親の介護で生活破綻は「本末転倒」…なにを我慢するか
夫婦合わせて年収1000万円を超えていたとしても、わが国のように税、社会保険料などの負担が重い国では、手取りは思ったより少ないという事態になることも多いようです。ましてや夫婦でペアローンを組んだ場合、当初の見通しは余裕だったとしても、ちょっとしたイベントで生活が行き詰まるリスクがあります。その典型例が、親の介護ではないでしょうか。端的に言えば、「実子に住み慣れた自宅で介護してほしい」は多くの場合、我が儘です。
目次
年収600万円サラリーマンの収入の使い道
当ウェブサイトではこれまで何度となく指摘してきましたが、現在のわが国では、勤労者による税、社保の負担が非常に重い、という状況になってしまっています。
40歳以上の介護保険加入者で、会社から年俸600万円で雇われている人のケースだと、あなたを雇う会社が負担する人件費は約697万円であり、あなたの手取りは約457万円に過ぎず、結局、本人と会社であわせて約240万円を控除されている計算です。
その主な項目を列挙すると、こんな具合です。
- 厚生年金…549,000円×2
- 健康保険…297,300円×2
- 介護保険…*47,700円×2
- 所得税 …197,000円
- 住民税 …305,300円
(※なお、健康保険は東京都政管健保・令和7年3月分以降の料率を適用していますが、健保の料率は年によっても加入する保険組合によっても微妙に異なります。ただし、水準としてはこの程度で実態と大きくかけ離れているということはないはずです。)
税と名乗らない税が多すぎるニッポン
余談ですが、厚生年金、健保、介護の3保険でいずれも「×2」となっているのは、これらの保険は雇用者(この場合は会社)があなたと同額以上を負担させられるというシステムがあるためであり、著者自身はこれを事実上の税金と位置付けた方が良いと考えている次第です。
そういえば、わが国には「税と名乗らない税」もずいぶんと多い気がしますが、これも官僚機構などが税負担をうまく誤魔化すための卑劣な言い換えのようなものなのかもしれません。
税と名乗らない税の例
社保(本人負担分)
▶厚年保険料→年金税
▶健康保険料→医療税
▶介護保険料→介護税
社保(会社負担分)
▶厚年・健保・介護→雇用税
▶子育て拠出金→児童手当税
その他の国民負担
▶NHK受信料→NHK税
▶再エネ賦課金→再エネ税
世帯年収1100万円夫婦のオーバーローン
余談はともかくとして、本稿で考えておきたいのが、親の介護と経済問題です。
ここで紹介しておきたいのが、ウェブ評論サイト『ゴールドオンライン』が連休中の5月5日に配信した、こんな記事です。
惨めだな…世帯年収1,100万円・39歳夫婦が6,500万円のマイホームを購入→“理想の家族”と周囲から羨望のまなざしも、11年後「誰も予想していなかった未来」に悔し涙のワケ【FPが警告】
―――2025/05/05 11:02付 Yahoo!ニュースより【THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン)配信】
詳細はリンク先で読んでいただきたいと思いますが、本稿では議論するうえで最低限必要な情報を抽出し、要約しておきます。
- 今年50歳になる同じ職場の共働き夫婦が11年前、長男が小学校に上がるタイミングで郊外の新築戸建てを6500万円で購入し、ペアローンを組んだ
- しかし6年前に2人目の子を授かり、産休・育休による収入減少と支出増に直面した
- 今年に入り妻の母が自宅で転倒し要介護状態となってしまい、妻が仕事を辞めるかどうかで悩んでいる
ちなみに記事によるとこの夫妻は共働きを継続し、夫婦そろって年収が上がり続けるとの前提でペアローンを組んだのだそうですが、頭金や借入額、返済年数などの詳細情報は、記事からはわかりません。
ただ、文中にある「固定2.2%、月々返済額は222,975円」、「ローンを組んだのは39歳」と手掛かりにすると、毎月元利均等弁済型の20年のローンであると仮定すれば、この夫妻は当初、53,514,000円を借り入れたことになります。
