現実問題「自民ズッコケ」なら立民躍進の可能性濃厚か
日曜日に実施された東京都議選の結果を改めて眺めると、自民党が前回と比べてだいたい25%(4分の1)前後、票を減らしていることがわかります。この「25%」、あるいは4分の1という数値は、自民党が昨年参院選で減らした票数ともだいたい一致しているのですが、仮に今夏の参院選でも2022年と比べ自民党の得票減が25%程度に留まれば、自公は辛うじて参院の過半数を維持できるかもしれません。しかし、問題があるとしたら、この「25%減」という予測自体、見通しとしてはかなり甘い可能性があることでしょう。
目次
票数で読む都議選
昨日の『都議選得票数集計から参院「自民大敗」の可能性が浮上』では、日曜日に投開票が行われた東京都議選の候補者数・当選者数・得票数といった基礎データをもとに、自民党が東京都で前回と比べ得票を30万近く減らしたという事実を確認しました。
あらためて、個人的に最も深刻だと思われる図表を再掲しておくと、こんな具合です(図表1)。
図表1 得票数の比較
会派 | 2021年 | 2025年 | 増減 |
都民 | 1,034,778 | 1,043,563 | +8,785 |
自民 | 1,192,797 | 887,317 | ▲305,480 |
無所属 | 235,889 | 704,929 | +469,040 |
公明 | 630,810 | 530,217 | ▲100,593 |
共産 | 630,159 | 489,084 | ▲141,075 |
立民 | 573,087 | 476,579 | ▲96,508 |
再生 | 0 | 407,024 | +407,024 |
国民 | 31,101 | 367,334 | +336,233 |
参政 | 0 | 117,389 | +117,389 |
維新 | 165,851 | 80,545 | ▲85,306 |
東ネ | 61,071 | 64,667 | +3,596 |
諸派 | 88,115 | 117,492 | +29,377 |
合計 | 4,643,657 | 5,286,140 | +642,483 |
(【出所】前回選挙は東京都選挙管理委員会『都議会議員選挙(令和3年7月4日執行) 投開票結果』、今回選挙は報道等。なお、前回は小平市で2議席分が無投票となっている一方、今回は自民党非公認で立候補した4候補の78,941票が自民党にカウントされていない点に注意)
「石破自民党」はだいたい25%程度票を減らしている
これによると自民党は前回と比べ、(追加公認を勘案しても)30万票以上得票を減らしており、その意味では、昨年秋の衆院選と状況が似ているという言い方もできるかもしれません。
というのも、昨年の衆院選では、自民党は2021年衆院選と比べ、小選挙区で676万票、比例代表で533万票、それぞれ票を減らしているからです(図表2)。
図表2 自民党の得票の変動
選挙種別 | 前回と比べた得票の変動 | 増減 |
衆院選(小選挙区) | 2763万票→2087万票 | ▲676万票(▲24.46%) |
衆院選(比例代表) | 1991万票→1458万票 | ▲533万票(▲26.77%) |
東京都議選 | 119万票→89万票 | ▲31万票(▲25.61%) |
(【出所】衆院選データは総務省『衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査 速報結果』、都議選データは報道等をもとに調整)
本来、国政選挙である衆院選と地方選挙である東京都議選を、同列に並べたうえで単純比較して論じることは適切ではありませんが(たとえば「都民ファーストの会」という国政には存在しない会派が存在します)、ただ、傾向として、「石破茂体制下で自民党が4分の1ほど票を減らしている」という仮説は成り立ちます。
また、都議選はもともと自民党が弱いなかで獲得議席を大きく減らしたという事情を踏まえると、故・安倍晋三総理大臣の時代から強さを誇ってきた国政自民が石破茂体制でさらに大きく「ズッコケる」可能性が高いことは想像に難くありません。
選挙に弱い立憲民主党…昨年はむしろ票を減らした
ただし、2007年の参院選や2009年の衆院選などと異なる点があるとすれば、「自民党を凌駕する政党」が(現在のところは)出現していない点でもあります。
たとえば都議選の場合、国政における最大野党である立憲民主党は、議席こそ伸ばしましたが、先ほど図表1で示した通り、得票数は前回と比べて落ち込んでいます(※ちなみに余談ですが、伝統的に組織票が強かったはずの公明党や日本共産党も同様に、得票を大きく減らしています)。
