。

Abe should cherish high-level meeting with China(2016/9/6 23:03:39付 環球時報英語版より)

タイトルを意訳すれば、「アベは中国とのハイレベル会合を大切にすべきだ」でしょうか。この中で、次の下りがあります。

There is a general rule among major power relationships that meetings between heads of state would normally turn into a vital driving force in resolving controversies and showing goodwill. Hopefully Japan is not an exception. Abe always asks to meet with Chinese leaders. It is hoped he can cherish every opportunity he gets.

共同通信が報じた「大国」とは、ここでいう「major power」のことでしょうか?この下りを著者自身の文責で、日本語に訳しておきましょう(ここでは、「major power」を「大国」と訳します)。

一般的に、大国間では首脳会談が論争の解決のための重要なきっかけとなるとともに、友好を示すためのものであるという、一般的なルールがある。日本がその例外でないことを祈りたい。アベは常に、中国の首脳に会談を求めている側だ。彼こそが、すべての首脳会談という機会を大切にすべきである。

どうでしょうか?簡単に要約すれば、「せっかく習近平(しゅう・きんぺい=中国国家主席)が会ってやったのだから、安倍(晋三総理大臣)はその機会をありがたく受け止めて、波風を立てないようにしろ」、とでも言いたいのでしょうか?中国共産党の事実上の機関紙である環球時報が日本を中国と並ぶ「大国」に位置付けているのは光栄ですが(※皮肉です)、「大国間での首脳会談」には「対立を騒ぎ立てずに友好を示すものだという一般的なルールがある」とは、私も初めて知りました(※これも皮肉です)。

私が知っている首脳会談とは、「国際法の下に対等な存在である主権国家同士」が行うものであり、「大国」「小国」などの区別はありません。そして、「首脳会談は穏便に行わねばならない」というルールもありません。欧州連合(EU)首脳会合のように、時として激しい意見の衝突が発生することもあります。どうもこの「環球時報」の主張は、首脳会談に「主権国家同士の意見の衝突」を通じた意思疎通機能がある、という事実を無視しているようにしか見えません。

中華思想が蘇っている!

ここ数年、中国の様々な主張を見ている限り、この「大国」という単語はよく出てくるようですが、これは一種の「中華思想」にほかなりません。そして、中国政府はこの「大国意識」を隠そうと努力しているようにも見えますが、様々な機会で、明らかにこのおかしな「大国意識」が出現しています。その証拠を、ほかならない中国メディアに発見できます。

中国外交部:中国は個別の国が南中国海問題で「小国による大国強請り」を放任しない(2016-05-10 11:20:58付 新華網日本語版より)

環球時報と同様、事実上の中国共産党の「マウスピース」である新華社は、今年5月に「フィリピンが南シナ海の領有権問題でオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所(Permanent Court of Arbitration, PCA)に提訴した」問題について、中国外交部の報道官による次の発言を報じています。

「中国は『大国による小国いじめ』をすることはないが、個別の国が不正なやり方で『小国による大国強請り』をすることを放任しない」。

この発言に、「中国は大国」「フィリピンは小国」という、中国当局による驕り・高ぶりが露骨に出ています。南シナ海で実際に中国がやっていることは、「大国による小国イジメ」であり、また、アフリカ、アジア、南米などの発展途上国でも「札束で資源を買いたたく」ような資源外交です。そして、今年7月12日にPCAから中国全面敗訴の判決が下されているにもかかわらず、中国はいまだに「国際法に従った解決に応じるつもりはない」との姿勢を崩していません。

日本はどうすれば良いのか?

これは非常に厄介な問題です。

中国は、いわば「国際法を守らない」と宣言しているわけです。日本としては、尖閣諸島にしろ沖縄県全体にしろ、国際法に従ってれっきとした日本領だという立場ですが、相手は日本が領有する根拠自体を認めておらず、むしろ国際法を無視する意向を示しているのです。では、これに対して日本はどうすれば良いのでしょうか?

