国民民主が候補積極擁立…選択肢が増えるのは良いこと

読売報道によると、国民民主党が今夏の参院選で候補を積極擁立する構えだそうです。もちろん、国民民主党の候補者選びにはさまざまな課題もあるようですし、とくに勝ち馬に乗るかのごとく、議員でいることだけを目的とする政治家が当選してしまうのは困り物です。ただ、選挙とはひどい候補者の中から比較的マシな候補者を選ぶ手続だと信じている著者にとっては、選択肢ができること自体は悪い話ではないと思う次第です。

選挙の本質

「選挙とは、よりマシな候補を選び出す手続である」―――。

これは、当ウェブサイトで今まで何度となく繰り返してきた論点のひとつです。

よく選挙の話題を述べると、「良い候補者がいない」だの、「白票や棄権も立派な意思表示だ」などと抜かされる方がいます。そのくせ、そんな人に限って、「現在の政府には不満がある」だのと述べたりするものなのかもしれません。

ただ、そんな人に対しては、「いい加減、甘ったれたことを言うな」と言いたいです。

選挙とはそもそも、「より取り見取りのすばらしい候補者のなかから、本当に優れた候補者を厳選する手続」ではありません。

これについては、わが国が戦争などに巻き込まれ、物流が大混乱し、今日、明日に食べるものですらままならないという状況を考えてみるとわかりやすいでしょう。スーパーの店頭で辛うじて売られている食材も腐りかけのものばかりなので、それらのなかから子供たちに食べさせられるものを選りすぐらなければなりません。

選挙も、これと同じです。

酷い候補者群のなかから「一番マシ」だと思える候補者を選りすぐり、そのような候補者に1票を託す。

その繰り返しでしか、世の中は良くならないのです。

棄権したら組織票に強い候補者が当選する

それに、あなたがもし日本国の有権者であって、そしてあなたがもし選挙に行かなかったとすれば、その分、組織票を持つ候補者が選ばれるのが関の山です。

これについて、具体的な数値例で考えてみましょう。

たとえばある小選挙区の有権者が20万人で、このうち現職が5万1人の「組織票」を持っているものとしましょう。そして、この現職候補者が選挙のたびに勝利し続けるため、有力な候補者がほとんど出現せず、投票率も毎回50%(つまり投票する有権者が10万人)だとしましょう。

この選挙区では、この構造が続く限り、現職はとくに何もしなくてもほぼ自動的に当選し続けます。どうせ投票総数は毎回10万人ですので、このうちの5万1票がこの候補に入り続けると、「トップ候補者が当選する」という小選挙区制度の性質上、この候補者は毎回必ずトップ当選が保障されているのです。

しかも毎回、野党系などの泡沫候補が2~3人出現するため、現職候補の組織票5万1人を除く残り49,999人の票も分散するため、「一対他」の構図が出来上がり、現職は安泰です。

一致団結して野党に投票する、ということは考えづらいからです。

しかし、あるときに何らかの「ショック」が生じ、投票率がいきなり750%になってしまったらどうなるでしょうか?

普段の選挙のときは家で寝ている5万人が、今回の選挙に限っては投票所に足を運び、新進気鋭の政党が立てた候補者に票を投じたとします。また、現職候補者は5万1人の組織票抑えたものの、49,999人がやはりこの新進気鋭の政党候補者に投票してしまったとします。

すると、選挙結果がひっくり返ってしまうのです。

政権交代選挙(2009年8月)で生じたこと

これが国全体で発生したのが2009年8月の衆院選です。

麻生太郎総理大臣率いる自民党が定数480議席中119議席の獲得に留まり惨敗し、野党・民主党が308議席を獲得したことで、鳩山由紀夫・民主党代表が首相に就任したのです。

