9月9日に北朝鮮は5回目の核実験に踏み切りました。日本国内のメディア報道の中には、「6か国協議などを通じて北朝鮮に核兵器を放棄させよ」などの意味不明な主張も交じっていますが、私は今回の北朝鮮の核実験に対し、日本にできることは極めて限られていると考えています。しかし、「何もできない」と諦めるのではなく、北朝鮮や中国の軍事的脅威をテコに、日本人が平和ボケを覚まし、「国の在り方」を真剣に議論するきっかけになるのなら、「災い転じて福となす」といえるはずだと考えています。
北朝鮮、5回目の核実験の脅威
既に報道されているのでご存知の方も多いと思いますが、先週金曜日、北朝鮮が5回目の核実験に踏み切りました。北朝鮮が核実験に踏み切るのは、2006年10月以来、実に5回目です。そして、北朝鮮は先月、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験を実施していますが、このことは、「北朝鮮が核兵器を開発し、その核兵器は潜水艦から、場合によっては日米などを狙うことができる」という状況になったことを意味します(図表1)。
図表1 北朝鮮の危険な動き
日付 | 出来事 | 備考 |
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2006年10月9日 | 初の核実験 | |
2012年12月12日 | ミサイル発射実験 | ミサイルはフィリピン沖に墜落 |
2016年1月6日 | 4回目の核実験 | |
2016年8月24日 | SLBM発射実験 | 日本の防空識別圏の約80キロ内側に着弾 |
2016年9月9日 | 5回目の核実験 |
(出所 各種報道)
ところが、この期に及んで左派メディアは、「中国が北朝鮮に対して強く出るべきだ」「6か国協議の再開が必要だ」など意味不明な社説を掲げており、日本国内のメディアの低レベルさには溜息しか出ません。
北朝鮮、5度目の核実験 国際包囲網づくりを急げ(2016/09/10 08:55付 北海道新聞より)
北朝鮮がのうのうと核開発を継続することができる最大の理由は、中国がそれを許容しているからです。米国・戦略国際問題研究所(CSIS)上級顧問のエドワード・ルトワック氏が執筆した「自滅する中国」(2013年7月刊行、365ページ)に、興味深い指摘があります。ルトワック氏は中国が北朝鮮を「人に危害を加える猛犬」に見立て、経済面から北朝鮮を「鎖につないでいる」と指摘します(P229)。私は、この表現が北朝鮮という国の存在を一番適切に示したものであると考えます。
ルトワック氏に指摘されるまでもなく、北朝鮮は現在、世界主要国から経済制裁を受けています。したがって、中国は経済面で少し北朝鮮を締め付けるだけで、北朝鮮の体制は容易に崩壊するはずです。上で引用した北海道新聞のように、日本のメディアの報道だと、「北朝鮮の核・ミサイル開発に、中国も手を焼いている」といった論調に立っていますが、いい加減、このように低レベルな分析を垂れ流すのはやめてほしいところです。
朝日新聞を嘲笑う「9月9日9時の9条」
ところで、今回の核実験が行われたのは、9月9日午前9時30分頃であり、いわば「9」がそろった格好となっています。ここで、少し脱線して、もう一つ、興味深い「ネタ記事」を紹介しておきましょう。
「大好き憲法9条」風船99個、9月9日9時9分に空へ(2016年9月9日19時23分付 朝日新聞デジタルより)
記事によると、先週金曜日の午前9時9分に「大好き憲法9条」と書かれた風船99個が福岡県大牟田市で飛ばされました。この催しを実施したのは同市にある「医療法人親仁会」だそうですが、写真で見る限り、保育園児らが風船を飛ばすのに駆り出されているようです。私自身、評論家である以前に「普通の社会人」、あるいは「親」として、子供をこのようなイベントに駆り出そうとする左翼勢力の卑劣さに、ふつふつと怒りがこみ上げてきます。
ただ、ここで「ネタ」として重要なのは、風船を飛ばした日時です(図表2)。
図表2 「9月9日9時」に発生したこと
日時 | 場所 | 出来事 |
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9月9日9時9分 | 福岡県大牟田市 | 「大好き憲法9条」風船が飛ばされる |
9月9日9時29分 | 北朝鮮 | 核実験によると見られる人工地震を観測 |
いかがでしょうか?高らかに戦争放棄を謳った憲法第9条第1項、そして外国を当てとする戦争を禁じた憲法第9条第2項。この条文を守ろうという崇高な理想を掲げて、園児らが風船を飛ばしたそのわずか20分後に、危険な核兵器が炸裂したのです。これを皮肉といわずしてなんと言えばよいのでしょうか?
