今週、G20会合に関する様々な報道が出てきました。中国はG20を「国威発揚」の手段と考えていた節がありますが、一昨日に述べたとおり、実質的には「G20の形骸化」を示しただけだったと思います。それよりも、本日はG20関連報道を調べているときに発見した、隣国・韓国が「ますます窮地に陥っている」という状況を取りまとめておきたいと思います。北朝鮮の軍事的脅威が高まる中にも関わらず、米中両国を敵に回し、あまつさえ「危機の際に韓国を助けてくれる」国である日本を徹底的に激怒させるような行為に明け暮れる韓国を眺めていると、本当に呆れて物もいえません。
政治的指導力のない朴政権
先日、「G20会合が形骸化している」という話題を紹介したときに、次のWSJの報道を紹介しました。
South Korea Pleads With China Over Missile Shield(米国時間2016/09/05(月) 05:26=日本時間2016/09/05(月) 18:26付WSJオンラインより)
※余談です。英語メディアでは、一般に韓国を「South Korea」と呼びます。直訳すれば「南朝鮮」であり、仏語メディアでも独語メディアでも同じように「南朝鮮」という呼称が一般的です。ついでに申し上げると、中華圏では韓国のことを「南韓」と呼称しているケースが多いです。日本のメディアが「韓国」ではなく「南朝鮮」と呼称したら、韓国人は激怒するようですが、彼らはWSJをはじめとする外国のメディアには抗議しないのでしょうか?考えれば考えるほど訳がわかりません…。
記事の内容は、在韓米軍に「高高度ミサイル防衛システム(THAAD)」を導入することを巡って、以前からこれに反対してきた中国の習近平(しゅう・きんぺい)国家主席と韓国の朴槿恵(ぼく・きんけい)大統領が意見交換をした、というものです。「意見交換」というよりはむしろ、朴大統領が習主席に対し「THAAD配備への理解」を「懇願(plead)」し、これに対して習主席は従来の主張通り、「中国としては朝鮮半島へのTHAAD配備を認めない」と申し渡した、という方が実態に近いでしょう。
これにより、米軍の思惑通り2017年12月までに、朝鮮半島へのTHAAD配備が終了するかどうかが予測し辛くなりました。朴大統領のこれまでの政治姿勢を見る限りでは、彼女が「各種の思惑が対立する中で、様々な意見を調整・集約し、政治を強力に推進する」という、政治家に求められる指導力を有していないことは明らかだからです。主な外交エピソードだけで見ても、朴大統領の指導力のなさを示す事例はいくつかあります(図表1)。
図表1 朴槿恵大統領の政治的指導力のなさ
項目 | 出来事 | 備考 |
---|---|---|
AIIBへの出資 | 中国が主導するアジアインフラ開発銀行(AIIB)に参加を決めて米国の怒りを買った | 米国の怒りという代償を払ってまでAIIBに参加したにもかかわらず、「副総裁」ポストを早々に失う |
THAADの配備 | 在韓米軍へのTHAADの配備を決めて中国の怒りを買った | THAAD配備は2017年12月を予定 |
国内の慰安婦問題調整の失敗 | 2015年12月の日韓両国外相の「慰安婦合意」を巡っては、挺隊協をはじめとする国内の市民団体の説得に失敗 | 日本大使館前に挺隊協が違法に設置した慰安婦像の撤去は実現していない |
いわば、韓国にとって重要な「中韓関係」「米韓関係」「日韓関係」のすべての面で、朴政権は失敗しつつあるのです。
米国を激怒させた韓国
中国が設立したAIIBは、米国にとっては「ドル基軸体制への挑戦」と受け止められています。英国をはじめとする「米国の同盟国」が、米国の意向に反して一斉にAIIBに出資を決めました。それだけではありません。各種報道によれば、つい先日もカナダがAIIBに参加すると表明しました。これにより、米国の主要同盟国・G7諸国の中では、日本だけがAIIBに参加していない格好です(図表2)。
図表2 AIIBへの主要参加国
区分 | G7 | G20(G7以外) | その他主要国 |
---|---|---|---|
創設時参加国 | 英、独、仏、伊 | 豪州、インド、インドネシア、サウジアラビア、トルコ、韓国、ロシア、ブラジル | ニュージーランド、スイス、シンガポール、スペイン 等 |
追加参加国 | カナダ | 南アフリカ | デンマーク |
不参加国 | 米国、日本 | アルゼンチン、メキシコ | ― |
(【出所】AIIBウェブサイト、AIIB設立趣意書等より著者作成)
