一見無関係な「慰安婦合意」と「日韓通貨スワップ」、そして「TICAD6」。これらの情報を個別に眺めても、その意義は良くわかりませんが、つなげて考えるならば「安倍政権による中国封じ込め」という共通項で括ることができると思います。
慰安婦合意の「本当の狙い」は対中牽制?
慰安婦財団への資金の拠出が完了したようです。
私自身、昨年冬の日韓両国外相による「慰安婦合意」は、日本の外交史上に「消えない汚点」を残したものであり、日本国民に対する背任行為だったと考えていますが、それでも実利面を考えるならば、一定の効果があったことは事実です。その一つは、「慰安婦合意」以降、朴槿恵(ぼく・きんけい)政権による「反日告げ口外交」がパタッと止んだことです。今回の「慰安婦基金」への送金完了をもって、日韓関係がさらに「改善」することは間違いありません。
また、韓国から投資資金などのの対外資本流出が発生したときに備えた「日韓通貨スワップ協定」を巡っては、今週土曜日の日韓財相会談で「再締結に向けた議論の開始」で合意しました。名目上は韓国政府側が言い出したのです。もちろん、日韓通貨スワップなど日本側に全くメリットがなく、反日国である韓国を助ける意味しかありませんので、個人的な気持ちとしては再開してほしくありません。しかし、朴政権の「次の政権の反日をあらかじめ封殺する」目的で、この日韓通貨スワップ協定が再開される可能性は高いと私は見ています。なお、再開されるとしても、金額はせいぜい50億ドル程度で、期限は朴政権が任期満了を迎える2018年2月前後に設定して欲しいところですが…。
このウェブサイトの読者様ならご存知だと思いますが、韓国はこれまで散々、「反日」に邁進してきた国ですし、朝日新聞社と植村隆が捏造した「慰安婦問題」を巡っては、世界中にニセの慰安婦像を建立しまくっています。韓国を助けたところで、どうせ反日の被害に遭うのですから、日本国民の一人としては韓国を利することをしてほしくありませんし、それでも韓国を助けるというのなら、安倍総理ご自身の口から日韓外交の意味について、日本国民に対して直接説明すべきです。
ただ、複雑な外交の世界のすべてについて、全国民に対していちいち説明をするのも難しい、というものかもしれません。そこで、本日は私なりに、「世界有数の反日国である韓国を助ける」という「不可解な動き」の解明を試みたいと思います。
私の仮説は、ずばり「対中牽制」です。
日韓が離間していれば、中国としては東アジアで日本を孤立させる工作の一環として、韓国を個別に味方に取り込むことが容易になります。しかし、日韓関係が正常化すれば、中国としては韓国を取り込むことが難しくなります。むしろ、その場合に東アジアで孤立するのは、実は日本ではなく中国です。そして、慰安婦合意が日韓関係改善に寄与するならば、それは「中韓同盟」の成立を阻む材料の一つだと見るのが自然ではないでしょうか?
日本によるアフリカ支援に中国が噛み付く
日本政府による対中牽制には、他にも事例があります。
安倍晋三総理大臣は8月27日から28日にかけて、ケニアの首都・ナイロビで開催された「第六回アフリカ開発会議」(TICAD Ⅵ)に参加し、「インフラ、人材、カイゼン」の三要素からなるアフリカ支援を打ち上げたばかりですが、これがアフリカ諸国から万雷の拍手をもって迎えられています。
しかし、これに噛み付いたのが中国です。
「日本は私利追求」と批判=TICADで中国(2016/08/29-18:34付 時事通信より)
時事通信の報道によると、中国外務省の華春瑩(か・しゅんほう)副報道局長は29日、「日本はアフリカ各国に自らの考えを強要し、私利を追求して、中国とアフリカの間にもめごとを起こさせようとした」と述べて強く牽制したそうです。日本がアフリカ諸国と関係を深めることが、どうして「中国とアフリカの間でのもめごと」につながるのでしょうか?全く理解できません。
ただ、中国の報道官がこのように苦しい対日批判をしなければならない理由は、別のところにあります。それは、日本がアフリカ諸国から歓迎されることで、中国の相対的な地位が低下するからです。時事通信の記事からは、
- 国連安保理改革での日本の立場強化を狙うことへの警戒
- 東シナ海・南シナ海問題に関する警戒
がにじみ出ています。しかし、安倍総理が「安保理改革」を呼びかたことは事実ですが、外務省のウェブサイトに掲載されている安倍総理の「基調演説」のどこを読んでも、東シナ海・南シナ海という名前が出ている箇所はありません。どう考えても、華報道官の発言は、「日本の立場が強化されること」に対する中国政府の焦りとしか考えられません。
当座の外交としては良いかもしれないが…
つまり、昨年冬の「不自然な慰安婦合意」も、今年のTICADも、すべて対中牽制という観点からは一貫しているものです。もちろん、安倍政権は日本国民に対し、「慰安婦合意が日中関係と関係がある」などの説明を行っているわけではありませんが、慰安婦合意が結果的に韓国の政府レベルでの反日的な言動を封殺することに寄与していることは事実です。
もちろん、昨年の合意は、日本がやってもいない「慰安婦の強制連行」という咎(とが)を受け続ける可能性が高く、一人の日本国民としてはやるせない思いでいっぱいです。いわば、「日本国民の名誉を犠牲にして日韓関係を好転させている」ようなものであり、安倍政権の外交のやり方としては、日本国民に対して極めて不誠実です。中国を牽制するうえでの「当座の外交」としては、確かに日韓関係の改善は有効かもしれませんが、こういう外交は将来の日本に様々な禍根を残すことになりかねません。
安倍政権におかれては、やはり対韓外交の見直しを行ってほしいところです。
終局的な目標
ただ、現在の中国が、きわめて邪(よこしま)な領土的野心を抱いていることは間違いありません。習近平(しゅう・きんぺい)政権が掲げる国家目標は「偉大なる中華の再興」です。これは極端な話、アジア全体に「中華秩序」を再現することを意味していますが、そのことは我々日本の自由と法治が脅かされることでもあります。
その意味で、日本の当座の外交目標が、「対中封じ込め」を通じて「偉大なる中華」という国家目標を撤回させることにあることは言うまでもありません。
日中の対立がどのように終焉するのかは、今のところ私にもよくわかりませんが、思うに、「世界的な民主主義の時代」に、共産党の軍事一党独裁が続くはずなどありません。私にも中国人の友人が数多くいるのですが、彼らは一様に、日本への留学や日本での生活を通じ、日本が中国と比べて開明的な国であることを認めています。中国人は日本在住期間が長くなればなるほど、日本に帰化したがる傾向があります。
中国が経済発展する以前から日本に居住している中国人といえば、中国の中でもかなりの「エリート層」でしょう。その人々が率先して日本に帰化したがるくらいですから、中国という国に「国としての魅力」がないことは、容易に想像がつきます。そのように考えるならば、「共産党一党独裁」を維持するためには、かなりの強引な政策が必要です。
北朝鮮のように強権で支配するというのも一つのやり方ですが、中国は「社会主義市場経済」という形で資本主義を受け入れ、経済発展することで人民の不満を吸収してきたのです。いまさら中国が北朝鮮のような「強権的軍事独裁国家」に戻れるかといえば、それも不可能でしょう。そうであるからこそ、人民の不満を逸らすためには、投資・輸出に依存してでも強引に経済発展を続けることが必要だったのです。
しかし、中国の経済発展は明らかに行き詰っており、不満を抱えた中国人民解放軍が暴発するリスクも見逃せません。安倍政権が「対中封じ込め戦略」を採用しようがしまいが、最終的に「現在の中国の体制」が長続きできないことは明らかです。
したがって、今はまず「中国との対決」に全力を費やすという安倍政権の姿勢も、合理性があるのです。
アジア新秩序
なお、私個人としては、「現在の中国政府の野望」を実現させないことが重要だという点については同意します。たしかに、中国を封じ込めるためには、かりそめであっても韓国に対する友好姿勢は一種の「必要悪」です。しかし、だからといって日本国民の一方的な我慢を前提とした日韓友好(または日韓友好「のふり」)が長続きするはずもありません。
中国共産党政権が崩壊するか、もしくは「偉大なる中華の再興」という国家目標を中国が引っ込めるかして、日中関係が将来的に改善したならば、その時には、やはり韓国を中華の勢力圏に返すのが自然でしょう。
私は一人の社会人に過ぎませんが、将来的には、「アジア新秩序」の構築が必要だと考えている日本人の一人でもあります。具体的には、日本、台湾、ASEAN諸国などが「海洋民主主義同盟」を結成(なんならそこに独立した香港が加入しても良いと思います)し、「中華帝国の後継国家」とは勢力範囲を決めて共存する、という形です(将来的に中国で共産党一党独裁が維持されているか、民主化しているかはわかりませんが…)。個人的には、現在の中国が人口2~3億人程度の複数の中進国からなる連邦国家に移行するのが、一番すっきりすると思います。そして、韓国(と北朝鮮)は、その「中華連邦」の自治州のような形に落ち着くのが良いでしょう。
現在の安倍政権がどこまで将来のことを考えているかはわかりませんが、来る将来に備えて、我々現代社会に生きる日本人が、日本の独立と繁栄を維持することが何よりも求められているのです。