自民党がなぜ、ここまで地滑り的な惨敗を喫したのかといえば、まさに小選挙区比例代表並立制という衆院選の特徴が全面的に出てきたからです。

じつは、自民党は小選挙区で27,301,982票、つまり有効票数の38.68%を獲得しており、これは著者自身がデータを持つ2005年以降7回の衆院選で3番目に高い数値です。しかし、民主党が全体の47.43%に相当する33,475,335票を得たため、選挙結果としては民主党の圧勝に終わったのです。

自民党は比較的、組織票を持っている政党だといわれていますが、2009年の衆院選は有効投票総数が70,581,680票と、これも著者自身がデータを持つ2005年以降の13回の国政選挙で最も多い票数でした。

2009年の政権交代選挙は、普段は投票しない約1000~1500万人が投票したことで、それまでの第2政党に過ぎなかった民主党が一気に圧倒的な勢力を得て政権与党に浮上したといえるのです。

とはいえ、その後は残念ながら、最大野党が与党に浮上することはなく、自民党が惨敗した2024年秋の衆院選ですら、最大野党だった立憲民主党は148議席の獲得に留まり、今でも最大野党でありつつも与党に浮上することはできていません。

しかしながら、特に衆院選に関していえば、①組織票が強い政党が選挙結果を制し続けることが多い、②しかし組織票に依存した戦い方を続けていると、ひとたび「風」が吹くだけで、容易に情勢が逆転しかねない、という特徴があることがわかります。

ただ、これは衆院選が「小選挙区比例代表並立制」という特徴を持っているためにいえることではありますが、じつは、参院選などにおいても、衆院選ほどに極端な結果になり辛いにせよ、同じような「風」が吹くことはあり得るのです。

国民民主が参院候補擁立積極化

こうしたなかで、個人的に注目したいのは、こんな動きです。

国民民主が参議院選挙で積極擁立へ…他党の議員経験者にも触手、「本当にふさわしいのか」批判も

―――2025/04/20 20:53付 読売新聞オンラインより

読売新聞が20日に配信した記事によれば、国民民主党が今夏の参院選で候補者を積極擁立する構えを見せている、というのです。

国民民主党といえば、昨年秋の衆院選で「手取りを増やす」を旗印に勢力を一気に4倍に増やした政党であるとともに、昨秋以降も「年収の壁」を巡る騒動などを通じて着実に存在感を高め、最近だと各種世論調査で最大野党である立憲民主党を上回る支持率を示すことが増えています。

とはいえ、話はそこまで単純ではありません。

読売の記事によると、同党では他の選挙を含む公募で千人規模の応募があったのだそうですが、「政治経験者が少ないため、他党の議員経験者を担ぎ出す例も出ている」、というのです(そういえば、これらについてはXなどでも本人によるポストがなされていましたね)。

もちろん、それらの議員経験者が政治家にふさわしいのかどうかという点もさることながら、国民民主党を以前から支持していた人たちにとっては、人選次第では非常に強い不満を生じかねないものですし、また、「国会議員でいること」を目的とする者たちが「勝ち馬に乗る」格好で議員に選ばれるというのも困り物です。

選択肢ができることは良いこと

ただ、「政治家も政党も、あくまでも政策ベースで是々非々で評価することが重要だ」とする持論を持っている著者自身としては、有権者にとって選択肢が増えることは、決して悪い話と考えています。

とくに国民民主党に関しては、公約の中には経済・金融の専門家から見て、決して素晴らしいとはいえない政策なども含まれている点には注意が必要ですが、それでも「非自民」「非立民」の受け皿ができる(かもしれない)、という点では、注目に値します。

とりわけ著者自身は今夏の参院選の比例代表で、自民党が2000万票を大きく下回り、下手をすると1000万票前後の得票に留まる事態も生じ得ると予測しています。

しかし、自民党が惨敗したとしても、最大野党である立憲民主党がさほど躍進せず、代わって国民民主党が大きく伸びるのは、オールドメディア支配の終焉という観点からも、興味深い現象であると思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. Sky より:

    今の情勢では自民=石破となってしまい、多くの保守有権者が自民全否定となってしまうのもやむ無し感が漂う状況ではあります。
    が、自民党の改選対象の満期議員。そして立候補する自民党議員。
    この方々が旧安倍派或いは、非宏池会非石破派なのかどうかは注視したいと考えてます。改選対象者が安倍政権時代に尽力された方々であったらこれ以上その数を減らすわけにはいきません。
    逆に宏池会石破派であればその逆はあり得ましょう。
    まずは自分の住む選挙区の参議院議員がどの派の自民党議員なのか確認するつもりです。

  2. 千葉県在住 より:

    千葉選挙区です。

    いつも参院選は、自民2、立憲1で推移してます。今回は、国民民主党がNHK出身の女性記者を擁立のようです。

    NHKには引っかかるものがありますが、いつもの構図が崩れそうです。自民、国民、立憲の各1議席になるのか興味深いです。3位争いは、どの政党か?

    初めて自民現職の方をチェックして見てみました。旧茂木派と麻生派。なんかぱっとしない経歴。新しい選択肢に投票のつもりです。

  3. DEEPBLUE より:

    国民民主党の議席が増えないと、最悪の場合増税大連立で民意無視の法案通り放題になりそうですからね。

  4. 元雑用係 より:

    国民民主が保守の論客(勇者)山田吉彦氏を擁立したのが話題になっていますね。保守層の追加獲得を意図してのことか、あるいは先々は保守政党への移行まで考えているのか。
    山田氏が党幹部と何を話したのか分かりませんけど、氏が応じたということは保守政党への移行の絵面もあったのだろうかとも思います。まあ、今時は「保守政党」という看板を明示的に掲げると情弱ビジネスに見えるんでそうはしない方がいいでしょうが。
    昨日あたりのニュースでしたが、泉元明石市長の推薦を取りやめた兵庫選挙区には40代の元経産官僚・会計士を擁立するそうです。この短期間であてがえるなんて、結構な人材を惹き付けているんだなーとも思いました。

    選挙に行くか行かないかで言えば、必ず行きます。(笑)
    投票先の判断は人それぞれと思いますが、私は選挙は政党へのメッセージを送るものと思って投票することが多いです。今回もそうなりそうです。投票先に選んだ政党へのメッセージ、投票先にしなかった政党へのメッセージ。まだ決めてません。

  5. セクシー○○ より:

     松野明美さんもお忘れなく。m(_ _)m

  6. 匿名 より:

    今まで自公はダメだけど野党もろくな政党が無いと言われてきましたが、やっと国民民主が出てきて国民の間で期待が膨らんでいるんですね。

    仮に選挙区に国民民主が擁立されていなくても、参政党、日本保守、れいわ新選組などがありますし、野党がまとまって結束できるチャンスでもあるのかと思います。

    「とにかく取り合えず自民」の人はここでもう一度考えを改めて、どの政党の公約が正しいか見るべきだと思います。

    1. 引っ掛かったオタク より:

      「とにかく取り合えず自民」層は『公約が“正しい”』か否かより“棚にならんでる公約から取り敢えず一番ましな政策出してるように見える”公約掲げた政党を拾っとっただけちゃうかな?
      知らんけど

  7. CRUSH より:

    先の総選挙で、アホほど得票したから候補者が足りず、3議席をむざむざ譲渡したことが、よほど悔しかったみたいですね。

    しゃかりきに候補者を集めてるようです。
    でも、
    悪貨は良貨を駆逐するし、
    腐った蜜柑は箱全体を腐らせるし。

    まるでガンダムにザクレロを抱き合わせて売るような事をしてると、そもそもの得票がゴッソリ減ってしまいますぜ。
    手段と目的とが本末転倒。

    スキャンダルの火消しで、なにか妙な裏取引でもしたのか??
    みたいに勘繰ってしまうような、迷走に見えます。

    党首、しっかりしろ。

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