慰安婦問題を捏造し、国民に対して反省も謝罪もしない朝日新聞社には、是非、これに関する見解を出していただきたいところですね。あるいは、これだけ朝日新聞社が卑劣なことをしておきながら、いまだに「お金を払って」朝日新聞の購読を続ける人がいるそうですが、日本国の未来に対して責任を負う日本国民の一人として、このこと自体が信じられない気持ちです。
北朝鮮の核問題とは、中国問題である
いずれにせよ、既に記事冒頭で答えを書いてしまいましたが、北朝鮮問題とは、とどのつまり中国問題です。
第二次世界大戦後の冷戦により国家・民族が分断された例としては、ドイツ、ベトナム、朝鮮、中国があります。ドイツは「東西ドイツ」、ベトナムは「南北ベトナム」、朝鮮は「南北朝鮮」、中国は「共産中国と台湾」という形です(図表3)。
図表3 第二次世界大戦後の主な分断国家
国・地域 | 経緯 | 顛末 |
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ドイツ | ドイツの国土がソ連軍と西側諸国(米英仏)に分割占領され、東西で別々の国家が成立した | 1990年に東ドイツ諸州が西ドイツ(ドイツ連邦)に吸収される形で統一が実現 |
ベトナム | インドシナ内戦後に独立戦争がはじまり、独立政府(北ベトナム)と傀儡政権(南ベトナム)に分かれて対立 | 1975年にサイゴン(現・ホーチミン)が陥落し、傀儡政権が崩壊。独立派率いる北ベトナム主導で国家統一が実現 |
中国 | 第二次世界大戦後に国民党・共産党の内戦が再度勃発。共産党に敗退した国民党が台湾に逃亡 | 現時点で依然として中国は台湾を制圧しておらず、台湾は民主化し、事実上の国家として機能している |
朝鮮 | 北緯38度線の北部をソ連が、南部を米国が占領。南北に国家が成立し、分断が固定化される | 現時点で依然として南北統一は実現していない |
同じ分断国家であっても、ドイツとベトナムは既に国家統一を達成していますが、中国と朝鮮はいまだに分断状態が続いています。ドイツは「西側陣営」が、ベトナムは「東側陣営」が、それぞれ統一に成功した事例です。
実は、ドイツは統一前の1970年代に、「東西ドイツ基本条約」を締結し、相互に国家承認を済ませています。つまり、再統一時点では少なくとも「交戦状態」にはなかった、ということです。また、ドイツは再統一後に経済力格差を自力で克服し、いまや欧州連合(EU)で最強の国家となっています(ただし、単一通貨・ユーロとの関係で重大な矛盾が発生しており、このことがEUを崩壊させかねない状況にありますが、この議論はまた後日紹介します)。
一方のベトナムは、ベトナム戦争で米軍から大規模な空爆を受けながらも、北ベトナムが南ベトナムに侵攻して自力で米軍を追い出し、統一を果たしています(余談ですが、米軍に協力した韓国軍がベトナムで働いた蛮行について、韓国人はあまりにも盲目的過ぎます)。そして、「チャイナ・プラス・ワン」として、これから経済面でも大躍進を遂げることが期待されています。
このように見ていくと、「自力で再統一できていない」のは中国と朝鮮です。
中国は武力で台湾に侵攻する意思を隠そうとしていませんが、北朝鮮も同様、韓国を武力統一する意思を示しています。一方、台湾や韓国は、自国と分断されている相手との関係をどのようにしたいのか、今一つ、意思が見えてきません。もちろん、台湾と韓国の問題は本来ならば全く別のものですが、「統一」という観点からは、どうもその意思が見えてこない、という共通点があるのです。
ただ、北朝鮮の国内経済は既に崩壊しており、中国の支援なしに一日たりとも生き延びられる状況ではないはずです。仮に中国が「平和主義国」で、北朝鮮を経済的に締め上げようと思えば、すぐにでも北朝鮮を崩壊させることができます。また、韓国が「北朝鮮と平和的統一をする」と意思決定をすれば、世界の主要国の中で、それに反対する国はないはずです。つまり、北朝鮮問題とは、「韓国を脅かしつけるための猛犬」として中国が生かしているだけの国であるとともに、「韓国がその気になればいつでも統一できる」はずなのに、韓国がそれをやらないがために、いまでも存続せざるを得ない国なのです。
日本はどうすれば良いのか?
というわけで、一番大事な話―「今回の北朝鮮の核開発について、日本はどうすれば良いのか?」です。
残念ながら日本には「国による交戦権」を禁じた「憲法第9条第2項」が存在するため、北朝鮮という厄介な国を軍事的に地球上から除去することはできません。では、北朝鮮と交渉すれば良いのかといえば、正直、北朝鮮は交渉が効く相手ではありません。この問題を巡っても、中国を「北朝鮮の代理人」位置付けるしかないのです。
そう考えていけば、日本にできることは、次の2点しかありません。
- 対中牽制を主眼においた安倍外交をさらに推し進めること。
- 不測の事態に備えた国内法の整備を急ぐこと。
ただ、私自身は中国が尖閣周辺海域で不法行為を働くことや北朝鮮の軍事的脅威が増すことは、日本の安全保障にとって深刻な脅威であるとともに、皮肉ではありますが、「平和ボケした日本人」の頬を叩き付ける効果があるとみています。興味深いことに、今回の北朝鮮の核実験に対し、SEALDsを名乗っていた者たちや日本共産党などの勢力は沈黙を守っています。北朝鮮や中国の軍事的脅威が増せば増すほど、日本国内のこれらの反日勢力が置かれる立場はなくなっていきます。
日本政府がこの問題を巡って油断することは許されませんが、改憲議論を含めた今後の日本の在り方そのものを、国民レベルで考え直すきっかけとなれば、「災い転じて福となす」ことができるに違いありません。