今年も出た…報道の自由調査はどこまで信頼できるのか
なぜ96点の日本が66位で21点のガボンが日本より上位の41位なのか
今年も例の「報道の自由度調査」が発表されました。フランスに本部を置く民間団体「国境なき記者団」(Reporters sans frontières)が発表したもので、日本は66位と昨年(70位)より多少上がりましたが、それでもG7で最低です。ただ、ここでふと疑問に思うのですが、米フリーダムハウスの調査だと日本は100点中96点という極めて高い得点を得ている反面、21点しか取れなかったガボン共和国がRSFランキングでは日本を大きく上回る41位となっているのは、いったいなぜなのでしょうか?
目次
米NGO調査では日本は「非常に自由な国」
米国のNGOであるフリーダムハウス(FH)が毎年公表している『世界の自由度スコアリング』については、当ウェブサイトでも2ヵ月前の『米団体調査で今年も日本は「G7で2番目に自由な国」』で取り上げたばかりなので、記憶にあるという方もいらっしゃることでしょう。
これは、FH自由度調査で日本が2016年以来、2025年に至るまで、10回連続して100点満点中96点という非常に高い点数を獲得した、とする話題で、とりわけG7諸国のなかでは日本より高いのは97点のカナダのみである、とする点を指摘しました。
図表を再掲しておきましょう(図表1)。
図表1 FH自由度ランキング・G7比較
(【出所】Freedom House, Global Freedom Scores データをもとに作成)
このFH自由度調査、どの程度信頼できるのかについては疑問に感じる方もいらっしゃるでしょう。
また、評価する人の主観によって、多少、ブレが生じることもあるかもしれません。
ただ、結論的にいえば、さほどデタラメな調査ともいえません。
というのも、FH自由度調査は万国共通で設定された合計25個の評価項目について、1項目を4点満点で評価し、その積み上げをもって得点とする、という方式であり、FHウェブサイトにいけば、なぜその国がその得点となっているのか、25個の項目ごとに検証することが可能だからです。
つまり、FH調査は世界共通の評価軸で数値化されているという意味で、①客観性がある、②数値化されている、③比較可能である、という特徴を持っているのです。
今年も出ました、RSFランキング
なぜこのFH調査を最初に持ち出したのかといえば、「例のアレ」が今年も発表されたからです。
「例のアレ」とは、フランスに本部を置く民間団体「国境なき記者団」(Reporters sans frontières)が毎年公表している『報道の自由度ランキング』 “Classement de la liberté de la presse” です。
これによると2025年における日本の「報道の自由度」は世界180ヵ国・地域中66位でした。昨年の70位からランクを4位上げたものの、G7諸国で比べても、フランスに次いで低いのです(図表2)。
図表2 報道の自由度ランキング・G7比較
(【出所】reporters sans frontières, Classement de la liberté de la presse 過去データをもとに作成)
このランキング、いったい何がどうおかしいのでしょうか。
FHとRSFの矛盾は相変わらず存在!