米国から見れば、いわば「同盟国」としての日本の「お株」が上がった格好です。しかし、軍事的に「国家防衛」の主要部分を米国に依存しているはずの韓国が、早速に米国を「裏切り」、AIIBへの参加を決めたことに対し、米国としては面白いはずなどありません。
それだけではありません。昨年9月3日、中国・天安門で開催された「抗日戦勝利記念式典」では、朴槿恵大統領は「西側諸国」の首脳としては唯一参加。朴大統領は習主席、ロシアのプーチン大統領だけでなく、「独裁者」との悪名のあるカザフスタンのナザルバエフ大統領、ウズベキスタンのカリモフ大統領(今年9月2日に没)、国際刑事裁判所から逮捕状も出ているスーダンのバシル大統領らと並んで記念撮影して来ました。
そして、「軍事パレード」直後の2015年10月に朴大統領が訪米した際、公式晩餐会も開かれず、米国メディアもほとんどが彼女の訪米を無視するなど、米国は彼女を徹底的に冷遇。私自身は、米国の怒りがあまりに激しいと感じた朴大統領は「日本との慰安婦問題解決」などの圧力に直面し、このことが昨年12月の唐突な「慰安婦合意」にもつながったのではないかと考えています。
中国の怒り
2013年2月に政権が発足して以来、朴槿恵大統領は2015年9月頃まで、「米中両国と仲良くする一方、慰安婦問題や歴史問題で謝罪も賠償もしない日本を徹底的に冷遇する」という基本戦略を取ってきました。とりわけ、中国との関係の深化は、朴大統領にとっても最重要課題の一つであったことは間違いないでしょう。
しかし、今年7月8日、韓国国防相と在韓米軍は、THAADを在韓米軍に配備することで正式に決定したと発表。これに対し、ただちに中国(とロシア)が強硬に反発する展開となりました。とくに中国の怒りは激しく、中国共産党の「マウスピース」である「環球時報」には、今回の韓国のTHAAD配備に関連し、具体的な「対韓制裁」のパッケージが掲載されました。
China can counter THAAD deployment(2016/7/9 0:38:01付 環球時報英語版より)
リンク先の記事を一覧にしたうえで意訳しておきます(図表3)。
図表3 環球時報の「5つの対抗策」
# | 原文 | 意訳 |
---|---|---|
1 | China should cut off economic ties with companies involved with the system and ban their products from entering the Chinese market. | 中国はTHAAD関連企業との経済的関係を断ち切り、これらの企業の製品が中国市場に流入することを禁止すべきだ |
2 | It could also implement sanctions on politicians who advocated the deployment, ban their entry into China as well as their family business. | THAAD実装に賛同する政治家に対する制裁を発動し、その政治家の中国入国を禁止し、そして彼らのファミリー・ビジネスも同様とする |
3 | The Chinese military could come up with a solution that minimizes the threat posed by the system, such as technical disturbances and targeting missiles toward the THAAD system. | 中国軍はTHAAD導入に伴う脅威を最小化するための対策として、たとえば技術的な妨害電波の発出や、THAAD自体をミサイルの標的にすることなどを検討すべきである |
4 | China should also re-evaluate the long-term impact in Northeast Asia of the sanctions on North Korea, concerning the link between the sanctions and the imbalance after the THAAD system is deployed. | 中国は東北アジアにおける北朝鮮制裁がもたらす長期的影響について、THAAD導入後の不均衡と北朝鮮に対する制裁の関連性をもう一度きちんと検討すべきだ |
5 | China can also consider the possibility of joint actions with Russia with countermeasures. | 場合によっては、ロシアと共通の対抗政策を取ることができるかどうかについても考えるべきだ |