その立憲民主党は、じつは選挙に非常に弱いことを忘れてはなりません。立憲民主党、昨年の衆院選では小選挙区を中心に議席自体は大きく増やしたのですが、実際の得票数自体は伸びておらず、小選挙区ではむしろ得票を減らしているのです。
これについて、図表2と同じものを立憲民主党について作成してみると、図表3のとおりです。
図表3 立憲民主党の得票の変動
選挙種別 | 得票の変動 | 増減 |
衆院選(小選挙区) | 1722万票→1574万票 | ▲147万票(▲8.57%) |
衆院選(比例代表) | 1149万票→1156万票 | +7万票(+0.63%) |
東京都議選 | 57万票→48万票 | ▲10万票(▲16.84%) |
(【出所】衆院選データは総務省『衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査 速報結果』、都議選データは報道等をもとに調整)
いかがでしょうか。
得票が減っているのに当選者が増えるのは、選挙制度の都合に過ぎません。
共産党と合わせても得票が大きく減少
もちろん、昨年の衆院選で立憲民主党の得票が小選挙区で減った大きな要因は、日本共産党との共闘が成立しなかったからだ、ということもあるのですが、それだけでは説明がつきません。これについて確認するために、図表2、図表3と同じものを、日本共産党についても作成してみましょう(図表4)。
図表4 日本共産党の得票の変動
選挙種別 | 得票の変動 | 増減 |
衆院選(小選挙区) | 264万票→370万票 | +106万票(+40.01%) |
衆院選(比例代表) | 417万票→336万票 | ▲80万票(▲19.28%) |
東京都議選 | 63万票→49万票 | ▲14万票(▲22.39%) |
(【出所】衆院選データは総務省『衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査 速報結果』、都議選データは報道等をもとに調整)
図表4でもわかるとおり、実際、日本共産党の得票は、小選挙区でこそ106万票増えていますが、これは単純に同党が小選挙区で独自候補を立てたことによる影響であり、図表3で確認した立憲民主党の得票減(▲147万票)が「共産党効果」だけでは説明がつかないことがよくわかります。
また、日本共産党は比例代表ではむしろ80万票(つまり約20%)ほど得票を減らしており、今回の都議選でも同様に14万票(20%強)ほど得票を減らしていますので、両党が選挙協力しても、むしろ前回参院選と比べて得票数・得票率は低下するのではないか、といった仮説が成り立つのです。
都議選の結果「だけ」で考えると国民と参政が伸びる?
そうなると、どこの政党が伸びるのでしょうか。
あくまでも今回の都議選の結果「だけ」で想像するならば、現実的に伸びる可能性が最も高い政党は、国民民主党か参政党です。
都議選における国民民主党が獲得した367,334票、参政党が獲得した117,389票を合算すると484,723票、つまり50万票弱であり、これは自民党と立憲民主党、日本共産党の3党が失った票数(543,063票)にほど近いことがわかります。
つまり、自民党から保守層が、立憲民主党や日本共産党などから左派層が、それぞれ逃げ出し、国民民主党や参政党に流れ込んだのではないか、といった仮説が成り立つのです。
(※なお、あらかじめお断りしておきますが、当ウェブサイトとしては国民民主党や参政党を支持しているわけでも、投票を推奨しているわけでもありません。あくまでも客観的なデータをもとに「可能性」の議論を行っているだけである、という点についてはくれぐれもご注意ください。)
ただし、国民民主党や参政党は、政党のサイズとしてはまだまだ小さく、最大野党である立憲民主党と比べると、全国各地で満遍なく候補を擁立し得る体制でもありません。
そうなると、全国32ある一人区では多くの場合、自民党と立憲民主党(あるいは立民+共産)の戦いとなることを想定すべきでしょう。
楽観シナリオなら一人区に強い自民が辛うじて過半数を死守
そして、シナリオの置き方によっては、自民党が公明党と合わせ、参院選後に過半数割れする可能性が非常に高いのかと問われれば、そこも微妙です。現実問題、自民党は一人区で、かなりの強さを誇っているからです。
ここで、かなり乱暴ですが、今夏の参院選で自民党と立憲民主党の得票数がどちらも2022年参院選と比べ一律に25%減ったと仮定しましょう(図表5)。
図表5 仮に今夏の参院選で自民、立民ともに得票が25%減ったら?