これについて、当ウェブサイトではなかば恒例行事ですが、RSFランキングで日本より上位の国・地域のなかで、FH評点がとくに低い国を例示しておくと、こんな具合です(図表3)。
図表3 RSFで日本より上位だがFHで日本より下位の国の例
国・地域 | RSF | FH |
※日本 | 66位 | 96点 |
コートジボワール | 64位 | 49点 |
ウクライナ | 62位 | 51点 |
ガンビア | 58位 | 50点 |
シェラレオネ | 56位 | 59点 |
リベリア | 54位 | 64点 |
モーリタニア | 50位 | 39点 |
ガボン | 41位 | 21点 |
アルメニア | 34位 | 54点 |
(【出所】reporters sans frontières, Classement de la liberté de la presse および Freedom House, Global Freedom Scores データをもとに作成)
相変わらず、なかなかに強烈です。
フリーダムハウス調査で100点満点中21点と日本(96点)を75点も下回っているガボン共和国が、RSFだと日本(66位)を遥かに上回る41位にランクインしているわけですから、印象的、というレベルではありません。明らかに、FHとRSFのいずれかが「デタラメ」です。
その社会の自由度(厳密にいえば、RSFは「社会の自由度」ではなく「報道の自由度」ですが…)を調べている同じような調査で、双方にここまで大きな齟齬が生じているわけですから、少なくともどちらかの調査に著しい欠陥があると断じざるを得ません。
もしそうであるならば、やはり調査結果の細目をブレイクダウンして比較するのが定石です。
なにせ、先ほども述べたとおり、FH調査は世界共通の評価軸で評価され、かつ、評価が数値化されているため、①客観性がある、②数値化されている、③比較可能である、という透明性を持っています。もしRSFの側もこのような評価軸が公表されているならば、その細目を入手して比較すればよいのです。
RSFランキングには透明性と比較可能性がない!
ところが、ここでひとつ、とても困った問題があります。
RSFの調査結果については得点の積み上げ方式ではなく、どのような評価基準に基づき何をどう評価したかを国ごとに比較することが非常に難しいからです。
いちおう、2022年以降に関しては、5つの評価項目っぽいものが表示されていて、各国のランキングはそれらの平均点らしい、といったことはわかるのですが、2021年以前に関してはその内訳がよくわからず、ただ結果としてのランキングだけがポンと示されているに過ぎません。
また、RSFのランキングの特徴としては、記載内容が抽象的で、縦軸(時系列比較)および横軸(国際比較)が非常に難しい、という点にあります。要するに、透明性と比較可能性がないのです。
実際、RSFの日本に関する記述は、こんな具合です。
Asie – Pacifique/Japon
Le Japon est une démocratie parlementaire, où les principes de liberté et de pluralisme des médias sont généralement respectés. Cependant, le poids des traditions, les intérêts économiques, les pressions politiques et les inégalités de genre empêchent souvent les journalistes de pleinement exercer leur rôle de contre-pouvoir.
―――RSFウェブサイトより
これを意訳すると、こんな趣旨のことが書かれています。
「日本は議会制民主主義国家であり、メディアの自由と多元主義の原則は一般的に尊重されている。だが、伝統や経済的利害、政治的圧力、性の不平等といった重圧で、ジャーナリストは権力の対抗勢力としての役割を十分に果たせていない。」
…。
いったい何なのでしょうか、この「権力の対抗勢力としての役割」、というのは?
著者の理解に基づけば、私たち一般人がメディアやジャーナリストに求めるのは「正確な報道」であって、「権力に対抗すること」ではないように思えますが、日本のジャーナリストの皆様は、そうではないのでしょうか?
なんだかよくわかりません。
ツッコミどころだらけの記述が続く
