子供と同居する親の諸事情とは?

子供が親から自立するのはいつなのか。一般的には大学進学や就職、結婚などにより、子供は親から精神的・経済的に自立することが多いようですが、なかには何らかの事情により、老親と同居を続ける人たちもいるようです。こうしたなか、『ゴールドオンライン』というウェブサイトが最近、いくつかの事例を報じているのですが、これらについてどう考えるべきでしょうか。

子供はいつ、親から自立するか

人間、いくつになったら独り立ちするのか―――。

これは、ひとつの重要なテーマです。

子供は生まれてからしばらくの間は親元で暮らしますが、やはり、ある程度の年齢になったら親元を離れるケースが多いですし、仮に親との同居を続けるにせよ、少なくとも精神面と経済面では、親からは自立しなければなりません。

このうち「親元を離れるタイミング」としては、たとえば▼大学進学、▼就職、▼結婚―――、などが考えられますが、まれにそれよりもかなり早い段階で、たとえば全寮制の中学や高校に入学するなどして親元を離れる、というケースもあります。

また、経済的な側面に関しては、(これは著者自身の持論かもしれませんが)少なくとも結婚して自分の家庭を持つことになった場合、完全に自立すべきですし、もっと早い段階で、たとえば大学に進学したら自分でアルバイトして生活費と学費を稼ぎながら学問に勤しむという人もいるようです。

親元から離れられないさまざまな事情

ただ、何らかの事情で親元から離れられない、というケースはあるでしょう。

とりわけいわゆる「就職氷河期」世代(1976年~80年生まれくらいでしょうか?)を中心に、就職に失敗し、失意のうちに実家に戻り、そのまま親の商売を手伝うなどして生活しているというケースが多々あります(かくいう著者自身の知り合いや縁戚にも、そのような事例はわりと多いです)。

しかし、「就職氷河期」以外の世代でも(たとえばバブル世代でも)、何らかの事情により無職、あるいはパートタイムの仕事にしか就けなかった人もいます。以前の『人生に挫折はつきものだが…どこまで公的支援すべきか』では、こんな事例を取り上げました。

事例1

Aさんは大学受験で第一志望校への入学試験に失敗し、「とりあえずどこでも良いから大学に行きたい」と考え、「名前を書ければ入学できる」と噂された某大学(※今でいう「Fラン大学」)に入学。大学の4年間、ギターを弾いたり恋愛をしたり、と、遊び呆けていた。

案の定、Aさんは就職に失敗し、大学卒業後は親戚が経営しているショップを手伝っていたが、同居する親はAさんに甘く、お小遣いなども与えるなどしていたためか、親戚のショップにも無断欠勤することが多くなり、自宅に引きこもるようになってしまった。

事例2

Bさんは誰もが知る超一流私大を卒業し、そのまま当時は飛ぶ鳥を落とす勢いだった大企業に就職。システム部門に配属された。そんなBさんはスキルもコミュニケーション力も高く、社内でも期待されていたが、持病が悪化して休みがちとなった。

そんな折、Bさんが入院中に同社は経営が急に悪化して倒産。病気がちだったBさんも解雇されたが、再就職先の当てがなく、結局、自宅に引きこもるようになってしまった。

事例3

Cさんは学生のころからとある国が大好きで、その国の映画などを借りてきては自宅で熱心に視聴するなど、語学の勉強にも努めてきた。そんなCさんの「某国愛」は大学を卒業後、就職しても冷めず、とにかく「あの国に留学したい」、「あわよくばあの国で働きたい」と公言していた。

ただ、Cさんは同時に「その国に留学しても私のキャリアには役立たない」だの、「その国に永住できるなら永住したいけど、その国での就職は難しい」だのと、周囲にはグチグチ、グチグチと漏らしつつ、自分自身の現在の状況についてもクドクドと不満を述べていた。

本人の努力不足?それとも…

どれも世間的には「大人」でありながらも、親元から(生活面でも経済面でも精神面でも)ちゃんと自立できていない、という事例です。どれもかなりボカしていますが、わりとありふれた事情ではないかと思います。