ローンを組んだ39歳の時点で夫婦の年収は夫600万円、妻500万円、あわせて1100万円だったとのことですが、正直、この年収でこのローンは少し無謀な気がします。
ちなみに手取りは年収500万円の場合で約385万円、年収600万円の場合で約457万円であるため、「手取り」ベースで見たら、約842万円です。毎月固定のローン返済額222,975円を年換算したら2,675,700円であり、世帯の手取りの約3分の1がローン返済に持って行かれる計算だからです。
上述の通り、勤労者は社保を容赦なく削り取られているわけであり、夫婦共働きということは、夫または妻が配偶者控除の特例を受けることもできない、ということでもありますし、年少扶養控除も民主党政権時代に廃止され、昨年9月までは「児童手当」にも所得制限が付いていました。
上記前提のままだと、夫または妻の「一馬力」となった瞬間、生活は破綻します。
(※もっとも、記事によれば現時点の夫の年収は700万円に上がっているのだそうであり、この場合の手取りは約524万円であるため、かろうじて生活破綻は防げるかもしれませんが、それにしても生活が苦しくなることは間違いありません。)
老親の介護で「共倒れ」
この点、第二子の誕生は本当におめでたい話であり、また、産休・育休期間中の給付金は非課税であり、年金・健康保険料なども納付義務がないため、じつは出産はさほど経済的な負担となりません。この点について、出産を経済的リスクととらえるのは、若干不正確かもしれません。
しかし、遠方に暮らす老親の介護は、本当に大きなリスクです。下手をすると仕事を失うだけでなく、子世帯が老親と「共倒れ」状態に陥る危険性が高いからです。
記事だけだと親子の関係性などがよくわかりませんし、また、要介護状態に陥った親御さんの容態もよくわかりません。また、記事に出てくる妻に、他に家族(兄弟など)がいるのかどうか(つまり親の介護を分担できるのかどうか、など)についてもよくわかりません。
ただ、一般論でいえば、本人に「長年住み慣れた家や地元を離れたくない」という希望が強い場合は、自宅介護状態とならざるを得ず、そして自宅と実家を行き来しながらの介護は現実的ではないため、事実上、実子が仕事を辞めるしかありません。
記事に出てくる事例だと、妻が仕事を辞め、「年収550万円」という地位を捨てることになります。そうなると、よっぽどの専門知識や特殊技能、免許を持っているなどの事情でもない限り、同じような待遇での再就職は難しいでしょう。
はたして、そこまでして妻は老親の介護をすべきなのでしょうか。
親の介護で生活破綻も!
これについてもやはり、個別事情がわからないため、なんとも断言し辛いところが多々あるにせよ、一般論としいえば「すべての願いを何でもかんでもかなえる」のは不可能です。
もちろん、自宅を購入する時点で妻の両親から支援を受けていたなどの事情でもあれば、道義的には親の世話をせずに放置するというのは気が引けるでしょうし、また、そうでなかったとしても、一般に親には育ててもらった恩がありますから、やはり介護も親の願いを最大限かなえてあげたいというのが人情として自然でしょう。
しかし、仮に次の3つの前提条件を置いたとします。
- 妻の母は遠方に暮らしている
- 妻の母は実娘である妻に住み慣れた自宅での介護を要望している
- 妻には介護を分担してくれる兄弟はいない
また、ここでもし子供たちが巣立っていれば、あるいはもし夫婦が60代で定年間近であり、ローンが終わるなどしていれば、話は別です。極端な話、マイホームは売却し、夫婦そろって妻の実家に引っ越して介護する、といった選択肢も現実のものとなるかもしれません。
しかし、この記事の前提だと、そういうわけにはいきません。記事から判断するに、長男はもうすぐ大学生でしょうが、第二子はまだまだ中学、高校などに通わなければならないからです。
このときに、妻の母の「実娘に住み慣れた自宅で介護してもらう」をかなえたければ、妻が仕事を辞めるしかありませんし、そうなればローンが払えなくなるかもしれず、上述の通り、この一家の生活が崩壊しかねません。
介護破綻は本末転倒…親世代も「そのとき」に向け準備を!