ただ、細かい内容も、なにかとツッコミどころだらけです。以下、要点を意訳していくと、こんなことが掛かれているのです。
メディアの情勢
- ニューズ・サイトよりも伝統的なメディアの方が影響力を持っている
- 主要紙・主要局は読売、朝日、日経、毎日、フジサンケイの5つの企業集団が所有している
- このうち読売は620万、朝日は360万と世界最多の発行部数を誇っている
- 日本放送協会(NHK)は世界最大規模の公共放送機関である
- 政治的背景
- 2012年に右派ナショナリストが政権を握って以来、ジャーナリストは彼ら自身に対し不信や憎悪の目を向けられているとして不満を訴えている
- 記者クラブなる制度では既存の報道機関のみが政府高官との面会を認められており、結果的にジャーナリストらは自己検閲を強いられているほか、フリーや外国人のジャーナリストは差別的待遇を受けている
…。
いろいろと書かれていますが、「ジャーナリストの自己検閲」、「記者クラブ制度の差別的取り扱い」、「主要民放と主要紙を少数の資本が独占」、といったあたりは、いずれもすべて、メディア自身の問題点です。政府や国民の問題ではありません。
ほかにも特定秘密保護法を批判するくだりがあったり(※RSFランキングが高い国にもスパイ取締法があるケースがありますが…)、SNSなどでジャーナリストが批判されていることへの不満であったり、と、いったい何を甘ったれたことを言っているのかと驚くような記述も出てきます。
いずれにせよ、この「報道の自由度」ランキングはFH調査と比べ、客観性と透明性が著しく低いことは間違いなく、また、当ウェブサイトでは数年前から指摘している通り、RSFとFHで看過できないほどに大きな齟齬が生じていることも間違いありません。
RSFは「なぜ、FH評点が96点の日本が66位で、FH調査でたった21点しか取れていないガボンがRSF調査で日本を大きく上回る41位なのか」、などについて、納得がいくように説明した方が良いのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
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記者クラブ、ジャニーズ問題やフジテレビ問題を抱える日本は、ガボン共和国より報道の自由度がない、ということではないでしょうか。つまり、オールドメディア自身が、報道の自由を否定しているということです。
毎度、ばかばかしいお話を。
ガボン共和国:「我が国には、ジャニーズ問題はないし、フジテレビ問題もない」
これって、笑い話ですよね。
引きこもり中年様
コーヒー吹きました^_^;
FHのは、外部機関による客観軸
RSFのは、ジャーナリストによる主観軸
HFでは高順位なのに、「RSFでは低順位」ってのは、
社会全体が自由だからこその産物なんだと思います。
*その逆も然りですね。
>ジャーナリストは権力の対抗勢力としての役割を十分に果たせていない。
日本をはじめ、民主主義国家の権力の源泉は民意、権力とは即ち国民です。「国民への対抗勢力」……納得ですね。
「国民への対抗勢力ランキング」が高いということは、民主主義をよく妨害しているということであり、低いということは、彼らの志向を実現できていないということになる。あれ?どのみち存在価値が無いのでは?
権力とは、自分たちを認めない政府(共産党禁止とか)、弾圧してくる警察(正義の違法行為を邪魔してくる)、不当判決を押し付ける司法(正義の略)、なんかよくわかんないけど儲かってるズルイ大企業(ないぶりゅうほ??ゼロにしろ!でも新聞社は税優遇しろ!)のこと。やつらは常に暴走状態で悪でなければならない!と思い込んでいる方々は、鏡をじっくり見た後に中学の公民を復習してもろて。
報道といえば。
ウクライナが開戦直後の時点で日本に衛星データの共有を要請していたようなのですが。やっとこさ日本(のベンチャー企業)の衛星データ(時間と天候の影響を受けない地表画像)を協力体制に組み込む(既に独伊芬等が協力)ことが決定されたそうで。この件で衛星データの供給を止めたとされるトランプ大統領のせいで、このように別の国が協力しあったり、F-35をはじめアメリカ製兵器の導入を見送ったりといった動きも増えてきています。印象だの報復だのという程度の話ではなく、現実的なリスクヘッジのため。
軍事ネタのサイトでこれを知り、そこもソースはフランス発で。”トーキョーはウクライナ支援に踏み切った”との記事とともに、(多分あんま関係ない)シゲル・イシバの画像が掲載されています。
