迫る参院選…「自民惨敗」なら立憲民主は躍進するのか

参院選で自民党が苦戦したとして、立憲民主党が躍進するとは考え辛いところです。昨秋の衆院選で立憲民主が勢力を増やしたのは、衆院選が小選挙区主体だからであって、比例代表や中選挙区などでも構成される参院選だと、自民でも立憲民主でもない政党が比較的議席を取りやすく、なかでもとりわけ躍進する可能性が高いのは国民民主党です。ただ、こうした状況に、立民関係者は「(国民民主党が)独自路線に走った」と腹立たしげなのだそうです。

自民党の過去の参院選獲得議席数

昨今の各種メディアの世論調査などから判断する限り、今夏の参院選ではおそらく、自民党が2007年以来の大苦戦状況となるであろうと想定されます。

著者自身が詳細データを手元に所有している2007年以降の参院選で客観的事実を確認しておくと、この6回の参議院議員通常選挙での自民党の獲得議席が最も少なかったのは2007年、比例代表での議席が最も少なかったのが2010年の12議席でした。

参議院議員通常選挙における自民党の獲得議席数
  • 2007年…37議席(選挙区23+比例代表14)
  • 2010年…51議席(選挙区39+比例代表12)
  • 2013年…65議席(選挙区47+比例代表18)
  • 2016年…55議席(選挙区36+比例代表19)
  • 2019年…57議席(選挙区38+比例代表19)
  • 2022年…63議席(選挙区45+比例代表18)

(【出所】総務省『参議院議員通常選挙 速報結果』)

公明党と合わせたら2013年以降過半数を制してきた

2016年までと2019年以降で定数が異なるため(改選議席数は121議席から124議席に増えています)、改選ベースで過半数に必要な議席数も61議席から63議席に増えていますが、意外なことに、自民党が改選議席ベースでも過半数を超えたのは2013年と2022年の2回のみです。

ただし、公明党が毎回、10議席前後を獲得しているため、自公合算ベースで見れば、2013年以降に関しては常に自公両党だけで過半数を占め続けています。

参議院議員通常選挙における公明党の獲得議席数
  • 2007年…*9議席(選挙区2+比例代表7)
  • 2010年…*9議席(選挙区3+比例代表6)
  • 2013年…11議席(選挙区4+比例代表7)
  • 2016年…14議席(選挙区7+比例代表7)
  • 2019年…14議席(選挙区7+比例代表7)
  • 2022年…13議席(選挙区7+比例代表6)

(【出所】総務省『参議院議員通常選挙 速報結果』)

自民党が惨敗する可能性はどの程度のものか

さて、現時点の勢力は、非改選が自民党61議席、公明党が13議席、合計で74議席であるため、自公両党で51議席獲得できれば、改選後ベースでも辛うじて過半数を維持します。

しかし、自公両党の合計獲得議席が51議席を割り込めば(たとえば2007年なみの46議席に留まれば)、自公両党は参院側でも過半数を割り込みます。

自公両党が過半数を割り込む可能性は、実際のところ、どの程度なのか。

自民党は全国32の一人区ではそれなりに強い地盤を持っていると考えられる反面、参議院議員選挙の特徴として、少数政党に有利な比例代表や複数人が当選する大都市部などの選挙区では、自民党がかなりの苦戦を余儀なくされる可能性が高そうです。

たとえば先日の『カネ持ちを貧乏人にしても貧乏人はカネ持ちにならない』でも取り上げた自民党の武見敬三氏の場合は、東京選挙区(改選数6議席)で前回・2019年には最下位で当選したのですが、この情勢が続くようであれば、今回の当選は難しいかもしれません。

また、自民党は谷垣禎一総裁下の2010年参院選で、3年前と比べれば多い51議席を獲得していたのですが、その反面、比例の得票はじつは1407万票と過去6回の参院選では最も少なかったことを忘れてはなりません。

このように考えると、今夏の参院選で与党の勝敗を分ける「50議席ライン」が達成できるかどうかは、自民党が比例代表で、2010年なみの1400万票程度を上回る票を獲得し得るかどうかにかかっている、というのが個人的な現時点の見立てです。

自民党には岩盤支持層がいるため、さすがに比例代表で1000万票を割り込むとは考え辛いところですが、それでも1400万票水準を割り込み、2010年を下回る得票となろうものなら、参院選での改選後過半数割れとその後の下野も現実のものとなってくるのではないでしょうか。