区分 | 2022年選挙 | 今回選挙 |
自民選挙区 | 2060万票→1545万票 | ▲515万票(▲25.00%) |
自民比例 | 1826万票→1369万票 | ▲456万票(▲25.00%) |
立民選挙区 | 815万票→612万票 | ▲204万票(▲25.00%) |
立民比例 | 677万票→508万票 | ▲169万票(▲25.00%) |
(【出所】2022年選挙については総務省『参議院議員通常選挙 速報結果』をもとに集計)
この場合、減少率は自民、立民ともに25%で同じですが、もともと得票が多かった自民党については前回と比べた落ち込みが非常に大きく、もし比例で1369万票しか取れなかったとしても、自民党は比例で11~13人は確保する、ということを意味します(参院比例の目安は100万票強で1議席)。
ただし、このシナリオだと自民党は東京、大阪などの複数区では議席を減らす可能性が高いものの、全国32の一人区ではそこそこ善戦できる可能性が高いといえます。
以前の『「青木率」4割未満も…野党は一人区自民優位崩せるか』でも指摘しましたが、自民党は当選者が1人しかいない「一人区」では依然、それなりの強さを持っているため、仮に得票数が25%減ったとしても、一人区では少なくとも半数超の17議席前後は確保する可能性が高いです。
このため、一人区17議席前後、複数区8~12議席、比例11~13議席と考えると、自民党は合計36~42議席程度を自民党が獲得する可能性があります。この程度であれば、公明党の10議席前後と合わせれば、辛うじて参院側でも過半数を制する可能性があると考えるべきでしょう。
自民「想像以上のズッコケ」の可能性も非常に高い
ただし、上記はあくまでも今回の都議選の「減少率」を全国に無理やり当てはめた場合の話です。
昨日の『都議選得票数集計から参院「自民大敗」の可能性が浮上』でも指摘したとおり、自民党は「得票率」で見ると、都議選ではかなり苦戦したからです。2021年都議選では総得票の25.69%を獲得していた計算ですが、今回の都議選ではこれが総得票の16.79%に減っているのです。
上述の通り、都議選では減少率自体もさることながら、都議会ではもともと、「都民ファーストの会」という地域政党が存在感を放っていることを忘れてはなりません。潜在的に自民党に投票したであろう保守層などの票を、「都民ファースト」がもともとゴッソリと奪って行っていた、という可能性があるのです。
この効果を勘案すると、先ほど示した「自民党の得票数が25%減るが、辛うじて自公合わせて過半数を維持する」、というシナリオ自体、かなり楽観的なものであるかもしれません。現実には都議会における都民ファースト支持者が2022年参院選では自民支持者と重なっていた可能性があるからです。
このように考えると、自民党が25%に留まらず、想像以上にズッコケる可能性が出てくるのです。
実際のところ、現実の有権者の動きは適切な調査を踏まえなければ正確に読むことができませんが、それでも昨年秋の衆院選についても全国289ある小選挙区で自民党が132議席しか取れなかったことを思い出しておくと、自民党が「想像以上にズッコケる」というシナリオは想定しておくべきでしょう。
漁夫の利を得るのは最大野党・立憲民主?
しかもこの場合、現実的に漁夫の利を得る可能性が最も高いのは、最大野党である立憲民主党です。
同党はそれなりの大政党であるため、全国各地の一人区で候補を立てる財政的余裕があるからです。
実際、立憲民主党は昨年衆院選でも148議席を確保しており、2021年の96議席から50議席以上獲得議席を増やしました。特に小選挙区では57議席から104議席へと47議席も増やしています(しかも総得票を147万票も減らしているにも関わらず、です)。
今夏の参院選でもこれと同じことが発生する可能性がゼロとは言えません。
日本の有権者の皆様には、これから1ヵ月後の参院選に向けて、「本当にそれで良いのか」についての議論を深めるべきかもしれません。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
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リード文に気になる箇所が、
>自民党が昨年参院選で減らした票数 ⇒ 衆院選では?
外国人に優しい政党が勝利してほしい。
都議選では、受け皿になった「都民ファーストの会」がありましたが、国政にはその類がありません
小選挙区でなし崩し的に立民議員が当選してしまうのは嫌ですね
何とも、悩ましいです
投票数だけ見ると国民と再生が手を組めばもっと変わった結果になったのかもしれません
選挙区での絞り込みや政策をどうするかなどあるかもしれませんが
今回、国民民主より多い票が死に票になっているのですが、多分戦略的にも近いので再生の党が出ていなかったらもっと国民民主が伸びていたということもあったのかもしれません
絞り込みをする自民党がやはり長けてますね
立憲民主にただ票が回るのは避けて欲しいですね
https://x.com/renho_sha
R4氏が参院選に向けて完全始動したようで。立憲公認。
また歌って踊ってくれないかなー。
昨年都知事選で「都政にコミット」してたので、都議選に出るとばかり思ってたんですがね。
都議選スルーで参院選とはまた、彼女らしい。
commitしようとしても、肝腎の有権者は『CM抜き』だったりして。
増税財務省側の石破を排除するには自民党をもっと負けさせないといけませんからね。
千代田区で知事一の子分が落選。当選は、自称「減税メガネ」。参院選でのキーワードは「減税」になりそう。
>文藝春秋4月号 立憲民主党と旧統一教会の関係? 野田佳彦は選挙応援されていた?
https://www.youtube.com/watch?v=6CRT_7696Iw
>旧統一教会と関わり、枝野氏・安住氏ら立民6人判明…泉代表「ごまかそうとしているのが自民」
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20220823-OYT1T50241/
自民党と両建てで浸食されて、日本はやられていますからね。保守系議員を盛り上げたいのですが、一度自民は深刻な打撃を受けないと、改革不能だと思います。
自民党は全世代で見切られてて、その受け皿になるはずだった国民民主が須藤元気擁立辺りでそっぽ向かれてからはこれといって自民失望層の受け皿が見つからないという所ですね
30代以下の世代は参政党で、それ以上は自民に留まるか立憲に行くかというのが個人的な周りの肌感覚という所です