https://www.intelligenceonline.com/surveillance–interception/2025/04/21/tokyo-steps-in-to-provide-intelligence-support-for-ukraine,110436857-eve?__cf_chl_tk=d8GAqSM3MuqSnPJNlxxX9pwXFaWxYEjYEj5nhvH6fMo-1745278246-1.0.1.1-T2Qinc38JO_yNOUUDxzH.S65eCGXq4pE3PBib2opXV0
で、なんでこんな話題を唐突に、というと。
これ先月の出来事なのですが、日本の主要報道機関で報道された形跡が見つからないのです。ウクライナの注目度は下がってきてしまっているのは否めませんが、外交・安保上、世界情勢としは結構重要な話なのに。隣国の大統領動向などよりもよほど重要。
報道内容の選び方はどうなっているんだちゃんとしろ……ということは、好き勝手自由に選り好んで報道している証左ちゃうんけ、と思った次第。
岩屋外相の珍しい得点にも思えますが、政府を褒めることは権力の対抗に反する……とか?でも石破政権はマスコミ製みたいなもんだしなぁ……謎。
報道の自由は民主主義の根幹とよく聞きますが、これも王や政府権力が強すぎた時代の発想で、どうも現代では民主主義を妨害しがち(権力が正しかったとしても批判して惑わす)なようで。
>フランスに本部を置く民間団体「国境なき記者団」
ああ…、フランスね。
まあ、フランスに限らず、ヨーロッパ諸国は、日本には矢鱈と妬み、時としてはスキーやフィギュアスケートの様にルール改悪をしてくる癖に「真の悪の国」である支那には黙りなんですよね。
共産党の発祥の地ですし、何だかの親和性があるのかもしれませんが、日本を見下した態度は許せないですね。
フランスに関してですが、先日このような記事がありました。
25年から凱旋門賞出走の日本馬2頭に輸送補助を世界初導入 仏関係者「いつか日本馬に勝ってほしい」 netkeiba (スポーツ報知)
https://news.netkeiba.com/?pid=news_view&no=295277
コメント欄を見て戴ければ分かると思いますが、幾らフランスが日本に媚を売ったとしても、その下心を見透かされていますからね。
フランスなんて信用出来ないんですよ。
いつも楽しみに拝読しております。
何だかこの国境なき記者団の問題意識って、立憲民主党にそっくりだと思いました。
「国境なき」という肩書きが、なんだかなぁ~。
正式な国名に「民主主義」と入ってるみたいな。
(語るにオチルという奴か?)
会計士さんはFHとRSFの調査を同レベルのものとしたいように見えますが、もともと違うもので比較はできないのではないかと。というのはFHの調査は「その国の自由度」で、日本は世界に冠たる自由な国ということだろうと。一方RFS調査は「ジャーナリストの自由度」なので、記者クラブ制度があって外国人記者を締め出す日本は大変に自由度が低い、と。おまけに大手新聞社は本社を建てるのに国有地を払い下げてもらったり(政治家が新聞社に忖度した例)、新聞の消費税率を低くしてもらったり、(税務調査はどうなんだろう)、とかあって与党政治家や財務省への忖度がひどい、とか。それではジャーナリストの自由度が低いのは当然で(会計士さんもおっしゃってますがこれは新聞社の都合、国民と関係ない)。でも個人的には自由をはき違えたかのごとく公式会見で自説を自由奔放にぶちまくる女性記者もいるわけで。ま、ジャーナリズムというよりオールドメディアは権力への忖度も左派系市民団体などへの忖度もあって、外国から見ると不自由な国に思われるんじゃないですかね。ただ書かない自由の行使なら今までもこれからもありそうですね。ウクライナの件など、農民さんのコメントみて初めて知りました。
TVのご高尚な方々は「喜び組」を社内にお持ちの様ですね
TVを見るたびに「にこやかなアナウンサーが喜び組」に見えてしまう
私はおかしいのでしょうか
報道に携わっている方々は全て「高学歴」の方だと思うのですが
ご家族は
特に子供は「親が喜び組」と呼ばれていることをどう思うのでしょうか
親が「フェイク新聞、フェイクTV」で仕事をしていることをどう思うのでしょうか
そこの人達はそのように評されていると思っていないので…
彼らには彼らの規範・正義があってそれに従って信念をもって行動しているので、外から文句をつけてくる奴らのほうがおかしいとでも思っているのでしょう。
彼ら自身の掲げる正義は正しいのです。たとえ根拠がなくとも。
「俺は正しいから正しいんだ!」
彼らはそう言っているのです。