(※自民党の下野が日本の国益のためになるのかというのはともかくとして。)

立憲民主党が躍進するというものでもない

ただ、著者自身は、仮に自民党が惨敗することになったとしても、最大野党である立憲民主党が直ちに大躍進するというものではないと考えています。

そもそも昨秋の衆院選では、立憲民主党は公示前勢力を50議席増やすなど「躍進」したかにも見えますが、これは単純に衆院総選挙が小選挙区を主体としているために、自民党が盛大にズッコケた効果で立憲民主党が棚ボタ的に議席を増やしたに過ぎません。

実際、全国の小選挙区での得票数は、2021年衆院選と比べて立憲民主党は147万票ほど得票を減らしていますし、比例代表でも得票数はほとんど変わっていません。

ということは、有権者の投票行動としては、2021年衆院選・22年参院選までは自民党を支持していたものの、2024年衆院選で自民党に投票しなかった有権者が、いきなり立憲民主党の支持に回ったは考え辛く、それら以外の政党に投票するか、棄権したか、そのどちらかであろうと想定されます。

今夏の参院選も含め、「自民党が敗北する」のだとしても、その自民党が減らした議席が立憲民主党にそのまま移行するのではなく、「それ以外の政党」が躍進する、という可能性がかなり高そうなのです。

「(国民民主は)独自路線」と腹立たしげな立民関係者

こうしたなかで取り上げておきたいのが、時事通信が1日付で配信した、こんな記事です。

野党、比例にらみ積極擁立 「天王山」1人区も国民攻勢 低迷自民、反転に妙案なく・参院選

―――2025/05/01 07:12付 Yahoo!ニュースより【時事通信配信】

時事通信は記事の冒頭で、「夏の参院選は全国に32ある『一人区』が勝敗を分ける天王山になる」と述べているのですが、時事通信がそう述べる理由は、この一人区での「野党候補一本化の成否が全体の結果を左右してきたため」、などとしています。

ずいぶんと古い認識だな、という気がしなくもありませんが、ただ、一人区で野党候補が一本化されれば、自民党にとっては大きな脅威であることは間違いないでしょう。

では、なぜその一本化が難航しているのでしょうか。

それが、国民民主党の動きです。

立憲民主党は『自民党対主要野党』一騎打ちの構図に持ち込みたい考えだ。今回は国民民主党などが比例代表の得票もにらんで積極的に擁立し、話し合いが進むかどうか見通せない」。

この点については、まったくそのとおりでしょう。

国民民主党にしたって、もしも「自民党を大敗させること」が目的であれば、独自候補を立てたりせずにおとなしく立憲民主党と選挙協力を行うべきです。

しかし、時事通信によると現状、比例代表などでの躍進が見込まれる国民民主党は「候補者調整に否定的」であるだけでなく、一部の一人区では立憲民主党との対立候補を擁立するなど、「高い支持率を背に全国で受け皿になる候補者を立てる」と攻勢をかけているのだとか。

これについて、時事通信はこう報じます。

立民関係者は『独自路線に走った』と腹立たしげに語った」。

…。

はて?

政党が「政策ありき」で独自路線を走ることに、なにか問題でもあるのでしょうか?なぜ立憲民主党関係者が「腹立たしげに」国民民主党の独自路線を批判するのでしょうか?

なんだか、意味がわかりません。

予備選は有権者の選択肢を奪うもの

ただ、意味がわからないのは、それだけではありません。

時事通信によると国民民主党は「日本維新の会の吉村洋文代表が提唱した予備選」にも後ろ向きとしているのですが、これについてやはり立民幹部は「国民民主が乗らなければ意味がない」と述べた、などとしているのですが、なぜ「予備選」で有権者の選択肢をわざわざ奪う必要があるのでしょうか?

自民党が今回御参院選で苦戦することは間違いないにしても、基本的な国家観や政策の方向性(たとえば国防、日米安保、憲法、原発政策など)を巡る一致点がないなかで、野党選挙協力などといわれても、有権者としては困惑せざるを得ません。

いずれにせよ、時事通信の記事では触れられていませんが、自民党が今夏の参院選で大苦戦するであろうと見込まれる最大の要因は、宮沢洋一氏です。

宮沢洋一税調会長が(総裁でも幹事長でも政調会長でもない分際で)多くの有権者が期待したであろう「手取りを増やす」を叩き潰したことで、少なくない有権者は宮沢洋一氏が権力を握る自民党を叩き潰そうと思っている可能性が高そうです(とくに若年層、勤労層、SNS層を中心として)。

この見立てが正しいかどうかについては、いずれにせよ参院選で、あるいはその「前哨戦」としての東京都議会千などで、明らかになるでしょう。

それまでに自民党は良い方向に変わることができるのでしょうか?

それとも…。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 一国民 より:

    元自民岩盤支持層です。岸田政権発足と同時に自民支持を辞めました。岸田は昔から嫌いだった。で、今高市さん辺りが自民総裁になっても失った岩盤支持層は帰ってこないでしょう。岸田、石破の売国暴走行為を放置した時点で同罪と見做すからです。やはり立憲以外の野党が消去法の結果議席を伸ばすと思います。国民民主には頑張って貰いたいですが、暗黒の民主党政権下を経験した者としては旧民主の一派である国民も今一つ信用出来ません。

  2. 引きこもり中年 より:

    立憲にとっては、次期参議院選挙で自民党を負けさせるために、他の野党が立憲に協力するのが当たり前、と思っているのではないでしょうか。自民党を負けさせるために、立憲の票を他の野党に回すということもあるのではないでしょうか。なにしろ、選挙戦で、ある候補が他の候補を応援したという実例もありましたし。

    1. 匿名 より:

      立民って誰に向けて政治しているんでしょうね。いつも自民の政策にケチつけて何も代替案も出さないなんて、まるで駄々っ子のような政党ですよね。自民も地に落ちましたが、それ以上に立民は国民から愛想をつかされていると思います。

  3. 在日韓国人 より:

    れいわ新選組でしょ。
    外国人参政権、慰安婦のおばあさん、強制労働に苦しめられたおじいさん達への真の謝罪と賠償。これを達成してほしい。

    1. 匿名 より:

      (そこは実績のある民主党の後継政党である立民だろ…)

    2. 一国民 より:

      愛国心ある朝鮮人は北も南も朝鮮戦争時に従軍する為に国に帰りましたよ。今日本に居る在日は韓国政府による弾圧から逃げてきた済州島の韓国人。当然兵役からも逃げた卑怯者。お前らを虐待したのは同じ朝鮮人。慰安婦も労働者も日本人より良い給与貰って働きにきた連中。給与が良いのだから重労働なのは当たり前。慰安婦の中には最後まで部隊と共に陣地戦に参加して米軍に虐殺された国士も居る。特攻隊に志願して果てた朝鮮人も居る。朝鮮系日本人としての義務を果たした立派な人達だ。それに引き換えお前は嘘ばかりつく。嘘つき朝鮮人は日本に要らないよ。和を乱す奴はこの国に不要。

      1. 農民 より:

         真面目に向き合うものではありませんよ。在日韓国人と名乗ってあの内容を書けば反応が貰えると思っている手合ということはつまり在日韓国人ではありませんし、れいわと書けば釣れると思っているのだからつまりれいわを馬鹿にしている人物ということです。そして、それらよりも低質な行いをしています。

         何より、当初反応が薄かったのでおそらくもう当の本人が見ていません。

        1. 一国民 より:

          ご指摘ありがとう御座います。
          なるほどそういう人が居るんですね。勉強になりました。ご教授有難う御座います。

  4. DEEPBLUE より:

    今の自民党も立憲民主党も殆ど政策同じでしょう。自民党が大敗したら立憲と大連立なんて噂が出る程度には政策の親和性が高い。

  5. 丸の内会計士 より:

    普通の経済学で理解できるまともな政策という観点では、国民民主党の労働供給を増やす政策、すなわち手取りを増やすが支持されるのでないでしょうか。
    取って配る方式の政策を主張していた政党には、票は集まらないのでは。
    今は、人手不足なので、手取りを増やして、労働供給を増やす政策が支持されると思います。

    1. 裏縦貫線 より:

      日本人の労働力が増えたら都合が悪いひとがいるんでしょうね。

  6. 匿名198x より:

    まだ自民惨敗は、勘弁してほしい。
    立民さんは感情論の方々が多いし、国民民主さんも一部怪しいし。
    あ、ムービングゴールポスト国(どことはいいませんが)を友好国として据える政党は、論外です。

  7. 宇宙 より:

    ここから変わるいい方向の変化なんて選挙前のポーズとしか見られないわけで
    もう自民党の勝ち筋は左翼政党のやばさが今以上に浮き彫りになる事だけだと思うな

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