まず、いくら中国が尖閣諸島などの周辺海域の領有権を主張したとしても、日本を凌駕する軍事力がなければ、そもそも実効支配することなどできません。そこで、日本としては、日米同盟をはじめとする各国との外交関係を強固にするとともに、尖閣周辺海域での不測の事態に備えることが何よりも大切です。しかし、それだけでは全く十分ではありません。

私が懸念しているのは、習近平国家主席が軍部の掌握に失敗し、現場の人民解放軍が「暴発」して「なし崩し」的に戦闘状態に入ることです。そうであるならば、(あってはならないことだと思うものの、)日本が「自衛戦争」に入った時に備えた法制度(事実上の軍法を含む)を整えることが必要です。日本は法治国家であり、憲法第9条第2項には

「前項(※)の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」(※「前項」とは、戦争放棄を定めた第1項)

とあり、たとえ中国が攻めてきても、相手が「国」であるかぎり、「交戦権」がない、と明記されています。「軍法」を整備するためには、まずはこの憲法第9条第2項との関係をきちんと整理することが必要です。憲法第9条第2項を放置したままで「軍法」を整備した瞬間、中国共産党の意向を受けて、朝日新聞、毎日新聞、東京新聞、共産党、極左系プロ市民らが一斉に大騒ぎすることは目に見えています。

このため、現状では、安倍総理が地球上を飛び回り、中国以外の各国との関係を強化し続けていますが(図表)、憲法第9条第2項撤廃に時間がかかるため、これはやむを得ないアプローチなのです。

図表 安倍外交の目標は対中孤立化
外交相手国 最近のおもな出来事
米国 G7でオバマ大統領訪日の際に広島を訪問
欧州連合(EU) G7会合、ASEM会合、G20会合に加え、EU加盟国のうち主要国(独、仏など)とは頻繁に首脳会談を実施
英国 安倍総理は就任直後のメイ首相とG20で会談。BREXIT巡り日系企業への法的安定性等を求める
アフリカ諸国 8月のTICAD6で3兆円相当のアフリカ支援を表明
ロシア プーチン大統領の年内訪日等が決定済み
韓国 慰安婦合意に基づく解決金10億円を支払い済み。日韓通貨スワップやGSOMIA等の「エサ」もちらつかせる
ASEAN 安倍総理は9月5日に閉幕したG20会合の直後にラオスに飛び、ASEAN首脳会合に参加

まったく、安倍総理の激務ぶりには驚きます。どうかお体に気を付けてほしいところですが、米国を含めた各国との外交関係の強化は、そのまま「中国孤立化」に繋がります。「中国人民解放軍の軍事侵攻」に際し、自衛する有効な法的枠組みを持たないわが国にとって、こうした戦略は正しいというほかありません。

※もっとも、普段から主張している通り、対韓外交に関していえば日本が譲歩し過ぎであるなど、色々不満もあるのですが…。

中国の自滅が先か、軍事侵攻が先か?

ただ、安倍外交が奏功しているということは、言い換えれば、中国が現在、色々と追い込まれている、ということです。経済的には人民元のハード・カレンシー化も頓挫しかけていますし(※なにせATMからニセ札が出てくる国です)、投資と輸出に過度に依存した成長モデルも破綻してしまいました。社会的には貧富の格差や官僚・共産党員の汚職も酷く、環境破壊も進行。こうした人民の不満を逸らすために、中国共産党は現在、「偉大なる中華の復興」を掲げており、それだけに、中国が領有権を主張する海域(南シナ海か東シナ海)で軍事的「暴発」が発生するおそれも高まっています。

習近平・中国国家主席にとっては、2013年に就任して以来、ASEANやアフリカを舞台に日本と「外交争い」を繰り広げているものの、いずれも「戦果」は思わしくありません。また、親中派の朴槿恵(ぼく・きんけい)韓国大統領を、いったんは「手なずける」ことに成功したかに見えたものの、その朴槿恵政権は日本と「慰安婦合意」を締結しただけでなく、米国との間でTHAAD(高高度ミサイル防衛システム)の朝鮮半島配備で合意。クリミア問題で国際制裁を受けるロシアでさえ、日本との経済協力を模索する始末です。

おそらく、現在の習近平主席の立場は、かなり危ういものになっているのではないでしょうか?こうした中、中国共産党では一段の権力闘争が発生し、人民解放軍がなし崩し的に暴走して戦争が勃発する可能性も否定できません。こうした環境のもと、「日本は何もせずに見ているだけ」、というわけにはいきません。安倍総理には今の調子で外交を続けていただきたいものの、与党・自民党には「早く改憲議論を進めなければ不測の事態が発生する」というくらいの危機感を持ってほしいと思っています。

新宿会計士: