現在の高齢層も生活苦?年金問題は「賦課方式」の問題
現在の高齢者世代は「逃げ切り世代」だといわれていますが、現実の厚生年金受給者の年金受給額は15万円弱だといいます。現役層が人件費の3~4割を公租公課で奪われているなかで、高齢層も大して受給額が多いわけでもない―――。結局、すべての原因は賦課方式に行き着きます。
目次
年金の不均衡は強烈
最近当ウェブサイトで頻繁に取り上げる論点のひとつが、年金です。
といっても、著者自身が主張したい内容は非常にシンプルで、『【厚生年金】理不尽に高い保険料と絶望的に低い受取額』などでも指摘したとおり、「厚生年金は負担と給付の関係が明らかにおかしいので、厚年については年金国債などを発行して廃止し、『一階部分』は国民年金に一本化せよ」、です。
厚生年金はサラリーマンなどが加入する年金保険ですが、「高い保険料を支払えばそれに比例して将来受け取れる年金額が増える」、という民間保険や積立方式などでは当たり前の仕組みは採用されていません。
厚労省が運営する『公的年金シミュレーター』で検算すると、年収990万円という状態で厚年に40年加入したとしても、もらえる年金は年間たった271万円に過ぎません。これに対し国民年金は40年加入した場合、支払う保険料総額は840万円ほどですが、年間83万円の年金がもらえるそうです。
なんとも強烈な不均衡ですね。
回収まで最大27年?制度としてめちゃくちゃ
この点、厚生年金は労使合わせた保険料率が18.3%であり、ボーナスがまったくない場合は社会保険料が安くなる可能性があるため、理論上、年収990万円の人が支払う保険料は最低5710万円、最大7247万円と若干の幅があります。
ただ、支払った保険料相当が年金で返って来るのに必要な年数は、(現在価値や期待運用利回りなどの論点を除外したとしても)保険料が5710万円の場合は約21年、そして保険料が7247万円の場合は、なんと27年弱の年数が必要です(これが国民年金だとたった10年あまりです)。
このことから、日本の年金制度を巡っては「自分自身が支払った保険料が年金として返って来るのに必要な年数」は「支払った年金保険料が高ければ高いほど長くなる」、という特徴が判明します。言い換えれば、支払った保険料が少なければ少ないほど、自分が支払った額が早く戻ってくる、ということです。
正直、制度としては、めちゃくちゃです。
だからこそ、当ウェブサイトでは「厚生年金などさっさと廃止し、厚年加入期間とこれまで支払った保険料額に応じて払込金額を脱退一時金として返還すべき」、と主張しているのです。
ちなみにくどいようですが、厚生年金加入者が過去に支払わされた金額を本人に返還する際には、残念ながら利息部分については諦めてもらわなければならない可能性が高いです。
いや、正確に言えば、現在の多くの厚生年金加入者にとっては間違いなく、利息分どころか払い込んだ分すらろくに返ってきませんので、早急に厚生年金制度を廃止し、少なくとも各加入者とその雇用主がこれまでに払い込んだ保険料の総額のうち「二階部分」の全額を返金するのが筋でしょう。
脱退一時金は無税での返還が鉄則
なお、ちょっとだけ余談です。これも繰り返しになり恐縮ですが、(精緻な計算は難しいにせよ)厚生年金加入者に不利益が生じない形で返金するための工夫が必要です。
そのひとつが、「無税での脱退一時金支払い」です。
じつは、厚年保険料のうち本人負担分については所得から控除可能(国税庁タックスアンサー『No.1130 社会保険料控除』等参照)ですし、また、厚生年金保険料のうち会社負担部分は法人税法上の損金に算入することが可能です(国税庁法令解釈通達『社会保険料の損金算入の時期』等参照)。
つまり、年金保険料は支払った時点で損金算入・所得控除が認められているわけですので、その脱退一時金を無税で払い戻す(脱退一時金の全額を所得税非課税にする)こととすれば、とりわけ高額所得者にとっては非常に大きな節税効果というメリットが生じます。
もちろん、加入期間や年齢などに応じて、個々人にある程度の不平等はどうしても生じますが、それでも現行の厚生年金制度をそのまま運営する方が、不均衡・不平等は遥かに大きく、それらは受忍限度額を大きく超過していると考えられます。
国がめちゃくちゃな制度で年金保険料というかたちで理不尽に国民からおカネを奪ってきたのですから、それをせめて無税で返還するのは当たり前でしょう。
厚生年金解散と国民年金一本化、シンプルでわかりやすく公平な仕組みへ
さて、それはともかくとして、著者自身が必死に年金制度改革の必要性を唱えるのには、もうひとつ、理由があります。
先ほど、『公的年金シミュレーター』の試算を使い、「年収990万円の厚生年金加入者は40年加入した場合、保険料は最大7247万円でもらえる年金はたった271万円」、「国民年金加入者は840万円の保険料でもらえる年金は83万円」、と述べました。
しかし、この試算自体が正しくない可能性もあるのです。
日本の年金制度、もらえる年金額は支える現役世代の担税力に高く依存するため、勤労世代が減れば減るほどもらえる年金額が少なくなります。賦課方式だから当然なのですが…。
いずれにせよ、やはり早期に厚生年金を解散し、国民年金に一本化するのが筋でしょう。
そのうえで、国民年金は「積立方式」として運営し、各人がおのおの自身の払込額を任意に決定し、将来の給付もその人が払い込んだ保険料(の運用期間)と比例するのが筋です。
加入期間が20歳からの40年、受給開始が65歳、平均寿命が85歳、約束利回りが3%ならば、毎月1万円の保険料を払った人には年間703,310円を、毎月10万円の保険料を払った人には年間7,033,100円を、それぞれ支払う、といった仕組みの導入が急がれます。
いずれにせよ、現在の複雑でわかり辛く不公平なシステムではなく、年金は可能な限りシンプルでわかりやすくて公平なシステムに変えて行かなければなりません。
それにどれくらいの時間がかかるのかはわかりませんが、「減税」、「社会保険料軽減」は、当ウェブサイトを継続している限りは唱え続けようと思う次第です。
現在の高齢層は月額16万円弱の年金を受給
こうしたなかで、ウェブ評論サイト『ゴールドオンライン』が6月30日付でこんな記事を配信しているのが目につきました。
年金「月14万円」ももらえない…現役世代を待ち受ける「厳しすぎる老後」
―――2025/06/30 17:09付 Yahoo!ニュースより【THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン)配信】
記事は冒頭から、「下流老人」「老後破産」など、じつにショッキングなワードを並べていますが、これは厚労省の調査などをもとに、「日本人の厳しい老後」についてみていく、というものです。
記事によると現在の高齢者世帯の平均所得額は304万9000円(つまり毎月25万4000円)で、うち公的年金・恩給が62%、給与や事業所得、農耕所得などが26.1%とされています(つまり年金・恩給は年188万9760円、月額だと15万7480円という計算です)。
この「月額16万円弱」の年金、多いとみるか、少ないとみるかは人それぞれかもしれません。
ただ、これらの人たちがいくらの年金保険料をこれまで支払ってきたのかが見えないものの、一般論でいえば、現在の現役世代は支払った保険料を回収できない可能性が高い反面、現在の高齢者世代は「逃げ切り世代」でもあるのです。
結局は賦課方式の問題に行き着く
もっとも、記事を読んでいて驚くのは、それでも「年金だけで暮らしていく」のが厳しいという実情でしょう。
記事では厚労省の『令和5年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』をもとに、厚生年金保険受給者は3622万人、受給者の平均年金は14万7360円としたうえで、こう述べます。
「所得としてはあまりにも厳しい金額ですが、多くの地方ではそれすらももらえないという事実。老後2,000万円問題が話題となって久しいですが、改めて、老後資金を『自分で用意しなければならない』状況が見てとれます」。
現在の「逃げ切り世代」ですらこういう状況なのだとしたら、なおさら現在の年金制度がおかしい、ということです。
なぜ現役層が人件費の3~4割を公租公課に奪われている状況で、高齢層が「暮らしていけない」と嘆くほどの低い給付水準なのか―――。
結局は、賦課方式の問題に行き着くのです。
現在の年金制度では各人が支払った額が各人のために積み立てられておらず、現役世代が支払った保険料がそのまま高齢層に年金として横流しされているため、ほとんど運用できていません(しかも、世代間の不均衡も生じているため、現役層が高齢化したときに受け取れる年金はさらに減るかもしれません)。
やはり、「人口ピラミッド」の形状が崩れている以上は、賦課方式は機能しません。
当ウェブサイトにて報告している通り、少なくとも賦課方式は今すぐ止めるべきですし、そのために年金国債の発行も躊躇してはならないと考えられるのですが、いかがでしょうか?
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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高齢者も一括りでは言えず、贅沢(?)な生活をしている人もいれば、生活苦(?)の人もいます。(これは多い少ないは別にして、若者にも言えます)。
そこで人は、過去の自分の体験、または今のお気持ちで、あれこれ一律に判断してしまうのではないでしょうか。
>厚生年金保険受給者は3622万人、受給者の平均年金は14万7360円
貧しく悲惨でなけりゃ記事にならないんだと思う。
65才以上世帯の平均貯蓄2460万円、中央値1677万円というデータとどう整合とるのかね。日本人は賢明だね。年金は老後の大事な柱だけど頼りきることはできないってわかってるんだと思う。
>65才以上世帯の平均貯蓄2460万円
厚生年金というカ○アゲがなく、任意の金融商品を運用できていたら、もっとリッチになれていたかもしれない。
積み立て方式だと、利回りが物価上昇を上回らないと意味がないという主張を見かけるが、それでも今の賦課方式を正当化する理由にはならないと思う。
エリート官僚達はお勉強はできるんだろうが、経済活動をしたことがないので、どうしたら経済が活性化して国民のふところも税収も増やせるのかがわからないし、眼中にもない。
売り上げて利益を出さないと存続できない民間企業とは、根本的に思想が違います。
年金は払い始めてからもらい終わるまで60年の金融商品。しかも虎の子、リスクはとりたくない。具体的になにに投資します? 過去60年何が起こったか?
2度のオイルショック、バブルとその崩壊、リーマンショック。虎の子の老後資金、冷静に投資できますか。
公的年金は強制貯蓄だと考えて、余資でリスクとるほうがいいような気もする。日本人の金融資産が預貯金に偏ってることから考えて大事な老後資金を自己責任で投資というのはどうなのかね。
現状認識がずれていて多分議論にならないでしょうが、ポイントは国家・政府の信頼度と制度設計の齟齬。
制度設計に関して賦課方式は人口減少社会では破綻する。
それを50年以上放置(1975年には判っていた)し、グリーンピア等勤労者の資産を食い物にした一部悪徳厚生官僚と自民党政権に対する信頼は地に落ちている。保険料率をうなぎ上りにさせて集めた厚生年金積立金を年金改革と称して目的外流用しようとする自民・立憲と官僚は本当にたちが悪い。そろそろ駆除しなければ本当にこの国はつぶれる。
やるべきは、GNPアップによる税収自然増、負担軽減による人口増加施策。
賃金アップ・最低賃金のアップとはいうけれど民間任せで無策の石破政権ではどこぞの国の大統領と同レベル。そのためのまともな仕掛けは一切なし。あっても税金の無駄遣いレベル。
今やるべきは、国家予算の最大費目となる医療・年金改革。併せて無駄なバラマキ(=成長に資さない)補助金類のカット。死者も出ていないのにバラマキ給付金は国民を馬鹿にしている。
これだと維新押しとなるが、高校無償化の無駄遣いを見ると、今はあまり信用できない。
やるなら経済成長に資する消費税減税。ただし、廃止は暴論・論外。
其れよりも”地方の”子育て世帯向け住宅借り上げ提供と”地方”工場優遇。
いつも楽しく拝見しております。
昨年還暦を迎え今年から年金を繰上で受給しております。
私は大学卒業後、上場会社及びその子会社で働いていましたが47才の時に海外企業の本社採用で転職しました。日本に法人はなく日本事務所/所長 駐在員というポジションでした。まあ駐在員といっても私1人だけの事務所で通勤も不要でした。
日本法人がなく源泉徴収もないので毎年の確定申告・納税は必要で、国民年金と国保に加入しました。旅費交通費等と同じく健康保険料は経費として会社が給与とは別に払ってくれたので、転職に伴う給与アップ以上に手取りが大幅に増えました。確定申告の際は、国民年金と国保の費用は控除していました。税務署勤務の友人は、経費扱いで受領していた健康保険料は本来給与として扱うべきものらしいのですが、わざわざ本社に報告する必要もありません。
勤務していた会社は数年前に会社更生法を申請し仕事も無くなりましたが、面白い経験をしたと思っています。