もっとも、「親元から独立できないのは本人の努力不足だ」、などと短絡的に決めつけるわけにはいきません。

たとえばAさんのケースは本人の努力不足、Cさんのケースは本人の決断力不足であり、どちらも本人に大きな責任があるのですが、その反面、Bさんのケースは本人の努力不足ではありません。持病の悪化や勤務先の倒産、経済情勢による再就職環境の悪化などは、本人にはコントロールできない事象だからです。

したがって、自立できない事例にはさまざまなパターンがあり、それらを一概に「悪いこと」と決めつけるのは不適切であることは、いちおう、申し添えます。

なお、誤解しないでいただきたいのですが、当ウェブサイトでは「親と同居している」からといって、それが自動的に「自立していない証拠」と決めつけるわけではありません。

たとえば、ここには取り上げていませんが、何らかの事情があって、親御さんと同居している方も世の中にはたくさんいますし、なかには実家で暮らしながらも、きちんと仕事をして家に十分なおカネを入れているという例もあります。著者自身の知り合いにも、こんな事例があります。

  • ①独身で親元で暮らしているが、定職を持ち安定した所得があり、実家にも毎月一定額を入れている
  • ②独身だがいったん親元を離れ、自力で自宅を購入し、そこに自分の両親を迎え入れている
  • ③結婚後、配偶者の両親と二世帯住宅にて同居し、生活費についても親世帯と子世帯で分担する

…。

①や②の事例だと、たしかに「見た目」は親と同居しているようにも見えますが、これは経済的実体としては完全に自立しているというケースですし、また、③についてはよくある親世帯・子世帯の同居というパターンであり、これらは本稿のスコープの対象外です。

また、同様に、子供が成人していたとしても、まだ高校生・大学生などであり、自宅から学校に通っている、といった事情があれば、それも本稿のスコープの対象外です。

就職氷河期?42歳の「働かない息子」

さて、こうした「親子の同居」に関しては、『ゴールドオンライン』というウェブサイトが以前からかなり精力的にさまざまな事例を取り上げているようであり、そんななかで目についたのが、同サイトが2日付で配信したこんな記事です。

もう、ダメだ…「年金月32万円」70歳の元会社員夫婦、「42歳の働かない息子」と高過ぎるプライドで老後崩壊。親子共倒れの「悲惨な現実」

―――2025/05/02 08:02付 Yahoo!ニュースより【THE GOLD ONLINE配信】

記事によると登場人物は70歳の元サラリーマン夫妻と「42歳の働かない息子」。

息子が働かくなった理由は、大卒後、(おそらく)20代で就職した会社が「ブラック企業」で、心身を壊したからだそうです。

記事では「働かない『氷河期世代』の息子」と、その息子を抱えた老夫婦が「親子共倒れリスク」に直面しているとしているのですが、正直、「就職氷河期」という用語自体が曖昧です。

現在42歳ということは1982年前後の生まれということですが、このくらいだとギリギリ「就職氷河期」に当たるかどうかが微妙ではないでしょうか。

実際、「就職氷河期」はニューズ・メディアなどによっても定義が微妙に違うようですし、厚労省の定義も次の通り、ずいぶんとあいまいです。

バブル崩壊後の1990~2000年代、雇用環境が厳しい時期に就職活動を行い、現在も様々な課題に直面している方々」。

この点、同時代を生きた人間としての感想を申し上げるなら、1982年生まれを「就職氷河期」と呼ぶには、若干の違和感もないではありません。1970年代後半生まれと比べれば、80年代生まれだと、就職状況は好転していた記憶があるからです(※といっても、個別事情にも大きく依存しますが…)。

また、記事に出てくる親御さんは夫婦合わせて月32万円(手取り27万円)の年金収入を得ているようですので、世間的な水準からすると、ずいぶんと恵まれていますが、それでも42歳無職長男と暮らしていくには経済的に見てやや無理がありそうです。

いずれ、ご夫妻はご長男の自立というテーマとは無縁でいられないでしょう。

ほかにもさまざまな事例が!