ただ、冷静に考えたら、これも大変おかしな話です。妻の母が実施による介護を求め、その結果、娘一家の生活を崩壊させることになるのだとしたら、本末転倒だからです。
現実的なところで考えるなら、もし①妻の母親が自宅での介護を希望しているのならば、地元で何らかの公的サービスを利用すべきですし、また、②もし母親が実娘である妻による介護を希望しているのなら、母親は自身の居住地を離れ、子世帯と同居するか、子世帯と地理的に近い場所のサ高住などに入居すべきです。
すなわち端的にいえば、「実子に住み慣れた自宅で介護してほしい」は多くの場合、単なる我が儘なのです。
このあたりは、当事者であればなかなか言い出し辛いところかもしれませんが、やはりざっくばらんに親子で話し合っていただくより方法はありませんし、「ない袖は振れない」ことを知るべきでしょう。
そして、わが国において今後、少子化と高齢化が同時に進行していくなかで、この手の「介護離職」の事例は、急速に増えていくことになります。
高齢の親御さんがいらっしゃるという方は、親御さんに介護が必要となったときにどうするのか、是非とも現実的なところを話し合っておくべきでしょう(親御さんと離れて暮らすならばなおのことです)。
また、離れて暮らすお子さんがいらっしゃるという方も同様に、自身が高齢化したときのために、お子さんに迷惑が掛からぬよう、「そのとき」に向けた準備を進めるべきです。
とりわけ、著者自身がよく耳にし、目にするのは、老親が要介護状態になったとき、あるいは亡くなったときに、実家の処分に困る、という事例です。やはり体が動くうちに余分な荷物を処分するなどし、少しずつ身軽になりたいものだと思うのですが、いかがでしょうか?
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
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自宅介護にはフルタイム就業者×二人体制が必要と考えると、自己負担ならばざっくり¥1000万/年が必要、10年続けるならば¥1億円用意しろって話だと思います、最近理解しました。
思うのですが健康な我々は親の見取りに自信がないのではないか
だから「生かせるだけ生かしてほしい」と病院で言ってしまうのではないか
これを言われたら病院側は「最新医学で延命」せざるを得ない
結果は「親の悲惨な姿を見て涙、医療費が延々と掛かる」ことが続きます
家族はとにかく心臓を止めたくない(自分が殺したくない)一心なのでしょう
これって誰も幸せではありません
異論は当然有るでしょうが「延命治療は健康保険対象外」とすれば多くの親と家族が救われるのではないか
簡単に言えば自分で食べられなくなったらそのまま・・・・・
と言うことです
簡単に言えば自分で食べられなくなったらそのまま・・・・・当人も苦痛がないようです
リンク記事の中でローンのリスクについて、変動金利型ローンのリスクについて解説されています。一般論は解説の通りでしょうが引用されている田中家のローンは「固定金利型(年2.20%)の住宅ローンを組みました」と明確に書かれており、なんか引用例と合ってません。
どうでも いいけど・・・
また、義母が転倒した➡即寝たきりとなった(多分)として話が進められていますが、少し荒っぽい展開に思えます。例えば義父はどうしているのでしょう。義父が存命ならば、妻が倒れると男とは脆いもので夫もガックリきて、近々義両親二人分の介護が必要になる可能性大です。ファイナンシャルプランナーとしては、こちらのリスクをもっと強調した方がよいかと思います。
多分年金暮らしなのでしょうが、年金額と公共サービスを勘案してどこまで出来るかの解説も必要であり、どうも中途半端なリンク記事でありました。