【(出所)環球時報英語版記事。ただし、できるだけ原文のニュアンスに忠実に意訳する目的で、用語等については普段当ブログで用いているものと異なっている可能性があります。】
特に、経済面で深く中国に依存している韓国にとっては、中国からの「経済制裁」が韓国にとっての脅威です。また、今年6月に英国が住民投票の結果、欧州連合(EU)から離脱することを決めました(いわゆるBrexit)。その際、同国の通貨(KRW)は米ドルに対して3%程度下落しています。KRWが米ドルに対して価値が半分近くにまで下落するという「リーマン・ショック」ほどではないにせよ、韓国の通貨当局にとっては、「危機」「経済的ショック」に際して自国通貨が急落することの怖さが身に染みているのでしょう。その後、今年8月に行われた日韓財相会談では、韓国の財相が日本の麻生太郎副総理兼財相に対し、日韓通貨スワップ協定の再締結を提案するなどの事態に繋がっています。
韓国を「利用」する安倍政権
こうした韓国の「窮状」に、手を差し伸べたのは、やはり日本政府でした。
あれだけこっぴどい「反日」を受けておきながら、日本の安倍政権は、韓国に対して救いの手を差し伸べています。昨年12月の「慰安婦合意」がその典型です。
慰安婦問題とは、私に言わせれば、朝日新聞社と同社元記者である植村隆が捏造し、韓国国民と歴代の韓国政府がこの捏造記事をもとに「戦時中に日本軍が朝鮮半島で組織的に少女20万人を強制連行し、性的奴隷として使役した」とする虚構を作成。さらに、「事なかれ主義」の歴代日本政府(特に外務省)がこの問題を長年放置したことで、いまや国際社会において「ナチスの蛮行にも匹敵する日本による戦争犯罪」という「冤罪」が、事実として流布しています。
昨年暮れの「慰安婦合意」では、日本の岸田文雄外相が「軍の関与のもとに多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題」だと明言してしまいました。これにより、71年前に日本軍が朝鮮半島で重大な人権侵害という戦争犯罪を行ったことを「日本政府が認めた」ことになってしまっています。
それだけではありません。日本は韓国に対し、おそらく通貨スワップ協定を再締結するでしょう。現時点で麻生太郎財相は「日韓通貨スワップ協定の再締結が決定した」とまでは言明していませんが、安倍政権の韓国に対する融和的な姿勢を眺めていれば、スワップ協定を再度締結する可能性は極めて高いと見るべきです。さらに、行きつく先は「GSOMIA」(日韓軍事情報交換協定)の締結であり、これによりいったんは「中国の属国」となりそうだった韓国が、少なくとも朴槿恵政権の任期満了時点(2018年2月)までは「日米陣営」に留まることがほぼ確実でしょう。
安倍政権が日本国民の反発を犠牲にしてでも韓国との関係強化に踏み切る理由は明白です。それは、「対中牽制」です。安倍晋三総理大臣はつい先日も、G20サミットに参加するために訪問した中国で習近平国家主席と会談。その中で安倍総理は「東シナ海での中国公船・軍による特異な活動は極めて遺憾」と述べるなどして中国を牽制しており、安倍政権の現在の外交目標が「中国の軍事的脅威の除去」に置かれていることは明らかです。当然、「敵」は少なければ少ないほど良いということであり、こうした文脈から、安倍政権は少なからぬコストを払ってでも日韓関係の改善を志していることは間違いありません。
国民レベルで日本は激怒している!
ただし、政府レベルでは日韓関係が改善の方向にあることは間違いありませんが、国民レベルでは、韓国は日本人を激怒させる行為をやめていません。その典型例の一つが、この報道です。
慰安婦少女像、欧州で初めてドイツに設置(2016年09月06日07時17分付 中央日報日本語版より)
記事の中で「平和の少女像」と呼称しているものは、「ニセの慰安婦像」のことです。いわば、朝日新聞と植村隆の捏造記事を基に、韓国人元慰安婦らが「日本軍に強制連行された」という虚構をでっち上げ、そのストーリーに沿って製造された慰安婦像であり、韓国の日本大使館前にも日本を侮辱する目的で設置されています。また、米国、豪州、カナダなど、世界各国にこの銅像が建立され続けており、ついにドイツでも設置されることになったようです。
この手の慰安婦像は、これからまだまだ増えるでしょう。なにしろ、昨年12月の「日韓慰安婦合意」では、日本の岸田文雄外務大臣が「軍の関与のもとに多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた」と明言したからです。これを、岸田外相の致命的な外交上の失態と言わずして何と言えば良いのでしょうか?