ちなみに同じ『ゴールドオンライン』の配信記事には、こんなものもあります。

もう逃げたい…「年金月34万円」「貯金5,000万円」40年強の会社員人生を終えた、65歳定年夫婦。「可愛い孫」が恐怖に代わる壮絶

―――2025/04/24 05:02  Yahoo!ニュースより【THE GOLD ONLINE配信】

俺のベンツはどこだ!親の年金月33万円で暮らす「48歳の働かない息子」…何不自由のない毎日が一転、車庫から消えた愛車に狼狽「何かの間違いでは?」

―――2025/04/25 05:02付 Yahoo!ニュースより【THE GOLD ONLINE配信】

どちらの記事も先月のものですが、「老親と同居」のさまざまなパターンを知ることができます。

たとえば「かわいい孫」の記事は、3人の子供を育て上げ、経済的に余裕がある老後を迎えたはずの老夫婦のもとに、娘が離婚して小学生の2人の孫を連れて帰ってきた、というストーリーです。

解せないのは、「夫婦2人の生活と比べ支出が10~20万円増加」、「年金だけでは生活費が賄いきれず、貯金を取り崩す日々」、という記述です。これも冷静に考えたら、やはり本来ならば面倒を見る義務のない孫の生活費まで面倒を見ているからです。

もちろん、離婚に至るにはさまざまな事情があると考えられますが、それでも離婚し(ておそらくは親権も獲得し)た以上は、孫を育てる義務があるのは第一義的に娘さんであり、ご夫婦ではありません。

その一方、「俺のベンツはどこだ!」の方の記事は、先ほど紹介した「無職長男」の事例と似ていますが、違いがあるとしたら無職で働かない息子の年齢が48歳であり、この息子がご夫婦にベンツをねだり、結局、ご夫婦がベンツを購入し、維持費も支払っていた、という点でしょう。

こちらの記事では結局、ご夫婦が自宅とベンツを売却し、息子に100万円の通帳を渡して追い出し、老人ホームへと転居していった、というものですが、いわば有無を言わさず自立させるという意味では、親からの最後の愛情だったのかもしれません。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

いずれにせよ、先日の繰り返しですが、困っている人にもさまざまなパターンがありますし、実際の人間の挫折がかかわってくれば、非常に生々しく後味の悪い結論になることも多いのが現実なのでしょう。

しかし、こうした事例に対し、「公的支援が必要だ」、などと思う人もいるかもしれませんが、ただ、くどいようですが、結局のところ、その人の人生を決めるのは、個々人であることを忘れてはなりません。

やはり、当ウェブサイトとしては公的資金による一律の救済には慎重であるべきとの立場を維持したいと考えている次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 丸の内会計士 より:

    やはり労働市場の自由化が必要と思います。現状の解雇規制を前提にしますと、新卒の学生を雇うこと自体が何億円かの投資案件と同じように慎重な検討が必要になります。定年まで首にできない。このような意味不明な労働市場を継続した結果が引きこもりの中年男性を生み出しているように思います。

  2. sqsq より:

    経済評論家を自称する女性が「年金だけでも暮らせます」などという本を出している。
    定年が近づいてきた人は本屋でこの本を見つけて(題だけ読んで)小躍りするんじゃないかな。
    「心配する必要なんかなかったんだ」と。
    これはガンの放置療法に似ていなくもない。ガンは治療しなくてもいいものと、治療しても治らないものがある。したがって何もしないのがいいという驚くべき理論。ガンにかかった人はこれを聞いて安心する。「心配する必要なんかなかったんだ」と。この理論に賛同してガン公表後あっというまに死んだ作家がいた。
    「年金だけでも暮らせます」というのは支出を年金収入以内にすれば「年金だけで暮らせる」
    当たり前のこと。

    手取り27万円。年324万円。現役の人の年収にすると400万円くらいかな。
    これで夫婦2人はいくら老夫婦でも大変だと思うよ。

  3. はるちゃん より:

    親も子供も、この国には自立出来ない人が多そうですね。親から自立出来ないだけでなく、会社や組織や習慣などからも自立出来ないどころか依存症に陥っている人も多いようです。
    役人や政治家が大好きな取って配る政策にも一因があるように思います。

  4. 都市和尚 より:

    いつも楽しみに拝読しております。
    私も子を持つ親ですから、我が子が失意・傷心で戻ってきたら普通に助けてあげると思います。ただ、42歳とかベンツとか、親の方も過保護に過ぎるのではないでしょうか。
    公的な自立の支援は必要と思いますが、居候させる余裕の有無はともかく、多分我が家では傷心が癒えたらさっさと追い出します。

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