ただ、もう一つ、忘れてはならないことがあります。それは、韓国人らによるこうした行為が、私自身も含めた日本国民の「公憤」(日本国民としての怒り)を呼び覚ます効果がある、ということです。
もし朴槿恵政権に政治的指導力があるならば、昨年の「慰安婦合意」をベースに、韓国国民らに対し、「日本を怒らせる行為をやめさせる」ことができるはずです。しかし、現実にはウィーン条約違反の構築物である日本大使館前の慰安婦像の撤去すらできておらず、それどころか慰安婦像が世界中で増え続けているのです。つまり、日本国民の怒りは、いいかげんな合意をしてきた岸田外相に対してももちろんですが、いまや日本人を侮辱する行為をやめようとしない「韓国そのもの」に対して向けられているのです。
もちろん、現状で見る限りは、当面、安倍政権の安泰は続きそうです。しかし、日本は民主主義国家ですから、「日本の一方的な犠牲・我慢による対韓関係改善」という政策が、長期的に支持されるはずなどありません。しかし、自民党に代替する保守政党が出現するなどして、再び政権交代が発生すると、次は韓国に対して徹底的に高圧的な政権が出来上がるかもしれません。あるいは現在の安倍政権は中国との関係上、対韓融和姿勢を見せていますが、日中関係が落ち着けば、ただちに対韓強硬姿勢に転じる可能性もあります。
日本政府がやらねばならないこと
安倍政権は現在、対中封じ込め戦略を重視しており、現在の対韓融和姿勢も、その観点から理解・整理すべきでしょう。しかし、私はやはり、長期的な視座から、「日韓友好」は成立し得ないと考えています。
もちろん、一般論では「敵の数は少なく、味方の数は多い」ほうが良いに決まっています。韓国は日本の「味方」ではありませんが、少なくとも「敵対する関係」ではないに越したことはありません。ただ、安倍政権の対韓アプローチについては、「理屈の上では理解できる」ものの、私自身の「日本国民の感情」としては、全く同意できるものではありません。
韓国国民は歪んだ「反日教育」で日本に「敵対感情」を抱いていることは間違いありませんが、いまさらそれをやめさせることなどできません。あるいは、その歪んだ教育をやめさせたところで、日本に対する感情が好転するには数十年単位の時間が必要です。その意味で、韓国を「親日国」に変えようとする努力は「不毛な努力」です。
そして、安倍政権の「対韓融和姿勢」が「対中封じ込め戦略」の一環にあると見るのなら、日中関係が好転すれば(あるいは中国の現体制が崩壊すれば)、日本としては韓国に配慮する必要はなくなるはずです。あるいは、韓国の「二股外交」が今度こそ本当に破綻し、在韓米軍へのTHAAD配備が中断されるなどした場合、「日韓同盟」の前提条件である「米韓同盟」が破綻し、「無理やり日本が譲歩する形での日韓友好」には意味がなくなります。
そうであるならば、現段階で「下手な譲歩」をするのではなく、日韓間の各種懸案については日本側からいつでもトリガーを引ける状態に持っていくのが正しいアプローチです。たとえば、
- 「竹島領有権問題についてはいつでも国際司法裁判所(ICJ)に提訴できるようにする。」
- 「日本大使館前の慰安婦像撤去問題についてはいつでも日本大使館そのものを韓国から引き上げられるようにする。」
- 「韓国人に対する観光ビザ免除についてはいつでも撤回できるようにする。」
といった具合です。その意味で、日韓通貨スワップ協定を締結するにしても、「日本側の都合でいつでも破棄できる」という「破棄条項」を盛り込んでおくべきでしょう。
私自身も、いまのところは安倍政権の「対韓融和政策」が続くことを予想しているものの、日本人の一人として、「日本人がどのように侮辱されているのか」についての記録を取るのをやめるつもりなどありません。引き続き、当ウェブサイトのご愛読をお願いします。